日本地理学会発表要旨集
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発表要旨
  • 野上 道男
    セッションID: 721
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    伊能中図において富士山に集中する39本の見通し線に添え書きされている方位と
    国土地理院地図での計測値の差を計測した.誤差がなければ、この差は磁気偏差と
    なる.ただし実際には測点の位置比定誤差と伊能の測量誤差が含まれている.
    統計処理によって、磁気偏差を「0.034度東偏」とする結果を得た.
  • 黒木 貴一, 磯 望, 後藤 健介
    セッションID: 416
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    平成29年7月九州北部豪雨では,朝倉で5日13時に88.5mm,16時に106mmの猛烈な雨量を観測した。降り始めから7日15時までの雨量は608.5mmに達した。このため福岡県の朝倉市,東峰村,大分県の日田市を中心に,斜面崩壊や土石流による被害が生じた。各報道では線状降水帯,流木,氾濫,孤立集落等の情報が発信された。この中,豪雨に見舞われた学校では,災害対応を余儀なくされ,また校舎をはじめ児童・生徒は被災した。本報告では,学校の地形条件から被災背景を地形学的に確認し,さらに学校側の災害対応に地形条件がどのように関与したかを整理した。
  • 小野 映介, 佐藤 善輝, 矢田 俊文
    セッションID: P209
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    Ⅰはじめに
    本研究の目的は,1703年元禄関東地震時の津波によって九十九里浜平野の片貝村で生じた被害の特徴を史料(文書・絵図)と地形・地質調査の両面から解明することにある.研究対象とした片貝村(現在の千葉県山武郡九十九里町片貝付近に相当する)については,津波による被害を記した文書と,被害を受ける前と後の時代に描かれた絵図が存在する.
    今回の発表では史料を紹介するとともに,2枚の絵図の現地比定の結果を示す.加えて,津波が遡上したと推定される地域における地質調査の結果を提示する.
    Ⅱ史料の概要
    以下,矢田・村岸(2016)に基づいて史料の内容を紹介する.
    史料1:楽只堂年録 百三十四「長谷川伊兵衛知行所上総国山辺郡之内」
    片貝村の長谷川伊兵衛知行所において,津波による流家は88軒,死亡者は81人,損馬は3疋であり,田畑に海水が入って荒れ田になったことが記されている.
    史料2:楽只堂年録 百三十四 「松平豊前守知行所」
    松平豊前守知行所は,中里村・片貝村・新井堀村の3か村にあり,このうち片貝村では,津波による死亡者が19人(男10人・女9人),流家8軒,浜納屋流6件であったことが記されている.
    史料3:天和2年(1682)9月22日上総国山辺郡荒生村片貝村溜池境割絵図・相論裁許状(写)
    片貝村と荒生村との境界論絵図で,裏書に相論裁許状(写)がある.この絵図には,境界争いの場となった湖沼が描かれているほか,道・集落・河川(水路)・田・畑などが示されており,津波を受ける21年前における当地の様相を知ることができる.
    史料4:安永4年(1775)7月上総国山辺郡片貝村御四給絵図大積
    片貝村の土地利用を示した絵図である.元禄関東地震による津波を受けた72年後に作成されたもので,道・集落・湖沼・河川(水路)・田・畑などが描かれている.
    Ⅲ絵図の現地比定
    史料3に描かれている道・湖沼・河川(水路)は,ほぼ同様の位置・形状で史料3に描かれている.史料4には集落名が記されていないが,史料3とほぼ同位置に集落が描かれており,道・湖沼・河川(水路)との位置関係から史料3と4の集落を同定することができる.一方,史料4には,史料3に記されていない海側地域の情報が盛り込まれ,道・集落・新田が描かれている.
    Ⅳ予備地質調査の結果
    史料3・4の東西南北は,旧版地形図(1965年発行)に対して時計回りに45度ほどずれている.それを補正すると,史料3・4と旧版地形図の道・集落・河川(水路)の位置関係には大きな矛盾がないことが分かる.史料3・4と旧版地形図との比定結果について,当地域の地形分類結果と比較すると,史料3・4に描かれた集落は浜堤に立地していると判断できる.また,史料3の「芝間」と史料4の「山入会」(いずれも松が記されている)については,ほぼ同じ位置に描かれていることから,同意と考えられ,その形状については当地域の浜堤列群と酷似する箇所がみられる.
    史料3に描かれた「芝間」と「しも」・「やかた」といった集落は,現在の九十九里町役場の内陸側に北東―南西軸で発達する浜堤列群,「なや」は役場の海側の堤間湿地に相当すると推定される.また,史料1に「田畑に海水が入って荒れ田になった」ことが記されていることから, 史料3の田畑が描かれている地域,すなわち現在の九十九里町役場付近までは津波が遡上したと考えられる.
    以上の推定結果を検証するために,津波堆積物を確認するための地質調査を計画している.ここでは,その予備調査の結果を示す.
    Ⅳ予備地質調査の結果
    現在の九十九里町役場近くの堤間湿地(35°32′12.70″N;140°26′34.36″E;標高約0.7 m)においてハンドコアラーを用いた掘削を実施した.この地点は,史料2の「なや」,史料3の「私領新田入会」に相当する.深度0.9~0.4 mにヨシが集積した砂層が認められ,同層を覆って泥~砂層が堆積している.ヨシが集積した砂層の最上部からは1,687-1,731,1,808-1,895,1,903-1,927 cal AD(2σ)の放射性炭素年代値が得られた.層相と年代値からは,0.4 m以浅の泥~砂層が津波堆積物に相当する可能性が高いと考えられる.
    今後,予備地質調査地点周辺においてジオスライサーを用いた掘削調査を行い,堆積物の層相を詳細に検討するほか,堆積物の珪藻分析を実施し,津波堆積物の特徴を明らかにする予定である.
  • 小野 映介
    セッションID: S305
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    Ⅰ.はじめに
    近年,自然災害への社会的関心の高まりを背景として,地形に注目した新聞・テレビ報道が多くなされるようになった.とりわけ,沖積平野を構成する氾濫原の微地形は,河川氾濫や地震時の液状化と関連することから,取り上げられる機会が多い.しかし,氾濫原の微地形を対象とした研究は盛んに行われているとは言い難く,地形分類については問題点が残されている.
    本発表では,問題点を提示するとともに,その解決のための素案として「階層的地形分類」を紹介する.
    Ⅱ.平成27年9月関東・東北豪雨と平成28年熊本地震に関する研究や報道における微地形の扱い
    2つの災害を検証する際に,インターネットで閲覧可能な「国土地理院土地条件図」や「国土地理院治水地形分類図」が研究者や報道機関によって用いられた.
    平成27年9月関東・東北豪雨では,鬼怒川左岸(茨城県常総市三坂町地先)における堤防の決壊が注目された.破堤地点の周辺に発達する微高地は,数値地図25000(土地条件)では自然堤防,治水地形分類図-更新版(2007~2014年)では微高地(自然堤防)および砂州・砂丘に分類されている.しかし,鬼怒川左岸に見られる微高地は,河畔砂丘とクレバススプレーが主体となって形成されたものである.氾濫原の微高地=自然堤防という分類は,他地域でも見られる.こうした分類は,地形学的見地からすると違和感があるが,全国統一基準の項目で分類を行う際には仕方のないことかもしれない.ただし,微地形は当地の地形発達の「癖」を示す場合が多い.例えば,クレバススプレーの発達する鬼怒川左岸では,破堤のポテンシャルが高いことが示唆される.そうした,地形の成因と発達史に関する知見を地図に組み込むことができれば,治水対策に生かされるかもしれない.
    また,平成28年熊本地震では,白川と緑川の間における液状化が問題となった.液状化の集中域は,数値地図25000(土地条件)の自然堤防,治水地形分類図-更新版(2007~2014年)の微高地(自然堤防)と一致することから,「自然堤防で液状化が発生した」という報道があった.しかし,白川と緑川の間に発達する帯状の微高地は,地形学的には蛇行帯と解されるべきであり,液状化は蛇行帯を構成する1つの要素である旧河道で発生したとみられる.
    両図を用いる際には,それらが「主題図であること」,「デジタル化を経て分類項目の簡素化が進んでいること」を踏まえる必要がある.
    Ⅲ. 階層的地形分類
    地形を分類するという作業は地形研究の根幹であり,古くから研究が進められてきた(小野2016).空間・時間・成因を考慮した統合的な地形分類を行おうとした中野(1952)はLand form Typeの概念のもとで「単位地形から出発して,地形区,さらに地形表面をカバーしようとする」分類方法を示した.ここで注目されるのは,地形に階層性(Area>Group>Series>Type)を持たせた点である.その後,沖積平野を対象とした地形分類は大矢(1971)や高木(1979)などの議論を経て,高橋(1982)による系統樹の概念に至った.系統樹によって地形面>地形帯>微地形を捉える階層区分は,地形発達過程を考慮したものとしては,現時点で最も矛盾の少ない分類手法の1つである.
    例えば,氾濫原と後背湿地という2つの地形用語は,しばしば混同されるが,地形を階層的に捉えた場合,氾濫原は扇状地やデルタなどと並んで,後背湿地の上位に位置づけられる.したがって,氾濫原と後背湿地が並立する分類図を認めない.また,ポイントバーやクレバススプレーを事例にすると,前者はリッジやスウェイルなど,後者は落堀(押堀)やローブの集合体として捉えられる.
  • 佐藤 剛, 山内 和也, 望月 秀和, 八木 浩司
    セッションID: P226
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    ■はじめに シルクロード天山北路沿いに点在するアク・ベシム遺跡,ブラナ遺跡およびクラスナヤ・レーチカ遺跡などの遺跡群は,UNESCOの世界遺産「シルクロード:天山回廊の交易路網」に登録されている。それらは中央アジア,キルギスとカザフスタンとの国境をなしながら東西に流れるチュー川の盆地底において,6世紀~14世紀に建設された都市遺跡である。これらの遺跡を対象とした調査は,考古学者によって行われてきたが,地理学の分野も相馬ほか(2012)が盆地に分布する遺跡の立地する地形が,湧水の得られやすい扇状地の扇端や防御性の高い段丘崖近傍の段丘面上などにあることを指摘している。当地における考古学研究をより深化させるためには,相馬(2012)が試みたGeoarchaeologyの視点で盆地に分布するすべての遺跡を対象に考察していく必要がある。発表者らはひとつのアプローチとして,地形分類図(ポスター会場で掲示)を作成し,遺跡の空間的な分布と遺跡が立地する土地の特性を理解することを試みた。

    ■方法 「だいち」(ALOS)の可視画像と30 mグリッドDEMを基に作成した地形表現図を基に判読(扇状地・氾濫原・段丘面・崖錐・崩壊など)し,地形分類図を作成した。それに文献と現地調査から得られた12遺跡(都市・城砦・キャラバンサライ)の位置情報をGIS上で重ね合わせ考察した。

