アフリカレポート
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資料紹介
仲尾 友貴恵 著 『不揃いな身体でアフリカを生きる――障害と物乞いの都市エスノグラフィ――』 京都 世界思想社 2022年 xxvi+366 p.
児玉 由佳
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2022 年 60 巻 p. 40

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本書は、タンザニアの最大都市ダルエスサラームに暮らす「ワレマーブ」と呼ばれる人々についての研究成果である。「ワレマーブ」とは、通常「障害者」と定義される身体的特徴をもつ人々を指し、そこにはアルビニズム(白皮症)も含まれる。

本書は序章と終章を除くと二部構成となっている。序章は、本書の目的やアフリカ地域研究における障害学についての先行研究レビューであり、第一部では、タンザニアにおける「障害者」についての植民地期からの歴史を概観している。第二部は、「ワレマーブ」の人々の生活誌となる。著者は「関心のある章から開いて読まれることを想定している」と述べており、生活誌を綴った第二部から読み始めてもよいであろう。

本書の大きな特徴は、なぜ障害者をとりあげるのか、どのように調査を行うのかについての丁寧な検討にある。はしがきや序章において、心情の吐露ともいえるような文章があり、問題意識を丁寧に説明している。障害者を調査対象とする理由や調査方法の倫理的な妥当性についてつねに周囲から問われ続けたのだろうと推測される。使用する語句についても検討を重ねており、たとえば本書では顕在的「欠損」保有者という呼称をおもに用いているが、それは医学的というよりも社会的に認識されている「欠損」を取り扱うという問題意識によるものだと説明されている。第二部第4章の調査方法についても、調査目的は博論であって援助はないと対象者に合意を得るとか、謝金の対応など詳細に説明をしている。ただ、これは通常のフィールドワークでも考慮すべき点であり、調査を行ううえで参考になる。

第二部の「ワレマーブ」の人々の生活誌では、詳細なライフヒストリーや現在の生計活動などが具体的に語られている。取扱いに濃淡はあるが合計17人の人々が登場しており、その生活がいきいきと記述されている。彼らの生活は、「欠損」によるハンディキャップがあるものの、非「欠損」者の人々の生活とまったく異なるのではなく、タンザニアの社会に関する先行研究との共通点も示されており興味深い。

理論武装の比重が高く、もう少しフィールドワークの成果を知りたかったという感想をもったが、アフリカにおける障害学を考えるにあたって重要な一冊であることは間違いない。

児玉 由佳(こだま・ゆか/アジア経済研究所)

 
© 2022 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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