アフリカ研究
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モラル・エコノミー論からみたアフリカ農民経済
アフリカと東南アジアをめぐる農民論比較のこころみ
鶴 田格
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2007 年 2007 巻 70 号 p. 51-62

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抄録
本論文の目的は, アフリカと東南アジアというふたつの地域の農民経済をめぐる議論を比較することをとおして, アフリカ農民の経済の特質を検討することである。ここでとりあげるのは, アフリカ的文脈で構想されたG. ハイデンの情の経済論と, 東南アジア農村社会を舞台に議論されたJ. スコットのモラル・エコノミー論である。どちらの概念も既存の政治経済学からはみおとされがちな共同体的なネットワークや価値に焦点をあてており, その背後にある家族の再生産の物質的基盤 (サブシステンス) の重要性に注目している, という共通点がある。他方で, 両者のあいだには, それぞれの概念の内容が検討された事例地の歴史的・文化的なちがいにもとづく, 微妙な差異があった。その差異は基本的に, アフリカ農民の道徳的規範はサブシステンスの問題と密接にむすびついているのに対し, 東南アジア農村ではこの両者が分離してひさしい, というちがいに由来しているとかんがえられる。情の経済とモラル・エコノミーが示唆する共通の方向性に注目しながら, 同時にそれぞれの概念がもつ文化的な固有性を考慮することは, 地域固有の文化と自立的な経済にもとづいたオルタナティブな社会開発のあり方 (内発的発展) をかんがえるための有力な手がかりとなるだろう。
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© 日本アフリカ学会
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