日本地理学会発表要旨集
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  • 小野 映介, 小岩 直人, 佐藤 善輝
    セッションID: P001
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    北海道伊達市の北黄金(きたこがね)貝塚は内浦湾(噴火湾)に面した舌状の丘陵に立地しており、縄文時代前期(7000年前~5500年前)の貝塚をともなう集落遺跡である。遺跡の貝塚からは、ハマグリ、カキ、ホタテなどの貝類や、マグロ、ヒラメなどの魚骨のほか、オットセイ、クジラなどの海獣類の骨も多く出土しており、海洋漁労に依存した沿岸部の生業の特徴が認められる(青野2014)。当遺跡は、その学術的価値から「北海道・北東北の縄文遺跡群」の構成要素として、世界遺産に登録されている。北黄金貝塚では、出土する貝類や魚類が時代によって異なることから、後氷期の海面変動や、それにともなう海進や海退に応答するかたちで生業を行っていたと推定される。しかし、当地域における海面変動の詳細は明らかにされていない。近年、考古学分野では噴火湾沿岸の縄文文化に関する詳細な物質面での検討がなされているが、それに対応する精度での周辺古環境の復原はなされていない。本研究の目的は、北黄金貝塚周辺の沖積平野を対象として高精度の空間・時間軸で地形発達史を明らかにすることにある。とりわけ、海面変動にともなう海進・海退の様子に注目し、北黄金貝塚における人々の生活の舞台が変化する様子を復原する。本報告では、遺跡周辺で行った機械式ボーリングによって得られたコアの特徴を紹介する。

     北黄金貝塚の立地する丘陵の南側には、開析谷が認められる。開析谷には小河川が流れており、内浦湾に注いでいる。また、開析谷の出口には複数列の浜堤・砂丘が発達する。掘削調査地点は、浜堤・砂丘の東側に広がる湿地で、現在の海岸線から約600m内陸側に位置し、標高は約4.5mである。

     得られた地質コアの全長は10mである。深度9.65mより下位は固結した泥層であり、更新統と考えられる。それを有機物を多く含み黒色を呈する泥層が覆う(深度9.6~8.5m)。この泥層のほぼトップ(深度8.66m)の年代は7260calBP-7155calBP(76.3%)・7120calBP-7062calBP (13.2%)・7055calBP-7021calBP (5.9%)であった。その上位には軽石を多く含む細粒~中粒砂が認められる(深度8.5~6.2m)。それらは有機物を多く含む泥と細粒砂の互層(深度6.2~3.0m)によって覆われており、深度5.51mの炭化物からは6790calBP-6657calBP (95.4%)、深度4.97mの木片からは6786calBP-6656calBP (95.4%)、深度3.33mの炭化物からは3889calBP-3814calBP (40.7%)・3802calBP-3717calBP (54.8%)の年代が得られた。深度3.0~1.7mは礫まじりの細粒砂と泥炭の互層であり、それ以浅は盛り土である。

     地質コアの層相と年代は、縄文海進期に北黄金貝塚の南側の谷が海域となった可能性が高いことを示唆する。堆積環境については、各種分析によって明らかにする予定である。また、約7000年前に2m以上におよぶ砂礫の垂直累重が確認された。北黄金貝塚周辺の環境を激変させた約7000年前のイベントについて、有珠山の山体崩壊(善光寺岩屑なだれ)による間接的影響などを視野に慎重に検討していきたい。

  • 中川 清隆, 渡来 靖
    セッションID: 504
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    中川・渡来(2021)はSummers(1964)モデルを拡張し,定常状態における都市混合層高度 の自乗 の支配則を提唱した.卓越風に沿ってx軸を設定し,風上側市街地端を原点x=0とし, 正のx領域に無限に定熱源 を分布させた場合,上式の解はフェッチ 増加とともに新しい市街地の定常境界層高度に漸近するとともにフェッチ の最初の部分に過渡現象が出現して境界層高度のピークが出現するものの,明瞭なドーム状乃至はプルーム状の構造は出現しなかった.そこで本研究は,上式における無限定熱源分布を有限熱源分布に置き換え,正のx領域における都市混合層高度 について検討した.

     無限定熱源分布を有限熱源分布に置き換えた場合の解は,微分変数xをtに変更すると強制振動方程式と同型となるので,プルーム型都市ヒートアイランドは強制振動加熱による共振である可能性が示唆される. 力学的振動系の共振は十分時間が経過して過渡項が消滅した後の状況を論じるので定常項のみ議論するが,プルーム型都市境界層の場合は風上側市街地端から流入した郊外気塊が風下側市街地端から流出するまでの比較的狭い空間における定常項と過渡項の干渉波の共振の議論が必須となる.この観点は既存の都市気候学には未見である.

     

     

  • --珪藻・黄金色藻遺骸を用いた台風襲来史復元の試み--
    鹿島 薫
    セッションID: P010
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    沿岸湖沼堆積物中には,過去の津波・洪水・高潮などに伴う堆積層がイベント堆積層として挟在されている.これらのイベント堆積層は,その上下を静穏な環境で堆積した湖沼堆積層に挟まれていることがら,保存がよく識別も容易である.本研究は,珪藻および黄金色藻遺骸を指標とし,沿岸湖沼堆積物を用いて,イベント堆積層の判別と,イベントに伴う堆積環境の復元を試みた.九州西岸は,巨大台風の襲来が繰り返しており,それらの頻度と規模の歴史的変動は,今後の巨大台風の襲来予測のための重要な基礎資料となることが期待されている.研究調査地域は,天草大蛇池(池田池)および甑諸島上甑島なまこ池であり,過去7500年間の環境変動史,イベント性堆積層の判別,強風と高潮を伴った巨大台風史の復元を行った(図1).

    本研究では沿岸湖沼堆積物中のイベント堆積層について,珪藻遺骸および黄金色藻休眠胞子を用い,そのイベントに伴う環境変動の復元を行った.珪藻は沿岸湖沼における重要な第一次生産者であり,小動物に捕食された後,その糞粒として湖底に堆積保存されている.そして沿岸湖沼において優占する珪藻群集は限定されている.これに対してイベント発生時には,高潮・波浪・洪水によって,外洋水,海岸,湖周辺低地などから湖内へ土砂移動が見られ,その堆積物中に産出する珪藻群集も大きく異なっている.

    元寇以前のイベント性堆積層については,天草大蛇池(池田池)では6200 cal.yBPまでに10層準を認めた.このうち,9回は暴風と高潮による湖内への塩水流入が観察され,5回は湖水が一時的に塩水化していたことがわかった.一方,上甑島なまこ池においては,元寇以前に,6400 cal.yBPまでに8層準を認めた.これらはいずれも高潮や波浪に伴う外洋水の流入,礫洲湖岸から湖心への土砂移動が推定された.このうちの3回は,砂礫を大きく破壊し,湖水塩分の上昇をもたらしている.上甑島なまこ池と天草大蛇池(池田池)におけるイベント堆積層準には明らかな同時性があることからも,これらの過去6000年にわたり繰り返されたイベント性堆積層は巨大台風に伴う可能性が高いと考えられた.

  • 和田 崇
    セッションID: 341
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.研究目的

     本研究は,広島アジア競技大会の開催をきっかけに創設された広島市スポーツイベントボランティアの展開過程と効果などを明らかにすることにより,スポーツイベントのレガシー研究の一助とすることを目的とする.

    2.スポーツイベントとボランティア

     地理学では近年,欧米諸国を中心に国際スポーツイベントのレガシーに関する研究が活発化している.そこでは,経済的/社会的,ポジティブ/ネガティブ,ハード/ソフト,短期/長期など,さまざまな分析視点が示されるとともに,五輪開催都市を中心に実態報告がなされてきたが,イベント開催を契機としたスポーツ人材の育成・確保やスポーツを支える仕組みに関する報告はほとんどみられない.

     本研究が取り上げるスポーツボランティアは,スポーツを支える仕組みの象徴といえるものである.日本では,1985年のユニバーシアード神戸大会,1994年の広島アジア競技大会,1995年のユニバーシアード福岡大会でそれぞれ1万人前後のボランティアが大会運営に関わり,さらに1997年9月の保健体育審議会答申「スポーツへの多様な関わり方」を受けて,スポーツボランティアが各地で導入されるようになった.

     日本の地理学では,1970年代からの住民運動・市民活動に関する研究を経て,1990年代からボランティアやNPOに関する研究が行われてきた.このうちボランティア研究について,前田(2011)は担い手をとりまく社会的・地域的文脈,担い手にとっての活動の場所・内容の意味,活動の場所・内容の変容が地理学的研究課題であるといい,また近年は観光ボランティアガイドの実証研究が活発化し,その仕組みや機能,参加動機,効果などが明らかにされつつある.

    以上を踏まえて本研究は,広島アジア競技大会のレガシーの一つといえる広島市スポーツイベントボランティアについて,前田(2011)の示す三つの分析視点にもとづき,その仕組みや機能,参加動機,効果などを検討する.

    3.広島市スポーツイベントボランティア

     1994年の広島アジア競技大会には延べ約30万の人員が運営に携わったが,その6割にあたる約18万はボランティアであった(広島アジア競技大会組織委員会 1996).その内訳は,約10万が競技運営委員,約8万が通訳や運転,端末操作,その他一般業務の要員である.

    この経験を通じて,大会後には広島市民のスポーツイベントボランティアへの関心やニーズが高まったことから,広島市スポーツ事業団(現広島市スポーツ協会)は,1998年度から「これからのスポーツの振興のあり方」について調査研究を行い,「支える」スポーツを振興の柱の一つに据えるとともに,1998年度にバレーボール国際大会に公募ボランティアを派遣,2000年度には公募ボランティアをJリーグの試合運営補助要員として派遣した.2001年度からは「スポーツイベントボランティア育成事業」(広島市委託事業)として制度を確立し,2007年度以降は広島市スポーツ協会の自主事業(「スポーツイベントボランティア登録派遣事業」)として継続実施している.また2007年度からは,登録ボランティアを広島東洋カープ主催試合の運営補助要員として派遣している.

     ボランティアの登録人数は2000年度の166人から2019年度には388人へ,派遣回数は同じく21回から113回へ,延べ活動人数は同じく778人から3,485人へと増加しており,制度の定着と参加者の拡大がみられる.さらに2018年度からは,リーダー制を導入したり,運営委員会や専門部会を設置したりするなど,登録ボランティアによる主体的な活動を推進している.

     こうしたボランティア登録派遣制度の創設と定着は,1980-1990年代に国際スポーツイベントを開催した他都市にはみられない広島市独自のレガシーである.学会当日には,登録ボランティアを対象に実施したアンケート調査結果をもとに,こうしたレガシーを生み出した広島市の社会的・地域的文脈,登録者にとっての当該制度の意味についての考察結果を報告する.

  • 小松原 琢, 佐藤 善輝
    セッションID: 241
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1 はじめに  最近,杉中ほか(2018)は,段彩図を用いた詳細地形解析法を開発・報告し,佐藤 (2021) は,地理院地図の「自分で作る色別標高図」に対応する段彩図作成プログラムを作成・公開している.これらを「地理院地図」の高精度DEMに適用して段彩図を作成することにより,沖積面下の伏在活構造の位置を特定できないか検討した.

    2 既知の構造に関する検討  水元ほか (2015) が指摘した石狩低地帯の沖積面の「高度異常」は,面的に把握することにより新生界の伏在背斜 (岡,1986) と調和的であることが追認された.松山断層 (庄内平野東縁:加藤ほか,2006) では,最上川と直交する南北~北東-南西走向で西傾斜の沖積面の高度異常が石油探査で想定されていた酒田衝上断層群上で認められる.しかし,仙台平野南部の伏在構造 (岡田ほか,2017) については,沖積面の高度異常は上記2例ほど明瞭には表れない.

    3 新潟平野の断層に関する判読  新潟平野を対象に,0.5mピッチ段彩図から河川地形では説明困難な「高度異常」を抽出した(右図).長岡平野西縁断層帯沿いの高度異常は,既刊活断層図(石山ほか,2020;澤ほか,2020)とは位置が異なるが,沖積層基底の標高 (たとえば新潟県,2000) と矛盾しない.また,見附市市街には刈谷田川の流下方向に直交する比高数mの西北西傾斜の高度異常が認められる.これは,石油探査で求められた伏在背斜 (見附背斜) の西翼とほぼ一致する,

    4 考察 沖積面の高度は,①沖積面形成 (離水) 時の微起伏,②地下水揚水・泥炭地排水等による地盤沈下,③地殻変動,等複数の要因に規定され,特に揚排水に伴う地盤不等収縮は地質構造と密接に関連するため,地質構造と調和的な高度異常でも活構造やその完新世活動を反映しているとは言えない.沖積面の高度異常のみで活構造は認定できないが,伏在構造のスクリーニングや詳細調査にあたっての探査位置決定に有用な資料となると期待される.

    文献 石山達也ほか2020.1:25,000活断層図「弥彦」.加藤直子ほか2006.活断層研究,26,87-93.水本匡起ほか2015.地理予,87,272. 新潟県2000.新潟県地質図(2000年版).岡田真介ほか2017.地震,70,109-124.岡孝雄1986.地団研専報,31,295-320.佐藤善輝2021.佐藤善輝のweb site- AIST.澤祥ほか2020.1:25,000活断層図「三条」.杉中佑輔ほか2018.地球惑星科学連合大会2018年大会,HQR04-15.

  • イデオロギーの転換と教育指導のあり方
    山口 幸男
    セッションID: 432
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    世界最初の社会主義国であるソ連はアメリカ合衆国と並ぶ世界の超大国といわれたが、1991年12月に崩壊し、旧ソ連はロシアなど15の国に分裂した。旧ソ連の大半を引き継いだのがロシアである。ソ連からロシアへという変化は、当然、地理教科書の記述内容に大きな変化をもたらした。ソ連は社会主義国家群のリーダーであったので、ソ連からロシアへの変化はイデオロギーの転換に伴うわが国の地理の教育指導のあり方を考える上での貴重な事例となる。本発表は、ソ連解体に伴う地理教科書の変化と特徴について考察するとともに、イデオロギーの転換に関わる教育指導のあり方について論じるものである。取り上げた教科書は4社の中学校地理教科書である。

  • 日野 正輝, TIN MOE LWIN, RANDANI Fatwa
    セッションID: 416
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1. 研究目的 ミャンマーでは、2014年に31年ぶりに国勢調査が実施された。調査項目は41事項に及ぶ。調査結果は、国、州・管区、県に加えてタウンシップ単位に集計されて提供されている。本研究は、当該データを用いてヤンゴンの居住分化について検討したものである。東南アジアの都市化は、ジャカルタやバンコクをモデルにして、1990年代以降それまでの過剰都市化からFDIに牽引された新中間層の増大を特徴とする都市化へと大きく変貌したことが説かれてきた。その大都市圏の空間形態は拡大大都市圏と概念化されている。ミャンマーも1988年の軍事クーデターにより、それまでの閉鎖的社会主義体制から市場経済化と積極的な外資導入の方向に転換した。そのことからすると、ミャンマーの最大都市ヤンゴンがジャカルタやバンコクで起こった変容を辿るのかどうかは興味深い。 2. 対象地域と資料 ヤンゴン大都市圏をここでは便宜的にヤンゴン管区(Yangon Region)、10,170㎢のうち島嶼部を除いた全域とみなし、対象地域とする。同地域は4県(District)、44群区(Township)からなる。ヤンゴン市(ヤンゴン市開発委員会の行政地域)は33タウンシップの範囲からなる。分析に利用したデータはタウンシップ単位で集計公表されたデータである。 3. 分析結果 ①ヤンゴン都心部は人口密度1平方キロメートル当たり3万人を超す高密度居住地区となっている。5~8階建てのアパートが狭い通りに沿って密集する景観を特徴とする。住民の多くはサービス業従事者およびホワイトカラーからなる。 ②都心を取り巻くインナーエリアでは、アパート・コンドミニアムが都心部と同様に多数を占めるが、戸建て住宅が増える。当地区の住民の多くは都心部以上に高学歴のホワイトカラーが多い。 ③独立後早くに開発が進んだアウターエリアでは、アパート・コンドミニアムの比率が大幅に低下し、木造住宅が多数を占める。住民特性はブルーカラーが多数を占め、高卒以上の住民比率が低下する。 ④アウターエリアの外側に、1990年代になって開発された市街地が広がる。当地域では、木造住宅が多数を占めるが、竹材を用いた住宅(Bamboo Housing)も多くなる。工業団地開発を反映して製造業就業者比率が相対的に高い。 ④周辺農村部になると、人口密度は急激に低下し、住宅の郊外化が市域を越えて大きく進展していないことを物語る。ただし、経済特区として大規模な工業開発が進む地区および国道1号、2号線沿いの地区では工業化の進展により、製造業従業者比率の増大が認められる。それ以外の地区では、農業労働者の比率が依然として高く、木造住宅とともに竹材住宅が多数を占める。 ⑤36変数に対して主成分分析を施し、主要2成分を抽出してタウンシップのクラスター分析を行った結果、44タウンシップは上記した地域分化に対応した6グループに分類された。 4. 結び  ヤンゴンの2014年時点での都市化の様相は、依然として中心部集住の傾向が強い。その理由として、郊外でのインフラ整備が進んでいないことが理由として挙げられる。都市内での住民の移動手段は主にバスに依存しており、通勤時間のことを考慮すると、都心部から遠く離れた場所に居住することは難しい。さらに、ヤンゴン市域外では、電気・水道の普及も遅れている。自動車の保有世帯率もヤンゴン管区全体では8%である。これらのことが人口の郊外移動を押しとどめる要因と考えられる。 本研究は,科研費基盤研究(C)(一般)「ヤンゴン郊外地域における住宅供給と居住者特性」(代表者:日野正輝)の成果である。

  • GLOBEプログラムを事例として
    澤田 康徳, 鈴木 享子, 椿 真智子, グローブ 日本事務局
    セッションID: P044
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    目的:身近な自然環境調査を行う学習では,児童生徒の調査活動などの一連の学習を体系づける発表会が多く行われる.しかし,校内発表会に着目した議論が大半で,参加者が広域な全国発表会に関し,児童生徒や教員の捉えられ方は明らかでない.また,身近な自然環境の継続的調査は,自然環境の保全意識などの高まりに重要であるが(嶺田ほか 2008など),継続に関わる因子は活動の区切りの場面である発表会からの検討は十分でない.本研究では,国際的環境学習プログラムGLOBE(Global Learning and Observations to Benefit the Environment)を事例に,感想文に基づき全国発表会における生徒と教員の所感を把握する.さらに,活動の区切りの場面の発表会における生徒の調査活動の振り返りから,継続的調査の因子を探る.

