アフリカレポート
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資料紹介
モルテン・イェルウェン 著 『統計はウソをつく――アフリカ開発統計に隠された真実と現実――』 渡辺景子訳 東京 青土社 2015年 283+xix p.
岸 真由美
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2016 年 54 巻 p. 92

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アフリカ諸国の経済統計が、経済の実態を反映していない「貧弱な数字」であることは広く知られているが、それがどの程度のもので、いったいなぜなのかを、現地調査と関係者へのインタビューにもとづく実証的な方法でつまびらかにしたのは本書が初めてだろう。

本書は5つの章から成る。第1章は、アフリカ諸国の経済統計の問題を概観する。アフリカ諸国では、インフォーマルセクターなどの記録されない経済活動が大規模なため、基本的なデータが貧弱になる。国際機関のデータセットは、アフリカ各国のデータを寄せ集め、データ・ギャップを埋める方法を用いて新しい推計を作り出す。このため、国際機関のデータセットと各国の公式データとの間で、さらには作成機関が異なるデータセットの間でも数値の食い違いが生じるのである。第2章は、アフリカの統計事情を歴史的に概観する。独立後、政府が経済計画を立案するための基礎情報として包括的な統計が作成され始めるが、1970年代には経済危機の影響で統計局への予算が減り、1980年代〜1990年代の構造調整期には、国家の役割の縮小から統計局の重要性が無視された。その結果、統計データを記録する能力が統計局から失われていった。第3章は、3つの事例をとりあげてデータの質の問題を指摘する。例えばナイジェリアの国勢調査は、植民地時代には徴税を逃れるために頭数を減らした過小な人口が登録され、独立後には政府資金や連邦議会の議席の配分を増やすため過大な人口が登録されたことが指摘されている。第4章は、現地でのインタビューにもとづいて各国の統計局の現状を描き出している。各国の統計局はどこも予算やスタッフ、設備の面で劣悪な条件下に置かれている。例えば、ザンビアの国民経済計算はたった1人が担当している。統計局の独立性は低く、最終推計は、行政府、中央銀行、国際組織の代表の協議を経てようやく公表されるのである。結論では、統計データを客観的な数字として扱うのではなく、かといって貧しい数字として無視するのでもなく、その数字をもっとうまく利用し分析するために、統計以外の技術が必要である、と著者は主張する。

本書の優れたところは冒頭で述べた通りである。やや残念なのは、日本語訳が十分にこなれておらず、一読して理解できない部分が多いことである。それでも本書は、統計を利用する読者なら一度は手にとるべき良書である。

岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)

 
© 2016 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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