    ■結果と考察 都市や城砦あるいはキャラバンサライが扇状地と段丘面上に構築されたことが明らかるとともに,そのほとんどは扇状地の扇端上に分布することが明らかとなった(表-1)。これは,扇状地が都市や城砦あるいはキャラバンサライを許容できる比較的平坦な地形面を有していること,同じく比較的平坦な地形面で構成される氾濫原は洪水の危険性があるため避けられたことに起因すると推察される。また,地形分類図にはすべての遺跡が地形分類上の境界付近に位置することが示された。そこで遺跡が分布する地形場を6つのタイプに分類し,地形の特性から「土地の安定性」,「防御性」,「水利の安定性」を要素とした定性的な評価を行った。この結果,各タイプのなかで最も多くの遺跡が立地するのは,4つの都市遺跡が分布するType-Ⅰであることが明らかとなった。都市を築くうえでType-Ⅰの地形場が選択されたのは,土地の安定性と防御性の「高い」点が重要な要素であり,かつ水利の安定性も考慮されていることが効いていると考えられる。一方で防御性は低くとも,土地の安定性と水利の安定性を主要な要素として選択されたのが,Type-Ⅴの地形場にあるAk-Beshim遺跡とBurana遺跡になる。これらの遺跡は調査地のなかでは比較的規模の大きいもので前記の通り世界遺産にも認定されている。Type-Ⅴでは強固な人工の市壁を建造し,防御性の「低い」点を克服できれば,都市を立地するのに適合する場所だといえる。実際,Ak-Beshim遺跡には市壁と城壁の遺構が残存している。このほか,Type-Ⅵの地形場にはShamshi-3,Shamshi-4および Shamshi-5の3遺跡が分布するが,土地の安定性,防御性,水利の安定性ともに「高い」評価は得ていない。これらの遺跡は地形条件よりも,そこに位置する他の意義があり立地していると考えられる。Shamshi-3遺跡およびShamshi-4遺跡がキャラバンサライの性質をもつものであることから,リスクはあってもシルクロードの交易路沿いに位置するという強いアドバンテージがあったとも想定できる。同様にType-ⅡおよびType-Ⅳの地形場に位置するMalie-Ak-Beshim遺跡とIwanovka遺跡の立地も地形以外の要素が効いていると思われる。
    【文献】相馬ほか(2012)地理予,81.
  • 鹿島 薫, Ulgiichimeg Ganzorig , 箕田 友和
    セッションID: 435
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    本研究は,モンゴルにおける気候変動・黄砂変動を,湖沼堆積物に残された珪藻遺骸群集の変動から復元することを目的とする.モンゴルは,アジアモンスーン変動と偏西風変動の影響から,完新世において2回以上の大規模な乾燥期と湿潤期の変動が生じた.この乾湿変動は黄砂の起源となる細粒物質の供給,人間活動に大きな影響を与えているが,その詳細と詳しい編年は明らかとされずにいた.2017年8月4日から16日にかけて,モンゴル西部アルタイ山地において現地調査を行った.16湖沼において,40地点で現生珪藻の採取を行い,6か所で湖底堆積物の掘削調査を行った.さらに,2016年にドイツグッチンゲン大学とモンゴル教育大学が掘削したボーリングコア試料(2地点)も分析に用いた.
     湖沼の水質と産出する珪藻群集との関係を調査することが古環境復元の基礎となる.2017年における調査の結果,珪藻群集と湖沼の汚濁度・塩性度(電気伝導度)と強い相関が認められた.2017年に採取したコアは,2018年3月に植物検疫所の輸入許可により運搬されたばかりであるので2016年掘削試料の分析結果を以下に示す。過去4000年間に2回の湖面上昇期(I帯(4000-2300YBP)およびIV帯(1000 YBP以降))とその間の低水位期(II帯およびIII帯)が見られた。最上部では,最近の温暖化に伴う永久凍土の融解によって,湖水位は大きく上昇した(V帯)
  • 関口 辰夫, 野口 高弘, 研川 英征, 倉田 憲
    セッションID: P220
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    北海道十勝平野において、十勝坊主やアースハンモックに類似した小丘状の地形が広範囲に分布していた。小丘状地形は、上士幌町周辺では、空中写真において直径が20m~数10mで円形~やや楕円形、中心が白灰色で周囲が茶褐色であった。小丘状地形は密集して分布し、直線状や格子状、不規則な斑点状の配列がみられた。また、航空レーザ測量データ(2mDEM)から等高線図を作成した結果0.5~1.0mの高さであった。小丘状地形は人工改変されているが、最近撮影された空中写真においても明瞭に確認された。
     小丘状地形は上士幌町周辺だけでなく、平野西部の鹿追町や新得町、南部の芽室町や幕別町の台地上でも分布が認められ、現河床から比高の大きい十勝平野でも最終氷期以前と考えられる高位の段丘上に分布していた。十勝平野では、小丘状の地形として十勝平野南部の古砂丘や然別火山南麓の流れ山が知られているが、いずれも小丘状地形とは分布が異なり、平面形や配列等の特徴から十勝坊主やアースハンモックの地形に類似していた。
  • 柏木 純香
    セッションID: 113
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    知識経済の中で食料供給の局面でも,資本と労働に加えて知識や技術が重要視されるようになってきている.先進国の多くの農業経済は集約化と専門化のプロセスが終局に近づきつつあるとの指摘もある中で(ボウラ編1996),新たな技術を用いて集約化をさらに進めようとする動きが出てきている.
     本研究で扱う,情報通信技術(以下,ICT)を農業の生産部門で使用する動きもその一つである.地理学では仁平(2000)が2000年頃のICTの使用を取り上げているものの,それ以降急速に発展したICTの農業生産現場での利用を取り上げた研究は,管見の限り存在しない.農業経済学ではICT利用の実態把握が進みつつあるものの,農業法人経営とICTの関連性を数量的に把握した研究が多く,関連主体を取り巻く状況は捨象される傾向にある.ICTに限らず,新しい生産方法の適用といったイノベーションのプロセスは多様なスケールから影響を受けるため(Blay-Palmer 2005),生産者だけでなくより広い空間に目を配る必要がある.
     ICTの受容は生産者が集団で知識を獲得し,変換することを通じて知識創造や新しいイノベーションを実現する,一連の流れの中に位置づけられる.農業生産現場における技術の受容に関して,地理学では新技術の空間的広まりを取り上げる研究がなされてきた(林1994; 伊藤2014など).しかし,空間的な広まりを下支えするような社会と技術の関係には十分な関心が払われていない.そこで,本研究は複数の生産者を含む集団を対象にするため,イノベーションの研究の中でも情報解釈過程,意思決定過程を具体的なプロセスとする集団学習の視点(杉山2009)を援用する.
     本研究は農業生産現場においてICTが受容されるプロセスを明らかにすることを目的とする.具体的には,関連主体の情報解釈,意思決定,解釈・決定に基づく行為の変化に着目しながら,①異なるスケールに位置する主体の思惑が交錯する中で,いかにして農業ICTシステムの導入や活用が進んだのか,②農業生産現場におけるICTはいかなる現代的特長を持ち,いかに展開しているのかを考察する.
     具体的な事例として焦点を当てるのは,愛知県西尾市のJA西三河きゅうり部会である.同部会では富士通株式会社の食・農クラウドAkisai(以下,Akisai)のうち,作業記録をクラウド上に作成・蓄積するシステムを使用している.
     部会員やJA西三河,JAあいち経済連,富士通の思惑が交錯する中で,技術評価や技術内容の変化を伴いながら,部会へのAkisaiの導入とJAや部会員によるその活用が進んだ.たとえば,Akisaiの供給者である富士通は,Akisai使用者数の大幅な増加とJA向けAkisaiの効率的な開発を目指して,きゅうり部会へのAkisaiの供給を希望した.また,取組の統括者であるJA西三河は人の記憶力に起因する不確実性を軽減し営農指導を効果的に行うことを,JAあいち経済連は部会員の栽培技術の向上により農家所得が上がることを志向して導入を支援した.一方,実際に導入した部会員は,Akisaiの使用に対して特に意見を持たずに導入を決定した.これは部会員の追加的な金銭負担はなく,実務的な負担も以前から実施していた生産履歴記帳と大差なかったことの影響が大きい.部会への帰属意識と主導者への信頼が導入を促進し,Akisaiへの不信感と電子機器の使用能力の低さが導入を遅らせた.
     JA西三河と部会が,Akisaiの使用で実現可能なことやICTによる情報蓄積の意義を繰り返し説明していたことにより,部会員はAkisaiへの情報蓄積に将来性を感じるようになっている.JA西三河ときゅうり部会が最終的に可視化したい情報を検討し,そこから逆算してAkisaiの技術内容を変更した.本発表では,これらの同部会によるAkisaiの具体的な受容過程に加え,農業生産現場におけるICTの現代的特長や展開についても言及したい.
  • 島津 俊之
    セッションID: 732
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    本報告では,英国の王立キュー植物園に1882年に開館したマリアンヌ・ノース・ギャラリーを「風景のアーカイヴズ」(島津2007) と捉え,その含意を探りたい。ヴィクトリア時代の「レディ・トラベラー」(Middleton 1965) の一人マリアンヌ・ノース (1830-1890) が,自ら訪れ描いた五大陸の植物画627点とともに寄付したギャラリーは,今なお多くの来訪者や言説を吸引し続けているが,ここでは広義のテクストの集積・管理・供用に関わるアーカイヴズ機能に焦点を当てる。ノースの植物画は,1877年のサウスケンジントン博物館での最初の展覧会のカタログに「様々な国の植物と風景を描いた油彩画」(North 1877) と自ら記した如く,植物を主題としつつも,同じ英国人の植物学者レジナルド・ファラー (1880-1920) の如く生育環境を詳細に描き込んだり (橘 2006),近景や遠景を巧みに配したりして,風景画の特質を備えたものが多い。ノースは上記のカタログ作製の理由を,大抵の英国人は自然史に無頓着でココアの原料はココアナッツだと思っているから,と述べた (North 1892)。彼女はアマチュア科学者として (Morgan 1996),「英国民衆に地理学と自然史の教育を施すという大志」(Agnew 2011) を抱いていたのである。1879年のロンドン・コンディット街でのノースの個展を8月5日付で報じた夕刊紙Pall Mall Gazetteは,彼女のコレクションが王立キュー植物園にあれば良いのだがと記した。記事をみたノースは,知己のサンスクリット学者アーサー・コーク・バーネル (1840-1882) に宛てた8月9日付の手紙で,植物園長のジョセフ・ダルトン・フッカー卿 (1817-1911) が敷地を確保してくれたら絵画とギャラリーを寄付したいと書いた (Agnew 2011)。その2日後,ノースは園長に手紙を書き,彼は彼女の申し出を受託した (Payne 2016)。ノースの友人の建築史家ジェイムズ・ファーガソン (1808-1886) が,ギャラリーの設計・建設を担当した。コレクションは地理的区分に従って展示配置され,1885年には848点にまで増加した。ギャラリーのカタログは第6版まで刊行された。コレクションは「植物とその故郷」と命名され,フッカー卿はカタログの序文で「ここに集められた多数の風景画は,驚くほど興味深く珍しい光景…を生き生きと精確に描いている」と記した (Hemsley 1882)。さらに,王立地理学協会が1885年12月から翌年1月にかけて開催した「地理学教具展覧会」で,「世界の諸地域における光景」を描いたノースの多くの作品が「地理学的絵画」のコーナーに展示された(Royal Geographical Society 1886)。彼女の絵画は王立地理学協会に認められていたことになり,レディ・トラベラーが男権的な英国科学界で軽視されたとする理解 (井野瀬 2007) は再検討を要する。ノースが専ら自然を追求し現地民を描かなかったという理解 (Guelke & Morin 2001) も一面的で,彼女の絵画には現地民や人工物が度々登場する。植物画それ自体が,〈絵になる〉という審美的判断に媒介された文化的産物であり,彼女のギャラリーはローカルな文化としての風景の集積体=アーカイヴズに他ならない。風景のアーカイヴズは今やヴァーチャル世界に構築されつつあるが (例えばhttps://bogdankusevic.wixsite.com/photography),ノースのギャラリーは現実世界で風景を集積・管理・供用するグローバルなセンターであった。それは久保写真館 (島津 2007) が,同じ機能を有しつつも新宮に根ざしたローカルなセンターであったのとは,際立った対照を示すものであった。
  • 吉田 剛
    セッションID: 331
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    吉田剛(2008,2017)は地理的見方・考え方となる地理的概念を中心軸にした小中高一貫地理教育カリキュラムの単元展開例を,あるいは「環境」を中心に地理的見方・考え方による学習方法と地理的概念に基づく学習内容から一貫地理カリキュラムを示している。ただし具体的な議論のためには,学習指導要領の理解が重要となる。とくに小学校では地理関連教科が生活科と社会科となるため,一貫性の議論は,理想論に止まざるを得ない。そこで本研究では,幼稚園教育要領「環境」領域も含め,2017年版の小学校学習指導要領生活編・社会編の記述に隠れた地理的概念の意味を見いだし,一貫性を探る。方法は,地理的概念の意味に該当する記述を分析し,一貫性を考察する。研究結果であるが,第一に,幼稚園教育「環境」領域のねらいは,(1)身近な環境に親しみ,自然と触れ合う中で様々な事象に興味や関心をもつ,(2)身近な環境に自分から関わり,発見を楽しんだり,考えたりし,それを生活に取り入れようとする。これらには,主に身の回りの「場所」あるいは「環境」の意味の内容を,方法として把握・思考する意味が読み取れる。第二に,小学校生活科目標「~(1)活動や体験の過程において,自分自身,身近な人々,社会及び自然の特徴やよさ,それらの関わり等に気付くとともに,生活上必要な習慣や技能を身に付けるようにする。(2)身近な人々,社会及び自然を自分との関わりで捉え,自分自身や自分の生活について考え,表現することができるようにする。(3)身近な人々,社会及び自然に自ら働きかけ,意欲や自信をもって学んだり生活を豊かにしたりしようとする態度を養う。」には,身の回りの「場所」「環境」「持続性」の意味が含まれている。解説文「生活科における見方・考え方は,身近な生活に関わる見方・考え方であり,それは身近な人々,社会及び自然を自分との関わりで捉え,よりよい生活に向けて思いや願いを実現しようとすることであると考えられる」では,身の回りの「場所」の把握から「環境」の意味を把握・思考・価値付ける方法が読み取れる。また学年の目標の趣旨「(1)学校,家庭及び地域の生活に関わることを通して,自分と身近な人々,社会及び自然との関わりについて考えることができ,それらのよさやすばらしさ,自分との関わりに気付き,地域に愛着をもち自然を大切に~)」では,学習の内容と方法として,「場所」:地理的事象として自然的・社会的特徴を捉え,「環境」:人々と環境との関わりなどの地理的事象の関係性・因果関係などの意味を考え,「持続性」:「環境」から価値付けて態度・行動へ繋げる意味が読み取れる。つまり,児童の身の回りを中心に「場所」「環境」「持続性」などの意味が学習の内容と方法にみられる。また3学年社会科との関連から,解説には,地図の技能や位置や広がりなどの「空間」の意味の学習の方法となる見方・考え方が求められている。第三として,小中学校社会科の内容には系統が重視され,「①地理的環境と人々の生活」,「②歴史と~」,「③現代社会の仕組みや働きと~」に位置付けられた。①の小学校社会科の内容は,3学年「(1)身近な地域や市区町村の様子」,4学年「(1)都道府県の様子,(5)県内の特色ある地域の様子」,5学年「(1)我が国の国土の様子と国民生活,(5)我が国の国土の自然環境と国民生活の関わり」。各々の解説文から「場所」「環境」「地域」などの意味が読み取れる。一方,方法となる「社会的事象の見方・考え方」には,「位置や空間的な広がり,時期や時間の経過,事象や人々の相互関係などに着目して,社会的事象を捉え,~地域の人々や国民の生活と関連付けたりすること」と説明されている。顕在的には「空間」の意味がみられるが,自然的・社会的事象の「場所」や,地域と人々との関わりの「環境」の隠れた意味も含まれている。以上の結論として,幼稚園教育・小学校生活科には自己との直接的な関わりから,隠れた地理的概念として身の回りの「場所」「環境」の意味の学習の内容と方法がみられる。それには,狭い「空間」の意味からの空間的拡大が付随するとみられるが,学習段階に沿って「持続性」も関わる。続く小学校社会科では,学習の内容と方法にそれら地理的概念がみられるが,カリキュラムの環境拡大アプローチによって,吉田剛・管野友佳(2016)が論じる地理的概念の「序列階層的な特徴」を伴って,やや絞られた様々な「スケール」や「相互作用」あるいは「地域」などの意味が積み重なってくる。よって,「環境」を柱に「空間」「場所」あるいは「持続性」が地理教育カリキュラムにおける一貫性の中核となる基礎・基本的な地理的概念として考えられる。それが他のやや絞られた地理的概念を付随させて,中学校社会科地理的分野へと繋がっていく。
  • 鷹取 泰子, 佐々木 リディア
    セッションID: 719
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    ■研究の目的・方法
    インターネットを活用しながら,ボランティアとそれを必要とするホストを結びつけるプラットフォームは,現在,国内外で見いだすことができる.本研究は農山村地域において流動者(短期移住者・滞在者)が果たしうる貢献とその可能性等について,とくにボランティア活動の国際的なマッチングシステムがもたらすグローバルな流動者の活動実態に着目し,彼らの農山村の持続性等への寄与の可能性を探る.検討のための基礎データ・資料はマッチングシステムを提供する団体のウェブサイトから得られる情報を入手・加工して使用した.流動者の実態については,北海道十勝地方で活動するホストやボランティア経験者へのヒアリング調査(2015年-2017年実施)により入手し,一部ルーマニアの農村で把握・調査したホストについても検討の材料にした.