    方法:GLOBEは,学校を基礎とし世界で身近な自然環境(地球システム,大気,土壌,水,フェノロジーなど)を調査する環境教育プログラムで,参加国は123ヶ国(2020年7月現在)に及ぶ.日本は,現文部科学省の指定事業として隔年で全国15校を指定し,計10回の全国発表会「生徒の集い」を行ってきた.全国発表会は,口頭・ポスター発表,ワークショップや専門家による環境学習体験が主な内容である.本研究では,直近の3期(2013~2018年)の全国発表会の感想文を用いる.教員は,ほぼテキストデータであったため,生徒86および教員33のテキストデータの感想文(両者とも参加校の80%以上)をテキストマイニングの対象とし,KH Coder(樋口 2004)により分析した.出現パタンが類似する語の探索にあたり,集計単位を文,距離をJaccardとしKruskal 法による多次元尺度構成法(図1)を行った.最小出現語数は,生徒86と教員33の感想文の3割にあたる語数(25語と10語)とした.またJaccard係数に基づく関連語の検索も行った(図2).

    結果:全国発表会に関し,生徒の感想文の出現語は,図上部中央の発表会に至るまでの『調査活動』や図右上部『発表会の多様性』のように関連性がある複数のまとまりとして分布する(図1).教員では,『全国発表会における自校の調査活動』に関する語が図上部中央に認められた(図なし).Jaccard係数が大きい関連語は,活動の継続性に関する生徒の「続ける」とは,「調査」「データ」「観測」などの調査活動関連のほか「活かす」,「積み重ねる」などの語である.また,「頑張る」「努力」といった意欲関連の語とも共起関係が認められ,全国発表会は,生徒自身の活動を今後につなぐ契機となっている(図2a).そのほか生徒では,多様性を「小学生」や「地域」「全国」と関連させて捉え,全国発表会が自然環境の多様性に気付く場にもなっていた.教員の「継続」とは,「収集」「調査」などの調査活動関連の語,プログラム全体の継続や生徒の活動意識の高揚を「願う」語と共起関係が認められ(図2b),全国発表会が学習プログラム全体や生徒への指導観をもつ場となっていた.生徒の調査活動の語(「観測」「測定」「調査」)との共起関係は,活動頻度に関する語(「毎日」「普段」「日々」)と認められ,「自分」のほか,人的環境(「他の学校」「委員」「先輩」「後輩」)や将来に関する語(「今後」「続ける」),「行う」や「研究」「結果」とは,「観測」「調査」で認められる.「測定」は科学的思考の語(「比較」など)と共起関係が認められた(図2c,d,e).すなわち身近な自然環境の調査活動は,全国発表会で科学的思考と関連して振り返られる場合や,生徒をとりまく人的環境や成果の獲得などと併せて振り返られる場合があり,後者で今後の高い継続志向が確認された.

  • 日中の中学校地理教科書の分析を通して
    澤田 康徳
    セッションID: S103
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    目的:近年の地球環境問題の解決に向けて,国際理解などの観点から他国の自然地理関連の学習を理解する重要性は高まっている.日本の隣国で環境変化の著しい中国については,地理教科書に基づき,視覚教材の量的特徴(田忠 2012)や,日本に関する自然の扱い(南 2019)が示され,さらに自国中国の自然地理学習の教材内容についても議論を深める必要があろう.また,世界の諸地域学習では,事例地域の学習内容は自国地誌に比べ当然部分的となる.日本で諸地域事例として扱う中国地誌の学習内容と,中国における自国地誌の地域的特色の学習内容の相違性を捉えることは,日本の中国地誌学習が中国のどの領域を大観することになるかを知るてがかりになる.本研究では,日中の中学校地理教科書から,自国地誌の地域的特色および世界の諸地域事例の両国の項目について,自然地理に関わる視覚教材(図・表・写真)の特徴を日中で比較検討する.日中とも世界の自然地理的内容の学習で大半を占める気候も視覚教材の特徴を捉えた.

    方法:分析には,2021年現在,中国の首都北京で使用されている2つの出版社(市教育委員会編のA,中国で最も多用されるB,2017~2018年印刷),日本の東京都で多く使用されている2つの出版社(a,b,2021年印刷)の中学校地理教科書を用いた.本研究では,学習項目を頁数,視覚教材の内容をタイトルに基づき量的把握を行った.視覚教材は,自国の地域的特色に関する小項目(地形・気候・災害・資源エネルギー)と世界の気候を対象とした.視覚教材のタイトルは,自然・人文の地理的内容,形容表現,図表現や場所および時間に関する語などで構成される.地理的内容の自然・人文の総語数に対する種別の語の出現割合(%)から,視覚教材の特徴を把握した.

    結果:自国地誌の地域的特色における自然地理の項目で,視覚教材の自然地理的内容の語の割合(図1)は,割合の差(日本-中国)が地形関連の語は多くで正,水文関連の語は負を示す.日本では地震や山地~沿岸の地形関連の語が多いが,中国では長江や黄河,流域など水文関連の語が多い.気候や資源エネルギー関連の語では,割合の差が小さいが,気候の降水や資源エネルギーの水資源とも負を示し,中国では水関連の内容に重点がおかれている.日本の中国地誌の項目で,視覚教材の自然地理的内容の語は,大気汚染および太陽光発電と高地が認められた.アジア州の事例地域としての中国は,経済発展と課題が主題となることが多いが,大気汚染のほか,水文環境は中国の生活や経済活動の基盤であり課題も多い.中国の経済発展や課題の理解を深めるには,水文関連にも焦点を当て,地図帳の活用や水文関連の内容を含むアジアを大観する項目の学習の充実化が重要である.世界・自国の気候と気候以外の自然地理の項目の頁数の割合(図2)は,日中ともに気候で世界が自国より大きく,気候以外で世界が自国より小さい.世界と自国の割合の差の比は,気候で4.4,気候以外で1.1と日中の学習項目の量的差異は気候で顕著である.これは日中で世界の気候の項目は割合がほぼ同じであるのに対し,日本で自国の気候の項目の割合が小さいことによる.ただし世界の気候の視覚教材タイトルの語の割合(図3)は,中国で気候関連の語の割合が大きく,日本では人文関係の語の割合が大きいといった教材の異りが認められた.日本では,中国地誌より先習の世界の気候で,降水に注目した気候と人文環境を連関させた学習が想定され,その理解の定着が中国の大観的理解に重要である.

  • 松尾 駿, 澤田 康徳
    セッションID: P022
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    目的:夏期の関東地方において,夕立など短時間強雨に関連する対流性降水は,発現の要因や地域性について多数研究されている(岡ほか 2019など).一方で,対流性降水の降水強度の時間変化に関する議論は十分でない.短時間強雨は,内水氾濫などをもたらし(相馬ほか 2012),降水発現の継続性や強弱など降水強度の時間変化を捉える必要がある.本研究では,夏期の関東地方を対象に,多数の対流性降水事例に基づき降水強度の時間変化の気候学的特徴を明らかにする.

    資料・方法:本研究では,対流性降水の降水強度の時間変化の把握に,アメダス10分値(2010~2020年,7・8月)を用いた.夏期晴天(領域平均日照時間≧5時間)の午後(12~24JST)に発現する降水を対流性降水(以下降水とする)とし,≧3.5mm/10min(約≧20mm/hに相当)に達した強雨事例(1989事例)を対象とした.降水発現(0.5mm/10min)が連続したひと雨は,降水発現なし(0mm/10min)の継続時間が30分以上で終了とみなした.ただし降水発現終了後に再発現した事例があったが(全事例の2%),この場合は初出のひと雨を対象とし,対象とした全事例が初出のひと雨である.ひと雨継続時間が60分以内の事例が95%であることを確認し,降水強度の極大時刻(0)を基準とし,前後60分における降水強度別の発現頻度割合の時間変化に対し,クラスター分析(Ward法)を行った.なお,事例数が少ない(5事例以下)22地点はクラスター分析の対象から除いた.

    結果:クラスター分析に基づく,降水強度別発現頻度の割合の時間変化型は,降水強度極大時刻より前に降水強度が大きい事例の発現割合が比較的小さい(大きい)Ⅰ(Ⅱ)や,降水発現から降水強度極大時刻までの時間が短いⅢなどの四つに類型化された(図1).同じ類型の地点は地域的によくまとまり(図2),全降水発現の継続時間は,平野中・南部に分布するⅠでは10~40分の割合が大きい.一方,北部山岳に分布するⅡでは比較的長い60~70分の割合が大きい.熊谷,つくばなどⅠおよびⅡの間に分布するⅢは,全降水発現の継続時間が50分,強雨(3.5mm≦/10min)発現の継続時間も40分の割合が大きく,ひと雨における強雨継続時間が長い事例の割合が大きい.解析対象地点の南辺に分布するⅣは,全降水発現の継続時間は60~100分の割合が大きいが,強雨発現の継続時間は短い10分の割合が大きく,弱い降水の継続時間が長い(図3).さらに,時間変化型の分布は南北で異なることから,対象地域を北・中・南部の領域に分け,領域内で最多の時間変化型に関し降水強度極大時刻~前60分の降水発現率を解析した(図4).高発現率の領域は,降水継続時間が短い南部は狭域で,継続時間が長い北部に向かうにしたがい広域である.積乱雲や雲群は空間スケールが大きい場合に継続時間が長いこと(武田 1985など)との関連が考えられる.Ⅲでは,対象地点から北方向に高発現率帯が認められ,これは降水域の移動帯に対応すると考えられる.Ⅲは,降水強度が大きい発達した降水域の通過などにより,降水発現開始時刻から降水強度極大時刻までが短時間である可能性が考えられる.降水発現には収束域の形成が重要であることから,降水強度の時間変化の地域性には,降水域の空間スケールや収束域の継続時間の関与が示唆される.

  • ─東京芝浦電気の少年産業戦士を中心に─
    山口 覚
    セッションID: 343
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    はじめに  一般に若年労働者の集団就職と言えば高度経済成長期の現象だと見なされてきたことであろう。しかし集団就職をめぐる表象の多くはイメージに基づくものであった。集団就職がいかに始まり終わったのか,いかなる制度によって生じたのかということは,各地の個別事例をのぞけば,未解明の部分が多かった。これらの諸問題のうち,制度面についてはかなり解明されてきたし(苅谷他編 2000; 山口 2016など),集団就職者自身の手になる自伝的な書籍によってその時々の生活状況や意識の一端も垣間見えるようになった。もっとも,既存のイメージは強力であり,新たな知見が世間に流布する定説を覆すにはまだ時間がかかるであろう。

    戦時体制下の集団就職  今後さらなる調査が期待される点もある。たとえば発表者が「戦時体制下の集団就職」(山口 2016; 2018a)と呼んでいる戦前の動きはその1つとなる。集団就職は高度経済成長期の現象だと思われていようが,集団就職と呼び得る現象をもたらした諸制度のうち,遠隔地間での求人求職情報の連絡を可能とする広域職業紹介制度,そして就職列車のような集合的な移動手段を用意する集団赴任制度については,すでに戦時体制下で確立されていた。また,1950年代から各地で確認されるようになり,1956年度に労働省が制度化した中小企業関連の集団求人制度についても,同種の事業を戦前に見ることができる。「大工場に對抗して中小工場が協調して徒弟教育委員會を組織し大森機械工業徒弟學校を設立,少年徒弟工一千名を募集してゐる」(東京朝日新聞1939年2月5日)。

     つまり,当時は萌芽的な事象に留まったであろう集団求人に類する中小企業の実践を含め,戦後と同種の就職移動の制度や現象が戦時体制下においても間違いなく確認できるのである。それらの諸制度は「少年産業戦士」や「産業豆戦士」などと呼ばれた新規小学校(1941年からは国民学校)高等科卒業生(以下「新規小卒者」とする)を対象としていた。戦後の集団就職は,戦時期に整備され,終戦時にはほとんど機能しなくなっていた諸制度が,1950年代初頭に改めて再整備されることで生じたものと言える。  もっとも,戦時体制下の集団就職と,1950年代初頭に再生した当時の集団就職とは,多少なりとも様相を異にしていた。後者については,まずは中小企業を対象とするかたちで再制度化されたのに対し(山口 2018b),戦時体制下では主には軍需産業を担う大手企業が対象となっていたのである。そうした軍需産業において新規小卒者は基幹労働力と目されていた。それにも関わらず,同時代の就職移動現象についてはほとんど解明されていない。学徒動員や女子挺身隊,あるいは満蒙開拓青少年義勇軍といった同時期の事象についてかなり多くの研究蓄積があることと比べると,著しい対照をなしている。

     そうした中にあって,たとえば佐々木(2019)は少年産業戦士の「不良化」問題について記している。戦時体制下であっても人々は完全に団結していた訳ではなく,就職者本人や家族はそれぞれの意向を有していた。それは就職先の選択でも同様である。軍需関連企業は労働力を優先的に確保できることになっていたものの,労働者の確保それ自体は各社に任されていた。人手不足が顕著であったこの時期の労働市場は明らかな売り手市場であったため,各企業は福利厚生を充実させるとともに,自社を新規小卒者にいかにアピールするかが問われたのである。

     本発表で主に取り上げるのは,旧東京電気と旧芝浦製作所が合併して1939年に設立された東京芝浦電気の事例である。戦時期も含め,集団就職については資料的制約が大きいが,同社については関連する事項が社史において多少なりとも言及されているほか(東京芝浦電気株式会社総合企画部社史編纂室編 1963; 東京芝浦電気株式会社編 1977),諸資料を利用することである程度の情報を得ることができる。それらの情報によって確認される新規小卒者の同社への就職の決定や移動,生活を中心に,戦時体制下における大手企業への集団就職について見てみたい。

  • 谷 謙二
    セッションID: P048
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.はじめに

     1990年代後半以降,居住・就業両面において東京都心への集中が進んだ。都心には大型のオフィスビルが多数建設され,就業機能が高まっている。一方谷・春原(2020)では,東京都中央区のマンションの立地動向から,1995年時点で業務地区化していた地区の一部で人口が回復していることが明らかにした。そこで本研究では,国勢調査と事業所・企業統計調査,経済センサスの小地域統計を使い,1990年代後半以降の東京都心3区(千代田区・中央区・港区)の住居地区と業務地区の関係の変化を明らかにする。

    2.区単位の動向

     国勢調査によると,1995年から2015年の間で,東京都区部の人口は131万人増加した。そのうち都心3区の増加は20万人(15.3%)を占める。一方,事業所・企業統計調査,経済センサス活動調査から,1996年から2016年の間の事業所従業者数(公務除く)の変化をみると,都区部全体で約27万人増加し,都心3区では約25万人の増加を示した。この間のすべての区で人口は増加したが,事業所従業者数は区によって増減の差が大きく,たとえば港区は17万人増加したのに対し,中央区は1千人の減少となっている。このように人口と従業者数の増加傾向には区によって違いがある。

    3.都心3区の小地域での分析

     次に都心3区について町丁別に分析した(図1)。人口では,この間に329町丁のうち減少を示したのは69町丁だけで,減少した場合も減少数は小さく,全体的に増加した。一方,従業者数の変化は,150町丁で増加した一方,179町丁で:減少を示した。また,増加した150町丁での増加数は62.7万人だったが,そのうち上位12町丁の増加で50.3%を占め,増加は一部に偏っていた。 図1 1995/96~2015/16年の東京都心3区における従業者数・人口の増減  これらの結果,従業者数/人口比が低下した地区が増加した。1995/96年では,ほぼ業務地区といえる従業者/人口比10以上の町丁は190町丁(人口0人の町丁を含む)だったが,2015/16年には143町丁に減少した。この傾向は特に中央区日本橋地区東部で顕著である。神田地区は従業者の減少が見られるものの,人口の増加が小さく従業者数/人口比は10以上を維持している。

     従業者の増加が特定の町丁に偏っていることが,多くの町丁での従業者の減少を引き起こしたと推測される。従業者の増加が著しい町丁には,この期間に大型ビルが建設されている。ゼンリンの建物ポイントデータから,2019年現在の20階建て以上のオフィス・商業ビルを抽出すると,229棟立地していた。竣工年を調べると,1995年以前に竣工したものが65棟だったのに対し,1996年から2016年に竣工したビルは149棟にのぼり,この間に都心部のビルの大型化・高層化が進んだことがわかる。さらに,この期間に1万人以上従業者数が増加した16町丁のうち,14町丁で上記の大型ビルが竣工し,149棟のうち74棟を占め,こうした町丁は3区内で分散的に分布する。こうした大型ビルを含む地区に従業者が集中的に増加,それ以外では減少し,従業者/人口比が低下する町丁が増加した。分散的に大型ビルが建てられたのは,個別の地区ごとの開発主体が,さまざまな規制緩和に伴う容積率の上乗せを利用したためと考えられる。

    文 献

    谷 謙二・春原光暁 2020. 東京都中央区における1997年から2016年にかけての分譲マンション供給と土地利用の変化.埼玉大学紀要教育学部: 69:1, 261-277.

