抄録
中性子スピンエコー(NSE)法は、中性子の散乱過程におけるエネルギーの変化を高い分解能(neV_から_µeV)で測定できる非弾性・準弾性散乱分光法である[1]。Mezei型と呼ばれるNSE法では、散乱前後の中性子の速さの変化を、静磁場領域で蓄積された中性子スピン固有状態間の位相差を利用して測定する。サンプルの上流、下流で静磁場領域を通過させ、最終的に散乱ビームの偏極率の減少を測定することにより、観測量として中間散乱関数S(Q,t)が得られる。実際の分光器で散乱ビームを測定すると、静磁場の不均一性や中性子ビームの発散により、各々の中性子で生じる位相差にばらつきが生じ、サンプルにおいてエネルギー遷移がないにも拘らず、散乱ビームの偏極率が減少する。この影響により、NSE分光器のエネルギー分解能は制限を受ける[2]。
これに対して、我々が開発を行っている中性子共鳴スピンエコー(NRSE)法は、Mezei型NSE分光器の静磁場の代わりに2組の共鳴スピンフリッパー(Resonance Spin Flipper (以下RSF))を用いる分光器であり、1組のRSFの間の区間でRSFの共鳴周波数に比例して蓄積される位相差を利用して中性子の速さの変化を測定する[3]。この置換によって、磁場積分がエネルギー分解能に依存しなくなるという特徴を持ち、NRSE分光器のエネルギー分解能を制限するのはビーム発散のみとなる。ビーム発散による位相差のばらつきは、発散ビームに対して最適な磁場分布を持つガイド磁場を導入することにより原理的に補正することができる。