農地や造林地への侵入を防ぐ防護柵に生じた隙間をホンシュウジカが通り抜けることは知られているが、彼らの隙間通り抜け能力は解明されていない。本研究では、ホンシュウジカが通り抜け可能な隙間の大きさを測定した。実験は、縦長長方形の隙間の横幅を30cmから5cm、20cm以降は2.5cm間隔で縮小する条件(高さ120cm固定)と、地際に設けた横長長方形の隙間の高さを35cmから2.5cm間隔で縮小させる条件(幅220cm固定)で行った。縦長隙間では、成獣メスと1歳オスが17.5cm、0歳が15cmの幅まで通り抜けることができた。横長隙間では、成獣メスが27.5cm、1歳オスが25cm、0歳が20cmの高さまで通り抜けることができた。横長より縦長隙間において通過最小サイズでの通過潜時と隙間への頭部挿入発現時間が有意に短くなった。また、縦長隙間では、通過時の供試個体の姿勢に変化はなかったが、横長隙間では、隙間の高さが低くなるほど四肢を曲げて匍匐前進で通り抜けた。これらのことから、ホンシュウジカは縦長隙間の方が横長隙間より通り抜けやすく、より狭い隙間も通過可能であることが示唆された。