    本研究に際しては科研費20K01154を使用した。

  • 黒木 貴一
    セッションID: 243
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    全国に約9万社ある神社は,地縁に基づく祭礼等を通じて1000年以上続く住民結束の中心である.その持続には,それを支える地域の経済・人口等の社会条件が良好であると共に,自然災害から復旧する地域レジリエンスの高さも重要である.神社は津波や,斜面災害に対し独特な地形条件で被害を免れたことが報告されており,元々被災しにくい場所に設置される傾向にある.ただ現実には,自然災害に遭遇しつつもそれは,神社が復旧を繰り返し比較的安全な場所に遷座した歴史結果と思われる.しかしローカル地域の神社では今日,社叢林の伐採,狛犬等奉納物の風化,奉納物材の変化,敷地縮小,祭事の停止など持続が困難な状況が見られ,自然災害の痕跡を含む歴史情報は消失する可能性がある.本研究では,被災復旧の履歴を持つと思われる地域を対象に,神社の奉納物が持つ自然災害記録の存在を確認し,さらにその時空間的な広がりを推定した.

  • 小野 映介
    セッションID: S304
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    小学校社会科には、極めて多くの地理的な学習内容が配置されている。そして「人と自然の関係」の理解の延長上に「自然災害」が位置づけられ、防災・減災について学ぶ構造となっている。 小学校における教育は「学習指導要領」に基づくことが求められるため、防災・減災に関する新たなカリキュラムを開発して実践することは難しいという現場の声を聞く。しかし、特別に身構えなくても社会科の内容をもとに発展的な防災・減災教育を行うことは十分に可能である。 近年、地理学においては地理的学習内容についての高大連携の重要性が指摘されている。筆者は、そうした動きを尊重しつつも、児童生徒の学習能力の発達段階を十分に考慮しながら、小学校社会科で学んだ地理的知見が中学校社会科や高等学校「地理」(「地理総合」)にうまく連結することこそが防災・減災教育の充実につながると考えている。 以上を念頭に、本報告では小学校社会科の学習内容に含まれる防災教育的要素を紹介する。

     小学校社会科における学習内容の特徴としては、学年を経るにしたがって、対象とする事象の空間スケールが拡大する点にある。第3学年においては自分たちの市を中心とした地域、第4学年においては自分たちの県を中心とした地域、第5学年においては我が国の国土や産業、第6学年においては我が国の政治の働きや歴史上の主な事象、グローバル化する世界と日本の役割が学習対象として取り上げられる。第3~5学年では地理的分野が大半を占めており、人々の暮らしや自然環境、それらの相互関係を学習する。ちなみに、歴史的分野や公民的分野が本格的に扱われるのは、第6学年になってからである。

     自然災害については、第4学年の中盤に学ぶことになる。学習指導要領では、災害の中から一つを選択して取り上げることになっている。教育出版の教科書(自然災害にそなえるまちづくり:pp.82-115)では主に地震・津波災害が取り上げられ、「せんたく」として水害・火山災害・雪害が用意されている。東京書籍の教科書(自然災害からくらしを守る:pp.76-99)でも同様に地震・津波災害を取り上げ、「ひろげる」として風水害・火山災害が用意されている。また、日本文教出版の教科書(自然災害から人々を守る活動:pp.70-103)では水害を主に取り上げ、「せんたく」として地震・津波災害・火山災害・雪害が用意されている。いずれも、過去に生じた災害をもとに、防災・減災に向けた取り組みについて詳細に述べられている。自助・共助・公助という用語は用いられていないものの、それらを強く意識した学習内容となっている。第5学年の終盤で再び自然災害が扱われ、その発生メカニズムを学ぶほか、ここで「防災」や「減災」という用語が登場する。第6学年においては、自然災害や防災・減災についての記述は減るが、国内政治との関係、地球規模の課題のなかで扱われる。

     小学校社会科は、スケールチェンジしながら世の中の仕組みを学ぶ構造になっており、自然災害や防災・減災については、学習段階を踏まえて発展的な繰り返し学習を行う設計となっている。平易な記述ではあるが、取り扱われている内容は、中学校や高等学校の内容と比較しても遜色はない。小学校社会科は、防災・減災教育の要として機能することが期待される。

  • 東京2020大会における共生社会ホストタウン
    成瀬 厚
    セッションID: 345
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    スポーツの国際大会において,出場選手は地理的環境の異なる場での競技パフォーマンスを高めるために事前合宿を行う。東京2020五輪大会では,政府が事前合宿の場を全国から募り,ホストタウン政策を実施した。共生社会ホストタウンはパラリンピック選手の事前合宿を受け入れるもので,競技施設や宿泊施設,また交流事業を行う公共施設などのバリアフリー化が事業計画に含まれる。

    日本の障害者政策には2006年のバリアフリー新法があるが,東京2020大会は施設整備を推し進める契機として期待された。共生社会ホストタウンの事業計画には,地方自治体にとって福祉のまちづくりの推進への期待が読み取れる。全105の登録自治体の事業計画を整理すると,直接パラリンピックに言及するものよりも当該自治体の福祉政策を反映しているものが多い。スポーツ施設だけでなく,教育施設や交通インフラ,観光施設,防災関係の計画も少なくない。ソフト面ではバリアフリーマップや啓発用パンフレットの作成,障害者関連条例に関する記述などもある。

    自治体のウェブサイトでは事前合宿の様子が報告されているが,具体的な施設整備の状況は確認できない。そこで,自治体の予算書から五輪関連予算の内訳を確認した。4市の事例から,施設整備とその財源,地方都市におけるスポーツ・イベントの存在,ツーリズムとの関連と新型コロナウイルス感染症対策,オリンピックを契機としたまちづくり計画の加速化が明らかにされた。諸施設のバリアフリー化の詳細や,政府の財政支援の詳細については明らかにできなかった。

    ホストタウン政策を通じて全国に分配しようとした五輪大会の効果は限定的なものとなったが,各自治体の取り組みは福祉のまちづくりをある程度推進したといえよう。

  • 地理的スケール概念の再検討
    久井 情在
    セッションID: 349
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.研究の背景

     日本の人文地理学では,地方自治制度の再編を空間的観点から論じることのできる概念として,「リスケーリング(rescaling)」が注目されている.しかし,実際にこれを鍵概念として活用し成果を上げた地理学的研究は管見の限り現れていない.隣接分野では,地域社会学から丸山(2015)が出ているものの,さらなる研究が展開される様子はない.一方,リスケーリングの語幹である「スケール」は,山﨑(2005)により新たな空間概念(「地理的スケール」とも呼ばれる)として日本に紹介されて以来,実証研究への応用が重ねられている.丸山(2015)は,リスケーリング概念を,山﨑(2005)のスケール概念の応用と位置づけているが,研究成果における両者の対照性は,この理解に再考を迫るものとなっている.

     以上を踏まえて本稿では,日本の地理学においてリスケーリング研究が進まない理由の解明を目的に,地理的スケールならびにリスケーリングの概念の再検討を行う.

    2.スケールの存在論をめぐる英語圏での論争

     地理的スケールおよびリスケーリングの概念が生まれた英語圏の地理学では,スケールについての相反する見方が対立している.一方は,スケールが実在するとみる立場であり,他方は,スケールは認識の枠組みに過ぎず,実体がないとする立場である.言い換えると,前者はスケールを,個々人の思惑から独立して存在する社会的構造とみるのに対し,後者は,個人の主観から政治的行為を通じて生じるもの,すなわちエージェンシーの発露とみる.

     丸山(2015)の依拠するリスケーリング論は前者に相当し,そこでは,global, national, localといったスケールが,それぞれ異なる機能を有することが前提となっている.一方,山﨑(2005)の議論では,スケールは政治を通じて絶えず作られ,問い直され,更新されるものであり,そこでは特定のスケールについての政治的主張を展開する「主体」,すなわちエージェンシーが強調される.この考え方に基づけば,スケールが再編されるのは自明であり,わざわざ“re~ing”と表現するのは不自然となる.

    3.日本の中央地方関係と「リスケーリング」

     行政学では,日本と英米の中央地方関係の相違を,融合-分離の対立軸で描いている.「分離」型の英国・米国では,国と自治体の扱う事務事業は異なっており,互いに干渉しないのが原則である.一方,「融合」型の日本では,同一の事務事業について,国と自治体が相互に関係している.

     これを前段の議論と重ねると,スケール間の機能の違いを前提とするリスケーリングの考え方は,「分離」型という英国・米国の現状に根ざしたものであり,「融合」型の日本とは相性が悪い.一方,スケールが生み出される政治過程をエージェンシーに着目して分析する山﨑(2005)の方法論は,「融合」型の日本における,権限と責任をめぐる国と自治体の相互関係を分析するのに適しているように思われる.まとめると,リスケーリング論の射程は,スケール的構造を与件とみなせるケースに限られており,日本の地方自治制度の文脈において一般的とはいえないだろう.

    参考文献

    丸山真央 2015.『「平成の大合併」の政治社会学―国家のリスケーリングと地域社会』御茶の水書房.

    山﨑孝史 2005.グローバルあるいはローカルなスケールと政治.水内俊雄編『空間の政治地理』24-44.朝倉書店.

  • 平野 淳平
    セッションID: 513
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    本研究では,東京西部に位置する多摩丘陵を対象として,「日向」・「日影」など日照条件と関係した地名と全天日射量・日照時間の分布との関係について調査した. 多摩丘陵北部を東西に流れる大栗川の谷沿いに多くの「日向」・「日影」地名が分布していることが分かった.「日向」は主に冬至の日照時間が多い南向き斜面に分布している.「日影」は主に北向き斜面のうち,段丘崖下部など局地的に日照条件が悪い場所に分布する傾向がある. 夏至の日照時間については「日向」・「日影」の地点間での差はみられなかった.

  • 畠山 輝雄
    セッションID: 338
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.はじめに   日本では,団塊の世代が後期高齢者となる2025年を目処に,「地域包括ケアシステム」の構築が目指されている。  厚生労働省によると,地域包括ケアシステムとは「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される」ものとされる。また同システムは,「保険者である市町村や都道府県が,地域の自主性や主体性に基づき,地域の特性に応じて作り上げていくことが必要」とされている。このように,地域包括ケアシステムでは「地域」がキーワードとなっているが,「地域」については適正規模論(人口・面積)が中心であり,「地域」が具体的に何を意味するかという定性的な議論は少ない。  地域という言葉は抽象的であることから,地理学では伝統的に地域の概念や類型化について多くの議論が重ねられてきた。本報告では,これらを踏まえ,地域包括ケアシステムにおける「地域」とは何かについて明らかにし,より地域の実態に即した地域包括ケアシステムが構築されるための指針を示すことを目的とする。 2.地域包括ケアシステムにおける「地域」とは   地域包括ケアシステムは,広島県御調町(現・尾道市)の公立みつぎ総合病院における理念が基になっており,2003年に高齢者介護研究会によって発表された「2015年の高齢者介護」で最初に用いられたとされる。そこでは,「新たな「住まい」の形を用意すること,施設サービスの機能を地域に展開して在宅サービスと施設サービスの隙間を埋めること」とされ,「地域」は施設外という意味で用いられている。 現在,地域包括ケアシステムを定義する厚生労働省は,地域包括ケアシステムの英訳に,「Community-based」を用いている。つまり,地域を単なる空間と捉えるのではなく,そこで生活する住民や組織なども含めた地域社会を念頭に置いているものと考えられる。 他方,厚生労働省が定義する地域包括ケアシステムは,前述の通りである。その定義では「住み慣れた地域」とあるが,この地域とは何を示すのだろうか。これは,高齢者の住み慣れた地域であるから,高齢者の生活圏(結節地域)と捉えることができる。厚生労働省は,これを「日常生活圏域」として「おおむね30分以内に必要なサービスが提供される単位(具体的には中学校区)」と定義している。しかし,上記の文言から,地域包括ケアシステムの構築を目指す中心的役割の市町村は,政策を実行する単位として中学校区や旧市町村域などの形式地域を前提としている。 3.市町村における地域包括ケアシステムと地域  地域包括ケアシステムに関わる現場(都道府県,広域組織,市町村,地域包括支援センター等)においても「地域」という用語は頻出する。これらの現場でも,厚生労働省が定義する地域包括ケアシステムの枠組みをそのまま用いて構築しているケースが多く,「地域」についても同様の使い方をしている。 前述のように,厚生労働省により日常生活圏域の空間的範囲が明示されており,他方で地域包括ケアシステムの中核を担い,多くの場合において日常生活圏域単位で設置される地域包括支援センターの設置基準(65歳以上人口3,000~6,000人に専門職3人)があるように,地域と位置づけられる日常生活圏域は空間的規模で検討されている。 しかし,地域包括ケアシステムにおける「地域」は結節地域的な理念を持っているため,地域社会を構築するネットワーク(人的・組織的なつながり)が形成される空間的単位を前提とする必要がある。政策実行上,形式地域的な単位とする必要はあるものの,ローカル・ガバナンスを構成するアクター間で異なるスケールのネットワーク型「地域」を想定した地域的枠組みで,地域包括ケアシステムを構築していくことが望まれる。   本研究は,科研費補助金(基盤研究(B)「ローカル・ガバナンスにおける地域とは何か?地方自治の課題に応える地理的枠組みの探究」20H01393,代表者:佐藤正志)を使用した。

  • 松岡 農
    セッションID: P045
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.研究背景

     筆者は大学及び大学院の在学中に宮城県仙台市若林区に所在する震災遺構仙台市立荒浜小学校を事例として,震災伝承施設が地域で果たす機能に関する研究に取り組んだ.2021年10月には,研究を取り組むに至る動機や筆者の人物像についてNHK仙台放送局から取材を受け,その模様は2021年11月10日にNHKEテレにて『ハートネットTV「あの日、何をしていましたか?」』として放送された.番組内では,地震や津波の映像は使用されず,視聴者が投稿した東日本大震災発生当時を振り返る言葉を俳優が朗読したほか,言葉を投稿した筆者を含む4名の人物の現況を撮影した映像が放送された.番組の放送後,筆者は在職中の芝浦工業大学柏中学校の中学2年生の社会(地理的分野)の授業内で当該番組を生徒に視聴させ,レポート課題として感想や考えたことなどを自由記述させた.以下,本研究は生徒が記述したレポートを分析し,中学校段階における防災教育のあり方を検討し,「対話的な防災教育」の必要性を論じる.

    2.生徒が持つ震災当時の記憶

     震災発生当時は3歳もしくは4歳の未就学児であった生徒の感想からは,当時のことは覚えていないといった記述が散見された.一方で,当時の記憶があるという回答が19件(n=170)あった.具体的には,震災当時の家族や自らの様子についての記述やマスメディアを通して見た震災の映像についての記述があった.一般に3歳以前の記憶は幼児期健忘により残っていない場合が多いため,現在の中学2年生が震災当時の記憶を保持する最後の世代であることが改めて示された.

    3.親族との対話による震災伝承と防災意識の向上

     さらに生徒の記述からは,番組の視聴をきっかけに家族と震災当時の状況や今後の災害への備えについて対話したという趣旨の回答が42件あった(n=170).これらの回答から、親族がいわば「語り部」となり震災の記憶がない生徒に対して震災の記憶の伝承が行われたことや,生徒が親族と災害発生時の行動について確認していたことが明らかになった.

    4.「対話的な防災教育」の必要性

     生徒のレポートを分析した結果,番組の視聴をきっかけに,11.2%の生徒が当時の記憶を振り返っていた.同時に24.7%の生徒が親族と震災について対話する機会を得て,親族から震災の記憶を受け継ぎ,防災意識を向上させていた.このほかにも回答した170名の生徒の多くが,被害を受けた人々に思いを寄せ,地震の恐ろしさを実感したことを記述していた.結論として,番組は震災の被害状況をもとに防災を訴えるのではなく,震災を経験した人々が当時を振り返り紡いだ思いを紹介することにより,震災の記憶を伝承することの意義や日ごろからの備えの必要性について生徒に思考させていた.この結果は,防災教育の課題として片田(2008)や伊藤(2010)が指摘してきた,「脅しの防災教育」を克服する発見であった.今後の防災教育では,当時の状況を写真や映像で生徒に恐怖心を与える学習活動よりも震災を経験した教員や親族が身近な「語り部」として当時の状況を生徒に語り,必要な備えや防災のあり方をともに論議する「対話的な防災教育」の展開が求められる.

