地球科学
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紀伊半島,中新統熊野層群の泥ダイアピル,特に前弧海盆南縁の巨大分岐断層群との関係について : 紀伊半島四万十累帯の研究(その15)
紀州四万十帯団体研究グループ
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2011 年 65 巻 1 号 p. 1-16

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抄録

紀伊半島南東部に分布する熊野層群は,中新世の前弧海盆堆積物である.熊野層群には角礫岩(含角礫泥岩)の岩体が各地に知られており,すべてスランプ堆積物と解釈されてきた.しかし,那智勝浦町大勝浦海岸と太地町伴待瀬海岸に分布する角礫岩は,熊野層群の整然層に非調和に注入している.これらの角礫岩は,泥基質,砂質泥基質および泥質砂基質の角礫岩からなる複合注入岩体で,角礫は砂岩と泥岩である.泥岩角礫の放散虫化石と複成円礫岩からなる角礫の存在から,角礫の一部は基盤の牟婁層群に由来する.岩体には角礫や砂粒子が上方に流動したファブリックが認められる.また,伴待瀬岩体は周囲の整然層と漸移する.さらに,両岩体ともに岩体と同質の角礫岩岩脈を伴っている.以上のことから,これらの角礫岩岩体は泥ダイアピル岩体と考えられる.これらの岩体は熊野層群の南縁部に位置し,転倒背斜を含む複背斜構造の軸部に位置する.この転倒背斜は牟婁付加体のスラスト運動に由来し,このスラストに伴って地下深部から多量の水が供給され,転倒背斜形成時の構造的圧力とあいまって,牟婁層群と熊野層群の泥質岩の間隙水圧が上昇し,泥ダイアピルが形成されたと考えられる.このスラストは熊野前弧海盆南縁の巨大分岐断層群の一部であった可能性が高い.泥ダイアピルは周囲の熊野層群下里累層を取り込みつつ,敷屋累層の層準まで上昇しているが,そこで海底面に泥火山として噴出した可能性がある.

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