炉内構造物の応力腐食割れ(SCC)に関連して、照射環境下においてステンレス鋼が示す電気化学的腐食電位(ECP)を計算によって評価する手法の開発が進められている。従来の手法において、照射環境下でのECPは、水の放射線分解の解析から炉水バルク中の酸化種と還元種の定常状態濃度を算出し、これを用いてステンレス鋼及びH2 などの還元種のアノード分極曲線、H2O2やO2などの酸化種のカソード分極曲線を計算し、その交点として決定される。照射環境下においては、ステンレス鋼界面の拡散層内に水の放射線分解によって生ずる化学種の拡散過程が分極曲線の限界電流密度に影響を及ぼすことを前報で示した。これまで、放射線によって直接生成されるH2O2とOHについて拡散層内での反応を全く考慮せず又は一部のみ考慮して解析的に検討してきたが、本研究では拡散層内での全反応を組み込んでシミュレーションを行い、放射線分解生成物が限界電流密度に与える影響を検討した。