  • 中澤 高志
    セッションID: 318
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.本報告の目的  トフラー(1980)の刊行やパーソナルコンピュータの普及,「国土の均衡ある発展」を掲げた国土政策などにより,テレワークは情報化社会における新しい働き方として,1980年代から注目を集めてきた.一時沈滞したテレワークへの期待は,インターネットの普及とともに再び盛り上がり,日本では2000年以降,テレワークの普及が重要な政策目標の1つと目されてきた.ICTを活用した場所や時間のとらわれない働き方を意味するテレワークは,2014年に始まる「地方創生」の理念とも合致し,関連するKPIも設定された.しかし,一連の政策は,十分な成果を挙げることができないままでいた.  皮肉なことに,コロナ禍がもたらした行動制限は,約20年にわたる政策努力がなしえなかったテレワークの普及を一挙に進めた感がある.国土交通省の『テレワーク人口実態調査』によれば,2019年に14.8%であった雇用型テレワーカー率は,2020年度には23.0%に急増している.同調査では,職業や年齢,性別によるテレワーカー率の差異や,首都圏のテレワーカー率が突出していることなどが示されたが,比較的小規模なサンプル調査であるため,テレワーカー率の地域差の詳細は明らかにならない.そこで本報告では,『テレワーク人口実態調査』と国際調査に基づき,雇用型テレワーカー率を市区町村別に推計する. 2.先行研究と本研究の推計方法  Dingel and Neiman (2020)は,合衆国のWork Context QuestionnaireとGeneralized Work Activities Questionnaireにおける各職業において求められる作業の内容や性質に関する記述を基に,テレワークが不可能と考えられる職業細分類を特定し,それに基づいて,産業大分類別のテレワーカー率を演繹的に推計した.その結果,住民の所得や社会階層が高い国・地域ほどテレワーカー率が高いことや,カリフォルニア州ではテレワーカー率が高い地域と低い地域がモザイク状に入り交じっていることなどが推定された.  これに対して本報告では,雇用型テレワーカー率を帰納的に推計する.まず,2020年度『テレワーク人口実態調査』に基づき,年齢階級別・職業別の雇用型テレワーカー率の期待値を計算する.この値に,国勢調査から得られる市区町村別の年齢階級別・職業別雇用者の絶対数を乗じることで,市区町村別の雇用型テレワーカー数・率を推計する. 3.結果 以上の方法によると,2020年の全国における雇用型テレワーカー率は16.1%と推計され,『テレワーク人口実態調査』の値を大きく下回る.これは,国勢調査における雇用者の職業構成比に照らして,『テレワーク人口実態調査は,テレワーカー率の高い管理職と専門・技術職が過大,テレワーカー率の低い現業職が過少にサンプリングしているためである.つまり,国が全国のテレワーカー率として公表している値は,実態よりも過大に見積もられている可能性が高い. 市区町村別の推計によれば,雇用型テレワーカー率は大都市圏で高く非大都市圏で低い傾向があるが,それだけでは割り切れない.名古屋大都市圏では雇用型テレワーク率の高まりがほとんど見られず,これは製造業が盛んであることの裏返しであろう.興味深いことに,東北地方において雇用型テレワーク率が低い地域の連坦が見られるのに対し,九州・四国・中国地方では,それがほぼ見られない.同じ非大都市圏であっても,東北地方の方が現業職,とりわけ生産工程従事者や輸送・機械運転従事者の割合が高いことが,テレワークを難しくしている可能性がある. 『テレワーク人口実態調査』によれば,販売とサービスの雇用型テレワーカー率は,それぞれ6.6%,6.2%と低い.しかし,市区町村を単位として推計された雇用型テレワーク率と国勢調査における雇用者の職業大分類の割合の相関係数をみると,販売は0.52と正の相関を示し,サービスは-0.18とほぼ無相関である.つまり,テレワーカーの多い地域には販売従事者も多く,サービス従事者はテレワーカー率の高低とは無関係にまんべんなく分布している.このことは,相対的に高所得のテレワーカーの生活が,相対的に低所得の販売・サービス従事者の仕事によって支えられていることを示唆する. 4.考察 所得や社会階層あるいはそれに対応する職業によって,テレワークの可能性が異なることは,先行研究がすでに明らかにしている.本報告は,地理学的分析の結果,地域経済の特性を反映した産業・職業構造がテレワークの可能性に地域差をもたらしていることに加え,同じ地域内にテレワークが可能な職に就く人とそうでない人が共存し,それが地域内格差を反映していることを示唆したことに意義がある.

  • 中国地誌をどうとらえるか
    田部 俊充, 郭 明
    セッションID: S101
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.はじめに 本シンポジウムは,2022年日本地理学会春季学術大会公開シンポジウム(第41回日本地理学会地理教育公開講座)として開催するものである。 日時:2022年3月19日(土)9:00-12:00 テーマ「世界地誌学習の新たな方向性―中国地誌をどうとらえるか―」 オーガナイザー:田部俊充(日本女子大)・本木弘悌(早稲田大学高等学院)・上野和彦(東京学芸大学名誉) 2.企画趣旨・ 日本地理学会地理教育公開講座は世界地誌学習の充実のために,海外のフィールド研究を積極的に行っている地理学者と地理教育実践者のコラボレーションを行ってきた。 世界地誌学習は多様な世界―自然・産業・民族・文化・宗教等―を読み解き,自らの生き方,地域や国の未来を考える学習である。中国地誌は、日中両国が辿った歴史と文化,現代の政治的諸関係,経済的結合等を考えれば、最も身近な世界地誌学習とも言えよう。本シンポジウムでは,中国地誌学習に活用できる最新情報の共有と授業実践の視点を提示したい。

  • 中島 芽理
    セッションID: 347
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    はじめに

      英語圏の地理学では,健康と場所の力学に焦点を当てた健康地理学が1980年代に登場した(Kearns and Gesler 1998)。これは,定量的な手法や統計的な分析による,疾病や医療サービスの空間的パターンに着目してきた医学地理学の拡張を目指すものであった。健康地理学では,健康と場所との結びつきを探求するために,文化理論を用いて,生きた経験と人間の主体性に焦点が当てられるようになった。健康と場所の関係に対する新たな質的研究において中心的な役割を果たしてきたのが「癒しの景観」という概念である。「癒しの景観」とは「癒しのプロセスがどのようにして場所で行われるかを理解するための地理的なメタファー」(Gesler 1992: 743)と定義される。初期の研究では,巡礼地や温泉地など特別で非日常的な癒しの場所に着目されていたが,家の裏庭や想像上の風景など,日常的な場所にまで研究対象が拡張されきた(Williams 2007: 2)。

     さらに「関係論的転回」の影響から,アクターネットワーク理論や非表象理論などの要素を取り入れ,場所における癒しの性質は,複数の人間や非人間,出来事,実践などによって関係的に生み出されるものとして捉えられるようになった。このようにして「癒しの景観」は,個々人に応じて異なった形で経験され,ときには矛盾するものであり,絶えず変化し,進化していく生きた概念として理解されている(Taheri.et al 2021)。

    アルコール依存症と「癒しの場所」

     アルコール依存症の人びとの回復における場所の重要性や,回復を媒介する様々な要素についても,「癒しの景観」研究の潮流において探求されてきた(Wilton and DeVerteuil 2006ほか)。しかし,これらの研究においては,飲酒という行為それ自体が有する癒しという要素が看過されてきた。依存症からの回復には,それまで強力な癒しであった飲酒という行為に代わる新たな「癒しの景観」を見出す必要がある。その際に重要な場所となるのが,断酒会やAAといった自助グループである。パーソナル・ネットワーク研究においては,個々人を基点とした多様なネットワークと場所との関係が探求されてきた(山口 2008)。この視点に立てば,依存症からの回復とは,断酒を継続するというコンテクストのもとに,凝集的な集団として機能する自助グループを拠点として,社会的・地理的なネットワークが形成されていくプロセスであると言える。発表者は,この回復のプロセスを検討するために,飲酒していた時代からアルコール依存症と診断され,酒を断ち続け現在に至るまでの「癒しの景観」の変化に着目することが重要であると考える。

     また,フェミニズム地理学や地理学の障害研究において空間としての身体が重視されたように(久島 2017),アルコール依存症という疾病と共に生きるうえでの身体的な経験に着目してみたい。英語圏の地理学では集合体の理論を応用し,飲酒や依存症とは,静的な現象ではなく,常に「空間における身体の実践」(Duff 2007: 507)であり,偶発的なプロセスとして検討されるようになっている(Duff 2016ほか)。これらの研究では,回復する身体は,依存症を強化する社会的状況や物理的環境から切り離され,新たな関係性やつながりを作り出す能力を有するとされる(Oksanen 2013)。

     以上の研究成果を踏まえ,アルコール依存症と診断された人びとの社会的・地理的なネットワークや,身体性の変容をみていくことで,依存症からの回復のプロセスと,その経験や意味を明らかにしたい。そのために,アルコール依存症の自助グループを介して出会ったインフォーマントから得た聞き取り調査結果を使用する。なお本発表では「癒しの景観」概念から派生した「癒しの場所」という言葉を用いる。この言葉については巡礼地などの特別な癒しの場所について論じたSmyth(2005)の用例があるが,本発表ではそれとは違い,個々人によって経験された場所を意味する。

  • 中国地誌学習に着目して
    竹内 裕一
    セッションID: S106
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    急速な経済発展を背景に,中国は世界の政治・経済活動に多大な影響を与える存在となった。地理教育において中国はもっとも重要な学習対象の一つである。教科書をながめてみても,小学校6年「世界の中の日本」単元の「日本とつながりの深い国々」の事例として,必ず中国が取り上げられている。中学校地理的分野の「アジア州」の単元では,中国は他国に比して多くのページ数が割かれている。一方,中国が社会主義国であることに加え,その変化が急激であるため,何を教材として取り上げるのか,取り上げた地理的事象をどのように理解すればよいのか等,授業を構想する際に苦慮する学習対象でもある。本シンポジウムは,そのような中国を対象に,中国地誌学習に活用できる最新情報の共有と授業実践の視点を提示することを目的として企画された。

     本報告では,発表①〜⑤を受けて,現代中国を理解するための視点と授業づくりの視点を検討してみたい。

  • 後藤 秀昭
    セッションID: P007
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.研究の背景と目的  海成段丘は,沿岸の地殻変動を地形学的時間スケールで検討する重要な指標として研究され(吉川ほか,1964など),隆起様式の違いなどが検討されてきた(小池・町田編,2001など)。一方,海成段丘と同様に海岸で形成された後,沈水して形成された海底段丘についても検討されてきた(茂木,1980,八島・宮内,1990など)が,情報が乏しく,精度や広がりに限界があり,研究の蓄積に乏しい。近年,マルチビーム測深機の普及により高解像度な海底地形の数値データが取得されるようになり,海底段丘を用いた変動地形研究も行われるようになった。沿岸陸域に分布する海成段丘が小規模で地殻変動がよくわかっていなかった場所でも,氷期の低海面期に形成された海成段丘の分布と深度を明らかにすることで地殻変動を読み取ることができると考えられる(Goto, 2021)。そのためにも,高解像度な地形データで読み解ける沿岸海域の海底段丘の特徴や深度を多様な地域や環境で研究する必要がある。そこで,本研究では山陰地方西部の角島沖の海底地形を分析した。この付近には北西−南東走向の活断層である神田岬沖断層が延びており(伊藤・泉,2009;杉山ほか,2010;阿部ほか,2010),分布や活動時期などが検討されている。その一方で,主にリニアメントからなる変動地形以外の地形については検討に乏しい。本研究では,数値地形データをもとにステレオ画像を作成し,海底地形を詳しく判読して地形面の区分を行った。また,地形面の特徴と分布深度などから海水準変動に伴う発達について考察した。2.対象地域の概要と方法  対象地域は神田岬沖断層の調査に関連して海上保安庁によって行われた測深調査の範囲であり(杉山ほか,2010),山口県の北西部沖の東西約65km,海岸線から約100km沖までの範囲である。研究対象地域周辺は沿岸陸上には海成段丘の分布は知られておらず(小池・町田編,2001),沿岸海域は日本列島のなかでは特異的に広い大陸棚の一部である。海岸線から最大で約8km沖以内には沈水した山地状の地形が認められるが,それより沖では起伏の乏しい緩やかな斜面が広がり,−140m程度の海盆に達する。卯持ノ瀬などの−120m程度の台地状の地形も認められる。これらの起伏は地質構造から見える沈降帯と隆起帯に対応しており,主に後期中新世に日本海側に広範囲に起こった南北圧縮運動に伴って形成されてものと考えられている(岡村ほか,2013など)。最近の地質時代には,北西―南東方向の神田岬沖断層など,横ずれ変位が卓越した断層が認められており,応力軸は時代により大きく異なる。本研究では,伊藤・泉(2009)および杉山ほか(2010)で測深調査されたデータから0.3秒(約9メートル)間隔のDEMとしたものを用いた。Goto(2021)と同様,等深線を付与した地形アナグリフを作成し,海底地形の特徴やその違い,海底に分布する急崖地形から地形面区分を行った。また,急崖基部の深度分布を比較し,地殻変動の有無を検討した。3.地形面区分と深度  神田沖断層より北東では緩傾斜の平坦面と急崖からなる6つの段丘面に区分できた。S1面は小規模で岩石海岸の延長で緩く沖に傾く岩石からなる小起伏面からなり,約−30m付近に遷緩線がある。S2面は約−50mのほぼ一定の遷緩線とその沖の緩斜面が明瞭で谷部は堆積物で埋積されているように見え,海成段丘と同様の特徴を示す。S3面はS2面を取り囲むように沿岸斜面に広く発達し,約−80mの遷緩線が明瞭であり,この沖合2〜3kmには,幅1.5kmほどの堆積物の高まりが遷緩線に平行に細長く延びている。その頂部は−82〜83mであり,S3面形成時に沿岸潮流に影響を受けて形成された沿岸州の可能性がある。S4面はS3面の沖に小規模に分布する地形面で,緩やかな平坦面が−110m付近のほぼ水平な遷緩線で断たれる。S5面はS4面の沖側と卯持ノ瀬の頂部に広がる地形面である。卯持ノ瀬は東西幅で最大約25km,南北長40km程度の大きな海台で,頂部は−117〜119m程度で極めてよく揃った平坦面をなす。S6面は海盆に連続する地形面で傾斜変換線は一部に認められるだけである。4.他地域との比較と発達過程  これらの段丘面は対馬海峡や津軽海峡,南西諸島の海底段丘と対比できるものが多く,深度も似ており,最終氷期以降の氷河性海面変動に伴って発達してきたと考えられる。−120m程度まで海退して,卯持ノ瀬の頂面にS5面が形成される程度の長期間の停滞後に,穏やかな海退でS6面の形成に移行し,その後,海進と停滞により−110m付近でS4面,−80m付近で S3面,−50m付近でS2面が形成されたと考えることができる。

  • 三上 岳彦, 財城 真寿美, 長谷川 直子, 平野 淳平, 塚原 東吾, バートン ブルース
    セッションID: 514
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    日本で気象庁による公式の気象観測が行われるようになったのは、函館、東京など1870年代以降に限られるため、数十年~百年スケールの長期的な気候変動を客観的に論じるには期間が短すぎるという難点があった。欧米では、18世紀~19世紀前半に気象観測が開始されており、15世紀~19世紀の「小氷期」における気候変動に関する研究成果が数多く出版されている。しかし、日本を含む東アジアにおける小氷期以降の気候変動に関しては、その実態や地域差についての解明が進んでいない。本研究では、日記の天候記録と気象観測データ(19世紀前半の非公式観測を含む)をもとに、1701年から現在までの過去320年間における冬季・夏季の気温変動を復元することで、長期的な気候変動の実態を明らかにし、その季節差や地域差を分析・考察した。

  • 小野寺 淳
    セッションID: S105
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    近年の中国を取り巻く経済的なそして政治的な情勢は急激に変化をしており、静態的に記述するだけでは各地域の現状をよく理解することがますます難しくなっているのではないだろか。また、これまではしばしば国家の範囲を所与のものとして地誌が語られてきたが、その国家という枠組み自体が問い直され、国家とそれぞれの地域との関係性を慎重に解釈しなくてはならない状況も生起している。以下では、近年の香港を事例にとりつつ、中国地誌のあり方を検討したい。

    (中略)

     まず、香港における世論調査の経年的な結果から、香港人がどのように中国大陸を認識し、翻って香港社会をどのように認識しているかを見てみよう。「香港市民の中央政府に対する信任度」を見ると、返還前の1990年代は「信任しない」が5割を超えていたが、2000年代は「信任する」が上回るようになった。しかし2010年度には再び「信任しない」が逆転している。「香港人アイデンティティの推移」を見ると、選択肢として「香港人」・「中国人」・「香港の中国人」・「中国の香港人」の4つがある中で、2010年以降は「香港人」が他の選択肢を圧倒するようになった。

     次に、香港における政治動向を中国大陸との関係性の視点から検討してみよう。香港における政治集団は大きく「建制派(親中派)」、「民主派(泛民派)」、「自決派」、「本土派」と分けることができる。2000年代までは香港の経済界が中心となって政府を支持した建制派に対して、民主化を主張する民主派が市民の支持を得ていた。この民主派は当局と対立しながらも、香港はあくまで中国の一部であると認識し、中国大陸の民主化にも関心を寄せていた。ところが、民主派の流れを汲みながら2010年代以降に登場した自決派は、普通選挙の実現と香港人による真の自治を要求し、本土派(この「本土」は自らの土地である香港を指す)にいたっては、中国大陸の介入を阻んで香港を擁護すべきことを主張している。これらの政治勢力が香港市民の支持を大きく引き付けたけれども、国家安全法が厳格に適用される状況下で行われた2012年の立法会選挙の結果は、体制を批判する人物の立候補が認められなかったために、親中派一色になった。

     このような香港の状況に対する中国大陸からの見方はまったく相反している。香港で「暴乱」が止まないのは、むしろ「愛国教育」が足りないからであり、警察の取り締まりがまだまだ手ぬるいからである、と信じられている。中国政府の香港社会に対する強硬な政策が緩められる見通しはない。中国大陸と香港の人々の価値観は遠く乖離したままである。それでもこの香港の事例のような国家と地域の関係を中国地誌に加筆していかなくてはならないだろう。

  • 三浦 エリカ, 小寺 浩二
    セッションID: P024
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    Ⅰはじめに

    石垣島では、観光地化に伴うホテル建設が近年さらに増加している。しかし、地域によっては下水道が整備されていないところもあるため、人口が集中することにより、河川や海洋の水質汚濁に繋がることが懸念される。本研究では、地域住民と連携し、定点観測した河川の水質特性を明らかにする。特にECの数値が高い市街地を流れる河川の成分を特定し、水質改善をしていくことが目的である。

    Ⅱ研究方法

    住民によって月一定点観測が行われ、研究室にサンプルが定期的に輸送される。現地では、気温、水温、pH、RpH、電気伝導度(EC)、CODを測定し、研究室では再度ECの測定、ろ過(+メンブレン)、イオンクロマトグラフィーを用いて主要溶存成分の分析を行った。

    Ⅲ 結果と考察

    市街地の定点観測場所である、新川川阿武奈橋では、年間を通してECの値が1,000μS/cmを超えることが多く、2021年6月には、ECの値が6,320μS/cmを観測した。イオンクロマトグラフィーを用いて主要溶存成分の分析を行った結果、生活排水の影響を受けていることが分かった。また、阿武奈小橋では2020年6月~2021年11月の平均EC値が485μS/cmであり、阿武奈橋同様、生活排水の影響を受けていた。一方で、阿武奈橋のEC値が異常に高いことから、生活排水だけでなく、工場廃水も水質汚染の要因になっていると考察をした。赤下橋では、塩水遡上が確認できたため、2021年9月から、平喜名橋(宮良川)、川原橋(宮良川)に採水地点を変更した。平得大俣では、2020年6月~2021年11月の平均EC値が465μS/cmであったが、トリリニアダイアグラムからは、一般的な河川に分類され、水質汚染は確認されなかった。

    Ⅳおわりに

    石垣島では、観光客や移住者によって、特定の地域で人口が増加し、ホテル建設も増加している。一方で、市街地を流れる河川では水質汚染が深刻化している。地域を流れる河川の水環境を、地域住民が関心をもち、水保全をしていくことが重要である。 参考文献 小寺浩二,米山亜里沙,飯泉佳子,寺園淳子(2009):石垣島諸河川の流域特性と物質流出特性,日本陸水学会講演要旨集.

