2024 年 33 巻 2 号 p. 85-97
栃木県足利市でのマダニ刺症の原因種として,タカサゴキララマダニの割合が多いことの背景を探るため,イノシシとシカへの寄生及び旗振り法によるマダニ採集を行った.その結果,イノシシへのタカサゴキララマダニの寄生数がシカへの寄生数の10倍に上り,4月(主に若虫)と5月(主に成虫)が最多であった.一方,旗振り法でのタカサゴキララマダニ採集数はごくわずかであった.
また,イノシシに寄生していたフタトゲチマダニは早春にごくわずかのみであったが,シカへの寄生数は5月から増加し,メス成虫により7月に最多を示し,旗振り法では春から秋まで安定的に採集された.
以上より,足利市において,タカサゴキララマダニ優位なマダニ刺症発生の背景として,里山の住宅地に出没するイノシシへの寄生の影響が強いことが示唆され,少数だが持続的に散発するフタトゲチマダニによる刺症の背景として,シカへの寄生と環境中からの安定的な採集との関連が示唆された.
また,足利市では,冬季を含めイノシシやシカへのマダニ寄生が認められるとともに,南方系と北方系の両マダニ種が回収され,マダニ存在の交錯地点として重要な役割を有する可能性が示唆された.