1.研究の背景
自治体は,人口減少と少子高齢化の中で,老朽化した公共施設に対処する必要がある.2014年に国土交通省は立地適正化計画を制度化し,コンパクトシティの形成を目指している.
現在,約3,300館の公立図書館がある.そのうち,1970〜80年代に建設されたものが1,095館(33.0%)あり,スペース不足やバリアフリー問題などを抱えている.自治体は立地適正化計画に基づいて,図書館に関する計画を策定し,建設・開設している.
立地適正化計画については,市町村間の連携や調整が複雑で,都市圏全体を計画区域とすることが難しいと指摘がある(荒木2017).その上,自治体へのアンケート調査では,住民の反発などから既存施設の集約が難しいことが示されている(箸本ら2021).さらに,地方都市では,図書館や公民館などの中心拠点施設を核として一つの建物に複数の施設が入居するパターンが多いことが示された(武者2021).
2.研究の目的
先行研究から立地適正化計画における施設整備の傾向を把握することができた.議論を深めるために事例研究も有益である.そこで,本研究の目的は以下の5つの仮説を明らかにすることである.①自治体は計画策定に当たってコンサルタントを入れているが,他自治体とは調整をしていない.②各施設を1カ所に集約するため,市民の反発があった.③総延床面積は整備前より縮小されている.④施設の集約・複合化はできたが,施設連携までは行われていない.⑤図書館との一体整備により,施設の来館者は多い.
3.研究方法
立地適正化計画に基づいて整備された図書館の中で,発表者が訪問した香川県善通寺市立図書館,和歌山県和歌山市民図書館,山形県酒田市立中央図書館を研究対象とした.3自治体の都市計画担当部署に,2024年10月30日に質問紙を送付し,1ヶ月後に回答を受領した.
各施設の概要は以下のとおりである,善通寺市立図書館は,市庁舎との複合施設として2022年1月4日に移転開設した.訪問時は,中学生や高校生の利用者が多く見受けられた.和歌山市民図書館は,和歌山市駅に直結した複合施設「キーノ和歌山」の公益施設棟内にあり,2020年6月5日に移転開設した.訪問時は,子どもとその保護者が多数利用していた.酒田市立中央図書館は,「酒田駅前交流拠点施設ミライニ」のひとつとして2022年5月5日に移転開設した.訪問時は,若年層が多く見られた.
4.調査結果
①については,3自治体ともコンサルタントを入れていた.また,隣接自治体とは特に調整していないが,県とは報告や調整をしていた.②について,善通寺市ではパブリックコメントにおいて複合化に反対する意見はなかった.和歌山市では賛否両論があったが,現在の利用者アンケートでは8割から9割が満足している.酒田市では,計画公表後に図書館が賑わい創出に繋がるか疑問の声はあったが,その解消のため図書館とまちづくりに関するワークショップやシンポジウムを開催し,新しい図書館の理解を促した.③については,3自治体とも面積の縮減はなかった.④については,善通寺市では,職員が各幼稚園に出張し,読み聞かせを実施している.そして,地域連携活動として2023年度はフィンランド大使館と協力して読み聞かせなどの交流事業を行っている.和歌山市では,年間を通じて多種多様なイベントが開催されており,図書館単独のイベントも含め2023年度には11,895人が参加した.酒田市では,酒田駅前夏まつりを開催している.これは酒田駅前地区活性化協議会(ミライニ,ホテル事業者,レストラン事業者などから構成)が主催し,毎年8月に実施している.⑤について,2023年度は善通寺市の図書館に約17,300人が来館し,キーノ和歌山の利用者数は2,181,101人,図書館の来館者数は795,292人だった.酒田市はミライニ全体で496,573人が来館した.
5.考察
自治体は,専門的なノウハウや豊富な経験をコンサルタントに求めている.施設整備にあたって市民の理解が得られるように取り組みを行っている.施設の面積が縮減できなかったのは,図書館の場合は共有スペースの創出よりも蔵書数や収容冊数を増やしていることが推察される.イベントなどの開催に限られるが施設連携は行われている.
文献
1)荒木俊之 2017. 地理的な視点からとらえた立地適正化計画に関する問題.E-journal GEO12:1-11.
2)箸本健二・武者忠彦・菊池慶之・久木元美琴・駒木伸比古・佐藤正志 2021.立地適正化計画に対する地方自治体からの政策評価と課題認識.E-journal GEO16:33-47.
3)武者忠彦 2021. 都市はいかにしてコンパクト化するのか?.E-journal GE16:57-69.
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