抄録
材料の劣化を非破壊検査する手法として陽電子消滅法が有効であるが、本手法では生じるγ線エネルギーのドップラー拡がりを正確に測定することが必須である。従来、γ線エネルギー測定にはGe半導体検出器が用いられてきたが、陽電子消滅法に適用するには検出効率、エネルギー分光特性とも全く不十分である。そこで本研究では既存半導体検出器とは桁違いのγ線およびX線分光特性を有する超伝導転移端マイクロカロリメータ(TES)を開発し、これを陽電子消滅法、あるいは高精度な蛍光X線分析法に適用することで革新的な材料科学分析手法の構築を目指している。これまでに、我々はイリジウム薄膜を用いたTES検出素子を開発し6keVのX線において10eV以上の優れたエネルギー分解能を実現している。本研究ではイリジウムTESをベースとして、これに鉛あるいは錫の薄膜を用いた吸収体を取り付けることで、陽電子消滅で生じるγ線を高い効率で吸収できる高エネルギー分解能スペクトロメータの開発を進めている。現在、数100μm角のイリジウム超伝導薄膜センサに厚さ0.1mm以上の鉛薄膜吸収体をエポキシ接着剤を用いてとりつける手法を確立しつつあり、今後、実際に吸収体を備えた検出素子を冷却して動作特性およびγ線検出実験を行う予定である。