日本建築学会構造系論文集
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3次元有限要素解析による径高さ比の異なるコンクリート角柱の圧縮強度解析
堀田 久人曹 昌根
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1999 年 64 巻 517 号 p. 115-123

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抄録

1. はじめ 一般に構造物のコンクリート強度は、シリンダー実験のそれとは異なっている。曲げとせん断を受ける梁支点のコンクリート強度は、シリンダー強度に比べ、大幅に上回る場合がある事が報告されている。この事は、拘束状態が異なっているからだと一般に説明されている。拘束問題を多軸応力状態での構成関係で把握されるかは疑問であるが、コンクリートの多軸応力での構成関係を基にして、圧縮強度が拘束条件にどのような影響を受けるかを調べることでその影響を把握する必要がある。特に、圧縮を受ける径高さ比の異なる角柱は、拘束条件が圧縮強度に及ぼす影響を表わすことで、その問題を簡単に把握される一例と考えられる。本研究は、径高さ比の異なるコンクリート角柱の3次元非線形有限要素モデルにより、実際のコンクリート構造部材の中で拘束条件および応力集中の変化がコンクリートの圧縮強度に及ぼす影響に関して検討することを目的とする。高さ20cm、15cm、10cm、5cmの10cm×10cmの正方形断面を有するコンクリート角柱に対して解析による検討を行う。2. コンクリートの弾性-歪み硬化塑性モデル 破壊までのコンクリート材料は弾性-歪み硬化塑性材料と仮定し、降伏面および載荷関数をDrucker-Prager基準に基づき定式化している。Drucker-Prager基準による破壊面、初期降伏面、塑性ポテンシャル関数はそれぞれ式(2)〜(6)のように与えられる。塑性論に従って歪み増分は、弾性歪み増分と式(7)の流れ則で定義される塑性歪み増分との和で定式化される。最終的に、弾性-歪み硬化塑性材料の応力-歪み関係は式(10)で求められ、塑性剛性テンソルは式(11.a)となり、硬化パラメータは式(11.b)と式(11.c)により求められる。3. 引っ張り側のひび割れと歪み軟化モデル 引っ張り側コンクリート材料は分散ひび割れモデルと考え、線形弾性-歪み軟化材料と考えている。3次元でのひび割れ発生は、図2のように主応力に対して直交方向の平面に生じると仮定する直交ひび割れモデルと考え、3軸応力状態でのひび割れの限界値は式(12)と仮定する。ひび割れ後、引っ張り側のコンクリートは、図3のように総歪み増分はコンクリート歪み増分とひび割れ歪み増分との和で、式(13)〜式(15)と仮定する。ひび割れ面でのせん断伝達メカニズムは、式(16)のように線形的にせん断係数が低下すると仮定する。4. コンクリート角柱の有限要素モデル 図3に示すような8節点八面立体要素を用いて、第2および第3章で述べた仮定を基にコンクリート材料の3次元非線形有限要素解析プログラムNFERCを開発した。解析対象は10cm×10cmの正方形断面を有する高さ20cm、15cm、10cm、5cmの角柱で、荷重と構造体の対称性を考え、供試体の1/8の対称部分だけ解析を行っている。供試体の要素分割はそれぞれ図4に示すとおりである。コンクリート載荷面と載荷鋼板は完全フリーと完全付着の二つで、載荷面の付着条件を考慮している。コンクリート材料値は、圧縮強度を32.2MPa、引っ張り強度を3.22MPa、ヤング係数を31700MPa、ポアソン比を0.22と考え、応力-歪み曲線は文献10で示されているものを使用し、圧縮強度の25%までは線形弾性と仮定する。5. 結果考察 図7には、本研究で定式化されたコンクリート材料のモデルにより、3軸応力での応力-歪み関係を示しているが、試験に比べ解析により得られた応力の最大値が少し小さくなっている。これは式(3)および式(4)に用いられた2軸応力強度による降伏面が過少評価されたからである。表1に示すように、各供試体の代表的な節点で計算された相似角が60°に近づくことは、円形三角形であるコンクリートの破壊面がDrucker-Prager基準と相似角が60°で一致することを考えると、1軸圧縮強度解析のモデルとして3軸応力下でのDrucker-Prager基準は妥当性を示していることを証明する。図8によると、載荷面が完全フリーの場合、高さが異なることとは関係なく圧縮強度が一定であるが、載荷面が完全固定の場合、高さが短くなると圧縮強度が高くなっている。図9では、その結果が実験と良く一致していることを表わしている。載荷面が完全フリーの場合、ひび割れは発生していないが、図10は、載荷面が完全固定の場企ての外側面でのひび割れ分布を表わしている。中央断面の外側面からひび割れが発生し、外側面に沿って徐々に載荷面側に向け伸びている。図11は、載荷面が完全固定の場合の載荷面での主応力分布を表わしている。高さ20から10cmの場合、外側面で応力が集中しているが、高さ5cmの場合、外側面より中央部分で応力が集中している。載荷面が完全フリーの場合、全てが一軸応力状態を表わしたが、図12のように、載荷面が完全固定の場合、応力状態は、径高さ比の影響を受け異なっているし、高さ20cmの場合、載荷面側では三軸応力状態となっているが、中央面側ではほぼ一輪応力状態となっており、二つの応力状態で明らかに区分することができる。しかし、高さが短くなると段々三軸応力状態の領域が増え、高さ5cmの場合、載荷面から中央面までほぼ三輪応力状態となっている。図13は、載荷面が完全固定の場合、内部面での塑性硬化率を表わしている。高さが20cmの場合、載荷面側では高応力状態であまり塑性硬化が進んでいないが、中央面倒では中心から塑性歪み硬化が進んで、圧縮破壊の限界領域になっている。載荷面側と中央面側でのその差は大きくなっているが、高さが短い場合、その差は小さくなっている。ひび割れの発生、主応力分布、塑性歪み-硬化分布から考えると、角柱の破壊は中央断面の外から横方向の膨張によるひび割れが進展すると共に中央面からの塑性歪み硬化が進み、文献12と13の試験に示されているような円錐型に破壊することが判断される。6. まとめ 径高さ比が異なるコンクリート角柱の3次元有限要素解析を行い以下の知見が得られた。1) 載荷面が付着されていない場合、ほぼ一軸応力状態で、径高さ比は圧縮強度変化に影響を及ばないが、付着されている場合、高さが短くなることにより、角柱の圧縮強度が高くなり、三軸応力状態が広げられている。その事は、拘束条件が圧縮強度に影響を及ぼすことが確かであるのを証明する。2) 高さ20cm、15cm、10cmの場合、供試体の応力状態は哉荷面での3軸応力状態と中央面での1軸応力状態の二つの領域に区分される。3) 角柱は、中央断面の外側からの膨張によるひび割れと共に中央面側での塑性歪み硬化の進展により、試験に示されているように、円錐型の破壊になりことが予測される。

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© 1999 日本建築学会
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