    ■ボランティア活動の国際的なマッチングシステム
    日本国内での登録実績がある国際的なボランティアマッチングシステムとして,例えばWWOOF(ウーフ),helpx(ヘルペックス),workaway(ワーカウェイ)等があげられる.Burns et al. (2015)によれば日本のWWOOFのホスト数は年々増加してきたという.

    ■農山村地域のホストにおけるボランティア活用事例
    北海道十勝地方で自然食品を活用したオーガニックカフェを運営し,そこで使用する食材の一部を自然栽培で生産するH氏は,地元にUターンした後,2015年にWWOOFのホストへ登録した.約2年半で16か国50人以上のボランティアを受け入れた実績があり,その多くは外国人である.H氏運営のシェアハウスを滞在拠点とし,主な活動はカフェの調理・ホール業務や農作業の手伝いであり,地域内の別のホストと連携した活動も行う.自由時間にはH氏が地元の観光スポットを案内する等もしている.

    ■農山村地域における流動者の貢献と可能性
    ホストの国・活動地域によってボランティア活動の内容は多種多様であるが,各マッチングシステムの長所を生かしながらホストやボランティアが相互に協力している.日本の農山村は少子高齢化が著しい地域が多く,ホスト側が比較的若い働き手を低予算で確保できることは重要である.しかし,マッチングシステムの提供組織が目指しているように異文化交流が生まれ,地元住民との地域活動・イベントの開催が実現するなど,ボランティアである流動者の受入を契機とした諸活動の相乗効果が地域に生まれていることが伺われた.また,移住前の試行としてボランティア登録する流動者の実態も確認された.北海道のようにインバウンド観光の需要が高い地域ではホストが多く,積極的に活動中であるが,有名観光地以外でも農村風景や伝統的な生活様式など,地域資源の再発見をツーリズム活動の機会に生かした結果,ボランティアが国内外に発信するなどの実態が確認された.一方,もともと地縁のない移住者がホストとなる場合,地域社会への貢献が限定的になる事例も確認される等,マッチングシステムの活用を農山村の持続性に繋げる上での諸課題も見いだされた.
  • 山口 幸男
    セッションID: 332
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    昭和30年代以降のわが国の中学校社会科地理的分野の学習は地誌学習を中心として、特に日本地誌学習(日本の諸地域学習)を中心として展開されてきた。その間、日本地誌学習の学習方式には変化がみられたが、現在進行中の中核方式には論理的破綻が生じている。このことを明らかにすることが本研究の目的である。
  • 岩船 昌起
    セッションID: 621
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    【はじめに】本発表では,気象庁が火山活動を24時間体制で監視している「常時観測火山」の一つである霧島山に注目し,観光の核心地の一つであるえびの高原での「災害危険区域」に相当する地区の設定の可能性と,観光と防災が両立できるための持続的な利用のあり方について検討する。

    【調査地域】霧島山は,大小20座以上の火山群の総称である。我が国最初の国立公園の一つとして1934年に指定された霧島国立公園の系譜を受け継ぐ霧島錦江湾国立公園の「霧島地域」と,その範囲がほぼ重なり,多くの観光客等が訪れる。えびの高原では,平成27年度で約70万人の観光客入込数を記録しており,えびの高原で自然散策,周辺の韓国岳や白鳥山等への登山,レストラン等の観光施設への立ち寄り等の利用行動が展開されている。

    えびの高原に位置する硫黄山では,2016年12月6日14時から「噴火警戒レベル」が運用されている。噴火警戒レベルは,火山活動の状況に応じた「警戒が必要な範囲」と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」が事前に協議されて,5段階で整理された指標である。このうち,特に立ち入り規制範囲を設けない「レベル1(活火山であることに留意)」,硫黄山を中心に概ね1㎞圏内を立ち入り規制とする「レベル2(火口周辺警報)」,概ね2㎞圏内を規制する「レベル3(入山規制)」,概ね4㎞圏内を規制する「レベル4(避難準備)」,4㎞圏を越えて居住域の住民に避難勧告等を行う「レベル5(避難)」に分かれており,実際,硫黄山では,火山性地震の多発や火山ガスの発生等の火山活動が高まりに応じて,レベル1からレベル2の引き上げが2015年以降時折行われている。

    【霧島山えびの高原でのホテル誘致計画】環境省では「国立公園満喫プロジェクト」に取り組んでおり,霧島錦江湾国立公園は,その先導的モデルとなる8か所の国立公園のひとつに選定された。これを受けて,宮崎県では,えびの高原の「環境省所管地の旧えびの高原ホテル跡地」に上質な宿泊施設を誘致し,周辺地域を含めたエリア全体の魅力向上を図ることを目的とした事業者の公募を平成30年度中に実施することを予定している。

    【「災害危険区域」の火山地域での適用の可能性】「災害危険区域」は, 1950(昭和25)年に公布された建築基準法第39条の規定に基づき,地方公共団体が条例で指定した「津波,高潮,出水等による危険の著しい区域」であり,災害防止上の必要性から,その範囲内では「住居の用に供する建築物の建築の禁止その他建築物の建築に関する制限」が行われる区域である。1945年枕崎台風,1946年昭和南海地震による津波,1947年カスリン台風等によって,低標高の居住地で甚大な被害を受けた経緯から,考案された「災害防止」のための手段の一つであろう。

    一方,火山地域での防災対策の強化に関わり,1973(昭和48)年に「活動火山対策特別措置法」が施行され,これを改正する「活動火山対策特別措置法の一部を改正する法律」が2015(平成27)年12月10日施行されてきた。これによって火山周辺の居住地だけでなく登山者等も対象として,特に「常時観測火山」50火山を中心に活動火山対策の強化が一層進められている。しかしながら,火山は,元々人間の居住地から離れており,「災害危険区域」のように,災害防止のために「住居の用に供する建築物の建築の禁止その他建築物の建築に関する制限」が行われる区域が設定されることはなかった。
    ここ数十年で火山地質学や火山物理学等の成果が蓄積され,これに基づき,火山地域での災害ハザードが明瞭に示されてきた。これに基づき「噴火警戒レベル」の設定が行われており,基本的に同心円で示された「警戒が必要な範囲」で,より火口に近い場所ほど,災害リスクが高い場所である。これを「災害危険区域」と同じ発想で考えるのであれば,「警戒が必要な範囲」のより火口に近い場所には,火山活動が活発な状況下で人間の立ち入りが規制されることを考えると,住居に準じる宿泊施設等の恒常的な施設を建設することについては,より慎重に,相当の議論が必要であるだろう。
  • 矢部 直人
    セッションID: P305
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    近年ではGISを歴史研究に応用する,歴史GISという分野が活気を呈している(HGIS研究協議会編2012,平井ほか編2014)。この分野の中では,古地図と現代の地図を重ね合わせて,古地図の歪みを分析する研究がある(小嶋・玉川2004,塚本・磯田2007, Symington et al. 2002など)。そこでは,地図を重ねる方法としてユークリッド2次元回帰分析や,アフィン変換といった,2次元回帰分析手法(Tobler 1994, Nakaya 1997)が用いられてきた。矢部(2014)も,江戸時代に作製された高田城下町絵図を,アフィン変換によって現代の地図に重ね合わせることを試みた。

    これらの研究では,古地図を現代の地図に重ね合わせた後の残差に,空間的な自己相関がみられる(図1)。残差に残る空間的自己相関,つまり古地図の局所的歪みを解釈・考察することが,これらの研究の関心であるといってもよい。しかしながら,残差に空間的自己相関が残るのであれば,2次元回帰分析の手法自体を,空間的自己相関を前提とした手法へ改良することも考えられよう。

    残差に残る空間的自己相関への対応としては,変数間の関係が対象地域内で変動しているとする,地理的加重回帰分析(GWR)の手法がある(Fotheringham et al. 2002)。そこで本研究では,地理的加重回帰分析を2次元回帰分析へと拡張した,地理的加重2次元回帰分析(GWBR)を新たに提案する。

    地理的加重2次元回帰分析を,江戸時代の高田城下町絵図に適用した結果,残差に有意な空間的自己相関はみられなくなった。また,江戸時代の城下町絵図にみられる,局所的な拡大・縮小や回転,シアーなどの歪みを,回帰分析のパラメータとして個別に記述することが可能になった。これまでは,残差として一括されてきた局所的歪みの内訳を,個別に議論できるようになったことが,新手法の成果として考えられる。
  • 今井 修, 寺田 悠希, 松木 崇晃, 杉野 弘明, 林 直樹
    セッションID: 728
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    農村地域における鳥獣被害が発生する場所では、主としてハンターによる捕獲が行われている。一方で住民は、自分達の地域を守るために果たすべき行動を学ぶことが必要である。鳥獣対策ボードゲームのもつロールプレイン機能は、動物、ハンター、住民それぞれの空間行動を学ぶことができる。住民の行動を引き出すように設計されたボードゲームをプレイすることにより、住民は短時間に具体的な対策行動について学ぶことができる。その結果、ゲーム後具体的な地域において住民は、動物の目撃情報の提供、餌場対策等、ハンターと協力し対策の効果を上げることができる。また、ボードゲームとして高校生による参加が期待でき、地域課題への関心を促す道具となる。
  • 西村 智博, 研川 英征, 関口 辰夫, 野口 高弘, 飯野 一夫, 田村 俊和, 平井 幸弘, 石丸 聡
    セッションID: P130
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    十勝川水系では,台風10号の接近に伴い8月28日から31日にかけて支川の札内川上流を中心に各地で記録的な大雨となった.この大雨により,帯広市南部の戸蔦別観測所では72時間雨量532mm,札内川ダム観測所では72時間雨量471mmと既往の主要洪水を上回る降雨を記録したほか,流域内の多くの観測所で史上第一位の月降水量を記録した.
    帯広市中島町では,札内川と戸蔦別川の合流点で約200mにわたり堤防が決壊し,約50haが浸水して,住家2戸,ソーラー発電施設等に浸水被害が発生した.また,芽室町では,芽室川右岸の破堤に伴い市街地西部の西十条7丁目付近を中心に市街地や食品加工工場に浸水被害が生じた.
    筆者らは空中写真撮影成果から浸水状況を把握するとともに,9月9~11日及び10月21日に現地調査を実施し,その結果を治水地形分類図(更新版)「芽室」「祥栄」「大正」上に展開して浸水範囲の特性を検討した.
    札内川・戸蔦別川の合流点付近の被害は,戸蔦別川上流右岸側で堤防が破堤し,堤内地に氾濫水が流入したのち,最下流部となる合流点周辺で湛水,堤内地側から越流して破堤に至ったように見える.両破堤箇所を結ぶ戸蔦別川右岸の氾濫平野ないし旧河道には,明瞭な流下痕跡が残されている.なお,札内川沿いの微高地に建設されているソーラー発電施設は,一時浸水したものの,微高地の縁辺部に位置していた一部を除き流失などの深刻な被害は免れている.
    芽室町では,芽室川の旧河道にあたる地点で右岸側堤防が破堤し,氾濫平野や旧河道上の市街地に氾濫水が流入した.特に破堤箇所から国道38号に至るまでの区間では右岸側が大きくえぐられ,流心部の洗堀や周辺部での土砂の堆積が著しい.市街地に流入した氾濫水は,芽室川沿いの堤防や国道の盛土に遮られて東進し,市街地内では最大地盤高+2.0m,国道沿いでも+1.3mの浸水深であった.氾濫水は国道盛土を越流し,一部はピウカ川にも流入した.
  • 田中 艸太郎
    セッションID: 537
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    数年前から国土地理院によるWebページ,「地理院地図」ではオルソ化された写真画像(シームレス空中写真)が閲覧できるようになっている。山岳域についても簡易空中写真(2004年~)ならびに,国土画像情報(1974~1978年撮影)のカラー画像から,土地自然の変化をみることができる。これらを利用して,およそ30年を隔てた,北八ヶ岳を中心とした亜高山帯林に特徴的な縞枯れ現象(帯状に枯死木が移動する天然更新の形態)の動態を調べた。

    発表者は,今から35年あまり前に学部の卒業研究で北八ヶ岳中山付近の縞枯れ現象を調査した経験がある(田中1981)。将来どのように変化するのか興味をもったが,動態を追跡するまでには至らなかった。当時の見解を検討しつつ,約30年間(1976年と2004年撮影の空中写真)を比較して若干の考察をおこなった。

    対象としたのは,もっとも良く縞枯れが見られる北八ヶ岳を中心に,奥秩父連山,南アルプス,日光男体山,東吾妻山,八甲田大岳の(計20ケ所)で,それぞれの地域の山頂付近ごとに地理院地図のサイトから,地形図および,1976年と2004年頃の空中写真画像(ズーム17サイズ)をダウンロードし,アドビシステムのフォトショップでレイヤー化しそれぞれの縞枯れの位置を地形図上にトレースして移動および消長を明らかにした。

    縞枯れ現象に関する報告は1970~80年代に多くなされたが,その特徴は太平洋側のシラビソオオシラビソの密生した亜高山帯林で,森林限界または山頂に近い高度の南向きの緩斜面にみられ,縞の方向から北から北東向きに移動しているものがほとんどであること。形成要因としては土壌の発達が未熟であることや台風などの南からの暴風が関与していることが指摘されてきたが,恒常的な駆因はいまだに解明されていない。

