抄録
目的: うつ病とHIV (Human Immunodeficiency Virus) 感染症との関連について, 欧米では病気の進行や死亡率に与える影響など種々の報告があるが, その結論は一定していない. 本邦ではHIV感染者の精神状態について複数症例を統計的に検討した報告は少ない. 我々は, 簡易な自己記入式の抑うつ評価尺度および簡易構造化面接法を用いて, 外来通院中のHIV感染者におけるうつ病の有病率を推定した.
対象および方法: 当科外来通院中のHIV感染者40名を対象に断面調査を実施した. Zung自己記入式抑うつ評価尺度 (SDS) を実施し, SDS合計点数が40点以上の患者には精神疾患簡易構造化面接法 (MINI) 5.0.0の「大うつ病エピソード」を用いて面接を行った. 対照としてHIV感染以外の事由で当科外来を受診した患者40名に対し同様の試験を実施した.
結果: SDS合計点数が40点以上の患者は18人で, そのうち「大うっ病」と判定された患者は1人, 「小うっ病」は4人であった. 結果として「うっ病」とされた患者は計5人で対象患者の12.5%に相当した. 対照患者では5.0%が判定された. 「うっ病」と判定された患者はefavirenz (EFV) 非内服群と比べEFV内服群に有意に多く (p=0.015: χ2検定), 感染経路, 国籍, CD4陽性細胞数, HIV-RNA量, HAARTの有無によって有意差は認めなかった.
結論: 今回の調査ではEFV内服群にうっ病患者が有意に多く, 抑うつ状態にある患者にはEFVの投与に注意が必要であることが示唆された. 今後EFV投与開始予定の患者にはSDSなどのテストを行うことも検討するべきかも知れない.