2022 年 60 巻 p. 30
アフリカは、経済成長や人口増加を背景とする巨大市場として近年世界の注目を集め、アジアからも多くの企業がビジネスチャンスを求めて進出している。しかし、これは決して一方通行の話ではない。今世紀に入ってからアジアにやってくるアフリカの人びとも増えており、推計では中国・広州に在住するアフリカ人は約20万人、在日アフリカ人も2万人を超えるとされる。
雑誌『季刊民族学』176号は、こうしたアジアの国々をめざすアフリカ人をテーマとして特集を組んでいる。本雑誌は、学術研究の成果にもとづきつつ、世界のさまざまな民族の社会と文化に関する情報を一般向けに分かりやすく提供する国立民族学博物館友の会の機関誌である。本号の特集は10本の記事で構成される。取り上げられているのは、ベトナムで活躍するコンゴ民主共和国やナイジェリア、ケニア出身のサッカー選手、日本に暮らすナイジェリア人やエチオピア人、日本で学ぶ南スーダン人留学生、日本で活動するセネガルやマリ、ギニア出身のダンサー、ケニア出身のミュージシャンなどである。すべてをここで紹介するには紙幅が足りないが、評者は次のふたつの事例をとくに興味深く読んだ。
ベトナムで活躍するサッカー選手たちは、2006年から2015年までの10年間に累計でアフリカ54カ国中24カ国、アフリカ大陸の東西南北全土から来越している。なかにはベトナム国籍を取得した選手もいる。共通するのは、移住したその地をぶらつき、その地の人びとと雑談することで交流するという行動様式である。それによって彼らは、その地で生活知を獲得し、そこの住民となっていく。
人情味あふれる昔ながらの街並みが残る東京の下町、葛飾区には100名弱のエチオピア人が住む「リトル・エチオピア」と呼ばれるエリアがある。エチオピア正教会での集会や礼拝、レストランでの食事などを介して、エチオピアの人びとがつながりをもつ場が形成されている。そこは、東京の下町でありながら「活力ある新たな異境」にもなっている。
日本に住む一般の人びとからすると、アフリカはまだまだ日本から遠いことのように思われるかもしれないが、実はわたしたちの身近に多くのアフリカ人が暮らしている。本特集はコンパクトにまとまっており、こうした「隣りのアフリカ人」の暮らしを垣間みることができる。
岸 真由美(きし・まゆみ/アジア経済研究所)