抄録
症例は17才、女性。家族歴 : 母親が経口血糖降下剤で糖尿病の加療中。既往歴 : 出生時異常なし。8歳時浸出性中耳炎のため手術。学校健診で以前からWPW症候群を指摘されている。現病歴 : 母親が糖尿病のため、通院先の医院で本人が小学生のときから年に1回、血糖値、HbA1cを測定していた。15才、16才のときにHbA1c 5.7%。2003年2月(17才)は6.1%とさらに上昇。75gOGTTでインスリンの低反応を指摘された。母親が家庭の医学書を調べ、ミトコンドリア遺伝子異常を疑い、精査目的に2003年4月28日当院を受診した。初診時現症 : 身長141.2cm、体重38.0kg、BMI 19.1、血圧115/58mmHg、膝蓋腱反射およびアキレス腱反射は正常。初診時検査成績 : 75gOGTTでは、血糖値は115-212-270-283-265mg/dlと糖尿病型を示し、インスリンは3.5(0分)-22.0(30分)-22.7(120分)μU/mlと低反応。HbA1c 6.0%。網膜症、腎症を認めず。遺伝子解析にてミトコンドリア遺伝子3243点突然変異を認めた。生活環境 : 父、母と3人暮らし。高校へ通学中であるが時々欠席することがあり、母親とけんかになることもある。経過 : 母親は自らが糖尿病であることもあり、糖尿病の知識は豊富であるが、今まで本人へはとくに糖尿病の話はしていない。糖尿病の基礎知識、1型、2型糖尿病とは異なることを本人へ話しながら、1400Cal/日の食事療法で治療を開始した。2003年9月からHbA1c 6.7%と上昇してきたためインスリン療法を勧めたが、本人の希望もあり、ナテグリニド90mg/日開始。血糖コントロールの改善がみられないため2004年6月からインスリン療法開始。学校で注射することに心理的抵抗があることもあり、心療内科でのカウンセリングも希望している。母親はできる限り本人へ関わりたいと思っている。本症例のポイント :1.病態から、ある時点でインスリン療法を開始する必要があるが、本人の気持ちも考えてどの時点で始めるべきか?。2.強化インスリン療法が理想ではあるが、学校内で注射するタイミングをどうするか?。学校側との調整、友人との関係をどうするか?。3.思春期における血糖管理、生活習慣へのアプローチはどのようにあるべきか?。4.本人と母親、医療者側と母親との関係はいかにあるべきか?。