地球科学
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現在活動中の巨大地すべり ―群馬県烏川中流域の湯殿山巨大地すべりの事例―
大塚 富男高浜 信行中里 裕臣野村 哲足立 照久
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1998 年 52 巻 3 号 p. 210-224

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抄録

筆者らは,群馬県烏川中流域で,更新世後期(広域テフラAT降灰期頃)に発生し,現在も再活動する幅2.8km・長さ1.5kmの「活巨大地すべり」を発見した.この地すべりを湯殿山巨大地すべりとよぶ.この地すべり移動体とその基盤は,上部中新統〜鮮新統の安山岩質凝灰角礫岩と溶結凝灰岩で構成されている.この移動体の上部では,地すべり亀裂によって形成された地溝・地塁の雁行配列が認められる.下部の移動体は破砕によってブロック化され,周辺地域とくらべて地質構造の乱れも大きい.また,上部では開口亀裂が開きつつあり,下部では河川構造物の破壊が進行している.このことは,この地すべり全体が現在も活動していることをしめしている.この地すべりは,過去に少なくても2度の再活動をした可能性が高く,それらは約1万年前と1108年以後1783年以前である.これらの活動は,この地域ですでに明らかにされているテフラ層の液状化の時期と一致することから地震が再活動のひきがねになったと判断できる.一方,現在の再活動は地震との直接の関係が認められないことからこの誘因は今後の課題である.さらにこの巨大地すべりは過去の再活動で烏川をせき止めた可能性があり,この実態を明らかにすることは,今後の災害予測にあたり,重要な意味をもっている.地質学的スケールの時間・空間的規模を持つ湯殿山巨大地すべりの災害対策にあたっては,ハードとソフトの有効で適切な手段の組み合わせが検討されなければならない.巨大地すべりに対するハード手法が確立されていない現在では,ソフトの充実すなわち,対策工事から独立した実態解明のための調査・観測,住民に対する種々の情報の公開・提供などが基本的に必要となる.

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© 1998 地学団体研究会
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