アフリカレポート
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資料紹介
遠藤 貢 編(シリーズ総編者 太田至) 『武力紛争を越える――せめぎ合う制度と戦略のなかで――』 京都 京都大学学術出版会 2016年 ix+350 p.
津田 みわ
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2016 年 54 巻 p. 94

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本書は、2011~15年にかけて紛争解決・共生の視点でアフリカの潜在力を探った研究プロジェクト「アフリカの潜在力を活用した紛争解決と共生の実現に関する総合的地域研究(代表者太田至)」の成果である。全5巻の第2巻にあたる本書では、同プロジェクトの政治・国際関係ユニットのメンバーが、国際関係論、政治学、社会学の手法からテーマへの接近を試みている。

3部構成の本書で第1部が扱うのは、国家建設の困難性に関わる問題である。アフリカの多くの国々で、民主主義的な価値より国家レベルの政治秩序が優先されがちであることが示された(第1章)あと、破綻国家とされるソマリアで、ローカルな種々の秩序形成はみられるものの、それらが必ずしも住民からの正当性獲得や政治的安定に成功していない現状が示される(第2章)。続く第3章では、国家が秩序や治安を提供できず、日常の安全が存在しない状況で、南部スーダンの人々が発揮してきた「生きる力」が描出される(第3章)。

第2、3部では、起こってしまった紛争への対応が、ナショナルとローカルの双方のレベルで読み解かれる。南部エチオピアの人々の「沈黙」や「移動」の意味を解き明かした第4章と、シエラレオネの現地NGOによる和解プロジェクトを取り上げた第8章は、現在も日常的に発揮されている力に着目し、共生や和解をローカルレベルで論じる。ナイジェリアを扱った第6章もローカルレベルに注目しつつ、紛争理解における地域性の重要性を強調する。一方、コートジボワール、ルワンダ、ケニアを取り上げた第5、9、10章では、構築された紛争処理の諸制度(和平協定、草の根裁判、国際刑事裁判所)が持つ潜在力と、それらが現実に適用された時に生じた歪みが提示される。南アフリカ共和国で真実和解委員会への評価が分かれていることそのものに価値や可能性があることを提示した第7章は、「勝者の裁判」が横溢するルワンダ(第9章)との対比からも興味深い。その他本書は若者、女性、長老層を取り上げた3つのコラムを所収する。

同プロジェクトの他の研究ユニットに参加する機会も多かった武内は、「アフリカ潜在力」をめぐって議論が最も紛糾したのがこの政治・国際関係ユニットだったとした上で、そうした議論の紛糾、ひいては「アフリカの潜在力」概念への共通認識の欠如が、執筆者一人ひとりの「アフリカを見るレンズの曇りをぬぐい去り、新たな視角を与える」ことに寄与したと述懐している(終章)。はたしてその果実はいかほどのものになっているだろうか。厳しいご判断をいただければ、書き手の一人として幸いである。

津田 みわ(つだ・みわ/アジア経済研究所)

 
© 2016 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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