農業気象
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C3植物とC4植物に関する農業気候学的研究
(4) イネとヒエの葉温と蒸散量の日変化
長谷川 史郎
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1978 年 34 巻 3 号 p. 119-124

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抄録

湿生植物で, 類似した環境下で栽培されているイネ (C3植物) とヒエ (C4植物) の葉温の日変化を明らかにするために実験を行った。ポットに植え, 湛水条件下で育てた, 移植後約1箇月のイネとヒエを用いて自然条件下で, 葉温, 蒸散量を測定し, 同時に日射量, 風速, 気温および湿度を測定した。測定期間は1977年7月26日から7月31日である。得られた結果を要約すれば次の通りである。
1) 葉温の日変化
イネ葉温は日の出, 日の入り時の弱日射下では気温とほぼ同じであったが, 日射が強くなるにしたがって気温よりも低下した。夜間は気温より0.5~1.0℃高かった。ヒエ葉温は夜間は気温とほぼ同じであったが, 日の出後しばらくたつと気温よりも高くなり, 日射が強くなるにしたがって, 気温よりもますます高くなった。
2) 蒸散量の日変化
弱日射下ではイネとヒエとで大きな差は認められなかった。日射が強くなる昼間において, イネの蒸散量はヒエのそれに比し多くなった。
3) 日射量と葉気温差
イネの葉気温差と日射量との間には高い負の相関関係が認められる。ヒエの葉気温差と日射量との間には高い正の相関関係が認められる。
4) 日射量と蒸散量
日射量とイネ蒸散量ならびにヒエ蒸散量との間には高い正の相関関係が認められる。弱日射下ではイネ, ヒエの蒸散量はほぼ等しいが, 日射が強くなればイネの蒸散量はヒエのそれより多くなる。
5) 葉温と蒸散量
ヒエ葉温とイネ葉温との差はイネ蒸散量とヒエ蒸散量との差と密接な関係が認められる。
以上の結果より, イネとヒエとで光合成, 生育適温が異なるにもかかわらず, 両者の分布域ならびに生育季節がほぼ等しいのは, 1つには, 高温, 強日射下でイネはヒエに比し体温が低いためと考えられる。

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