  • 由井 義通, 熊原 康博
    セッションID: S307
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    高等学校の地理総合開始にあたり、大学の防災教育・地理学教育の課題について話題提供する

  • 張 貴民
    セッションID: S104
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.研究目的 世界一の人口大国の中国において食料生産は常に国の最優先課題である。本発表では、食料生産の空間的特徴の分析を通じて、中国地誌の見方・捉え方を考える。

    2.中国における食料生産と産地の空間的分布 地形・気温と降水量等の空間的組み合わせによる多様な自然条件は、農業の地域性を強く制約している。食料生産に適した耕地は地域的に偏って分布し、食料産地は、東部平野地域(東北平野・華北平野・長江中下流平野・珠江デルタ地帯)と中西部の盆地(四川盆地、汾渭盆地等)に集中している。 ここでは主な食料作物の産地を取り上げる。水稲産地は主に秦嶺山脈-准河ライン以南に分布している。水稲は主に平野部と盆地に分布しているが、丘陵地や低い山地でも、水の得られる場所では段々畑で水稲が栽培されている。耕作制度によって、華南二期稲作地域と長江稲作地域がある。一方、小麦の主要産地は、秦嶺山脈―淮河ラインより北、万里の長城より南の地域に分布している。春小麦と冬小麦を分ける境界線は東北から南西に走っている。北部では万里の長城は冬小麦の北限に当たる。冬小麦の主産地は華北平野・黄土高原の南東部、四川盆地と長江中下流平野に集中し、秦嶺山脈―淮河ラインを境目に、北方冬小麦産地と南方冬小麦産地の2大産地がある。また、春小麦産地は積算温度の少ない万里の長城の外側の一部の地域に分布している。具体的に東北平野・内蒙古高原・黄土高原西部・河西回廊・タリム盆地周辺などで盛んに栽培されている。また、小規模な春小麦産地は東北平野・内蒙古高原南部・黄土高原西部・川西高原にも点在している。

    3.食料生産に関連する諸地域的要素  食料生産に関連する地域的要素として、地形・気温・降水量・土壌・水文・農業慣行などが挙げられる。食料をキーワードに、食料を消費する人口の分布、多様な地域食文化、人口移動に伴う食文化の他地域への拡散、海外の食文化の中国進出等も中国地誌を理解するための切口である。

    4.食料生産の学習から中国地誌を捉える  地形と気候に、植生・土壌・水文などを加えて、これらの自然要素は作用しあって、複雑で多様な自然環境を形成している。多様な地理環境を総合的に把握しておくことが中国地誌を理解するための基礎となる。  食料生産の地域性から自然環境や地域の多様性を総合的な視点からみる。農耕文化と牧畜文化の差異に着目したアプローチが可能である。さらに農耕文化にも北の畑作文化と南の稲作文化の違い、牧畜文化にも北部や北西部の乾燥地域の牧畜文化とチベット高原の高冷草地の牧畜文化の地域的差異がある。また、改革開放後、食料生産を担ってきた農村地域は、労働力の流出・農地の転用と耕作放棄が目立ち、都市農村の二重構造による地域差が顕著である。 小麦産地を例に、秦嶺―淮河ライン、万里の長城は重要な地理境界である。春小麦と冬小麦の産地境界線は、気温と降水量において気候区分に重要な意味がある。積算気温の少ない万里の長城より北に春小麦が分布している。また、秦嶺―淮河ラインは北方冬小麦産地と南方冬小麦産地の2大産地に分け、畑作農業と稲作農業の境界線や「南船北馬」の境界線でもある。食料産地の分布を通じて、地形や気候などの地理環境への理解を深め、中国地誌をより総合的に理解することができる。 動態的な視点で歴史のなかの中国地誌を学ぶ。食料生産の役割を果たしてきた農村地域は、都市地域の拡大・成長に伴い、農村の過疎化・高齢化が顕著になってきた。食料産地の移動、食料消費構造の変化、富裕層の健康志向の高まりなどの点から中国地誌を動態的に考察することが重要である。 食料輸出入の分析から、世界のなかの中国地誌を学ぶ視点が必要である。中国で食料安全保障という意味で「基本農田」を守り食料自給を徹底してきたが、国民の消費レベルの向上、消費構造の変化やWTOの加入等から、大豆・トウモロコシ・肉類・魚介類などの輸入量は増えている。こうしたグローバルスケールでの中国地誌の考察は欠かせない。

  • 中山 大地
    セッションID: P016
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1 はじめに

    三宅島は2000年に述べ5回の大規模な噴火をし,火山泥流が発生した.これにより,島の周囲にある集落への泥流堆積や,島の中腹を一周する道路の橋が崩落するなどの被害が発生した.しかし,これらの火山泥流の発生及び被害の分布は火山灰の堆積状況と降水の強度及び空間分布により変化する可能性がある.このため,地形的に泥流が発生しやすい場所と堆積しやすい場所を明らかにすることで,今後発生するかもしれない火山泥流に対する対策を取ることができる.以上の理由から,本研究では機械学習の一種である決定木を使って三宅島における火山泥流の発生・堆積場所の予測を行い,さらに泥流シミュレーションを行って火山泥流の到達時間及び到達範囲に関する検討を行った.

    2 決定木を用いた火山泥流の発生・堆積場所の推定

    決定木の説明変数として航空機レーザー測量によって取得した1m解像度DEMを用いて8種類の地形特徴量(標高,傾斜量,水平曲率,横断曲率,侵食高,未侵食高,土砂移動指数,湿潤度指数)を計算し,それぞれの地形特徴量の記述統計量を50mメッシュで集計した.また,2000年11月撮影の空中写真から判読した火山泥流の発生・堆積域を後述の50mメッシュに変換して目的変数とした.

    決定木を作成した結果,重み付けをした判定効率表から正解率68.85%,カッパ係数0.528のツリーが得られた.得られたツリーとツリーの末端部を地図化したものを図1に示す.

    図1からツリーの末端は以下のような分布をしている.侵食1は雄山山頂に近く,2000年噴火により大量の火山灰が降下・堆積し,降水による侵食のために火山泥流の発生域となる.雄山東側では,侵食1で発生した泥流が侵食2・侵食3で発生した泥流と合流して堆積2・堆積4・堆積6の谷に添って海岸部まで流下する.海岸部まで流下した泥流は,海岸近くの平坦部で堆積4の流路を越流し堆積5に堆積する.雄山西側では,侵食1で発生した火山泥流は堆積1および堆積3のメッシュ(旧村営牧場近辺)に堆積する.侵食2および侵食3からは,堆積1および堆積3への泥流堆積の二次侵食と雄山西側中腹に降下堆積した火山灰を侵食して泥流が発生する.その後は堆積2・堆積4・堆積6の谷に添って海岸部まで流下し,海岸部まで流下した泥流は海岸近くの平坦部で堆積4の流路を越流し堆積5に堆積する.

    3 泥流モデルを用いた泥流の到達時間及び到達範囲の計算

    火山泥流の到達時間及び到達範囲を求めるため,泥流の数値シミュレーションを行った.前述の1m DEMを5m解像度にダウンスケーリングし,三宅島の3エリア(神着エリア,坪田エリア,夕景浜・村営牧場エリア)で計算を行った.神着エリアではカルデラ頂上付近で発生した泥流はおよそ1時間で神着に到達する.流下する谷沿いには数カ所の砂防ダムがあり,泥流の到達を遅延させる効果があることがわかった.また,村営牧場・夕景浜エリアでは泥流発生後20分で旧村営牧場に泥流が到達し,そこからは約40分後に夕景浜まで達する.坪田エリア(図2)では泥流発生後18分で集落近くまで泥流が達するが,集落自体は泥流の被害をさほど受けない.これは決定木の結果と整合している.ただし,海岸沿いの一周道路で泥流が橋梁を越流し,道路に沿って広がる様子が認められた.また,災害時の避難所になっている三宅島レクリエーションセンターに泥流が直撃することがわかった.

  • 志村 喬
    セッションID: S306
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.はじめに:2022年度からの高校必履修科目「地理総合」の授業実践開始は,大学における教員養成で2つの側面を有している。第1は,高校の地理歴史科(・公民科)教員養成課程では専攻を問わず「地理総合」を適切に教えることのできる力量を身に付けさせる必要があること,第2は,小・中・高の学校種を問わず,この先の教員免許科目履修者全員は「地理総合」を履修済みであることである。現在は,前者の側面(「地理総合」を教える確かな力量を擁した教員の不足等)が喫緊の課題である。本発表は,それら課題を前提にしつつ,小・中・高連携の観点から後者にも留意したい。

    2.小・中・高の教員実態と「地理総合」との関係:高校の地理教員不足は周知であるが,中学校はそれ以上に深刻である。発表者の勤務地域3市の全市立中学校29校の社会科教育実態調査(2013年)によれば,社会科教師の大学時代の分野別専攻は,公民系46%,歴史系33%に対し,地理系は8%であり,教育学系の11%をも下回った(志村ほか2013)。各校社会科教員の中から1~2名の回答数のため全体構成比を正確に示すものではないが,発表者の経験からすれば妥当である。地理的分野を教える社会科教師には,高校時代に地理(A/B)を履修しておらず,中学校1・2年生時代の社会科地理的分野が学校教育における最後の地理学習体験になっている者も少なくない。教師教育学では,新任教師は自身が受けた被教育体験が実践授業モデルになるとされる。この観点からすると,高校での「地理総合」必履修化は中学校社会科授業のみならず,全教科制である小学校教員免許へも,大きな意義を有している。例えば,発表者の勤務校は,小学校免許取得が卒業要件になっているが,中学校での社会科地理学習にはマイナスイメージをもち,高校時代には地理を履修しなかった(あるいは,文系であったので教育課程上履修できなかった)学生も少なくないからである。

    3.「地理総合」時代の教員養成:このような学校実態をふまえ,「地理総合」必履修時代の教員養成には何が求められるであろうか。「地理総合」科目内容の柱は,GIS,生活文化,持続可能な地域づくり(防災教育等)であり,大学での主な地理学系授業内容と大まかに対応させれば,地図・空間的思考力,人文社会地理,自然環境地理になろう。他方,それらと関連する教育界でのキーワードとしては,ICT,ダイバーシティ,ESD・SDGsなどが挙げられる。  免許状取得における「教科に関する科目」単位数の不十分さ・削減は従来から問題視されてきた。この制度問題を解決する重要性は一層高まっているが,容易でないのも現実であり,学内カリキュラムや免許科目授業内容といった大学教育実践次元での課題解決も,より積極的に取り組む必要がある。例えば,地理へ関心を持たない教員養成課程学生であっても,ICT・ダイバーシティ・防災教育への関心は高い。気候を主とした自然地理分野や地図分野への高校教員の苦手意識は以前から指摘されていたが(武者2000),防災教育等の上記関心と結びつけることは一解決方策である。  小学校教師(志望者)は地理・社会科を専門としない者が殆どであるが,総合的な学習をはじめとした教科横断的でダイナミックな授業構成が得意であり,校外体験学習のようなフィールドワーク実践は多い。中学校で地理を担当する教師(志望者)は,社会科意識を根底にもち,防災等の社会的課題を主題に社会形成に向けた授業づくりを志向する傾向が強い。さらに,小・中学校教員は高校教員よりもICT活用へ総じて積極的である。このような指向は,「地理総合」と通ずるものも多く,「地理総合」に,小・中・高校教員養成実践における課題解決のヒントが秘められているようにみえる。

    4.「地理総合」モデル授業像としての教員養成授業:洪水ハザードマップを読んで避難所へ逃げることができる,河川の両岸よりも遠いところの方が浸水被害の可能性が高いという不思議(既有の誤知識との不協和)を発見し探究して理由を解明する,リスクをふまえた避難訓練(志村・阿部 2020)や社会的に適切な土地利用を構想する。そんな生徒が育つ「地理総合」授業ができる教員は,自身が先ずそのような授業体験を持つ必要がある。大学でのそのような被地理教育体験は,小・中学校でも社会科地理授業の質向上を促し,人間形成と地球社会創造に貢献する「地理」を広く発信するに違いない。

  • 横山 智, 高橋 慎一, 丹羽 孝仁, 西本 太
    セッションID: P031
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    はじめに

     人口の自然増加および社会増加に伴い,土地所有や食料供給がどのように変化しているのかを理解することは,住民や土地に関する完全な情報が入手できない途上国の小規模社会では非常に困難である.しかし,今後の変化を予測し,社会環境を整備する上で,人口動態に対する生業変化の理解は,地域研究にとって重要な研究課題である.そこで本研究では,耕地面積の限られた盆地に位置する村落を対象に,3世代(約50年間)の人口動態と水田所有の変化を世帯単位で明らかにすることを目的とする.

    研究対象地域と研究方法

     研究対象地域は,東南アジア大陸部の内陸国ラオスの北部ルアンパバーン県ンゴイ郡のN村とH村である.2019年末時点で,N村の人口は354(そのうち63人は出稼ぎなどで一時的に離村),世帯数は65世帯(そのうち43世帯がラオス国内で最も人口の多いラオ族,22世帯がラオス北部で最大人口を有するクム族)である.他方のH村は人口208(そのうち27人が出稼ぎなどで一時的に離村),世帯数は42世帯(そのうち23世帯がラオ族、19世帯がクム族)である.

     2020年2月時点で,両村には電気が来ておらず,水力発電機を設置して各世帯が自家発電している.また,携帯電話の電波も非常に弱く,陸の孤島ともいえる地域である.この地域には,かつてNL村,NT村,NM村があったが,この3村の住民は,研究対象地域から近い町のムアンゴイ,また首都ビエンチャンなどの都市部へ移住したことで廃村になり,現在は研究対象としたN村とH村の2村のみが残っている.

     発表者らは2017年から,新型コロナウィルス感染症でラオスに入国できなくなる2020年2月まで,継続的に現地を訪れ,聞き取りによって全世帯の家系図を可能な限り遡って復原した.また,高解像度衛星をベースにしてポリゴン化した全水田データをGISに入力し,水田所有の変化について分析を行った.

    人口動態と水田所有の変化

     推定した人口統計データから,転入者数と転出者数を算出した結果,N村では1974年に山地部の2つの村から大量の移住者があり,その後も移住者数は継続的に増加していた.一方で,1990年代半ばから盆地で生活していた住民は,生活の不便さから逃れるために,都市部への転出者が急増していた.H村では1980年代半ばから山地部からの移住者の受け入れを開始し,その後も継続的に増加していた.そして,1990年代から都市部への転出者が増加し始めた.

     N村とH村の住民は、基本的に自村の領域内に水田を所有する.移住者が増え始める1970年代以前には,水田の8割以上がすでに開発されていたことが判明した.それでも1970年代に山地部から移住してきた世帯は,わずかな水田適地を開田できたが,1980年代以降に移住した世帯は,水田適地がなく新たな開田は困難な状況であったことがわかった.

     開田余地のないN村とH村で水田を所有するには,水田を購入しなければならない.1970年代以降,N村では水田を保有する45世帯中27世帯,H村では26世帯中16世帯が購入によって水田を取得していた.そのうち村内居住者間での水田売買面積はN村で28.3%、H村で19.0%だけであった.それ以外の水田は,都市部に移住した離村者との間で売買されていたことが判明した.山地部からの移住者の多くは,村を出ていく住民から水田を購入していたのである.

     山地部から移住した住民の中で,現金を持っている場合は,離村者から水田を購入できるが,そうでない場合は,焼畑耕作で米を生産しながら,出稼ぎなどでお金を貯めて,水田が売り出されるのを待っている.2019年時点で,N村では69.2%,H村では61.9%の世帯が水田を所有しているが,それ以外は焼畑で米を生産していた.

    おわりに

     1970年代以降,山地部の住民が盆地に移住してくるようになり,移住は現在でも継続している.それは,自発的な移住だけではなく,「焼畑農業の抑制」、「低地への移住政策」、「永続的かつ持続可能な生業活動」といった政府の政策による強制的な移住も含まれている.しかし,水田不足のため,山地部から盆地に移住しても焼畑農業を営み,世帯構成員の一部が都市部へ出稼ぎに行かなければ生活ができない状況である.したがって,山地部から盆地に移住しても,すぐに都市部に移住してしまう世帯も多い.盆地部のN村とH村は山地部から都市部への移住の一時的な中継地点となっているのかもしれない.山地部から移住した住民は水田が得られない現状で,水田が不足するN村とH村で焼畑を行いながら留まるか,都市部に移住するかの選択を迫られている(丹羽・西本 2021).

    文献

    丹羽孝仁・西本 太 2021. 人口学研究 57: 21-32.

    本研究はJSPS科研費 JP17H01633の助成を受けたものです.

