日本建築学会構造系論文集
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放射線を照射されたコンクリートの水和特性と微細構造
柿崎 正義出井 義男助川 武則圷 陽一栗岡 均鈴木 清孝
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1999 年 64 巻 517 号 p. 1-9

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抄録

1.はじめに 今回,研究対象とした原子炉は,日本で初めて発電を行った動力試験炉(JPDR)で,長時間,低照射率で照射されたコンクリート構造物である。そこで,本研究は,放射線を照射された生体遮蔽コンクリートが中性子およびγ線の発熱によってコンクリートの水和特性と微細構造がどのような影響を受けているかを把握するためにJPDRと同様の温度条件下におけるモデルコンクリート試験体を新たに作製して、それらの挙動について比較検討することによって生体遮蔽コンクリートの物理・化学的変化から発電炉の寿命を予測する場合の有用な知見を得ることを目的として行ったものである。2.生体遮蔽コンクリートの概要 生体遮蔽コンクリートはRC造で、厚さ13mmの鋼製ライナーが炉心側内表面に内張りされ、内外表面の中間には中継ぎライナーが配置され、外表面にはエポキシ系の塗装が施されている。生体遮蔽コンクリートの概要,設計条件と調合を、本文2章とFig. 1, Table 1に示す。3. 試験概要 生体遮蔽コンクリート(実験1)および放射線照射による温度の影響を想定したモデル試験体(実験2)の水和特性と微細構造に関する試験項目と内容をTable 2示す。生体遮蔽コンクリートの水和特性と微細構造の挙動は,放射線照射量の影響をみるために部材厚さ等の条件を同一として、炉心との位置関係による影響を確認するために平面対称で測定した。試料の採取位置は、Fig.1のように放射線照射量が最も多い炉心近房と照射量が少ない炉心から離れた位置、さらに放射線の照射を極力受けない位置のものとした。Fig.3に測定する試料の採取手順を示す。温度の影響を想定したモデル試験体は,JPDRの建設当時とできるだけ同一の材料と調合とした。モデル試験体は,原子炉からの放射線照射による熱エネルギーを長期に受けたコンクリートの挙動を再現するために、Fig.4に温度の影響を想定した養生条件で行った。モデル試験体は、遮蔽コンクリートが打込み厚さの大きいコンクリートであることから,炉心側ライナーに近いところおよびコンクリート中心部で水分の移動が制限されることを想定して,銅板筒型枠(厚さ0.3mm,外径15mm,内高30mm)による完全密閉を施すものをシール有りとし,熱が伝導されて室温に接する部分を想定してシール無しと設定した。想定した温度は、打込み時の水和反応に伴う発熱と運転時の放射線の照射に伴う発熱を考慮して、60℃とした。これらの計算方法は文献3)の3.3に,解析結果の要約は,本文の「4章」に示した。4. 試験方法 (1) 生体遮蔽コンクリート 1) 走査型電子顕微鏡観察(SEM) SEMの観察は,コンクリートの粗粉砕試料(乾燥状態)からモルタル部分(3〜5 mm^3)を採取して真空乾燥した後に,その試料を割裂した破断面に金を真空蒸着して行った。測定は微小部走査型電子顕微鏡によって1試料につき2視野とし,倍率は500,1000,3000,10000倍で行った。2) X線回折 X線回折は45μm以下に微粉砕(乾燥状態)したモルタル部分(約1g)をガラス板に均一になるように詰めて,回折角(2θ)を測定し(室温 : 20〜25℃), Bragg'sの条件式に代入して格子面間隔を求め,JCPDSカードにより同定した。 3) 結合水量及び示差熱分析 結合水量は45μm以下に微粉砕したモルタル部分を約5g採取し,40℃で24時間乾燥させた後に電気炉により,105℃,400℃,650℃及び950℃で各1時間,650℃の減少率より105℃減少率を減じて算出した。DTAの結果をみると,炭酸塩の分解に対応する600〜700℃の減量はほとんど見られないので,試料の炭酸化はほとんどないものと考えて,結合水量算定上の上限温度を650℃とした。結合水量の計算 減少率(%)=(試験前の質量-試験後の質量)/試験前の質量×100 結合水(%)=650℃減少率-105℃減少率 示差熱分析(DTA)曲線は,45μm以下の微粉砕試料を約10mg採取して,示差熱分析装置を用いて昇温速度を10℃/min(室温 : 20〜25℃),温度950℃までαアルミナを標準試料として測定した。 示差熱分析の計算 Ca(OH)_2 (%)=440〜500℃の脱水による減量率/O.243^<*1)> *1) : 0.243= H_2 o/Ca(OH)_2 吸熱ピーク面積比の算定は,3,3.3,(1),3)に示した。4) 細孔径分布(ポロシティ) 細孔量はコンクリートの粗粉砕試料からモルタル部分を約30g採取して,エタノールに入れ超音波洗浄をした後105℃で30分間乾燥し,水銀圧入式のポロシメータを用いて水銀圧力0.9〜2000kg/cm^2で細孔径を6〜9500nmの範囲で測定した。(2) 温度の影響を想定したモデル試験体 水和特性と微細構造の試験は,Fig.3に準じて3.2(2)のコンクリートから骨材を取り除いた微粉砕試料(乳バチによる)を調製して,3.3.(1),1)〜4)と同様の方法でSEM観察,X線回折,結合水量,熱分析および細孔径分布などについて行った。5. まとめ 試験結果およびその考察から、次のような知見を得た。a. SEM観察の結果,針状結晶は炉心側試料の方が外側に比べて発達の度合いが大きい。それは、モデル試験体のエトリンガイトとC-S-Hの針状結晶と同じであった。b. 結合水量は,炉心側の方が外側に比べて約5%大きいが,モデル試験体では6.5%程度大きくなり,JPDRの分析結果と同じ傾向を示した。c. X線回析による水和生成物は,モデル試験体のときモノサルフェート,Ca(OH)_2のピークが強く検出されており,JPDRの分析結果と一致していた。d. 細孔径分布は,炉心側の方が外側より小さい細孔径が多く存在しており,この傾向はモデル試験体のシール有り(炉心側を想定)の場合とよく一致していた。e. モデル試験体の水和特性と微細構造は,生体遮蔽コンクリートの結果と特に変化を生じていないという試験結果を補足しているデータの一つであると考えられる。

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© 1999 日本建築学会
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