    佐藤・岡(2009)が指摘しているように,北八ヶ岳では縞枯れ更新林分に付随して,一斉倒木型更新林分が存在し,そのふちが擬似的に縞枯れを呈しているものがある(田中1981)。’76年撮影の空中写真では,それらが顕著に見られるが,’04年では実生や稚樹が成長して,立ち枯れ帯が少なからずが消失している。さらに,紀伊半島の大峰山地では,縞枯れと認められていた林分が,広い立ち枯れ帯に変わっていたり,広葉樹などの侵入によって縞枯れではなくなっていることが判明した。また,小さなギャップであったものが,’04年には広い倒木帯(立ち枯れ帯)に変化している場合もあった。一方で,立ち枯れ帯から成木林,稚樹林へと連続的に変化し,なおかつ何本かの平行な縞の列を維持している縞枯れも確実に存在している。

    調査した地域ごとに移動量を平均したところ,これらの攪乱傾向の大小との間には相関が見られた。持続的に更新が続いている縞枯れほど移動量は小さく,0.6m/年あまりであるのに対し,攪乱傾向が大きい場所では1.5m/年ほどである。このことと地形や高層気象観測による風との対応関係から,縞枯れの駆因となる風には台風などによる断続的な暴風に加えて,恒常的な卓越風をも想定せざるを得ない。より実証的にはフィールドでの年間を通じた,風などの環境計測が必要であろう。
  • 佐藤 弘隆
    セッションID: 823
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.はじめに
     日本の各都市では,伝統的な祭礼や習俗,街並みなどが地域住民によって受け継がれている。各町内の集会所や旧家に残された町文書には居住履歴や町内・祭礼運営など様々な情報が記録されている。これを紐解くことで,地縁共同体によって継承されてきた町内の習慣や景観の存立基盤が解明される。
     近年,人文科学系の研究者でも,一次資料の収集手段として高品質なデジタルアーカイブが可能となった。地域内で保管されている町文書の管理は所蔵者に委ねられており,死蔵されていることが多い。そのため,今後の地域内での継承が上手くいくとは限らない。そのような町文書をデジタルアーカイブすることは,多分野の研究者との資料共有による地域研究の進展や地元住民による資料活用に寄与する。本発表では町文書のデジタルアーカイブの実践を紹介しつつ,それを活用した祭礼運営に関する考察を行う。
    2.調査対象とデジタルアーカイブの方法
     発表者は京都祇園祭の山鉾行事を対象に参与観察や聞き取りなどフィールドワークを行ってきた。そして,資料収集の一環として35ヶ町の山鉾町のうち,船鉾町や鯉山町など4ヶ町に対しては,町文書のデジタルアーカイブを進めてきた。
     アーカイブ手法は整理番号や資料名,年代,所蔵者,内容分類など,町文書のメタデータの整備と全頁のデジタル撮影である。発表者は持ち出しによる資料の損失や劣化のリスクも考慮し,現地の旧家や会所などでの撮影を行った。人員は筆者と補助の学生の2名で,撮影機材も市販のデジタル一眼レフカメラやコピースタンド,ノートPCなど,高画質(300~400dpi程度)を維持しながらも,2名で十分に持ち運び可能の物を揃えた。高画質を維持する理由は,高品質な画像データを納品や公開することで,地元住民や他の研究者が資料を利用・閲覧する際,必要以上に現物を扱うことを防ぐためである。作業台となる机や椅子,電源などは現地で借用した。
     撮影した画像データは整理番号に対応したファイル名へ変更し,RAW形式で保管した。そして,必要なファイル形式(TIFFやJPEG)への変換や向き調整,トリミングなどを行い,自身の研究への活用や共同研究者との共有,所蔵者への納品用のデータを作成した。
    3.研究活用―近代における船鉾の運営基盤―
     発表者は町文書の翻刻も進め,テキストデータを整備した。そして, 町内の居住履歴や祭礼運営の記録を整理したり,近代京都のGISデータと組み合わせて地理情報をもった町文書の記録を可視化させたりして,近代の山鉾の運営基盤を明らかにした。
     例えば,『船鉾車輪及合羽新造之記』とその寄付者名簿からは,明治期の船鉾復興のために社会・経済・場所の基盤となった人物名が明らかになる。これらの人物は旧土地台帳や商工人案内など,近代京都の歴史GISデータから土地所有や居住地・事業地,職業などが判明する。すると,船鉾の復興基盤となった人物の属性は職住一体の町内居住者や町内で事業を行う町外居住者,借家経営者,借家人など様々であるが,これらの属性をもつ人物が社会・経済・場所の各側面において異なる論理で運営基盤を構築していた。
     このような状況は明治期の船鉾の復興に限らず,大正・昭和初期における船鉾や橋弁慶山の運営にもみられ,近代の山鉾行事では合理的な運営基盤が構築されていたと分かる。また,近代は山鉾行事への補助が段階的に充実していくが,そのような状況でも山鉾行事が町内主導の行事として現在まで継続していることは,各山鉾の運営基盤が常に町内を中心に構成されていたことにある。
    4.おわりに
     本研究の成果は地域住民が伝統的な祭礼を未来への継承方法の見直しに繋がる。現在,発表者は町文書の画像とテキストデータを閲覧・公開するためのデータベースを構築中である。研究者による利用はもちろん,他町や他都市で伝統的な事物を継承している地域住民が様々な事例を参照できるような環境整備を目指している。
  • 山下 博樹, 北川 博史
    セッションID: 917
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    Ⅰ. はじめに
     21世紀はアジア、アフリカなど途上国での爆発的な人口増加と、それにともなう居住地の拡大が乾燥地にも及ぶことが懸念されている(MA, 2005)。これに対し筆者は、これまでアメリカ合衆国南西部、とりわけアリゾナ州での研究成果から、乾燥度の高い地域でも一定の産業集積など存立基盤の維持を条件に都市の存続は可能であり、インフラの整備などの条件が整うことで大都市化の進展も期待できることがわかった。他方で、鉱産資源開発にともなって形成された中心地の多くでは、資源枯渇化後の極端な人口減少や地区の衰退・消滅などのゴースト化が認められ、小規模中心地の持続性が低いことが明らかとなった。本報告ではアリゾナ州での動向と比較しながら、Livability(住みよさ)の高いオーストラリアの主要都市の状況と、鉱産資源開発の一大中心地である西オーストラリア州のゴールドフィールドでの小規模中心地の存立基盤とゴースト化の動向について検討し、その特徴を明らかにしたい。

    Ⅱ. オーストラリア主要都市の大都市化の動向
     オーストラリア大陸は、内陸部と沿岸部との乾燥度(年降水量)の較差が大きく、都市の多くは沿岸部に集中している。こうした自然環境の特性から、オーストラリア大陸では居住可能な地域には制約があり、水資源確保が可能な都市地域への人口集中が進む傾向が早くからみられた。2016年現在、オーストラリアの都市圏のうち、シドニー(503.0万)、メルボルン(472.5万)、ブリスベン(236.0万)、パース(202.2万)、アデレード(132.4万)は都市圏人口が100万を超えるが、人口が10万以上を有する都市圏は全国でも17に過ぎない。これらの主要5大都市圏への人口集中度は1911年の40.3%から2016年には66.1%に上昇している。近年オーストラリアの主要都市は、EIU、Mercerなどによる国際的なリバブル・シティ(住みよい都市)のランキングで上位を占め、高い評価を受けている。他方、水資源に乏しい乾燥地での大都市化には課題も付きまとう。つまり、一部の大都市に人口が集中化したオーストラリアの主要都市では、水資源問題が深刻化しており、市民生活レベルでの節水(シャワーの使用時間の制限、庭木への散水の制約など)では十分ではなく、淡水化プラントの建設や他地域からの水の輸送なども必要となっている。

    Ⅲ. 西オーストラリア州での旧鉱産集落のゴースト化の動向
     西オーストラリア州のゴールドフィールドは、金鉱を産出する一大地帯で大小様々な規模の金鉱山が広範囲に点在している。当該地域を代表する金鉱山がスーパーピットで、巨大な露天掘りによる採掘が行われている。ゴールドフィールドの中心都市カルグーリー=ボールダー市は人口約3.3万人の小都市で、広範なゴールドフィールドの鉱山などに就業する居住者を支えている。この地域の盛衰の概要は次の通りである。 
     乾燥度の高いこの地域で1893年に金が発見されると、その5年後の1898年には2,018人の人口が記録された。金の採掘とそれにともなう人口増加には、水資源と採掘された金鉱を運搬する手段が必要となった。パースとカルグーリー間の約600kmを結ぶ東ゴールドフィールド鉄道は1897年に、同じくパースからカルグーリーに水を供給するパイプラインは1903年に完成した。このパイプラインは現在も、ゴールドフィールドの約3万3千世帯、約10万人以上に水を供給している。
     ゴールドフィールド一帯には、小規模な金鉱山が多数あり一部は現在でも稼働しているものもあるが、すでに資源枯渇化のために閉山となり、旧鉱産集落のほとんどはゴースト化している。カルグーリー=ボールダー市の北に位置するメンジーズ郡は、日本の国土のおよそ1/3に匹敵する約12.5万㎢の面積をもつが、郡の中心となるメンジーズの2016年の人口はわずか108人である。メンジーズは1894年に金が発見されると、1900年には約1万人の人口を数え、1901年には町役場も設置された。ゴールドラッシュは約10年続いたが、1905年には人口は1千人以下に減少した。こうしたことから、単純な比較はできないが、アメリカ合衆国アリゾナ州での鉱産資源開発起源の砂漠中心地と比べ、ゴールドフィールドは広域に及ぶ豊富な資源の存在から、資源が枯渇化しても容易に周辺に新たな鉱産開発が可能であるために、労働者のモビリティが高く短期間に多くの集落でゴースト化が進展したと推察される。

     本研究は、鳥取大学乾燥地研究センターの平成28~29年度共同研究である「オーストラリアにおける砂漠都市の大都市化・ゴースト化の動向」(山下博樹)の成果の一部である。
  • 伊藤 智章
    セッションID: 337
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    次期学習指導要領で必修科目として設置される「地理総合」の授業を念頭に、アクティブ・ラーニング型の地誌の授業を行った。文部科学省は、生徒が主体的に学び、対話を通して深い学びを行うことを求めているが、現場の教員の抵抗感は強い。専門外の教員が担当することも踏まえ、形骸化させないためにも、まずは使いやすく応用の効く教材を作ることが必要である考える。
     対象を高校3年生の地理A、「オーストラリアの地誌」とし、位置情報を持った主題図をタブレットコンピューター上で自由に閲覧できる「デジタル地図帳」システムを使って生徒が地図上の情報を大きな白地図の上に描き写して情報の関連性を述べる授業を行った。既存の教科書や資料集の地図に加え、オーストラリアの公的機関が公開している地図や、地図上に展開された写真やグラフを閲覧し、集団で検討しながら作業をすることで、通常の講義式の授業よりも意欲的に洞察する学習を行うことができた。
     教師の指示に合わせて紙媒体で確認する形の資料活用から、より多くの資料を生徒が主体的に選び、組み合わせて発表する形は、「アクティブ・ラーニング」的な学習ができたといえるが、教材準備の煩雑さや専門的な技術が必要な点で、教材の汎用性には課題が残っている。今後、教材の製作者や教育団体等が分担して、二次利用を前提とした地図や写真資料の作成や公開を進めて行くことが求められる。
  • 森脇 広, 永迫 俊郎, 吉田 明弘, 松島 義章
    セッションID: P224
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    南九州の鹿児島湾奥を占める姶良カルデラ周辺には,完新世の海成段丘が特徴的に分布している.これまで演者らは,その地形と構成物質の調査から,完新世において姶良カルデラ内の西よりの位置を中心として最大10mほどのドーム状隆起をしていることを明らかにし,これと姶良カルデラの火山活動との関係を論じた(Moriwaki, et al.,2015など ).
     こうした姶良カルデラの完新世の隆起の背景を,広域的視点から検討するために,姶良カルデラを含む火山構造性陥没地からなる鹿児島湾の沿岸や,さらに陥没地外の大隅半島太平洋沿岸や薩摩半島東シナ海沿岸において,平野の地形とボーリング掘削による構成堆積物の調査を行ってきた.今回報告するのは,姶良カルデラに近い鹿児島湾中部東岸の垂水平野と中部西岸の谷山平野,姶良カルデラから離れ,阿多カルデラ縁辺にある鹿児島湾南部東岸の大根占・根占平野と南部西岸の喜入平野,火山構造性陥没地外にある大隅半島太平洋岸の肝属平野と薩摩半島東シナ海沿岸の諸平野である.これらの場所で,完新世最高海水準の高度の知見を得ることを主目的として,地形分類と地形高度調査,さらにボーリング掘削を行った.今回はこうした地形と堆積物観察から,南九州を俯瞰した完新世の地殻変動の概略を予察的に検討し,姶良カルデラの隆起の背景を考える.
     垂水平野:垂水平野は,海抜高度5~10mの段丘地形が認められる.この段丘上の2地点で深度10mと20mのボーリングを行った.堆積物は,砂礫を含む淘汰の悪い氾濫堆積物や土石流堆積物で,段丘面が相対的高海面に対応して形成された痕跡は認められない.
     谷山平野:段丘地形は認められない.海岸側には砂丘の載った比較的広い砂州があり,この背後の台地崖下の低地遺跡発掘に伴う堆積物の観察では,現海面付近まで河成の砂礫堆積物からなっている.
     大根占・根占平野:高度10mほどの段丘地形が認められる.大根占平野での深度20mのボーリング掘削では,有機物を多く含む土石流堆積物が現海面下まで存在する.根占平野での深度30mの掘削でも,現海面上に明瞭な海成泥質堆積物や,貝化石を含んだ堆積物は認められない.
     喜入平野:標高5m以下の低湿地で,段丘地形は認められない.2地点での深度10mと20mのボーリング掘削では,貝化石・テフラを含む泥質堆積物は現海面より上には認められない.
     肝属平野:海岸側に規模の大きい志布志砂丘の載る砂州地帯と背後の広い湿地性の低地が分布する.この砂州地帯のもっとも内陸にある大塚砂州で池田テフラ(6400年前)に直接覆われる海浜堆積物の高度は約5mである.
     薩摩半島東シナ海沿岸の平野:南部の万之瀬川低地は海岸沿いの砂丘帯と背後の低地からなる.内陸側の上水流遺跡では,縄文前期の曽畑式土器を含む河床砂礫堆積物が現海面付近にまで分布する.北方の市来貝塚の載る台地付近の低地での最高海面高度は1.4m(3000年前)である(森脇ほか,2002).
     考察とまとめ:姶良カルデラ周辺以外の大隅・薩摩半島沿岸では,現海面上に確実に海成の痕跡とみられる堆積物や地形は高度約5m以下で,著しい隆起は認められない.鹿児島湾東岸の平野は段丘化しているが,段丘面は基本的には相対的高海面に対応して形成されたものではない.巨大噴火を経験している阿多カルデラの周辺には完新世において顕著な隆起は認められない.以上の点から,姶良カルデラの完新世の隆起は,南九州では姶良カルデラ特有の現象で,これまで論じてきたように,姶良カルデラの火山活動と密接に関連したものであると考えられる.今後,堆積物の微化石分析,テフラ分析・C-14年代測定を行って,古環境・旧海水準とその年代を明らかにし,確度の高い検討を行う予定である.
  • 小川 滋之
    セッションID: 536
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    研究の背景と目的 ハリエニシダUlex europaeus L.はマメ科ハリエニシダ属の常緑低木であり,西ヨーロッパ地中海岸地域が原産である.ヨーロッパやオセアニアなどの温帯域を中心に帰化が確認されており,日本の本州や四国にも定着している.世界の侵略的外来種ワースト100に選定されるほど侵略的な種とみられている.