  • 府和 正一郎
    セッションID: 410
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    Ⅰ.はじめに ・研究目的 神社の野外寄進物には,社号標,鳥居,灯篭,狛犬などがある。これらには寄進者の名称,居住地,寄進年代などが刻まれている場合が多く,文化的遺産といえる。大地震発生時には野外寄進物が倒壊,破損した事例も多い。平常時の調査,記録が必要である。本稿では石川県下主要神社20社の野外寄進物について調査し,特色を明らかにすることを目的とする。 ・研究方法 参考図書,市町村史,神社誌等文献調査と現地調査による。現地調査では,野外寄進物の分布,種別,材質,年代,寄進者名,居住地,サイズ等を調査票や写真等に記録して分析する。寄進者居住地は都道府県単位,石川県内はさらに市町村単位とする。調査結果は2021年5月現在である。

    Ⅱ.調査対象神社の概要 内訳は旧社格で國幣大社が気多神社,國幣中社が鶴来白山比咩神社,國幣小社が大聖寺菅生(すごう)石部(いそべ)神社,別格官幣社が金沢尾山神社である。県社が14社,珠洲須須(すず)神社,輪島重蔵(じゅうぞう)神社,羽咋(はくい)神社,金沢五社(野町神明宮,椿原天満宮,宇多須神社,小坂(こさか)神社,安江八幡宮),金石(かないわ)大野湊神社,松任若宮八幡宮,松任(まっとう)金剣宮,鶴来金劔宮,美川藤塚神社,小松莵(う)橋(ばし)神社である。郷社が2社で石動山(せきどうさん)伊須流岐比古神社,二宮(にのみや)天日陰比咩神社である。

    Ⅳ.まとめ 寄進数の増減は社会情勢(戦争)や景気の影響を受けやすい。 神社立地市町住民が寄進の中核で,地元市町出身者が加わる。

  • 長野市立小中学校の状況
    内山 琴絵
    セッションID: P018
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    Ⅰ 背景

     本研究の目的は,令和元年東日本台風で被災した長野市における公立小中学校を対象として,学校の災害対応に関する実態と課題を明らかにすることである.学校における被害概要については,長野市(2021)による災害記録誌にまとめられている.しかし,各学校がどのように水害に対応し,どのような課題があったのかについては明らかになっていない.実際,今回の水害においても,児童・生徒の安否確認,避難所開設,学校再開等にあたり多くの課題に直面し対応してきた学校もあった.学校の立地条件によって必要な対応や課題は異なるため,今回の台風による学校の災害対応の実態について分析することは,今後の災害に備えるうえで必要な情報となりうる.

    Ⅱ 対象地域概要

     本研究の対象地域である長野県長野市は,2019年10月12日00時から13日24時まで総降水量136.0ミリを観測し(長野市,2021),死者17人(うち災害関連死15人),負傷者100人,全壊872棟,半壊1,497棟,一部損壊1,723棟と県内最大の被害を受けた(長野県危機管理防災課,2021).とりわけ千曲川流域の被害が大きく,長野市穂保地区での千曲川堤防の決壊,その他河川堤防からの越流や内水氾濫による浸水被害が相次いで発生し,市内各地で住宅・道路・ライフライン等の被害が深刻であった.また,交通機関や学校を含む公共施設,農業・商工業においても甚大な被害が発生した(長野市,2021).本研究では,こうした地域における学校の初動対応と学校再開の取り組みを明らかにし,その課題を分析する.

    Ⅲ 調査方法および結果

     調査は,アンケートによる質問紙調査を実施した.発災後2019年11月に長野市教育委員会経由で長野市立小中学校(全79校:小学校54校,中学校25校)に質問紙を配布し,2020年1月末までに79校すべてから回答を得た.

    1. 安否確認

     発災当日~翌日までに児童・生徒の安否確認を完了させた学校が全体の半数以上を占めた一方で,確認完了までに3日および4日かかった学校も13校あり,全体の1割以上を占めた.安否確認の課題については,完了までに「時間がかかった」ことを挙げる学校が多く,その理由として避難所等へ避難している家庭との連絡が難しかったこと,学校で保管していた緊急連絡先が水没してしまい電話をかけることも困難だったこと,停電のため電話回線が使えなくなってしまったことなどが挙がった.課題解決のために,緊急時に学校と保護者の双方向でメールの送受信ができるシステムおよびネットワークの構築,安否確認のためのフォーマット作成等が求められる.

    2. 避難所開設

     避難所となった学校は23校あり,全体のおよそ29%を占めた.このうち,すべての学校において教職員が避難所の開設・運営に携わっていた.主に管理職などが,毛布・椅子・食料等の運搬・配布,避難者の誘導・案内,清掃,問い合わせ・トラブル対応など非常に多岐にわたる業務に従事していた.さらに,避難所として指定されていなかったが,地域住民の依頼で避難所開設する学校もあった.本来,地域の避難所については行政主体の運営となるが,今回の水害では,避難所となった学校すべてにおいて教職員が運営の基盤となる役割を担っていた.学校は避難所として地域住民に場所を提供する役割を果たす一方,運営や課題解決については地域住民主体で行うことが出来るようなマニュアル作成およびそのための事前の話し合いが重要であろう.

    3. 学校再開

     浸水した学校,学校区の被害が甚大であった学校では,学校再開までに2か月近くかかっていた.学校再開における課題については,浸水による校庭使用不可・教材等の不足,通学路の安全確保に関するものが多かった.また,全体のおよそ11%の学校で,通学路の問題や心のケアが必要となったことで登校が困難になった児童・生徒がいた.通学路の安全確保の問題を解消するために,避難生活を送る家庭の保護者への送迎依頼,通学路変更,バス会社や市への送迎協力依頼を行った学校もあった.心のケアについては,欠席中の学習補助や,児童・生徒への手紙を書く,スクールカウンセラーの派遣依頼等によって対応していた.学校が保護者,市,地域の企業・団体等と直接調整を行うことで,課題を解決してきたことが分かる.

     以上の結果から,災害対応において,学校は児童・生徒,保護者,地域住民,行政関係,支援団体,マスコミといった様々な相手と直接調整を行い,非常に多くの業務にあたらなければならなかった実態が明らかになった.したがって,学校は地域防災における中心的な主体の一つだといえる.ただし,こうした対応は学校の中だけでは完結できないため,市教委や行政職員,地域組織,外部民間組織とネットワークを構築し,そのなかで解決していくことが求められる.

  • 5m格子DEMの利用と限界
    阿子島 功
    セッションID: P014
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    史跡管理のために予め公表していた地形分類図を災害級大雨(山形県2020.7大雨)の後に検証した。(1)1/2,000測量図を基図とした谷型斜面・谷線図、(2)5m格子DEMから作成した間隔1~0.5m等高線図を基図として手でくくった谷型斜面図、(3)5m格子DEMから発生させた凹型斜面図(5m格子単位)の有用性と限界を述べる。

    背景 考古学と地形学の関わりは、遺跡が立地できた土地条件,ときには中断・廃絶させた地形変化について考古学との対話だけでなく、史跡管理にも貢献できる(なぜなら史跡管理には地形変化を予測し遅らせる作業もふくまれる)。対象は小規模である。国指定史跡などで行われる史跡保存管理計画に直接関わる機能をもつような地形分類図の作成意義について、本学会 2016年秋季・2017年春季大会で述べた。山形県内5つの国指定史跡を例に、傾斜地の史跡(中世山城、寺院境内地など数100~1000年の履歴を持つ人工造成地)において、現在得られる基図精度のなかで、なにを図化しておけばよいかを試行中である。

    試作図と検証 予め表現すべき地形分類要素は、集水型斜面範囲,崖錐,谷底面,水路,盛土造成地,変状微地形(地すべり割れ目,断層小崖)などである。その上で、史跡保全において最も頻度の高い災害である風水害による危険個所(特に表流水みち)を図示しておくのがよい。 縮尺は1/10,000程度でも概念的には有効であったし1/2,000以上(等高線間隔 1m以下)がよい。史跡によっては標高点間隔1m以下の写真・レーザー測量図を基図とすることができる。これに比べて国土基盤情報の5m格子DEMから発生させた間隔2~0.5m等高線図は谷斜面の抽出にはやや劣る(地理予91/100063)ものの、5m格子DEMが全国的に整備された現在、汎用性が高い。

    1/10,000地形分類図の検証 寒河江市慈恩寺境内の「祓川」井戸裏(小沢谷底面)の崩れは1/10,000図で指摘していたが2013.7大雨で発災した(地理予90 /100114) 三重塔東側の法面崩れは (弁財天の池につづく谷を盛土した) 谷筋であった。

    1/2,000地形分類図の検証 禅定院跡の幅70m,奥行き30mの敷地は(中新世凝灰岩の)地すべりの緩斜面を平坦に整形したものと推定され、1/2,000地形図の間隔1m等高線から2筋の水みちを想定していた(2018.3刊計画書)が, 2020年7月大雨の際に2ケ所とも平坦面の肩から崩壊が生じた。崩壊のひとつは高さ4m、幅8m、農道を横切って延長20m、ひとつは高さ1m,幅2m, 直下の舗装農道の肩を洗掘して路盤を破壊した。崩壊源を鉄棒で探るとパイピング跡がみられた。(3)の手法では水みちを認識するのがやや難かしい。

    5m格子DEMから作成した間隔20.5m等高線図から傾斜変換線を手くくりした谷型斜面図 上の寺地区の崩壊源はやや深い谷の谷頭の壁であるが、手くくり谷型斜面図では、その上方に浅い広い集水型斜面(尻無)が認識できる。

     想定外だったのは最上院裏の切土壁の崩壊である(崩壊高さ約4m、崩土幅約5m、厚さ0.5m、押出延長約5m、更新性中期もしくは段丘の未固結砂礫層)。多量の水分を含んでいたが、直上の平坦地(畑)の水路から表流水が流下した痕跡は少なく、間隔1m等高線図の読図では大きな集水域を持つ谷地形の中にあり、地下水の作用であろうか。

    5m格子DEMから凹型格子点群を図化 狭い谷筋は格子点群から読めるが、浅い広い谷型斜面は(しきい値を変えても)格子点群を連結統合できない。 付:上記の手くくりによる集水型斜面の抽出手法を、道路法面 (その上方斜面を含めた) 安全点検作業に試用した。

  • 谷本 涼, 埴淵 知哉
    セッションID: 440
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
    会議録・要旨集 フリー

    1. 研究の背景と目的  個人の認知に基づくアクセシビリティ研究の重要性が指摘される中で,特定の目的地に対してではなく「必要なものなら何にでもアクセスできる」「したいことは何でもできる」といった,アクセシビリティの総体的感覚(sense of accessibility, 以下SA)が注目されつつある(Tanimoto and Hanibuchi 2021).とりわけ,自家用車を利用できなくても(徒歩や公共交通を中心に)不便なく暮らせるという感覚が,いかなる環境条件や個人属性と関連しているかは,重要な検討課題である. ところで,ある環境が歩いて生活できるものであるかを評価する指標として,地理学と関連分野ではウォーカビリティの概念がすでに注目されている.本研究の目的は,基本的なウォーカビリティ指標に含まれる近隣環境の客観的特性と,SAとの間の関係の一端を明らかにすることである.

    2.研究の手法  2021年1月~2月,仙台都市圏を対象にインターネット調査を実施した.SA指標として,「もし自動車が使えなくても,日常的な活動には困らないだろう(SAN-NC」「もし自動車が使えなくても,したいことはなんでもできるだろう(SAW-NC」などの各文に同意する度合いを5件法で尋ね,その回答を3段階に要約した値を従属変数とする順序ロジスティック回帰分析を行った.その際,自家用車の運転頻度により2群に層別化した(~週2日:n=804/週3日~:n=665). 各々のSA指標に対し,回帰モデルを8つずつ作成した.モデル1~3は,ウォーカビリティ指標の基本形(中谷ほか 2018)に準じ,人口密度,施設利用度(徒歩圏内の生活関連施設19種の有無),徒歩圏内の交差点密度の各々を,モデル4では3つ全てを独立変数とした.モデル5~8は,それぞれモデル1~4の独立変数に加え,対数変換した徒歩圏内の平均傾斜度と,個人属性(性別,年齢階級,主観的健康感,世帯類型,最終学歴,世帯年収,雇用形態)も独立変数に加えた.徒歩圏は,道路距離1,000mとした.

    3.結果と考察  詳細は発表内で報告するが,基本的なウォーカビリティ指標のうち,一貫してSAと有意な相関を示したのは人口密度のみであった.平均傾斜度は,自家用車の利用頻度が高い群のSAN-NCと,比較的強い負の相関を示した.自家用車の利用頻度による2群間の差異は,性別・年齢・世帯類型などの個人属性で顕著にみられた.クルマ依存を脱却しつつSAを高める地域づくりにおいては,ウォーカビリティ指標の基本的・空間的な諸要素だけでなく,種々の個人属性や対象とする地域・都市に固有の条件を考慮した多面的なアプローチ,および入手可能なデータ等に照らして適切なモデルを構築することの必要性が示唆される.

  • 福島大学と福島県三春町の実践
    初澤 敏生
    セッションID: 450
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
    会議録・要旨集 フリー

    1.はじめに  報告者はこれまでに日本地理学会の「地域連携活動研究グループ」等で大学と地方自治体が連携しての地域振興活動の試行などについて報告してきた。その成果の一部は山田浩久編著(2019)『地域連携活動の実践-大学から発信する地方創生』海青社にまとめている。同様の試みはその後も地域を変えながら継続的に行っている。本報告は、報告者が2021年度に行った福島県三春町との連携活動を報告するものである。

    2.活動の概要  今回の活動は、三春町からの依頼を基に構想したものである。当初は三春町にある福島県立田村高校が行う地域探究活動と連携し、高校生の活動を大学生がサポートしながら地域振興のためのアイデアを出し、その実践を試行することを目的としていた。しかし、Covid-19の流行に伴い高校側が生徒の地域探究活動を中止したため、大学生のみによる活動となり、内容も「大学生による地域振興のための構想」の作成とした。  活動は福島大学人間発達文化学類の授業「地理学実地研究」と連携して行い、学生(1年生)24名が参加した。当初の予定においては9月以降に高校生が行う探究活動に参加する予定だったため、前期においては、三春町の地誌の学習を通して地理学に関する基礎的な知識と技能を身につけることを授業の目的とした。具体的には、25000分の1地形図を用いて等高線や土地利用の読み取りなどを行い、地域の特徴を把握した上で三春町に関する文献を講読し、これまでに行われた事業や施設整備などを把握した。さらに三春町の巡検を行うと共に、町の第二期「人口ビジョン」と「総合戦略」から、三春町が直面している課題と、町が構想している今後の方向性について検討を加えた。  このような準備の上に高校生との共同作業に入る予定だったが、Covid-19の流行拡大によって高校側が高校生の地域活動を中止することになった。そのため、後期の授業においては大学生だけで地域振興のための構想を作成し、それを三春町に提出する、と言う内容に変更した。  学生は6名ずつ4班に分かれ、「総合戦略」の中に示された町の振興方向を具体化するための案の作成に携わった。後期の授業は、構想を作成するためのグループ活動を中心とし、地域調査と中間・最終発表会を経た上で報告書を作成した。  以下、各班の構想の概要を示す。

    3.学生の作成した振興構想 ①まちなかスタンプラリーの実施  この班は中心商店街の活性化を目的として、商店を巡るスタンプラリーを企画した。回った店数に応じて割引券と交換できるシステムにする。ただし、その割引券は当日用ではなく、秋祭りの際に使えるものとする。これは三春町の観光名所として「滝桜」があり、観光客が春に集中するためである。秋祭りに使える割引券を創ることで、オフシーズンの入込客の増加を図る。 ②B級グルメを用いたふるさと学習  この班は三春町のB級グルメである「グルメンチ」を用いたふるさと学習を企画した。グルメンチとは、三春町特産のピーマンを混ぜたメンチカツである。小学校の総合的な学習の時間を想定して、ピーマンの栽培・収穫とグルメンチ作成まで行うことを想定している。これらの活動を介して郷土愛の育成を図る。 ③SNSを活用した地域情報発信  三春町の広報においてはSNSが十分に活用されていない。そこで首都圏の大学生に体験観光に来てもらい、その情報をSNSで発信してもらう。その注目度等に関してコンクールを行い、そのトップになった人は、再度三春町に招待する。 ④まちなか桜観光の拡大  この版も①班と同様、中心商店街の活性化を目指している。ただし、多くの観光客を集める「滝桜」を活用し、まちなかの桜名所をPRすることによって、滝桜に来た観光客をまちなかに誘導することを目指している。これにあたり、レンタサイクルの活用なども提言した。  以上、2021年度の活動について報告した。22年度こそ高校との連携活動を行いたい。

  • 木村 恵樹, 苅谷 愛彦
    セッションID: 237
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1. はじめに  大谷崩は安倍川源流の大規模斜面崩壊で,その主因はCE1707(宝永四年)宝永地震(M8.4)とされることが多いが,多量の土砂供給はそれ以前に始まっていたとの指摘もある.演者らは大谷崩の地形発達を再検討し,未報告の堰き止め湖・氾濫原堆積物(LD)を安倍川支流で見いだした.本発表では,CE1707以前から安倍川本流が土砂で埋積され,支流にLDが生じていた可能性を改めて指摘する. 2. 調査地域の地形・地質  LDが発見されたタチ沢(草木沢)は安倍川左支で,赤水滝直下に合流点がある.合流点一帯に厚い岩屑から成る堆積・侵食段丘面群が発達する.安倍川上流地域には砂岩・頁岩が広く分布するが,タチ沢流域に限り玄武岩と石灰岩も露出し,岩屑の供給域判定に有用である. 3. 方法  一般踏査と14C年代測定を行った. 4. 堰き止め湖・氾濫原堆積物の産状と層位  本流合流点から約0.5 km上流のタチ沢右岸露頭を記載した.露頭直下の現河床に砂質シルト層(SL)が露出し,その上に層厚4 mのシルト・砂礫互層(SG)が整合で載る.SGは玄武岩や石灰岩の礫を含み,明らかに草木沢由来である.さらに,SGには厚さ3 mの不淘汰粗粒岩屑層(DF)が整合で載る.DFは砂岩と頁岩の岩屑だけで成り,玄武岩や石灰岩を含まない.またDF上面は露頭上端の侵食段丘面である.この面のさらに高位(北側)にも別の段丘面が数面あり,それらのうち最高位の面は赤水滝周辺の本流性高位面と一連である.DFとこれらの本流性段丘面を成す岩屑は層相が酷似し,礫種も同一である.DFは大谷崩崩壊物質を主とし,本流を流下した土石流堆積物と判断される.また現河床のSLは砂層を挟み,河床下3.90 m深まで続くことをハンドオーガー掘削で確認した(下限未詳). 5. 堆積年代  SLの現河床下2.82 m深(試料A)と0.80 m深(B)の木片は,それぞれCE1646以降とCE1444~1620を示す(IntCal20;2σ).SLの現河床付近の2点の木片(C/D)は,それぞれCE1479~1635とCE1644以降である.SG最上部の木片(E)はCE1660以降である.A~Eの年代が逆転した原因は検討中であるが,新しい値であるAやD,Eを採用するとSLやSGはCE1600年代半ば以降の堆積物とみなせる.ただしSLやSGの年代がCE1707の前か後かは14C法の原理と年輪数の制約により判別できず,DFからも試料は見いだせなかった. 6. 安倍川本流の埋積と大谷崩の初生タイミング  SLとSGは位置・高度や層相(上方粗粒化),礫種からみて,安倍川本流への出口が塞がれタチ沢に生じた堰き止め湖・氾濫原堆積物(LD)と判断される(堰き止めを生じさせうる局地的斜面崩壊は露頭と合流点間やその周辺に存在しない).またLDを直接覆うDFは本流沿いに発達する高位面の構成層と同一である.DFがCE1707に流下したとしても,その下位の厚さ7.9 m以上のLDの存在はCE1707以前から安倍川本流の埋積とタチ沢の閉塞が始まり水域が形成されたこと,すなわち本・支流の河況に著しい影響を及ぼす大谷崩の初生時期はCE1707以前であることを示す.赤水滝上流では安倍川左支三河内川の現河床下にも砂層や粘土層が伏在する.タチ沢のLDがこれらと同時代かどうかも含め,さらなる検討が必要である.演者らは本露頭とは別に,タチ沢の数地点で別のLDを確認した.また別の支流(コンヤ沢)でも本報と同様の解釈ができるLDを発見した.いずれも機会を改め報告する.

