2020 年 11 巻 p. 55-66
本研究は、難民の初等から高等教育にいたる継続的な教育活動を阻害する要因について、カイロのスーダン難民を事例に考察する。難民にとって教育は安定した生活を獲得するための重要な手段であり、国際社会は多くのプロジェクトを実施しているが、難民の就学率は依然として低い。エジプトのスーダン難民研究は、行政的な制限や家計の問題が、就学の阻害要因であると指摘してきたが、書類や家計の問題解決によって、難民は継続した教育活動を行うことができるのだろうか。そこで本研究は、カイロにてスーダン難民7世帯を対象に半構造化インタビューを実施。その結果、難民に対する厳しい労働環境、学歴の形骸化、教育費を捻出する困難さが確認された。また、スーダン難民はエジプトとの二か国間合意に基づき、無償のエジプトの公立学校へ入学できるが、ホスト社会におけるいじめや差別の経験から、不安定な家計状況にも関わらず彼らは自分たちが運営する有償のコミュニティスクールを好むことが確認された。これらより本研究では、難民の継続的な教育活動を阻害する要因として、スーダンの中等教育修了証を得ればエジプトの大学に入れるという教育特権がエジプトの学校に通う理由を排除していること、また、難民の抱える心理的・社会的ストレスが、家計の問題以上に彼らの教育活動に影響を与えているのではないかと考察する。