    本研究では,イギリス,ロンドン近郊の丘陵地にみられるハリエニシダ群落の特徴を報告するとともに,日本における今後の脅威について考察する.

    調査地・方法 ハリエニシダが多い地域としてロンドン郊外の丘陵地域で調査を行った.テムズ川に由来する砂礫が堆積する丘陵地であり,ナラやブナ,カバノキが優占する森林から草原に至る地域である.林冠ギャップ,伐採跡地,林縁の三つ環境下においてハリエニシダ群落の組成と個体特性の調査を行った.群落の調査では樹種名と群落サイズを,個体の調査では群落ごとにみられる個体サイズ,株数,実生(樹高20㎝未満)の有無を明らかにした.

    ハリエニシダ群落の特徴 ハリエニシダ群落の分布は,林冠ギャップ,伐採跡地,林縁の3つの環境下が主であった.林冠ギャップでは,ナラやカバノキなどが樹高10 m以上の林冠層に,ハリエニシダの他にセイヨウヒイラギやセイヨウヒイラギガシなどがみられた.ハリエニシダは樹高2.0-4.0 mで高いが,群落内の個体は単木的で少なく,実生もみられなかった.

    伐採跡地では,ナラやカバノキの樹高3 m程度の萌芽した低木が多くみられた.イネ科草本の他ではセイヨウヤブイチゴやギョウリュウモドキがみられた.ハリエニシダの樹高は低いが,群落内には成木や実生が多くみられた.

    林縁では,オウシュウシラカンバやヨーロッパナラが多く,下層にはイネ科草本の他にセイヨウヤブイチゴがみられた.ハリエニシダは,林冠ギャップと伐採跡地の中間型の特徴がみられた.

    考察 ハリエニシダは,ニュージーランドなどでは生長の速さや埋土種子の寿命から牧草地や河川に侵入すると一面を埋め尽くすように分布拡大する侵略的外来種とみられている.しかし,本研究の群落の分布では,林冠ギャップ,伐採跡地,林縁の環境下に限られ,少なくともロンドン郊外では今後としても侵略的外来種として分布が拡大することは無いようにみえる.

    ハリエニシダの更新については,ニュージーランド南島の草原や低木林に成立した群落では15年ほどで成熟して種子散布を始め,30年ほどで個体寿命をむかえる(Lee et al. 1986).林冠ギャップでは,周辺のナラやカバノキなどの高木性樹木が十分に生長する以前に侵入して定着した.比較的樹高が高い個体が多いことから老齢な個体であり,実生もないことから近い将来消滅する群落である.一方,伐採跡地や林縁にみられる群落では,実生が多いことから,今後としても少なくとも30年程度は存続するかもしれない.しかし,本来は森林が成立する環境下であることから,管理をしなければ数十年後には消滅すると考えられる.

    日本の分布は人工改変地の空き地あるいは荒地にみられるものの,その分布は本州や四国の一部地域に限定されている(清水2003).地表面の攪乱頻度が高い河原などの森林が成立しない環境下で一時的に群落を形成する可能性はあるが,ロンドン郊外と同様に大きく分布を拡大して侵略的外来種となることは少ないとみられる.

    なお,現地調査には2016年度小林浩二研究助成の一部を使用した.
  • 平井 幸弘, 佐藤 滋, 古川 尚彬, 川原 晋, 田中 滋夫
    セッションID: 937
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    はじめに
     グエン王朝の都が置かれたフエは、ベトナム中部ハイヴァン峠の北側海岸に位置し、明瞭な雨季と弱い乾季のある熱帯モンスーン地域に属する。雨季は例年8月後半から翌1月初旬頃までで、とくに10~11月にはモンスーンや台風の影響を受け、月降水量が700~800mm、年によっては1000mmを越える。一方、1月下旬から8月初め頃までの乾季にも月100mm前後の降水がある。

     グエン朝の歴代皇帝陵および周辺地域では、そのような気候の特徴に対応し、雨季には陵墓およびその下流域での洪水氾濫を防ぎ、逆に乾季には陵墓の中心に造営された湖が干上がることなく、下流域に灌漑用水を供給できるよう設計・維持されてきたと考えられる。しかしながら現在では、そのような伝統的水利システムがうまく機能しなくなっている。そこで本発表では、初代皇帝のザーロン帝陵(19世紀初め)を例とし、機能不全に陥っている要因を探り、伝統的水利システムの再生について提言したい。

      

    2. ザーロン帝陵での歴史的水利施設とその損壊

     ザーロン帝陵の中央に位置する湖の主な水源は、その南側に広がる丘陵地に降る雨と地下水である。湖のすぐ南側で、水田となっている2つの浅い谷が合流し、そこから2本の石造りの水路で湖と繋がっている。この水田と水路は、洪水時の過剰な水を遊水させ、湖での泥の堆積を抑制する役割があったと考えられる。しかし現在、この石造りの水路の1つが損壊し、雨季にはその脇にある素堀の溝を通って大量の水が湖に流入している。

     一方、湖の最下流端には大きな石造りの水門があり、その下流側には石張りの水路が続く。水門および水路底の高さは、湖の湖岸よりマイナス50cmで、洪水期に湖の水位が上昇し、湖岸からマイナス50cmより高くなると水門から水が流出し、逆にそれ以下では湖の水位を維持するように設計されている。しかし現在、この水門と水路は大きく破壊され、湖水は壊れた水門の両脇の地面を削りながら流れ出ている。そのため湖の水位は、乾季には湖岸からマイナス約100cm以下まで低下し、雨季でもマイナス70cmほどまでしか上がらない。

     また湖の下流部左岸側には、他の湖岸より約40cm低い湿地が広がっている。この湿地は、洪水期の遊水池、かつ乾季に備えての貯水池の役割を果たしていたと考えられる。しかし現在、この湿地や湿地と湖との間の護岸の管理・修復がほとんど行われず、遊水や貯留の機能を十分には果たしていない。



    3. 陵墓および集水域における植生・土地利用の変化

      皇帝陵の陵墓周辺は樹高10m以上の松林で、林床には低層の植生はなく、松葉だけが地表を覆っている。これは陵墓を取り巻く清浄な空間を演出するだけでなく、雨季の激しい雨による土壌の侵食を防ぐ役割も果たしていると考えられる。しかし近年、帝陵の流域では、そのような松林がパルプ用材としてのアカシア(Acacia mangium)の植林地へと急速に変化している。

     一般にこの樹の成熟に要する期間は7~10年とされるが、当地では植林して4~5年で伐採されている所が多い。伐採は乾季の終わり頃に行われるが、再植林後のまだ幼木の時期に強い雨が降ると、そこから表土が流出する。植林から伐採までの期間が短いと、それだけ地表面から流出する土砂量は多くなる。さらに、伐採時に木材搬出のためのトラックが林業地に入り込み、顕著な土壌の破壊が起こっている。



    4. 伝統的水利システムの再生に向けて

     上述のような水利施設の損壊や周辺の土地利用の変化などによって、湖への土砂流入が増える一方、護岸の修復や定期的な底泥の浚渫などが行われず、湖底が次第に浅くなり湖の貯留容積が大きく減少していると推測される。 

     今後、帝陵およびその周辺における伝統的水利システムの再生には、(1)水利システムを支える要となっている重要な水利施設の修復、(2)陵墓周辺および上流域でのアカシアを主とした林業の施行範囲や施工方法についての規制、そして(3)湖への土砂流入防止のための護岸の修復と湖底の定期的な浚渫、が必要であると考える。
  • 海津 正倫
    セッションID: S301
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    Ⅰ 地形分類図作成の背景
     わが国における地形研究で地形分類図が使われるようになったのは戦後のことである.戦前の地形研究の論文では辻村(1932 abc)のように文字のみだったり,地形図や写真などを示しただけのものも多く,地形を詳しく区分した図を用いたものはほとんど見られなかった.ただ,そのような中で淡路(1932)はGeogr.Zeits.に掲載されたナイル川河谷の地形分類図を紹介しており,わが国に紹介された地形分類図としては最も早いものの一つであると思われる.また,戦前は一般人の空中写真利用が不可能であったが,佐藤久氏は陸地測量部において空中写真を扱う機会を得て,戦後の空中写真による地形研究の基礎を作った.

    Ⅱ 地形分類図整備の進展 
     戦後しばらくの時期には,戦時中に荒廃した国土にカスリン台風やキティー台風,アイオン台風などが襲来し,各地で顕著な水害が発生したことや,戦後の食糧増産が急務であったことなどを背景に,国土の開発や資源,土地条件などに対して積極的に目が向けられた.
     そのような中,戦中期に文部省の直轄研究機関として設立された資源科学研究所が戦後再出発し,地理部門のメンバーとして多田文男氏や大矢雅彦氏,三井嘉都夫氏,阪口豊氏などが活躍した.また,この頃になると学術論文に地形学図とよばれる地形分類図が載るようになり,多田・坂口(1954)は低地の地形分類図を用いて狩野川低地の地形発達を検討している. 
     1952年には資源調査会設置法にもとづき,総理府資源調査会が設置され,治山治水総合対策のための基礎調査などを開始し,1956年度には木曽川流域についての調査が実施された.この調査は東京大学教授の多田文男氏を中心に、オランダで土地分類を学び(中野, 1952)のちに東京都立大学教授となる建設省地理調査所地理課長の中野尊正氏、のちに法政大学教授になる資源科学研究所員の三井嘉都夫氏、のちに早稲田大学教授になる資源科学研究所員の大矢雅彦氏という当時若手気鋭の地理学者達か゛担当した。そして,この報告書には付図として空中写真判読にもとづいて大矢雅彦氏が作成した木曽川流域濃尾平野水害地形分類図か゛添付され,洪水時の浸水状況と低地の微地形分類とが良好な対応を示すことが示された.
     当初この水害地形分類図はそれほと゛注目を集めなかったか゛,3年後の1959年9月に台風15号(伊勢湾台風)か゛襲来し,水害地形分類図と被災状況が対応していることが注目された.その後国会て゛も議論となり,水害地形分類図のような地図を災害対策のために緊急に整備する必要性が議論され,土地条件図などが整備される契機になった.
     一方,1950年に国土総合開発法,1951年に国土調査法が制定され,1954年から経済企画庁(後に国土交通省)により土地分類基本調査が開始された.1/50万,1/20万の土地分類調査に加えて,全国51のモデル地域において1/5万図幅単位で表層地質図や土壌図などと共に地形分類図が作成され,その事業は各都道府県に引き継がれ,北海道など一部を残して国土のかなりの部分をカバーした.