  • 任 凌云
    セッションID: P053
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    はじめに 中国陝北地方は黄土高原の奥地,陝西省の北部に位置し,土壌侵食が深刻な半乾燥温帯地域である。風によって運ばれ堆積した黄土が地表を覆っており,ガリ侵食によって平らな地形を刻む特殊な景観が見られる。この地域は,20世紀半ば以降,政策の影響を受けて異なる土地改変を経験してきた。まず,1950〜70年代の人民公社の時期には,主に人力・畜力による小規模な段畑やチェックダムが造成された。続く70年代末から改革開放政策が始まり,農村政策は大きく転換された。この時期には農家の農産物増産のインセンティブが促され,その影響を受けて土地利用に変化が起こったと推測される。さらに1999年から2000年代にかけては,生態環境を修復するため,「退耕還林」プロジェクトが始まり,多くの斜面耕地は林地に転換され,それと並行して政府の補助金による大規模な段畑やチェックダム造成が進んだ。

     以上のような政策の変化に伴う土地利用変動に関して,佐藤ほか(2008)は陝西省北宋塔村を事例とし,「退耕還林」プロジェクト実施前後1998年から2004年にかけてのミクロな農牧業生産・土地利用の変化を報告したが,1950年代-1990年代にかけての人民公社時代と「改革開放」当初の状況は,ブラックボックスとなっていた。

    資料と方法 本研究は中国陝西省延安市の安塞区および延川県内に位置する農村を対象とし,農牧林産物を村レベルで記録した陝西省档案館資料,NARA(アメリカ国立公文書館別館)で取得した1963年のU-2偵察機撮影空中写真,および2018年のグーグルアース高解像度衛星データをあわせて分析することにより,佐藤ほか(2008)の論文でブラックボックスとなっていた1950年代-1990年代の農牧業状況,および2005年以降の発展に着目し,政策の転換に伴う農業・牧畜業のミクロな変化とその地域差を細部まで明らかにする。また1963年と2018年の段畑とチェックダムの判読に基づき,土地利用の改変を分析する。

    結果 結果として,以下のような各時期の特徴が明らかになった。人民公社の時期は「大躍進」と「文化大革命」の影響を受け,農業生産が2回のダメージを受けたことがデータから見られた。総合的に見ると,この時代は農牧業生産が低く,全人民所有制の下で,食糧の確保に努めていた時代であった。それに続く改革開放期は「農業生産請負制」の導入により,農家の増産への積極性が引き出され,農牧業生産量の急増がデータから見られ,また生産物が多様化し,商品化が進んだ。一方,退耕還林期は自然環境回復の政策のもとに,伝統的な農牧業生産をリフォームした。急傾斜地における耕地がおおむね林地に転換されたため,傾斜地耕地の面積が大幅に減少した。一方,「還林」と産出を両立できる果樹栽培が盛んになったことがデータから見られた。つまり,この時代は生態環境と農村経済を両立する方向へ発展している時代であった。

     また,陝北地方内の地域差について、農業の面では,安塞区高橋郷は多種類の食糧を生産し,延川県眼岔寺郷はコムギを主として生産し,果樹栽培については高橋郷がリンゴ,眼岔寺郷がナツメを栽培していた。牧畜業の面では,高橋郷は牛とロバを飼養していたが,眼岔寺郷はロバを主に飼っていた。地域差は各地域が自然環境に応じて作物,家畜を選択したことによる。

     土地利用については,「退耕還林」に伴い,多くの斜面耕地は林地に転換されたことと並行し,政府の補助金による大規模な段畑やチェックダム造成が進んだ。空中写真と衛星画像の判読により,1963年から2018年まで,段畑とダム耕地の数量・面積が大幅に増加したことが見られた。同時に,2018年には,1963年に造成された段畑とチェックダムは改変され,もとの形態は見られなくなっていた。また,段畑の幅は以前のものより広くなり,チェックダムも主溝と支溝に規模の違うチェックダムを組み合わせて建築されたチェックダムシステムの方へ発展したことが確認された。

  • ―その変遷と展望―
    森田 泰史
    セッションID: 435
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    2022年度から必履修科目となる「地理総合」では、地理情報が大項目の一つに挙げられ重視されている。地理科目の再必履修化を前に、地理科目の専門性を担保する地理情報について検討したい。地理情報とは、地理的な位置や範囲と属性情報が対になっているものをいう。地理教育の現場においては、情報を収集し分析し、地図化することまで対象とし、その地図に考察や解釈を加えることまで含める。これは学習指導要領における思考力・判断力・表現力の育成に大いに寄与すると考えられる。学習指導要領における地理情報の位置づけの変遷を概観すると、4つの時期に分類される。黎明期とされる1960年版までは、大項目の一つとして取り上げられ重視されてきた。1970年版・1978年版では、地理科目履修者がある程度いたものの、地理情報に関する記述が減少している。再拡大期とされる1989年版では地理情報という単語を使い、地理科目の専門性を打ち出した。拡張期の2018年版では、地理情報にデジタル媒体のGISの活用を促している。現行で使用されている地理科目教科書では、取り上げられるほぼ全項目で地理情報の扱いがある。地形図や地球儀のような非デジタル媒体とGISを活用して作成された主題図のようなデジタル媒体があるが、地理情報の考察や解釈の実践は非デジタル媒体が中心となっている。必履修化となった「地理総合」では、GISの活用が大きく進展するだろう。 しかし、地理情報においては、デジタル媒体と非デジタル媒体は両輪のような働きを示すものであると考える。非デジタル媒体の扱いがおろそかになるのではなく、互いの調和のとれたバランスで活用されることが期待されている。

  • 苗村 晶彦, 齋藤 圭, 奥田 知明
    セッションID: 534
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    光化学スモッグ注意報は首都圏(1都7県)を中心に発令されるが、昨今はアジア大陸からの越境汚染によってオゾン(O3)濃度が高くなる場合がある。 2019年5月23日には、山陰地方の島根県および鳥取県において、観測史上初めて光化学スモッグ注意報が発令された(苗村ほか, 2021a)。光化学オキシダント(Ox)の大部分はO3である。窒素酸化物(NOx)から硝酸イオン(NO3)への酸化とO3の生成はほぼ同時に進行するため(佐々木ほか,1986)、NOxから二次物質としてO3とNO3の連動性は注目される。本研究では、高梁川上流域周辺におけるO3と渓流水中のNO3-濃度に着目した。対象とした岡山県高梁川は、延長111 km、流域面積2,670 km2の一級河川である。O3濃度については、大気常時観測測定局の新見市保健福祉センター東(東経133.4683度、北緯34.9733度、標高187 m)とし、2015年3月21日から3年間の1時間値を解析した。また、O3濃度の季節変動は太陽を中心として考えることがより解析しやすい(苗村・福岡,2017)。そこでO3濃度の変動は太陽黄経15度間隔の二十四節気別とした。渓流水中のNO3濃度は、高梁川源流域(東経133.4062度、北緯35.1707度、標高638 m、集水域1.02 km2)で2018年12月9日に採取し分析した。O3濃度については、3年間の全平均値は24.0 ppbとなった。これは同時期の首都圏の中心地・東京タワーの値である27.5 ppb(苗村ほか, 2021b)と較べて0.87倍となった。最高値は、2017年5月29日の17時および18時の99 ppbであった。次値については、2015年5月27日18時の98 ppbであった。鳥取県米子における同時期のO3濃度においても、最も高かった1時間値は2015年5月27日20時の110 ppbであり(苗村ほか, 2021b)、また三重県熊野においてもこの日は高く、熊野における後方流跡線解析でアジア大陸からの移流であると推測されている(苗村・奥田, 2021)。従って、この日は越境汚染の影響が広く日本へ影響を及ぼした可能性が高い。新見および東京タワーにおける二十四節気別のO3濃度を図に示した。新見では小満(5/21~6/5) から小暑(7/7~7/22)にかけて東京タワーよりも急激に低下する季節変動が見られた。また、小雪(11/22~12/6)から啓蟄(3/6~20)まではほぼ東京タワーと同じ上昇傾向が見られた。渓流水中のNO3濃度は5.68 mMであった。渓流水中のNO3濃度は、時間代表性があるが(楊, 2000)、この集水域はスギ・ヒノキ・サワラ植林が89.8%を占めた。森林生態系において窒素は制限要因であるが、大気沈着の影響および森林の植生や地質の影響を把握しながら、アジアからの越境汚染の影響考えていかねばならない。

    参考文献

    苗村晶彦, 福岡義隆 (2017): 太陽黄経による季節区分と大気環境の問題. 戸板女子短期大学研究年報, 60, 55-64. 苗村晶彦, 初山守, 奥田知明 (2021a): 降水中のNO3濃度が 低い四万十帯における渓流水質. 環境科学会誌, 34, 40-45. 苗村晶彦, 奥田知明 (2021): 世界文化遺産のフィールド―「紀伊山地の霊場と参詣道」に係わる自然環境について. 戸板女子短期大学研究年報, 64, 印刷中. 苗村晶彦, 齋藤圭, 奥田知明, 小寺浩二 (2021b): 源流と河口の環境―鳥取県加勢蛇川を事例として. 流域圏学会誌, 8, 2-9. 佐々木一敏, 栗田秀實, 村野健太郎, 水落元之, 植田洋匡(1986): 大気汚染物質の長距離輸送時における硫酸塩硝酸塩等の挙動.大気汚染学会誌,21, 216-225. 楊宗興 (2000): 陸水学の視野を広げる:陸域研究との相互作用. 陸水学雑誌, 61, 166-167.

  • 中山 大地, 舘野 水希, KHROMYKH Vadim, KHROMYKH Oksana
    セッションID: S403
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1 はじめに

    現在,西シベリアのトムスク市周辺では20世紀半ば以降の産業・農業活動の活発化や交通機関の建設,都市・農村地域の拡⼤などによってジオシステムが⼈為的変化にさらされている.Khromykh (2015)は,トムスク市周辺のトミ川の氾濫原におけるジオシステムの自然および人為的な動態の要因を考察し,人為的な要因が重なって地下水位が低下したことにより,ジオシステムが乾燥化してきていると述べている.以上のことから,本研究ではロシア・トムスク地域の土地被覆が⼈為的・⾃然的要因によってどのように変化してきたかを衛星画像から判別することを⽬的とした.

    2 データと分析手法

    Google Earth Engine(以下GEEと表記)を用いて衛星画像からトムスク地域の地表面被覆の変化を求めた.使用したデータは2000年から2020年までの20年間にLandsat5号,7号,8号により取得された対象地域の衛星画像(約900枚)と,SRTMにより取得されたDEM(約20mメッシュ)である.これらの衛星画像のうち地表面反射率のプロダクトを使用して正規化植生指標(NDVI),正規化水指標(NDWI),正規化積雪指標(NDSnowI),正規化土壌指標(NDSoilI)の4種類の指標を計算した.これらの指標は暖候期(4月1日から9月30日)と寒候期(10月1日から翌3月31日)に分けて計算し,2000年代(2000年から2002年),2010年代(2010年から2012年),2020年代(2020年から2021年)においてそれぞれ寒候期と暖候期の最大値のコンポジットを作成した.また,SRTMからは7種類の地形特徴量(傾斜量,Plan Curvature,Profile Curvature,流域面積,Topographic Flatness,Sediment Transport Index,Wetness Index)を計算した.

    Khromykh et al. (2018)による2000年頃の土地条件データを用いて教師データを作成した.このデータには植生・地形・土壌・人工改変の度合いなどを組み合わせた112カテゴリの項目があり,対象地域近辺の5147ポリゴンが格納されている.ポリゴンを衛星画像の解像度に合わせてラスタ化し,教師データとした(図1d).

    2000年代の暖候期・寒候期における4種類の指標NDVI,NDWI,NDSnowI,NDSoilIの最大値コンポジットとSRTMから作成した7種類の地形特徴量をスタックし,教師データのあるピクセルから10000ピクセルをランダムサンプリングしてトレーニングデータとした.このデータを用いてランダムフォレストによる分類器を作成した.分類器の分類精度は0.87,Kappa係数は0.86であり,良好な結果となった(図1e).この分類器を用いて2010年代と2020年代の衛星画像を分類し,地表面被覆分類の変化を求めた(図1f, g).

    3 2000年以降の土地利用変化

    2000年からの20年間で人為的な変化が起きていることが明らかになった.特に,2010年代までの10年間は人為的な影響による土地被覆の変化が大きく,2010年代から2020年代までの10年間は土地被覆の変化はありつつも,2000年代からの10年間に比べて人為による変化は小さかった.

  • 安比高原・胆沢川上流部・森吉山麓高原における比較研究:第1報
    大貫 靖浩, 野口 麻穂子, 延廣 竜彦, 山下 尚之, 小野 賢二, 星崎 和彦, 新田 響平, 和田 覚
    セッションID: 218
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    東北地域に広く分布するブナ林土壌は、古くから保水機能(水源涵養機能)が高いとされてきた。しかしながら、ブナ林土壌がどのくらい高い保水機能を有するのか、量的に評価した研究はほとんどない。演者らは前報、前々報で、岩手県北部の安比高原に分布するブナ林土壌を対象として、保水機能の2つの能力(通常時に使える土壌中の水の「貯金(保水力)」と、もしも(大雨)の時に水を容れることのできる「保険(貯水能)」)を量的に評価した。今回は、安比高原に加え、岩手県南部の胆沢川上流部、秋田県北部の森吉山麓高原に調査地を設定し、「保水力」の指標と考えられる土壌含水率と、「貯水能」の主要因子である表層土層厚(土壌厚)を多点で測定し、一部で土壌断面調査を実施して土壌の透水性と保水性を測定して、両機能の定量化と調査地ごとの比較を試みた。 調査は、岩手県八幡平市西森山北麓の緩傾斜の溶岩・火山泥流堆積地に広がる安比高原のブナを中心とする二次林、同奥州市焼石岳南方の胆沢川上流部段丘面上のブナ・ミズナラ天然林、秋田県北秋田市森吉山麓高原の小河川沿いに広がるブナ天然林で実施した。 調査方法は大きく2つに分かれ、各調査地のコアプロット内での土壌含水率測定と表層土層(土壌)厚測定を実施した。土壌含水率は、フィールドスカウト スタンドアロンTDR土壌水分計(TDR-100, スペクトラム社製)を用いて2深度で測定し、表層土層厚(土壌厚)は、土層強度検査棒(太田ジオリサーチ製)を用いて測定した。さらに、表層土層が厚い地点で土壌断面調査を実施し、土壌物理性測定用円筒試料を採取して、透水性・保水性を測定した。測定の結果、森吉山麓高原に分布するブナ林土壌の「保水力」は、安比高原や胆沢川上流部のブナ林土壌と同等かそれ以上で、「貯水能」は2倍程度大きいと推察された。今後更に測定データを蓄積し、より詳細な解析を行う予定である。

  • 柳澤 英明, 宮城 豊彦
    セッションID: 407
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1. はじめに

    近年、3Dスキャナーによる非接触型の形状測量が多様な分野で行われるようになってきた。この技術をマングローブ森林測量に応用することができれば、複雑な根形状の分析や毎木調査の簡便化などが可能となる。しかしながら、測量用の商用3Dスキャナーは非常に高額であり、マングローブが密生する潮間帯などの測量環境下においては、このような高額商品を手軽に持ち込むことが難しい場合も多い。そこで本研究では、低価格で構築することが可能な廉価版3Dスキャナーの開発を進めるとともに、取得したデータから森林測量が可能なソフトを開発し、その測量精度と現地適用性について検証を行った。

