抄録
目的: HIV感染者の身体障害者手帳への意見と他の内部障害者のそれとを比較することで, HIV感染者の視点から現行の身体障害者手帳の問題点を指摘すること。
対象及び方法: 『身体障害者手帳に関する調査』において『内部障害』と分類されたサンプル (有効数398, うちHIV47) を用い, クロス集計, 因子分析, 因子分析モデルを用いた分析を実施した。
結果: (1) クロス集計の結果, 有意に差があった項目は「障害名」「写真」であった。 (2) 「障害名」は, 「 (HIV以外の) 内部障害」のモデルでは「本人の属性」, 「本人の障害」の2因子に属し, 「HIV」のモデルでは「本人の障害」因子に属した。 (3) 「写真」は, 「内部障害」では「本人の属性」因子に属し, 「HIV」では2つの因子に属した。
考察: HIV感染者にとっての現行の手帳の問題点は, 差別や偏見のある社会で利用するにしてはプライバシーが無防備に開示されてしまう手帳の仕様と, プライバシーを必要以上に開示させずに短時間で所持者と提示者とを同定できる利用システムではないこと, と考えられた。対策としては, 「本人の属性」因子のもっ提示者と所持者とを同定できる機能を保持しつつ, 「本人の障害」因子のもっスティグマ化を引き起こす機能の影響を小さくすることが妥当であると考えられた。また, 2因子問の相関がほとんどなかったことから, 後者の因子のもつ機能への対策は, 前者の因子のもっ機能を損なわないと考えられた。