    Ⅲ 現在の地形分類図
     上記のような地形分類図は表1に示すように現在も国土地理院の治水地形分類図や数値地図25000(土地条件),国土交通省の土地分類基本調査(土地履歴調査)などの形で作成・改訂が進められ,各自治体においては洪水ハザードマップなどの作成も進んでいる.また,多くの地形研究でも地形を把握し,理解するために対象地域の地形分類図が積極的に活用されている.
  • 平山 弘
    セッションID: 828
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    1.概要
     本研究は「中小・零細企業に必要とされるプラットフォーム化とブランド価値創造戦略の重要性」の一環としておこなっているものであり、その研究の意味するところは、本研究テーマに則ったプラットフォーム化について、特に東北地方の岩手県のクリエイティブな企業での調査研究を通して、ニッチではあるけれども、日本国全体、および世界全体から見れば大きな市場であるという観点から報告することになる。いわばエコロジカルニッチ産業の検証とその分析およびそこから明らかにされる新たなブランド価値の探究である。ここでは、創業から百十四年を迎え、松栄堂の持つDNAとも言える、「近きもの喜びて遠きもの来る」という、いわばローカルニッチにもつながるその心意気と生産工程および付加価値づくりについて提示することになる。
    2.松栄堂の概要と沿革
    2-1. 松栄堂の会社概要
     店舗戦略
     SWEET FIELDS SHOEIDO
    2-2. 松栄堂の沿革
     松栄堂の店主とエポックメーキング(画期的な出来事)
    3.ローカルニッチ戦略
      近きもの喜びて遠きもの来る
      エコロジカル・ニッチ戦略
      ローカルニッチからグローバルニッチに至るプロセス
      松栄堂のプラットフォーム
    4.商品構成から見えてくるもの
    (1)定番商品
    (2)季節限定・数量限定
    (3)通常商品の増加とアイテム数の拡大
    5.今後に向けて
    (1)菓子匠の持つ意味
    (2)和菓子と洋菓子の配分
    (3)和菓子店としての兵站(ロジスティクス)
    (4)グローバル・スタンダードとしてのHACCPへの取組み
    【謝辞】本研究はJSPS科研費 JP16K03966の助成を受けたものです。
  • 宮城 豊彦, 柳澤 英明, 呉 正方
    セッションID: 411
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    中国と北朝鮮の国境の長白山は標高2720mの成層火山で、約1300年前に巨大噴火を引き起こし、その火口が天池と称される火口湖となった。これ以後破局的な噴火を引き起こしてはいないが、その可能性は常に留意されるべき活火山である。長白山一帯、特に天池とその火口瀬である長白瀑布一帯はジオパークの拠点として年間150万人の観光客を集める場所であり、地すべりなど火山活動以外の災害発生リスクへの留意もあるべきだはないか。

    7年前の厳冬期と昨夏に現地を訪れ、若干の現地観察を重ね、今期はAW3D、Ortho画像、Google Earthなどでの地形分析も試みた。天池は直径3-4㎞程度の大規模な湖で、その周辺には地すべり性の大規模なマスムーブメントによる地形と思われる場所が多数みられる。

    天池の火口壁周辺では、地すべりの初期兆候とみられるキレツ等の微地形が複数確認できる地すべりの存在が注目される。地すべり地形の背後(斜面上方)に見られるキレツは、次の破壊の兆候となるものであり、このキレツを境にして大規模な地すべりが発生する可能性が高い。地すべりが発生すれば0.5㎞3内外の土砂が天池に崩落することになる。この地変が津波などの連鎖的な災害を引き起こすことが懸念される。火山における大規模な地すべりの発生は、2008年岩手・宮城内陸地震時における荒砥沢地すべりの発生に例を見るように、その多くが地震動に誘発されている。長白山自体の火山性地震のみならず、近隣で引き起こされるあらゆる地震動は誘因として常に懸念される。

    地震動発生の可能性とこれを契機とする地すべり発生、その連鎖としての津波、土砂ダム決壊など、長白山の山頂周辺では様々な斜面災害の発生が懸念される。今後は、これらの災害潜在性を的確に把握・評価して、より安全な観光地の経営を志向することが求められるのではないか。
  • 栗栖 悠貴, 稲澤 容代
    セッションID: 336
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    中央教育審議会の答申(2016年(平成28年)12月「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」)にて,高等学校において新たな必履修科目として「地理総合」の設置を求めるなど,地理教育が重要視されている.また,その実施にあたっては,各教科等の教育内容を総合的に捉えて教育課程を編成する「カリキュラム・マネジメント」の重要性が指摘された(2017(平成29)年2月報告「小学校におけるカリキュラム・マネジメントのあり方に関する検討会議」報告書より).しかし,教科横断的な学習を早期に実現するためには,①簡易に利用できる教材②具体的な実践事例などが必要である.教科としての地理は社会科の分野に位置づけられるが,地形や空間的な位置関係を把握するための手段として,地理的な考え方を活用すると教科横断的な学習が可能となる.本報告では,特別なGISソフトが不要なウェブ地図であり,有用な地理空間情報が豊富に掲載されている地理院地図<https://maps.gsi.go.jp/>を利用して,地形を切り口とした教科横断的な学習や地域学習を支援するための具体的な活用例(参考:国土地理院応用地理部ツィッター<https://twitter.com/gsi_oyochiri>)を中心に紹介すると共に,考察を深める際に利用できる地理院地図の便利な機能について紹介する.
  • 永田 玲奈, 三上 岳彦
    セッションID: P118
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    本研究では北西太平洋おいて温帯低気圧化(以下温低化)した台風の数を2.5度グリッドごとにカウントし,1951~2015年における温低化領域の長期変動について明らかにした.その結果,北西太平洋における台風の温低化領域の南限が1990年以降に北上していることがわかった.この原因は1990年以降に見られる北西太平洋における海面水温上昇と,日本付近での傾圧性の弱化によるものであった.
  • 澤田 康徳
    セッションID: S604
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    地理学における気候は,人間の社会的営みと深く関連するもので(福岡 1993),気候学習は学校教育段階において社会科や地理歴史科に位置づけられている.これらの諸点を踏まえても,気候学習は大気の平均状態の認識育成にとどまらず,人間社会との連関を総合的に捉えることに学習の眼目がある.しかし,気候は不可視的で時間的・空間的変動が大きい大気の平均状態で抽象性が高く,理解することが元来難しい.気候の景観写真が教材としての意味をもつためには,学習者が地域で数十年以上卓越する気候を反映した建造物や植生,土壌を推考することを伴う.大学生段階では,現在の気候の理解だけでは不十分であるという気づきがみられるものの(松原 2009),教員養成として,まず在学生の現在の気候を推考する特徴を捉えて,初等・中等教育段階における有意な学習内容を構築する必要がある.本発表では,教員養成大学在学生の写真の読み取りと活用意識を踏まえ,教員養成を中心に気候学習の内容を議論し,写真の推考によって理解できる内容を示す.

    調査 教員養成大学在学生(63名)に気候景観に関する写真の読み取りに関するアンケートを行った(2017年12月).内容は,視聴覚教材に対する活用(質問1:社会科の授業を行うとして,以下の教材は活用しやすいと思いますか)と将来的志向(質問2:以下の教材を積極的に活用したいですか),および写真(図1)の読み取り(質問3:a地域・国,b気候帯,c季節,d気候帯の判断理由)についてである.質問1,2は5段階評価でそれ以外は記述で行った.

    結果 視聴覚教材のうち,写真は在学生が最も活用しやすいと考え(4.71点),将来的活用志向(4.68点)も高い.大学生段階で活用しやすいと感じている教材ほど将来的活用の志向も高く(表1),地理を専門としない教員にとっても抵抗感が少ない教材と考えられる.気候帯の判断は,最大人数の割合が現実とよく一致する写真(1,3,4,7)と一致しない写真(2,5,6)がある(表2).一致する写真は,ヤシ(1),桜(3),田・稲(4)といった気候帯特有の植生,日本(国)を判断できる電車(7)が気候帯の判断理由となっている.一致しない写真は,樹種が判断できない(2,6)か,ツリーと判断できても全気候帯にみられ地域性の判断が難しい事象(5)が判断理由であった(表3).このように,いずれの写真も気候帯の判断は植生に依拠している.乾燥帯における霧採取ネット(6)は既得知識がない場合事象の理解は困難であるが,日本各地に分布する屋敷林(4)であっても気候対応には着目されにくい.植生≒気候のイメージを超えて,気候対応の多様な事象に着目させて,気候学習の教材観を育成する必要がある.
  • 後藤 秀昭
    セッションID: P225
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    1. はじめに 

     変動地形を判読する資料は,近年,空中写真のみならず,数値地形データ(DEM)の併用が一般化し,1960年代に空中写真が用いられるようになったのと同様の重要な転換を迎えている(後藤・杉戸,2012;Lin et al.,2013など)。海底の地形についても高解像度な地形データの収集とステレオ画像の作成により,地質構造を手がかりにしながら海底地形を解釈し,これまでとは全く異なる断層分布やプレート境界像が描かれるようになった(Nakata et al., 2012など)。

     沿岸域の変動地形については,陸上地形と海底地形がそれぞれ別の分野で研究され,統合的に検討した研究は少ない。分野の違いだけでなく,海陸を統合して俯瞰する詳細な地形資料に乏しいことによると考えられる。そこで,後藤(2014)は沿岸海底の地形データについて可能な限り収集して,数値標高モデル(DEM)を生成し,刊行済の陸上のDEMとあわせて,陸海を統合したDEMに基づく地形ステレオ画像を作成した。これにより陸上活断層の海底延長(後藤,2014)や海成段丘の分布を合理的に説明できる海底の活構造の認定(Goto,2016)のほか,海面下の沈水段丘面の地形発達など,重要な新知見がもたらされつつある。

     本研究では,南西諸島南部の石垣島とその周辺を対象に,海底地形の情報を収集し,数値標高モデルを生成して,1枚の画像で海陸を判読できる統合した地形アナグリフを作成した。これを変動地形学的な手法で判読を行い,陸上の段丘面の分布と海底の急崖や平坦面の分布を明らかにした。これらの標高分布に基づくと,石垣島南部では南東部で高く,西に向かって低下する局地的な傾動があることが解った。石垣島南東沖には北東─南西方向の活断層が延びているとされており,その活動によって変形した可能性がある。

    2.作成方法と概要 

     海底地形の情報は,(財)日本水路協会発行のM7021の等深線データと,JAMSTECの航海・潜航データ・サンプル探索システム「Darwin」から収集したマルチビーム測深データを用いた。

     陸上地形については,国土地理院の写真測量に基づく5mメッシュのDEMを用いた。これらをSimple DEM viewerに読み込み,後藤(2015)の方法に従って浅海底の細かな地形が観察できるように調整した傾斜角による地形アナグリフとした。

    3.石垣島南部の海成段丘の傾動

     石垣島では2段の海成段丘が認められ(木庭,1980),島を取り巻くように分布する段丘面はMIS5eに形成され,その旧汀線高度は南部を除き50~60mで,旧汀線高度が84mを示す南西部のバンナ岳付近に隆起の中心があり,そこから周辺に低下するされた(町田,2001)。本研究の判読では,町田(2001)により南部にのみ発達するとされた下位の段丘面を2段に細分することができ,南部では3段の海成段丘面(M1面,M2面,M3面とする)が発達することが解った。M2面,M3面の分布高度は,それぞれ南東端付近で30m,15m,その7km西で20m,10mと西への傾動が認められる。また,南東部には北北東-南南西方向の宮良東方断層(「日本の活断層(1991)」では確実度II)がM1~M3面を変位・変形させているのが確認された。

    4.石垣島周辺の海底地形

     海底130m以浅に分布する急崖は,石西礁湖の広がる西部を除いて,島を取り囲むように2段認められる。北東の半島部では,水深50m程度と80m程度で,水深50m付近の急崖基部を堀・茅根(2000)は内側傾斜変換点(IB)と呼び,約10~11kaの海面上昇が弱まった時期に形成されたとした。ただし,島の南東岸に,不規則な凹凸のある面が認められ,他の地域に比べて特異な様相を呈することが新たに解った。

     海上保安庁の海底地質構造図「石垣南部」(1991)には石垣島南東沖には更新統の琉球層群を切断する北東─南西走向の断層が記載されている。南東部で認められた海成段丘の西への傾動は,短い波長の変形であり,沿岸に分布するこれらの断層に関連した変形の可能性がある。この断層は陸地から離れるように延び,構造図では図郭外のため,北東や東への連続は不明であるが,延長上には線状構造が認められる。この北西側に分布する水深50~70mの平坦面は崖の頂部付近で陸側に傾いているのが判読できる。

     この構造とは別に,石垣島南東の約10km沖には,水深80mに頂部を持つ直径約5kmの平坦面が認められ,頂部は北西に傾動しており,この東の基部に活断層が分布している可能性がある。

    ※科学研究費補助金(課題番号:16K01221)の一部を使用した。
  • 阿部 康久, 林 旭佳, 高瀬 雅暁
    セッションID: 817
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    本稿では,広汽トヨタ社を事例として日系自動車メーカーの中国市場におけるディーラーの分布と修理・メンテナンス用部品の管理システムについて検討していく.調査手法として,広汽トヨタ社のあるディーラーを通じて,ディーラーの全国的な分布状況と部品物流倉庫の立地状況,修理・メンテナンス用部品のストックの状況や配送システム等についての情報を入手した.調査結果として,同社は全国に437店舗のディーラーを持つが,人口比や自動車登録台数比を考慮しても,ディーラーの進出が沿海部に偏っており,近年,自動車の需要が高まっている内陸部への進出が遅れている.この要因の一つとして,十分なアフターサービスを行える資金力のあるディーラーを確保することが難しい点が挙げられる.同社では,ディーラーには修理・メンテナンスに必要な部品のうち,最低でも1,500点以上の部品をストックさせる方針を採っており,ディーラーに資金力が必要になる.また,メンテナンス用部品を交換する際には,短期的な利益を追求するよりは,顧客に十分な説明と同意を得ることで顧客満足度を高めることを重視している.そのため,同社は現状では,販売台数の拡大を目的として内陸部への進出を急ぐだけでなく,アフターサービスの質や満足度を高めることを重視している.結果として競合する外資系メーカーに比べると販売網の拡大は遅れており,特にディーラー確保の難しさが指摘できる.
  • 原 雄一
    セッションID: 727
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    長距離自然歩道は1974年度に東京都高尾山から大阪府箕面の森までの歩く道として誕生した。高度成長期の中で発生した公害や自然環境の劣化に対して、各地の山地や里集落、街道を歩くことで自然との係わりや健康を維持することなどが目的である。その後、九州、中国、四国、首都圏、東北、中部北陸、近畿、北海道、東北太平洋岸へと全国に広がり、計画総延長距離は26,752kmに及ぶ。計画は環境省が行い、管理は都道府県など地元自治体が実施する。2005年以降は、国立公園特別地域あるいは利用者数の多いルートについては、自治体との協議により、環境省が直轄で整備することになった。本稿では、長距離自然歩道の現状と課題をとりまとめ、クラウドGISによるナショナルトレイルとしての活用策について報告する。
    長距離自然歩道のルートのクラウド環境への移行は、東海、九州、中国、四国、近畿の5地域まで完了している。今後、他の5地域に進展させていく。また、分断しているルートを一本につなげ、日本列島を縦断する歩く道に発展する計画である。ロングトレイル、フットパス、オルレなど歩く道の文化が海外からも紹介され、歩くことのニーズが高まっている。一方で、長距離自然歩道の潜在的な魅力が十分に広まっていない状況であり、ナショナルトレイルとしての基盤を構築していく必要性を感じている。GPS衛星のみちびきの効果により、位置の精度が向上することから、道迷い防止の効果など山岳遭難にも活用が期待できる。
  • 本多 広樹
    セッションID: 636
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.はじめに

