日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 704
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ナミビア北西部における植生衰退と地形・地質条件
*山縣 耕太郎
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抄録

 乾燥地,半乾燥地における砂漠化現象は,グローバルな環境問題のひとつとなっている.その要因としては,グローバルな気候変化や,人間活動の影響が大きいと考えられている.しかし,植生衰退の程度には,地域の中で不均質な場合が多いことから,気候以外のローカルな環境条件も,重要な役割を果たしていることが予想される.こうした地域の砂漠化現象に対処するためには,地域の環境条件を含めた砂漠化のメカニズムを理解することが必要であると考えられる.本研究では,ナミビア北西部カオコランドを例として,地形,地質条件と植生衰退との関係について検討をおこなった.
 調査地は,ナミビア北西部アクサブ付近に設定した.この地域は,年降水量100-200mmの半乾燥地域にある.また,この地域は,大西洋岸のナミブ砂漠と内陸のカラハリ砂漠の間の中央高地に位置し,比較的起伏の大きい地形を呈する.地質については,玄武岩台地と結晶片岩の境界に位置する.土地利用については,共同体土地所有地における小規模な牧畜中心の生業がおこなわれている地域である.
 現地調査から,過放牧が原因と見られる植生の衰退,土地荒廃が確認された.しかし,植生の衰退は一様に生じているわけではなく,ほとんど植生が失われているところに隣接して,高い植生被覆率を維持しているところもある.こうした,植生衰退の不均質性と地形,地質条件との関係を検討するために,調査地に調査ラインを設定し,ライン沿いの地形,地質,植生を記載,分類した.また,地形,地質条件が異なる4地点に植生プロットを設定し,植被状況を詳しく記載した.
 現地調査および空中写真判読から,調査地周辺の地形は,玄武岩インゼルベルグ,結晶片岩インゼルベルグ,高位段丘,中位段丘,低位段丘,現成ペディメント,現河床氾濫原に区分された.玄武岩インゼルベルグでは,粗い節理系に支配され,粗粒なレキが生産されている.一方,結晶片岩インゼルベルグでは,細かい節理系に支配され,細粒なレキが生産され,斜面も緩やかである.段丘は何れも薄い砂礫層に覆われる侵食面であり,高位面,中位面堆積物は,玄武岩の粗粒なレキを,多く含む.
 各地形面上における草本の植被率は,高位段丘:0-20%,中位段丘0-40%,氾濫原:40-50%,玄武岩ペディメント20-40%,結晶片岩ペディメント30-60%であった.現成氾濫原で最も植被率が大きく,次いで結晶片岩ペディメント,玄武岩ペディメント,中位段丘,高位段丘の順で植被率が小さくなる.木本の密度も氾濫原で最も大きい.中位段丘および高位段丘上では,パッチ状に植被率が極めて低い部分がある.また,両地形面は枯死木の割合が高く,近年植生が衰退していることが伺える.一方,氾濫原や現成のペディメントでは,植被の状況が比較的一様である.インゼルベルグ斜面は,植比率は低いが,枯死木の割合が低い.
 中位段丘,高位段丘上で,植被率が極めて低い部分を観察すると,風食によって,表層の堆積物から細粒の物質が侵食され,最表層に粗粒なレキが集積している様子が確認された.このような場所で植生が衰退している理由として,日射によって表層のレキが著しく高温になり,土壌の乾燥化を招いたためと考えられる.これに対して,現成のペディメントや氾濫原では,洪水によって定期的に細粒物質が供給されるため風食が抑えられているものと考えられる.また,結晶片岩の分布地域では,大きなレキが生産されないため,段丘面上のようにレキの集積による植生衰退は起こりにくい.
 このように,過放牧によって植生が衰退して,風食の影響を強く受けるようになった場合,粗粒なレキを多く含む段丘堆積物上では,表層にレキが集積して植生の衰退を加速するとともに回復不可能な状態に至ってしまうものと考えられる.現在,表層へのレキの集積による影響を評価するために,通年の地温観測を行っている.
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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