地球科学
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中国東部揚子江下流域における前縁盆地のスラスト-ナップ構造
郭 令智施 央申孫 岩沈 修志黄 〓瑾杜 定全
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1993 年 47 巻 1 号 p. 53-62

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抄録

本研究は1970年代にはじめられたもので,本論では,中国東南部の揚子江下流域の地質構造発達史を説明するために提唱された,スラストーナップ構造における広域的な滑動システムについて概説する.本地域には,原生代晩期の張八嶺(Zhanerbaling)層群からジュラ紀後期の象山(Xianshan)層群にいたる地層が,広域的な六つの滑動システムによって区切られて分布する.滑りを生じている地層の岩石物性の特徴を系統的に検討すると,その岩石強度・ヤング率・内部摩擦角・電気抵抗・磁化率などのパラメーターが,周囲の岩石に較べて有意に低いことが判明した.また,スラスト-ナップ帯では脆性変形の前段として延性変形が進行した証拠があり,そこではマイロナイト・ストレス鉱物が認められる.揚子江下流域では,フレーク・テクトニクスの観点に基づいて,三種類のナップが識別されている.それらは,地層が逆転し大規模な横臥褶曲が形成されて褶曲ナップに発達するような圧縮型ナップ(P型),一般に断層によって形成された地境・スラブ・シートによって形成されるような重力滑動ナップ(G型),および,P型とG型の混在する複合型ナップ(C型)である.ナップの運動学や力学はプレート運動と密接な関係にあることを示しており,その発展は四つの段階を経ている.原生代晩期の雪峰輪廻(Xuefenian Cycle),中生代初期のインドシニアン輪廻,中生代の燕山輪廻(Yanshanian Cycle),新生代のヒマラヤ輪廻である.本地域の前縁盆地におけるスラスト-ナップ構造の形成過程は,石油-ガス貯溜層の構造的枠組とその発達を決定する重要な鍵となる.

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© 1993 地学団体研究会
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