     近年,先端技術を活用した地域政策が数多く実施されている。従来では,行政や一部の大企業のみが先端技術のユーザーとされていたが,近年では地域の企業や個々の住民への先端技術普及が重視されている(本多 2017)。そこで本研究では,先端技術を組み込んだ地域政策に着目し,普及の空間スケールおよび各ユーザーの分析を通して先端技術の普及プロセスを明らかにすることを目的とした。研究対象地域としては,各種の先端技術の普及を推進する先進事例である神奈川県横浜市を選定した。



    2.横浜市における先端技術普及の背景

     横浜市では先端技術を活用した都市政策が数多く行われている。その中でも最大規模のものが,2010年度から2014年度まで実施された「次世代エネルギー・社会システム実証事業」である。この事業は経済産業省の主導により,全国4地域で実施されたものである。横浜市もその一環として,各種先端技術,具体的には太陽光発電設備,家庭用エネルギーマネジメントシステム(以下,HEMS),電気自動車の3種類を中心に普及促進を図った。

     この中で特徴的なものが,HEMSである。実証事業期間当時,HEMSの知名度はまだ低かった。しかし,横浜市による補助制度の拡大(図1)や,地域の企業による普及促進によって,2014年度時点ではHEMSは市内4,230戸に導入された。



    3.各ユーザーへの先端技術普及

     横浜市においては,2010年以前は太陽光発電設備の普及が中心であった。実証期間がはじまった当初では,HEMSの認知度の低さや補助制度が一部の区に限定されていたこともあり,普及に関わる企業,採用する個人ともに少数であった。横浜市はHEMSを販売する企業に対する認証制度を実施していたが,この当時の加盟企業はごくわずかであった。しかし,2012年度に補助制度が市内全域に拡大すると,この制度に申請する企業が大きく増加した。そして,これらの企業が自身の営業範囲内の顧客にHEMSの採用を勧めた。

     HEMSを採用する企業や個人の中で,以前からこの機器を知っていたユーザーはごく僅かであった。そのため多くのユーザーにとって,横浜市行政や企業からの働きかけが採用の契機となった。
     実証期間後の現在では,量的な普及は静穏化している。その一方で,神奈川県と共同で他の地域にて実証実験を行う企業や,ビジネス実装のための検討など,実証期間中の知見を活かした新たな動きが生まれつつあることが明らかになった。
  • 連 曉
    セッションID: 623
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    近年、世界各地で大規模な水害が発生し,多くの人命が失われている。将来の地球温暖化により洪水リスクが増加し、 防災面から懸念される予測が出されている。現在の堤防等の治水整備レベルを上回る超過洪水による洪水災害リスクを管理するためには,流域のもつリスクを適切に評価し,被害を最小限にとどめるための応急対策等を検討することが喫緊の課題となっている。
    本研究では、 東京都葛飾区を対象地域として、 200 年に 1 回程度起こる大雨により荒川下流域堤防が決壊した場合に想定される浸水が引き起こす人的被害の時空間分布を GIS で明らかにする。 これにより大規模な水害が発生した場合において人的被害を最小限にとどめるために参考となる知見を得ることができる。
  • 大津 拓也, 澤田 康徳
    セッションID: P319
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    目的:従来,気候要素の物理量認識に関して,気温については現在や夏期といった一定時点や期間平均における暑さ・寒さについて,降水量については時間・日といった期間内の多寡の認識が時間スケール別に調査されてきた.降水量は,時間・日・月と異なる時間スケールにおける降水の有無や個々の現象による積算量で,日変化や年変化の規則性が明確な気温に比べて変動が大きい.防災において積算降水量は重要な物理量であるが,時間スケールの異なる降水量認識についてはこれまで議論されてこなかった.短時間降水量は日常生活において密接な物理量であり,日~月等の長期間の積算降水量は防災の観点からも議論すべき認識内容である.また,気候認識には経験的,地誌的理解および系統的理解が関わることや,情報獲得手段の差異も指摘されている.気候認識は,幼少期から連続的に獲得される情報の総体であることが想定されるが,長期的な情報獲得の気候認識への関わりは明確になっていない.本研究では,将来的に防災教育に携わる可能性が高い教員養成大学在学生を対象として,時間スケール別の降水量認識とそれに関わる長期の情報獲得を明らかにする.

    調査:2017年6~7月に教員養成大学(東京学芸大学)において地理,自然環境,環境教育に関連する講義の受講者を対象にアンケート調査を実施した(223名).質問内容は,天気への興味関心(5段階評価),多いと思う降水量(時間・日・月)に関して,および最も印象に残っている雨に関する経験や出来事(自由記述)などについてである.

    結果:多いと思う降水量は,時間(日)降水量では10~20(100~200)mmで回答者数が最大を示す.一方,月降水量では1000 ~5000mmにおいて回答者数が最大(30%)を示し,時間スケールの拡大に伴って強雨研究の豪雨の定義や気象警報の基準値からのずれが大きくなる(図1).さらに,多いと思う降水量を時間スケールごとに四分位を境界とし,降水量認識の階級を小~大の4階級(Ⅰ~Ⅳ)に区分した.そして,最も印象に残っている雨に関する情報を階級ごとに整理した.被災経験などの強い経験は,時間降水量では階級Ⅳで回答割合が高く,日・月降水量では階級Ⅰで割合が高い.すなわち,多い降水量の認識が極端な階級である場合,強い経験を伴うことが多い.仕組み(現象の原理等)は,いずれの時間スケールにおいても小さい階級ⅠやⅡで割合が高い.報道(災害報道等)は,中程度の階級ⅡやⅢで割合が高い.以上のことから,降水量の大小の認識は,主要な情報獲得が報道の場合中程度の階級に近いが,時間降水量においては経験(仕組み)によって大きく(小さく)認識される傾向がある.また,階級による情報種別割合の最大最小の差は,時間スケールが大きくなるほど小さくなり,長期間の降水量の認識には階級による情報種の差異は不明瞭となる.興味関心は,時間スケールが大きいほど中程度の階級で得点が高く,長期間で具体的理解が難しい積算降水量の認識には,興味関心や知識理解程度の高さが関わる可能性が考えられる(表1).さらに,すべての時間スケールにおいて階級ⅠまたはⅣの場合,雨に関する語句の種類が少なく,雨・大雨を多く記述している.すべて階級ⅡやⅢの場合,雨・大雨のほかゲリラ豪雨や豪雨などの複数の雨の降り方も記述している.大雨を極端な降水量階級とする場合,降水現象の知識理解がおおづかみな傾向を示すことが判った(図2).
  • 遠藤 怜子, 赤坂 郁美
    セッションID: P124
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1. はじめに

    干潟の干出、冠水は熱交換作用を複雑に変化させる要因となり、表面温度や水温に影響を与える(水鳥ほか1983;松永ほか1998)。その結果、干潟内の気温は干潟の干出しない沿岸部とは異なる特徴を有している。しかし、それらを干潟周辺の気温変化に関連付けた研究は少ない。そこで本研究では、干潟内の水温や表面温度の観測を行うとともに、干潟周辺の気温などの観測や既存の気象データの解析を行うことにより、干潟の干出、冠水が夏季に周辺の気温にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とする。



    2. 調査方法と使用データ

    調査地は千葉県木更津市の沿岸に干出する盤洲干潟である。盤洲干潟は東京湾内に位置し、小櫃川が運搬した砂泥が前浜部に堆積して形成された前浜干潟で、日本でも最大級の干潟である。

    干潟の干出・冠水が周辺の気温にどのような影響を与えるかを調査するために、2017年7月9日~9月30日の期間に、干潟に面した4地点と海岸から約4km離れた1地点で気温計(T&D社製TR-52i)を設置し、10分間隔で気温を記録した。また、干潟の干出が気温に影響を与える場合、どのような気象条件の時に特徴があらわれやすいかを明らかにするために、環境省の大気汚染物質広域監視システム(木更津市内7地点)の風向、風速の1時間値を使用した。同様に、観測地に最も近い、気象庁の観測地点であるアメダス木更津の気温、風向、風速、日照時間の10分値及び風向、風速の1時間値を使用した。

    定点観測期間中において日中に干潟が干出している日と干出していない日を抽出するために、アメダス木更津の降水量、日照時間、潮位の1時間値も使用した。抽出条件は、①1日を通して降水がなく、②日照時間が7時間以上で、③9時から14時の間に干潮をむかえ、④その時の潮位が50cm以下であるという4点とした。①から④のすべてを満たす日を干潟干出日とし、干潟干出日を除く①、②のみを満たす日を干潟が干出しない晴天日とした。



    3. 結果と考察

    結果として、盤洲干潟周辺の気温変化は、風の吹走パターンにより異なることが明らかになった。風の吹走パターンは、南西寄りの風が吹走する日、風向が定まらない日、海風が吹走する日の3種類に分けることができた。

    図1にアメダス木更津と内陸の1地点を内陸部の地点とし、その2地点の気温平均と沿岸の4地点との気温差を示す(正の値は内陸部より気温が高いことを示し、負の値は気温が低いことを示す)。風向が定まらない日(図1上)と海風が吹走する日(図1下)に分類される干潟干出日には、干潟に海水が流れ込むことで表面温度の上昇が抑えられ、内陸との気温差が大きくなり、その変化は1時間から2時間程度でみられなくなることがわかった。このような変化は、風が弱く風向が定まらない干潟干出日に明瞭にみられ、その気温差は最大で-3℃程度であった。風が強い南西よりの風が吹走する日にはこのような特徴はみられなかった。
  • 重野 拓基, 澤田 康徳
    セッションID: P121
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    目的:暑熱による疾患の気候学的特徴は,これまで都道府県単位(藤部 2013など)および市単位(星ほか 2007など)の差異を中心に議論がなされてきた.また,全ての年齢層を対象とする調査がほとんどで,年齢層別として義務教育段階を対象とした調査では,運動時について解析されている(渡邊ほか 2017).本研究では,夏期の高温地域で,ヒートアイランド(河村 1964など)や,高温出現要因(渡来ほか 2011)の解明でも着目されている熊谷市を対象とし,義務教育段階の児童生徒在校時において暑熱が影響した保健室の来室人数と暑熱環境の地域性を明らかにする.

    方法2016年5~10月を対象期間とし,熊谷市の小(29校)中学校(16校)において,養護教諭の判断に基づいた暑熱が影響した来室人数,および暑熱指標として小学校の敷地内で観測された気温・湿度,それらから算出したWBGTを用いた.1分間で得られる観測値は,正時の値を採用し,観測されていない中学校は最寄りの小学校の値を参照した.

    結果WBGTが厳重警戒段階以上(≧28℃)に達した日数が高頻度の地域は,熊谷市北西~南西部を中心に認められ,北東~南東部や熊谷駅周辺でも頻度が比較的高い(図1).一方で来室者割合の極大は,熊谷市北東部や東部,南東~南西部を中心に認められ都心では割合が小さく(図2),厳重警戒段階以上のWBGTが高頻度の地域と来室者割合の大きい地域は必ずしも一致していない.児童生徒の来室(1校以上)日のうち,WBGTが最高を示す時刻とほぼ対応する最高の気温と湿度について,地点平均に対する全地点平均の差は,気温は熊谷駅周辺の都心および比較的都市化が進展している鉄道沿線で正偏差が,郊外の北部および南部に負偏差が認められる(図3).湿度は気温で正偏差を示した都心では負偏差,北東部や東部,郊外の南東~南西部で正偏差が認められる(図4).すなわち,来室者割合が大きい北東部や東部,南東~南西部は湿度の高い地域に対応している.湿度の地点平均に対する全地点平均の差と来室者割合は,統計的には有意な相関(r=0.29)を示し(図5),気温については有意な相関(r=-0.04)は認められなかった.以上のように,義務教育段階における暑熱が影響する不調には,気温のほかWBGT値に関わり身体の放熱と関連する湿度,および両者の関わりが地域によって異なっている.したがって,地域に応じた暑熱対応の多様性が必要と考えられる.
  • 松浦 萌, 赤坂 郁美
    セッションID: P120
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1. はじめに

     一般に盆地は大気が滞留しやすく周辺大気との混合が起こりにくいという特徴がある。そのため特に夏季日中の気温の高温化が顕著になる。夏季に盆地内を高温化させるのは山谷風循環だけではない。佐野ほか(2012)は、夏季に大阪湾の海風が生駒山を越えて奈良盆地に達すると昇温効果をもたらすことを示した。また、奈良盆地は、盆地気候に加えて都市気候の特徴も有する。深石(2006)では、冬季夜間に奈良市街地で高温域が発生することが示されている。しかしながら、海風の出現頻度や奈良盆地の夏季を通した気候の特性は述べられていない。そこで本研究では、奈良盆地北部で気象観測を行うことによって、奈良盆地内を吹走する風と気温分布の関係および土地利用が気温に与える影響を明らかにすることを目的とする。



    2. 調査方法

     盆地を吹走する風や土地利用が気温に与える影響とその日変化を明らかにするため、2017年7月24日~9月24日に奈良市内の11ヶ所の小学校に気温計(T&D社製TR52i)を設置し、定点観測を実施した。また、土地利用による気温の差異を詳細に明らかにするため、2017年8月24日に気温、風向風速、地表面温度の移動観測および定点観測を行った。気温計はT&D社製TR-72u、TR-72ui、風向風速はニールケラーマン社製ケストレル4500及び5500、地表面温度はtesto社製赤外放射温度計を使用した。解析対象日の風の吹走パターンの分類にはアメダス奈良、アメダス大阪、奈良盆地内および大阪平野内陸部の大気汚染常時監視測定局の風向風速データを使用した。また、観測範囲の土地利用を把握するために地理院地図の細密数値情報を使用した。



    3. 結果と考察

    風向風速データより、夏季日中の風の吹走パターンを分類すると、北風卓越日、西風卓越日、弱風日、弱風西風日の4パターンに分類できた。定点観測の結果より、風の吹走パターンごとの全地点平均気温と全地点晴天日平均気温とを比較すると、大阪湾で海風が発達している西風卓越日および弱風西風日は日中に高温となる一方、大阪湾で海風が発達していない北風卓越日と弱風日の日中には相対的に1日を通して低温となり、気温の日変化に違いがあることがわかった(図1)。これは、晴天日日中に大阪湾からの海風の侵入が奈良盆地で認められ西風が卓越する日には、谷風循環が起こる日と同様に盆地内において気温が高くなることを意味している。

