日本中東学会年報
Online ISSN : 2433-1872
Print ISSN : 0913-7858
US Counter-Terrorist Policy and the Case of Sudan
小林 正樹
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1996 年 11 巻 p. 287-304

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抄録

米国には,「テロリズム支援国のリスト」というものがあり,米国と中東とのかかわりの中でしばしば話題に上る。例えば,イラク,イラン,スーダンなどは,その「リスト」に現在も載っている。このリストの存在については,我々,中東の政治動向及び国際関係の動きに関心を寄せている者ならば,知らない者はない様に思われるが,その実態については案外知られていない。米国は,どのような目的の為にこの「リスト」を使用してきたのか。「テロリズム」という語には明確な定義が存在しているのだろうか。米国は,どのような法的根拠に基づいて,さまざまな国をこの「リスト」に載せたり取り除いたりしているのか。この「リスト」には,どのような効果があるのだろうか。第二章において,これらの点を主に米国政府の発行した資料,文献に基づいて明らかにしようと試みた。第三章の事例研究においては,1993年8月に新たに「リスト」に加えられたスーダンの例を取り上げ,米国がどのような状況の下,いかなる理由でスーダンを「リスト」に載せかのかということを分析しようと試みた。結論として言える事は,米国は,歴史的には対共産主義,対社会主義という目的で「左派テロリズム」という概念を導入,宣伝しながら,「テロリズム支援国のリスト」というものを利用してきた。冷戦が終了し,ソビエト連邦の崩壊に伴って,この方面からの脅威は弱まったが,世界のエネルギー資源の集中するイスラーム圏を押え込む為に,この「リスト」を利用する様になった。「テロリズム」という語には,普遍的な定義が存在している訳ではない。「リスト」の法的根拠は,米国の国内法であり,国際法とはなんら関係はない。「リスト」の効果についても,レッテルはりによる心理的効果の方が,経済制裁などに伴う実質的効果よりも大きい様だ。どの国を,いつ「リスト」に載せるのか,あるいは「リスト」から取り除くのかという判断は,米国政府の公式発表にある様な倫理的なものというよりは,米国の政治的,国家的利益を守るものとなっている。

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© 1996 日本中東学会
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