2022 年 76 巻 4 号 p. 155-160
スリランカ北西部の Mantai郡,Yodhawewa地域において得られた鉱滓について地球化学的検討を行った. Mantaiは原始時代からインド洋を横断する交易の港町として栄えた. Yodhawewaの考古学的発掘地点では多数の鉱滓が見つかっており,それらの鉄含有量は変化に富み 1.42から 20.59 wt%である.鉱滓の内,鉄含有量が10wt%以下のものは光沢をもち,岩石薄片では光を通す.これらの試料は淡緑色から暗灰色などであるが,赤色を呈するものもある.ガラス質鉱滓では流動した構造を持つ.注目すべきは高い鉄含有量のものにかんらん石が含まれることである.このかんらん石の結晶形態はほぼ自形(0.5-1.0mmの大きさ)から,矢羽型や針状のものなどさまざまであり,これは冷却の状況による.かんらん石の電子プローブマイクロアナライザーによる分析では鉄かんらん石の組成を示す.鉱滓中の鉄かんらん石はガラス,白榴石,ビュスタイトを伴う.かんらん石とその結晶に含まれるガラスの相平衡からは,かんらん石の結晶温度は1100°C以上と言える.また,白榴石は鉄かんらん石と細かな連晶をなしており,両者の共晶温度は~ 1128 °Cと見積もられる.今回の結果は古代人によるかなり高温の火力を用いた製錬についてのはじめての報告といえる.