2010 年 64 巻 2 号 p. 63-75
長野県の松代温泉は,大量のほう素(B)を含む温泉としてよく知られている.その排水溝には茶褐色および黒色のバイオマットが形成されている.特に河川水と温泉排水が交わる部分には黒色のバイオマットが形成されている.いずれのバイオマット中にも多量のBが濃集しており,これによって,排水中のB濃度は,排出直後よりも4割程度減少する.これは,バイオマット中に生息するシアノバクテリアがカルサイトを作る時に,二酸化炭素のかわりに炭酸塩イオンを取り込むからである.その際に細胞周辺に局所的に高アルカリ環境を作り出し,温泉中のHBO2を電離させ,よりBを他の物質に結合しやすい状態にするためである.シアノバクテリアはカルサイトを作り出すことによって,Bを濃集させ,温泉水中のBを軽減する働きがある.