アフリカレポート
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資料紹介
Nicolas Friederici, Michel Wahome and Mark Graham, Digital Entrepreneurship in Africa: How a Continent Is Escaping from Silicon Valley’s Long Shadow. Cambridge, Massachusetts: MIT Press 2020 323+xi p.
福西 隆弘
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2022 年 60 巻 p. 22

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アフリカにおけるデジタル技術の導入が、ビジネスと開発の両面から国際的に大きな盛り上がりをみせているのは周知のとおりだ。デジタル技術の利用によって地理的、時間的な制約が緩和され、誰もが市場取引や情報にアクセスできる環境が実現し、貧困が解消されるという期待が寄せられている。さらに、そのためのサービスはアフリカでこそ開発できるという期待があるように思われ、アフリカでのデジタル起業に対して投資や援助とともに多くの若者の熱意が注ぎ込まれている。こうした潮流に対して、本書は、アフリカ11カ国のデジタル企業135社へのインタビューをもとにその現実を明らかにし、アフリカにおけるデジタル起業の可能性を展望している。

紹介される数多くのインタビューの語りから、事業の成長に苦労する起業家たちの様子がうかがわれる。デジタル起業家や投資家は、小さな企業でもアイデア次第で世界的な大企業に、しかも短期間で成長できるというシリコンバレーの成功経験を目標としており、大学を卒業したばかりの若者は大金が稼げると自信をのぞかせている。しかし、経験を積んだ起業家は、ネットワーク環境が不十分ななかでユーザーの数を伸ばし、投資家から資金を引き出すことがいかに困難であるかを語っている。著者らは、勝者総取りの業界では事業規模を拡大するための資金調達が決定的に重要であると論じ、市場が小さく投資家も少ないアフリカではシリコンバレーと同じモデルで成功することはほとんど不可能だと指摘している。デジタル産業の発展は地域的に大きな偏りがあり、さまざまな制約を飛び越えてアフリカで世界的なデジタル企業が生まれるという希望は、近い将来においては幻想にすぎないと論じられる。

こうしたギャップの背景には、アフリカのみならずこの業界全体においてシリコンバレー・モデルが強く共有されており、それはフラットな人間関係や能力主義といった独自の文化に対する共感も伴っていることが説明されている。しかしながら、シリコンバレーへの憧憬は白人起業家の優遇にも結び付き、皮肉にも、デジタル起業家たちは彼らが嫌う既存のビジネスの価値観に悩まされているという指摘は興味深い。著者らは、シリコンバレー・モデルの追随をやめてアフリカのローカルな需要に向き合い、そこからグローバルなデジタルサービスを創造することを起業家に提言している。

本書にはアフリカ全体のデジタル起業の規模や事業内容、11都市の起業環境についても整理されており、アフリカの状況を概観するのにも有用である。デジタル起業に関心のある方に、とくにアフリカで起業を志す人、それを支援する政府や開発機関で働く人たちに本書を薦めたい。

福西 隆弘(ふくにし・たかひろ/アジア経済研究所)

 
© 2022 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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