    2. 簡易3Dスキャナーシステムの開発

     柳澤(2021)では、情報機器に対する高度な知識を必要としないことを前提とした簡便かつ低価格な3Dスキャナーシステムを構築した。このシステムでは、低価格Lidarセンサーとして、RPLidar A3M1(SLAMTEC)を利用した。しかしながら、RPLidar A3M1は低価格である一方で、日光下や黒色の物体に対して十分な測量ができない場合もある。そこで本研究ではシステムを拡張し、より高性能なUTM-30LX-EW(北陽電気)での利用も可能とした。

    3. マングローブ測量データの分析方法

    著者らはLidarからのデータを記録し3Dデータを構築ためのWindows用ソフトとして、TG3DMakerを開発してきた。本研究ではTG3DMakerを用い、センサーから取得したデータを3D点群データに変換した。その後、取得した点群データから任意の高さのデータを切り出し、クラスター分析を行ったのち、各樹径を円近似により評価した。

    4. マングローブ測量精度と現地適用性

     精度検証として、石垣島宮良川のマングローブで3D計測を行った。RPLidar A3M1における測量では、メジャーに対する比較において、二乗平均平方根誤差で1.57cm、平均値に対する誤差率は11%程度となった。一般的に3Dスキャナーによる森林測量では樹径誤差±2cm以内に押さえることを目標としていることから、本システムでも十分な精度で評価できることがわかった。3D計測は準備等を含めても数十分程度で50m×15m程度の範囲の測量を完了でき、毎木調査の効率化が可能である。ただし、RPLidar A3M1等の低価格LiDARセンサーは、黒色に近い樹木などに対して、部分的にデータが抜けてしまう場合もあった。一方、UTM-30LX-EWでは、RPLidar A3M1に対して倍程度の測量範囲を測量ができ、黒色に近い物体に対しても点群の抜けが少ない結果となった。以上より、測量目的と予算に応じて、3Dスキャナーシステムを組んでいくことが重要である。

  • ―日本初の公団住宅における住民運動を例に―
    市道 寛也
    セッションID: 344
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    はじめに

     日本では1950年代以降、日本住宅公団(現・都市再生機構、以下、公団とする)などの手により、郊外住宅団地が次々と開発された。公団住宅は1956年4月に金岡団地(大阪府堺市)で入居が始まった。これを皮切りに、多摩平団地(東京都日野市)や香里団地(大阪府枚方市)などの公団住宅が郊外に完成した。公団住宅では、ダイニングキッチンや、スターハウスなどの画期的な建築、植栽環境や自然環境を考慮した住環境設計を通じて、人々の憧れの住まいが生み出された。これは公団住宅の場所性であると言える。

     一方で、高度経済成長期には、住宅や道路などの社会資本の整備が遅れ、郊外住宅団地では、通勤通学難や保育所不足などの「初期不良」問題が発生した(住宅金融公庫20年史編さん委員会 1970: 204; 金子 2017: 137)。このような問題を郊外住宅団地の住民が克服する過程は、原(2012)、和田(2015)、金子(2017)、市道(2020)などで明らかにされてきた。特に公団住宅は、ホワイトカラー層の住民が多く、住民運動が活発に行われる場所であった。

    研究目的

     本研究では、高度成長期における住民運動の拠点という郊外住宅団地の場所性が生まれたプロセスを検討する。公団住宅では、自治会が住民運動の主体となった。日本住宅公団大阪支所D.C研究会(1966: 60)によれば、固定資産税騒動を契機に、金岡団地の住民が公団住宅で初めて自治会を作った。本研究では、『朝日新聞』堺泉州版と、地方紙である『日刊泉州日報』の記事から、金岡団地の住民運動を明らかにする。

    考察

     金岡団地では、入居初期の固定資産税騒動を巡り、住民運動が始まった。金岡団地は住民運動を展開する中で、他の団地と共同で反対運動を実施するという共闘戦術を行った。これは、その後の郊外住宅団地の「初期不良」問題に対する住民運動や、全国公団住宅自治会協議会の結成に大きな影響を与えているであろう。このように、金岡団地における住民運動は、住民運動の拠点という郊外住宅団地の場所性を生み出す切っ掛けになったと考えられる。

  • 小田 理人, 小寺 浩二
    セッションID: 537
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    Ⅰ はじめに

    多摩川水系の浅川では、生活排水による汚濁等の課題が存在する。流域の水質及び特性を把握するためには現地調査のみならず、様々な手法を組み合わせた総合的な研究が求められる。本研究ではフィールド調査の結果と水質分析及びその結果を利用した統計解析による考察から浅川の流域特性を明らかにすることを目的とする。

    Ⅱ 研究方法

    浅川の流域特性及び水質を把握するために、データ解析、現地調査、水質分析、統計解析、先行研究との比較を行った。データ解析は国勢調査結果から人口の推移及び町丁目別人口密度、国土数値情報から流域土地利用割合の変化、八王子市生活排水処理基本計画2014から汚水処理方法別人口の推移を求めた。現地調査は2020年6月~2021年10月の17か月間において月1回の観測と2021年11月~2022年1月の自記録計観測を行った。水質分析は全有機炭素、主要溶存成分、アンモニウムイオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、溶存酸素の計測を実施した。統計解析は2021年9月の結果を利用し、クラスター分析、主成分分析を行った。先行研究との比較は、小倉(1980)及び太田・大森(2004)の電気伝導度値と今回の現地観測の電気伝導度の値の比較を行った。

    Ⅲ 結果と考察

    月一回観測では電気伝導度(EC)が冬季に上昇が見られた。これは降水量の減少により地下水の寄与率が上昇したものと思われる。pHは冬季に低い値を示し、これも地下水の影響とみられる。夏季にはpHは高い値で、藻類の炭酸同化作用と思われる。週一回観測では降水により電気伝導度、pHが低下する様子が確認された。自記録計観測では特に南浅川において日周期が見られ、南浅川流域の排水によるものと思われる。 上流では硝酸イオンの検出がみられる地点が多く、森林生態系の窒素飽和によるものと思われる。下水処理場の排水が流入する山田川では非常に高い濃度の硝酸イオンが検出され、下水処理場排水が完全に処理されていないことが分かる。アンモニウムイオン、亜硝酸イオンは上流においても検出され、浄化槽からの排水による影響とみられる。 クラスター分析(Ward法)では、5つのクラスターが生成された。湯殿川では上流と下流の観測点が別のクラスターに分類され、流下に伴い水質が変化していることが示唆された。主成分分析では第1、第2主成分で49.75%の寄与率を示した。第1主成分に最も寄与しているのはRpH、第2主成分に最も寄与しているのはアンモニウムイオンであった。

    Ⅳ おわりに

    本研究から、上流における市設置合併浄化槽の遅れと浄化槽排水による汚濁、上流における森林生態系の窒素飽和による硝酸の流出、山田川への北野下水処理場の排水の流入による汚濁、湯殿川流域からの生活排水による汚濁の4つが浅川流域の課題として明らかとなった。これらの課題を解決するために、流域環境の整備が求められている。

    参考文献

    小田理人,小寺浩二(2021):多摩川水系浅川の水質に関する水文地理学的研究(3), 日本地理学会発表要旨集 2021a(0), 79, 2021.

  • 長野県開田高原の事例
    畑中 健一郎, 浦山 佳恵, 須賀 丈
    セッションID: P055
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.はじめに

     かつての農山村では,身近な自然環境を巧みに利用した暮らしが営まれ,その結果として生物の多様性も維持されてきたと考えられる。しかし,雑木林や採草地の利用が著しく減少した現在では,生物の多様性が劣化し,獣害や景観の面でも問題が生じており,その対策が求められている。過疎化・高齢化が進む多くの地域では,住民だけでなく地方自治体も人的,財政的に余裕がなく,自然環境保全に関する問題の単独解決は難しく,観光や教育,地域づくりなど他分野との連携が不可欠であり,住民自らが担い手となって取り組むことが期待されている。

     本研究では,人口減少が進む過疎地域ではあるが,自然環境を活かした観光地としてのポテンシャルを備えた長野県木曽町開田高原を事例に,自然環境の保全と活用に関する住民意識を調査したので,その結果の一部を紹介する。

    2.対象地域の概要

     開田高原地区は,2005年に4町村が合併する前の旧開田村に相当し,面積は約150km2,人口は1,449人(2020年)であり,2005年から2020年までの人口減少率は約25%である。高齢化率は約45%,就業者数は農業・林業,宿泊業・飲食業の順に多い。主な観光資源としては御嶽山の眺望や「木曽馬の里」が知られている。

     開田高原はかつて木曽馬の産地として知られ,馬の餌を採るための広大な草地で火入れ(野焼き)が行われてきた。現在では,馬飼育の衰退とともに採草地としての利用はほとんどなくなったが,集落周辺の斜面や放棄地などの一部で火入れが継続されている。火入れされた草地では,草花が咲き,美しい農村景観の形成に寄与しており,全国的に希少な昆虫の生息地ともなっている。開田高原の生物多様性の高さには伝統的な火入れと草刈りの継続が寄与しているとの指摘もあり,このような草地の復活を目指して草刈りやニゴ(干し草を作るために刈った草を一時的に積み上げたもの)作りの活動が移住者や地区外居住者らを中心とするグループによって数年前から試みられている。

    3.調査方法の概要

     開田高原の自然環境の保全・活用に関する住民意識アンケートを2021年11月に実施した。調査内容は,開田高原の自然,木曽馬と草地,その保全と活用等についてである。調査票は木曽町役場開田支所の協力を得て地区内全622世帯に配布した。回収率は39%であった。

    4.調査結果の概要

     開田高原の自然に対する問題として,森林の手入れ不足や農地の耕作放棄が多く挙げられたが,野生鳥獣被害は60代以上で,気候変動は若い年代ほど多いなど,年齢層による問題意識の違いが明らかとなった。

     木曽馬やニゴに対する親近感は木曽馬飼育やニゴ作りの経験者で高い傾向が見られ,火入れ・草刈り・ニゴ作り等が地域の文化であるとの認識も同様の傾向が見られた。火入れの継続に対しては,年齢が高いほど,また,女性より男性の方が必要と認識している傾向がみられた。

     今後の保全・活用に対しては,エコツーリズムなど自然保護と地域振興が両立する仕組みを考えるべきとの回答が半数を超えたが,年齢等による明確な違いは見られなかった。保全・活用の主体としては,自治会や農協・森林組合など地域の団体が担うべきとの回答が多く見られた。草地再生活動への協力に対しては,女性より男性,また,年齢が低いほど肯定的であったが,高齢のために協力できないとの回答も多くみられた。

    5.おわりに

     開田高原の自然環境に対する住民の意識は,年齢や木曽馬の飼育経験等によって違いがみられた。開田高原の現在の豊かな自然は,木曽馬飼育とともに育まれてきたものであり,地域の自然的・文化的特徴を活かした持続可能な地域づくりを考える際には木曽馬やニゴが重要なキーワードになると考えていたが,若年層ではあまり親しみを感じていないことが明らかとなった。過疎化・高齢化が進む現状の中で自然環境の保全と活用を進めるには,若年層の取り込みと,高齢者の知識と経験の継承が必要であると考えられた。(本研究は,(一財)長野県科学振興会の助成を受けて実施したものである。)

  • ―防災学習の視点からの分析―
    阪上 弘彬
    セッションID: 433
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    本研究は,ドイツの中等社会科教科書における学習単元「気候変動」の分析を通じ,「気候変動」の特質およびそこでみられる防災学習の特徴を明らかにし,日本の中等社会系教科における防災学習への示唆や提案を試みるものである. 気候変動教育は,「人々に変化の行為者として行動するために必要な知識,技能,価値観,態度を与えながら,人々が気候危機の影響を理解し,対処することを支援する」ものであり, ESDの中で取り組まれる(UNESCO n.d.).環境先進国で知られるドイツにおいても,連邦教育・研究省(BMBF)のESDを説明したウェブサイトにおいて,ESDのテーマの1つとして「気候」が紹介され,気候変動対策における教育の役割が指摘されている(BMBF n.d.). ドイツでは各州の社会系教科カリキュラムで「気候変動」が学習テーマとして掲げられていることが多い.たとえば,統合型社会科(ゲゼルシャフツレーレ)を前期中等教育の全学校種で採用するNW州では,学校種で文言は多少異なるものの,「天気と気候」「エネルギー供給と気候保全」などの学習領域において「気候変動」が言及されている.また気候変動に関わる学習テーマは,中等教育第9・10学年(日本の中学校3年,高校1年に相当)に配置される場合が多く,前期中等教育のまとめの学習に相当するテーマとして位置づけられていると考えることもできる.加えて授業実践,特に地理では,学習手法ミステリーを用いて気候変動教育が取組まれていることが高橋・ホフマン(2019)によって報告されている. 「気候変動」が収録されたProjekt G Gesellschaftslehre(以下,Projekt G)は,「地理」,「歴史」,「政治・社会・経済」(以下,便宜上「公民」)の3領域が統合される形で編成される3巻1セットの教科書である.「気候変動」は,3巻の10番目に当たる.単元「気候変動」は,9つの小単元から構成される.期待されるコンピテンシーからみると本単元は2つのパートに分けることができる.1つは,シナリオ作成という手法等を用いて気候変動の原因および身近な地域および地球規模への影響を探究するパートであり,もう1つが気候変動への政治的対策を吟味,判断するものである. 防災学習の視点からみた単元の特徴として,以下の4点が指摘できる.1つ目が,地球規模で自然災害の発生や影響の関連性を考える点である.2つ目が,1つ目の特徴と関わるが,システム思考の育成・活用が意図されている点である.3つ目が,長期的視野に立ち,今後の自然災害の発生や被害を予測する学習過程である.4つ目が,気候変動の結果を探究したうえで,政治的決定や行動を吟味したり,判断したりする学習過程である.日本の社会系教科における防災学習に対する示唆を提示する.1つが,個々の自然現象・災害を扱う学習に加え,「気候変動」のという観点を入れ自然災害間のつながりを考える学習が必要である.2つが,将来起こりうる自然災害の規模や被害を長期的視野から予測する学習の導入である.前述と関連して,ミステリーやシナリオ作成といった学習手法を導入することもまた必要である.

  • 齋藤 仁, 飯島 慈裕, 桐村 喬, Fedorov Alexander N.
    セッションID: S407
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    1.はじめに

     東シベリアの連続的永久凍土地帯では,20世紀後半以降の温暖化に伴い,サーモカルスト(thermokarst)と呼ばれる凍土融解に伴う地表面の沈降が進んでいる.サーモカルストによる窪みでは水域が拡大し,凍土そのものの変化にとどまらず,水文過程,生態系,さらには人間生活まで波及的に影響が連鎖する.このため,サーモカルストの発達の解明や永久凍土荒廃地の広域的評価は,東シベリアでの環境変動を予測する上で重要性が高い.しかし,微地形変化にとどまる初期のサーモカルストの検出には空間解像度1 m以下の高精細な地形データが必要なため(Saito et al., 2018),広域的分析が課題であった.その一方で,サーモカルストの進行は植生遷移や荒廃も伴うため(Magnusson et al., 2020),植生の状態に着目してサーモカルストを予察的に検出できる可能性がある.

     本研究では,一般に利用可能な中~準高解像度の衛星画像から算出される正規化植生指標(NDVI)を用いて,初期のサーモカルスト発達地域の予察的検出を目的とした.

    2.対象地域と手法

     対象地域は,東シベリアのレナ川右岸に位置するチュラプチャ周辺地域である.チュラプチャ周辺地域は草原や森林,湖沼の景観が広がり,草原では初期のサーモカルストが発達する(Saito et al., 2018).2017年9月実施の現地踏査をもとにしたサーモカルストが発達する草原と非発生の草原,および周辺の森林域でのNDVIの季節変化と経年変化,およびそれらの空間分布を分析した.

     NDVIは,Landsat-7衛星画像(1999~2021年),Planet 衛星画像(2016~2021年)より算出した.またMODIS NDVI(MOD13Q1.061,2000~2021年)を使用した.

    3.結果と考察

     初期のサーモカルストが発達する草原は,非発生の草原と比較してNDVIが高い結果が示された(図1).特に6月~8月の生育期に,NDVIの違いが大きくなった.過去20年間のNDVIの時系列変化を分析したところ,人為的な土地利用履歴のある草地を中心にNDVIの上昇傾向が示された.これらの草原ではサーモカルストが進行している可能性が予察的に示された.その一方で,周辺の森林域ではNDVIの上昇は見られなかった.

     初期のサーモカルストが発達する草原では,土壌水分や地温の上昇が短期間で植生の生育や遷移に影響している可能性がある.今後は現地観測データによる検証と,より広域的を対象としたサーモカルストの検出が課題である.

    謝辞:本研究は,科研費・基盤研究(A)「凍土環境利用と保全に向けた凍土荒廃影響評価の共創」(19H00556)とArctic Challenge for Sustainability II (ArCS II) の助成を受けたものである.

    引用文献

    Magnusson, R., et al. 2020. JGR, e2019JG005618. Saito, H., et al. 2018. Rem. Sen.,10, 1579.

  • 栗栖 悠貴, 木村 幸一, 本嶋 祐介
    セッションID: 434
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
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    防災地理情報の提供やウェブ地図「地理院地図」の活用を通じて防災教育を推進し,地域防災力を向上させることは国土地理院の重要な任務の一つである.また,国連防災世界会議で防災教育の重要性が指摘され,高等学校での地理必履修化も行われるところである.国土地理院が取り組むべき教育支援についてまとめた測量行政懇談会地理教育支援検討部会による報告書(測量行政懇談会,2019)に基づき,国土地理院では教科書・教材出版社を対象に「国土地理院の取り組む教育支援の説明会(以下,説明会)」を年に一度開催している. 地域の防災力向上の一端を担う防災地理教育を充実するためには,教育指導において欠かせないツールである教科書・教材を作成する関係者に対し, 国土地理院の有用なコンテンツを積極的に情報提供することが必要である. 本報告では,令和2年度まで実施してきた「有用なコンテンツの紹介を中心とした説明会」について紹介するほか,令和3年度に新たに実施した「有用なコンテンツの活用を含めた説明会」について報告する.

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