農業気象
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作物の蒸発散に関する研究
(2) 大豆畑の蒸散量と蒸発量の分離評価
桜谷 哲夫
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1987 年 42 巻 4 号 p. 309-317

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抄録

大豆畑からの蒸発散量(ET)を蒸散量(T)と蒸発量(E)に分離して評価するために, ETをボーエン比熱収支法により, Tを茎熱収支法により求めた。EETTとの差で与えられた。測定は1981年と1983年にそれぞれ0.105h及び0.64haの畑(品種エンレイ)で行った。得られた結果は次のように要約される。
1) 圃場蒸散量は茎熱収支法から求められる測定個体の平均蒸散量(T0)から(2)式を用いて外挿されたが, T0の個体による差が比較的小さいため, 4本の測定個体から個々に推定したTには大差がなかった(Fig. 1)。TETとの経時変化の間には若干のタイムラグが認められたが, 準定常状態の下での値または日平均値を用いることによってこの影響は消去できるものと考えた。
2) 早朝にはTが抑制された日があったが, これは露によるものと考えられた。このような日にはEは双頂型の日変化を示した(Fig. 2)。T/ET比は一般に正午を最小とする月変化曲線で表わされ, この日変化は植被層の見掛けの日射吸収率の日変化とほぼ平行関係にあった(Fig. 3)。
3) 生育初期の前半は土壌面が湿潤状態であったためETは生育最盛期のそれに匹敵し, Eは生育初期から最盛期にかけて減少する傾向にあった。T/ET比は土壌水分と天候の影響を大きく受け土壌面の乾燥時には大きな値を, 曇雨天日には小さい値を示す傾向にあった(Fig. 4)。
4) 湿面からの蒸発散量推定のための日射法の係数aの季節による変動は, Priestley-Taylor 法の係数αより小さく, 大豆畑における日射法の有効性が確かめられた(Fig. 5)。
5) 日射法が植被下の湿潤土壌面からの蒸発量推定にも利用できるものとして日蒸散量を推定するための簡易な半経験式を導いた。この式から, LAIに対するTの増加はおおむねLAI=2.6で鈍化すること(Fig. 7), Tは見掛けの吸収日射量に比例することが分かった。

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