アフリカレポート
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資料紹介
小倉 充夫 著 『自由のための暴力――植民地支配・革命・民主主義――』 東京 東京大学出版会 2021年 xiii+278+5 p.
佐藤 千鶴子
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2022 年 60 巻 p. 23

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植民地支配や絶対君主制、構造的暴力からの解放、すなわち自由を求めて行使される暴力をどうとらえるか。自由を求めて戦った勢力が、解放(独立)後に国家権力として行使する暴力はどう理解すべきか。アフリカ研究者ならば一度ならずとも直面するこれらの問いに、ベテランのアフリカ研究者であり、国際社会学者でもある著者が、世界史的な観点から取り組んだのが本書である。前半の3つの章では、暴力、非暴力、革命という3つのキーワードに関する政治思想家や歴史家の著作、そして革命家や政治指導者の言説をもとに、次のような問いが考察される。どのような状況下で誰が用いるならば暴力は正当化されるのか(第1章)。ガンディーに代表される非暴力主義の理念は歴史上どのように実践され、どのような効果を持っていたのか(第2章)。フランス革命、ロシア革命、キューバ革命などの歴史上、語り継がれる体制変革時およびその後の暴力はどのように理解すべきか(第3章)。以上のような理論的・世界史的考察をふまえたうえで、第4章では「後進国革命」の具体例として1974年に帝政支配を終わらせたエチオピア革命とそれによるメンギスツ軍事独裁体制の成立過程が詳細に論じられる。第5章では植民地支配を経験した国家における独立後の暴力の連鎖の問題、第6章で民主主義体制下でも持続する物理的・構造的暴力とそれに立ち向かう際の暴力の問題が取り上げられる。

暴力か非暴力かという二者択一的な議論には意味がなく、重要なのは非暴力的な手段が自由(解放)のために有効な条件を明らかにすることであるという指摘や、革命時の暴力や革命後の恐怖政治が事実であるとしても、その源泉は革命家や革命に参加した人びとの狂信のみに求められるべきではなく、革命が起こった国々の歴史的な状態や国際関係にも目が向けられるべきであるとの指摘は示唆に富む。エチオピア革命を単なる軍事クーデターや軍事独裁体制の成立としてのみ論じるのではなく、ロシア革命やフランス革命と比較しつつ、労働者や学生、農民それぞれの関与と革命によるこれらの人びとへの影響について考察した章も非常に読みごたえがあった。

本書は、自由のために暴力が行使される際の個別具体的な状況を明らかにすることの重要性を強調し、この過程に当事者として参加する人びとの声に耳を傾けつつ、解放(独立)が異なる人びとに与える影響も注視すべきであると説く。歴史理解が地域研究の根幹にあることを改めて実感させられる良書である。

佐藤 千鶴子(さとう・ちづこ/アジア経済研究所)

 
© 2022 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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