アフリカ研究
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特集:アフリカ的農業イノベーション(2)技術変容の内発性と社会的プロセス
  • ─アフリカ農業イノベーションの内発性を考えるための視点:社会文化的プロセスとしての技術変容
    鶴田 格, 小松 かおり
    原稿種別: 特集:アフリカ的農業イノベーション(2)技術変容の内発性と社会的プロセス
    2023 年 2023 巻 103 号 p. 1-9
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    現代アフリカの農村社会は一方では外部の市場経済との関係を深めているが,他方で依然として内部の自給作物生産の論理にも従っている。自給作物生産のあり方はその消費の側面 (調理加工と食事) に規定されると同時に,他方で狩猟採集など農業生産以外の食物獲得活動とその加工体系とも関連している。また食材の生産,調理と加工,消費,販売にいたるまで,それらは個人の孤立した活動としてではなく,社会的プロセスとして遂行されるものである。したがって,アフリカにおける農業イノベーションの特徴を理解し,その内発性や主体性を明らかにするためには,農業生産の技術革新を他の生活領域から切り離すのではなく,それが農業以外の生活の諸側面 (消費生活,食文化,社会組織など) とも連動して変化している,すなわち一種の社会文化的プロセスとして生起しているという視点から把握することが重要である。本特集ではこうした視点からコンゴ盆地の食と農のイノベーション (安渓論文) ならびにアンゴラ・ザンビア国境地帯の難民社会における農業イノベーション (村尾論文) について検討する。

  • 安渓 貴子, 安渓 遊地
    原稿種別: 特集:アフリカ的農業イノベーション(2)技術変容の内発性と社会的プロセス
    2023 年 2023 巻 103 号 p. 11-25
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    本論文ではコンゴ盆地の食文化の歴史を,人と植物のゲノム分析や安定同位体分析を含む生物考古学,言語学の最新の研究成果によってレビューした上で,コンゴ盆地東部マニエマ地方のバンツー系ソンゴーラ人を例として,20世紀の民族誌データを加えて,コンゴ盆地における食と農のイノベーションの歴史を復元した。

    1万年以上前からすでに,湿潤な「緑のサハラ」には土器をともなう採集,狩猟,漁労を生業とする人々がいた。約5000年前からの気候の乾燥化によって南下した人々は,ニジェール川のほとりで穀物のトウジンビエ,アフリカイネと,根栽のギニアヤムの栽培化に成功し農耕を開始した。農耕以前から移動を開始していたバンツー諸語話者は,その後製鉄技術とアブラヤシとギニアヤムを携えて森に入り,バンツー拡散のはるか昔から森にいた採集狩猟民とともに暮らし始めた。(1)ギニアヤムに加えて,新たな焼畑作物として,(2)アジアからのバナナ,(3)南アメリカからのキャッサバの導入という,3次にわたる根栽農耕革命を経て,各段階で食と酒の文化がどのように展開したかを,本稿では推定復元した。次に,ソンゴーラ人の,1900年から1904年の民族誌と1978年から1990年の著者らのフィールドデータを用いて,20世紀の変化を追った。1915年からのアジアイネの粒食の導入,1932年からのキャッサバの粉食とこれらを組み合わせたカビ発酵酒の導入は,新たな交易品の獲得となる大きなイノベーションであった。採集・狩猟・漁労と根栽農耕を基盤とする食文化の伝統に何を付け加えたかは,まさに「食料主権」というべき,地域住民の主体的選択の結果であった。

  • ─アンゴラとザンビアの国境地帯の事例
    村尾 るみこ
    原稿種別: 特集:アフリカ的農業イノベーション(2)技術変容の内発性と社会的プロセス
    2023 年 2023 巻 103 号 p. 27-40
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    本論文では,アンゴラの植民地期以降,独立解放闘争や内戦期,停戦合意を経て,焼畑農耕民ンブンダがアンゴラやザンビアでいかなる農業イノベーションを果たしたかを考察することを目的とした。そのため,現地調査で得た資料をもとに,アンゴラやザンビアの移住先での共生に関わる居住集団の再構築,農業生産にみられる技術的変化や,経済活動全体にみられる技術的な革新に注目した。ンブンダはザンビアやアンゴラにおいて,かつてのように伝統的政治体制が十分に整わない状況下で、様々な関係にある人びとを受け入れ生活していた。そうしたなかで,ンブンダの農業生産面での技術的イノベーションは,ザンビアでのキャッサバの植え付け法の工夫,アンゴラでのトウモロコシの作付けの工夫などに特徴づけられる。また,市場経済の影響下で創出された商品の販売法や,人道支援でえた早生種のトウモロコシ導入など個別多発的なイノベーションが住民間で広く共有され,難民化や帰還事業などで移動を強いられる人びと,とりわけ婚入や離婚で移動の多い女性たちの生計を安定化するのに大きく貢献した。

論文
  • 伊藤 千尋
    原稿種別: 論文
    2023 年 2023 巻 103 号 p. 41-54
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2024/05/31
    ジャーナル フリー

    本稿はカペンタ漁へのアクセスをめぐるポリティクスと資源利用に関わる諸問題を明らかにし,ポリティカル・エコロジー論の視点から考察した。白人入植型の植民地支配を経験したジンバブウェでは資源をめぐる人種間の不平等が歴史的に形成されてきた。そのため,本稿が対象とする商業漁業・カペンタ漁においても,政治・経済的な文脈を考慮することが不可欠である。カリバ湖におけるカペンタ漁とそれをめぐるポリティクスは,入植型植民地支配という歴史的文脈に根付いており,独立以前の漁へのアクセスには人種的な排他性が存在した。独立以降の漁へのアクセスにはパトロン - クライアント関係が機能していたが,土地改革と連動して実施された許可証の再分配と貸与制度の導入という変化のなかで,漁に携わるアクターは多様化し,一部ではインフォーマル性が高まった。事業者は,漁獲量の減少や湖上での売買などの違反行為を問題として認識していた。このような違反行為は,様々なスケールにおける制度変化やアクターによる実践が折り重なって生じていた。本稿が示したような人間-環境関係の複雑さを理解することは,資源管理の議論の土台として重要である。

追悼
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