地球科学
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ヒドロダマリス亜科Hydrodamalinae(海牛目:ジュゴン科)における下顎と脊柱の運動機能に関する進化的変化
小林 昭二田崎 和江
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2006 年 60 巻 1 号 p. 49-62

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抄録

系統的にDusisiren jordaniとHydrodamalis gigasの間にあるヤマガタダイカイギュウD. dewana,アイヅタカサトカイギュウD. takasatensis,タキカワカイギュウH. spissa等をふくむヒドロダマリス亜科の下顎(咀嚼),頭の背屈・側屈,脊柱運動機能の変化について,骨格の観察と現生の海牛(ジュゴンとマナティー)の筋学的な知見をもとに考察を試み,次の結果を得た.1)後期中新世のD. takasatensisとD. dewanaでは歯が小さくなった後,翼状突起腹側部が広がり,下顎骨の吻部咀嚼面が狭い長方形となることから下顎骨を動かし吻部で餌をはさむ力が増したと考えられる.歯を欠如した鮮新世のH. spissaではそれがさらに強くなったと推測される.また側頭稜の発達から鮮新世のH. cuestae, H. spissaでは側頭筋の力が現世のH. gigas以上に強いと考えられる.2)鱗状骨外側部,上後頭骨・外後頭骨背外側縁の形状比較から,後期中新世のD. jordaniのように板状筋が発達する傾向はD. takasatensis, D. dewanaにも認められる.しかし,H. gigasのように板状筋より頭半棘筋の発達が目立つのはすでにH. spissaから認められる.3) D. dewanaとD. takasatensisはほぼ同じ大きさの頭蓋をもつが,鱗状骨外側部,上後頭骨・外後頭骨背外側縁の形状の差異から,D. takasatensisが頭の背屈・側屈がより強く,頭の可動範囲も広いと考えられる.4)ヒドロダマリス亜科は中位胸椎の棘突起が低いことから,最長筋などの軸上筋の発達が弱く,脊柱を背屈させる力もジュゴンの場合より弱い,特にH. spissaで顕著であると考えられる.ヒドロダマリス亜科は水流エネルギーのあまり強くない環境に穏やかな脊柱の動きで生息していたと推測できる.

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© 2006 地学団体研究会
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