    しかし、風の吹走パターンによる気温分布特性の差異はみられなかった。風の吹走パターンによらず、地点間の気温差は日中に大きくなり、特に盆地底東部では盆地底西部と比較して相対的に高温となる傾向がみられた(図2)。高温傾向を示す盆地底東部では商業・業務地区、中高層住宅地が多いため、市街地化による人工排熱が影響している可能性がある。
  • 菊地 俊夫, 田林 明, 仁平 尊明, ワルディチュック トム
    セッションID: 832
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    研究目的 本研究はカナダ・ブリティッシュコロンビア州内陸のトンプソン・カリブー地域における農村空間の商品化の地域的な特徴を明らかにすることを目的とする。トンプソン・カリブー地域は元々、粗放的な大規模牧畜地域であったが、畜産物流通のグローバル化や、都市と農村の所得格差にともなう人口流出により、大規模牧畜地域は変化している。そのような状況のなかで、農村空間の商品化の特徴的な様相がいくつかみられる。

    研究フレームワーク トンプソン・カリブー地域における大規模牧場が地域の内的条件と外的条件の影響を受けて、さまざま変化する様相を時間的、空間的に明らかにする。具体的には、大規模牧場はそのままの農場規模を利用しながら再編をしていくものと、農場が細分化され、小規模化した農場を利用するものとに大別できる。
    大規模牧場の再編 大規模酪農場は、他の大規模牧畜業と差別化を図るため、オーガニックの牛乳生産に専門化し、搾乳だけではなく市乳や乳製品の加工を行っている。その農場は独自のブランドをつくり、流通システムや販路を開拓している。大規模牧畜農場が醸造用の大規模なブドウ栽培や野菜栽培の農場に転換されたものもある。例えば、大規模な野菜栽培農場は、都市の市場やファーマーズマーケットとの契約栽培により、安定した収益を得ており、ここではBC産というローカル生産をブランドの1つとしセールスポイントにしている。他方、大規模牧畜農場が細分化されて販売され、購入した農家が小規模な農場をより収益性の高い作物栽培(高麗人参栽培)や牧畜(軽種馬飼養)の場にしているところもある。しかし、細分化された農場の多くはホビーファームとして利用されている。
  • 安藤 成美, 赤坂 郁美
    セッションID: P115
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1. はじめに

    日本で気象庁による公式気象観測が開始されたのは1870年代である。それ以前の天候については、全国諸藩の日記・日誌や個人の日記の天候記録をもとに復元しようとする試みがなされてきた。古日記を用いた気候復元の研究は多く行われているが、研究の多くは、ある地域の気候を単一の長期に渡る史料をもとに明らかにし、現存するデータと整合性をとる手法をとっている。そのため狭域な地域で得られる複数の史料を用いることができれば、より精度の高い復元が行える可能性がある。そこで本研究では19世紀以前から観測時代にかけて、複数の地点で天候記録が継続的に記されている関東南西部を対象に夏季の気候復元を行うことを目的とする。



    2. 調査方法と使用データ

    解析に使用する古日記を選定する際には(1)連続した毎日の天気記録が記載されていること、(2)欠損が少ないこと(月の欠損が5日以内)に留意した。解析対象年と期間は、狭域的な地域で重複する日記データが多く得られる1844-1912年6-8月とした。使用する日記は『鈴木平九郎公私日記』、『鈴木日記』、『浜浅葉日記』、『尾崎日記』、『藤沢山日鑑』、『相澤日記』、『石川日記』、『星野日記』、『四歳日録』、『儀三郎日記』、『河野清助日記』の計11日記である。また、日記の整合性を検討する際や、気温の推定を行う際に6-8月の東京都(1875-2017年)と八王子市(1976-2017年)の8月平均気温・月最高平均気温と、6-8月の降水量データも併せて使用した。

    古日記の天候記述もとに、各日記の日々の天候を「快晴」・「晴」・「曇」・「小雨」・「雨」・「大雨」・「雷雨」・「雷」、「晴天日」・「雨天日」、「降水あり」・「降水なし」に分類した。降水頻度の復元には「降水あり」の日数を、気温復元には「降水なし」の日数を使用した。



    3. 結果と考察

     降水頻度(降水が確認された日数を観測日数(92日)で除した値)の長期変動をみてみると、現在よりも1860年後半以前は降水頻度が少なく、1866年頃を境に降水頻度が多くなり、変動を繰り返しながら緩やかな増加傾向にあることが明らかになった。また、1900-1915年頃に降水頻度が多く確認された一方、1925-1950年頃は降水頻度が少なく平均値を下回る年もみられた(図1)。

    梅雨の期間については現在の関東と比較すると、本研究では2番目に降水頻度が多かった1900-1909年が現代の梅雨期と近い持続期間を示した。また、夏季の降水頻度の多寡と梅雨の継続日数には、降水頻度が多いときには梅雨が長く、降水頻度が少ないときには短いという関係がみられた。

    月平均最高気温の推定を行った結果、降水なしの日数を説明変数、月平均最高気温を目的変数とし、Y=0.1556X+26.187と定めることができた。推定の結果、1904-1930年頃に寒冷期がみられ、特に1910年を中心に寒冷であったことが確認された(図2)。温暖期は1850年代と1870年代後半~1880年代前半にかけて確認された。先行研究(例えば平野ほか2012,平野ほか2013)においても、同様の気温復元の結果が得られているが、本研究では高温期のピークの変動幅が先行研究に比べ大きく示されている。推定に使用した石川日記は、1890年以前は同時期の他の日記に比べ雨天日数が少なく晴天日数が多い傾向があるため、日記の記述の精度によってより高温に推定された可能性がある。
  • 泉 貴久
    セッションID: P318
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    社会科教育の一端を担う地理教育の目標は,社会認識を通じて市民的資質を育成することにある。これに関連して,地理教育国際憲章では,「現代と未来に生きる有為でかつ活動的な市民を育成するために,現代世界が直面する主要な問題の解決へ向けて全ての世代の人々がそれらの問題に関心を持つこと」を地理教育の目的としている。また,同憲章をESDの観点から再構成したルツェルン宣言では,「「人間―地球」エコシステムの概念に基礎を置いた」地理教育のあり方を提唱している。これらのことから,地理教育の本質は,現代的諸課題の解決と持続可能な社会の形成へ向けて主体的に参加・行動する市民の育成にあることが理解できよう。

    なお,同憲章では,地理学について,「場所の特質並びに人類の分布,地表面上に生じ,展開する諸現象の分布について説明・解釈する科学」と定義づけている。また,その特徴について,「①特定の場所と位置とを軸に人間と自然環境との関係の研究が中心的課題であること,②自然科学から人文科学にまたがる方法論を統合的に採用していること,③人類と環境との相互関係とその未来への対応について関心を持つこと」としている。そして,地理教育の内容構成にあたっては,上述の地理学の定義や特徴をもとに設定された5つの中心概念(①位置と分布,②場所,③人間と自然環境との相互依存関係,④空間的相互依存作用,⑤地域)をもとになされるべきであるとしている。さらに,方法論については,「地図をはじめとする各種資料の活用とそれへの分析・考察を通じて課題発見に至る研究プロセスを重視」しており,それを踏まえた地理教育独自の学習プロセスの構築がなされるべきとしている。
    以上述べた地理学の定義・特徴を踏まえ,地理教育の意義について解釈すると,「①人間や自然環境を含めたあらゆる地理的諸事象を場所の特質や地域的差異を踏まえながら空間的に分析・考察すること,②諸事象の分析・考察の過程を通じて分布のパターンを読み取り,そこから地理的概念や地理的諸課題を発見すること,③諸課題の解決を通じて人間と自然環境とのより良い関係を構築するための手がかりを得ること,④人間と自然環境との関係を踏まえ、持続可能な社会を形成するための担い手としての能力を身につけること」(泉2014)ととらえることができる。まさしく,諸事象や地域への理解を前提に,思考力・判断力を駆使しながら,課題発見,課題解決,そして持続可能な社会の形成へ向けた探究プロセスをたどることで,市民性を養うことに地理教育の存在意義があるといえる。
    このことに関連して,現行学習指導要領における高校地理教育は、現代的諸課題の解決を試みるべく探究型の学習プロセスや,社会参画の視点が重視されている。だが,実際は,大学入試問題の多くが知識の有無を問うことに重点が置かれていることもあり,授業実践の多くが事実認識のレベルに終始している現状にある。また,これとは別に,「認識的側面を重視し,市民的資質を育成するという側面が弱く,社会参加に関する資質の育成が十分に考慮されない」(永田2013)という科目上の性質による問題点も存在する。

    以上の点を踏まえ,本発表では,地理教育の目標を市民性育成と定め,次期学習指導要領において一層重視される地理的見方・考え方と市民性育成との関係について言及していきたい。その上で、2022年度より実施予定の必修科目「地理総合」年間カリキュラムと探究プロセスを踏まえた授業実践プランを提案したい。


    参考文献

    泉貴久 2014.新しい高校地理教育への提言.地理59(2):41-49.

    永田成文2013.『市民性を育成する地理授業の開発―「社会的論争問題学習」を視点として―』風間書房:340p.
  • 畠山 輝雄, 宮澤 仁, 中村 努
    セッションID: P338
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.はじめに

     わが国では,急速に進展する高齢化に対応すべく,重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の構築が急がされている.厚生労働省によると,同システムは保険者である市区町村や都道府県が,地域の自主性や主体性に基づき,地域の特性に応じて作り上げていくことが必要とされているため,各自治体では行政が中心となって同システムの構築を図っている.

     他方,地域包括ケアシステムには,中核機関の地域包括支援センターの設置や地域ケア会議による住民の情報集約・ケア支援など以外には,システム構築に関して具体的な枠組みやモデルが存在しないことから,地域の特性に応じて構築されるシステムに地域差が生じている(畠山・宮澤 2016).

     これらの地域差の実態とシステムの類型化,さらに類型ごとのメリット・デメリットを明らかにすることが本研究の目的である.これにより,今後の地域特性を考慮した地域包括ケアシステムのあり方を提示することが可能である.

    2.研究方法

     畠山・宮澤(2016)では,前述した地域包括支援センターの配置や地域ケア会議の設置状況に大きな地域差があることを明らかにした.特に,地域包括支援センターにおいては,設置数や行政との委託関係などが多様であり,これらの配置状況が同システムの構築や地域とのネットワーク形成に大きく影響する(畠山 2017).そこで,本研究では地域包括ケアシステムを,ローカル・ガバナンスの観点から考察し,地域差の実態を明らかにする.

     上記を踏まえ,地域包括支援センターの配置状況((1)1か所,(2)地域包括支援センター+サブセンター・在宅介護支援センター,(3)2か所以上)と地域ケア会議の設置単位(A:市区町村,B:市区町村より狭域,C:市区町村+市区町村より狭域)のそれぞれ3類型,合計9類型を設定し,市区町村を分類した.使用したデータは,2015年11月に全国の市区町村に郵送(一部電子メール)配布・回収により実施したアンケート調査の結果である.アンケートの有効回答数は616であり,回収率は35.5%であった.

     また,各類型の特徴について,各市区町村の人口,合併状況,財政力等の各種指標から分析した上で,その平均的な市区町村を事例地域に選定し,ローカル・ガバナンスの観点から地域包括ケアの構築状況を詳細に把握した.事例調査は,行政,地域包括支援センター,その他関係機関へのヒアリングにより実施した.

    3.分析結果

     地域包括支援センターと地域ケア会議の配置・設置状況の地域差には,各市区町村の(65歳以上の)人口規模が大きく影響していた.地域包括支援センターに関しては,配置状況が(1)から(3)になるにつれて市区町村の人口規模は大きくなり,地域ケア会議の設置単位に関しては,Aの市区町村の人口規模は圧倒的に小さい.また,(1)-Aは,小規模な非合併市町村に多いことも特徴であった.

     各類型における具体的な地域包括ケアシステムの構築状況の特徴やメリット・デメリットについては,当日報告する.



     本研究の遂行にあたっては,科学研究費補助金(基盤研究(A)『「社会保障の地理学」による地域ケアシステムの構築のための研究』研究課題番号:15H01783,研究代表者:宮澤 仁)を使用した.



    文献

    畠山輝雄 2017.地方都市における地域特性を考慮した地域包括ケアシステムの構築と行政の役割.佐藤正志・前田洋介編『ローカル・ガバナンスと地域』153-174.ナカニシヤ出版.

    畠山輝雄・宮澤 仁 2016.地域包括ケアシステム構築の現状―地理学における自治体アンケート調査の結果から.地域ケアリング 18(14): 65-68.
  • 阿子島 功
    セッションID: 434
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.目 的
     埋没している低湿地遺跡の古環境復元にあたって、微地形・遺構と遺物のありよう・泥炭の分解度の相互の関わりから、当時の生活面の状態や地下水面との関係を,主に山形県高畠町押出(オンダシ)遺跡と山形県遊佐町小山崎遺跡の例によって述べる。この課題は押出遺跡第1-3次発掘調査(1985-87)によって述べた(第四紀学会1988、月刊地理33-5)が、同第6次調査(2015)、小山崎遺跡調査総括報告(2015)などにもとづいて再整理した。腐植の分解・未分解は、小山崎遺跡(縄文時代、潟湖~後背湿地)、天童市西沼田遺跡(古墳時代、最上川後背湿地)、山形市嶋遺跡(古墳時代、扇状地外縁の湿地)の低湿地遺跡でも観察できた。

    2.分解された泥炭層と分解されていない泥炭層
     山形県米沢盆地北部の大谷地低地の押出遺跡の縄文時代前期の遺物包含層は地表下約2m付近にあり、古環境復元に次の2点が鍵となる;
     (1) 遺物包含層層の広がりは、水辺の地表面(いわゆる生活面)から遺物の流れ込む浅い水部にわたっている。
     (2) 押出遺跡の泥炭層は、植物遺体の組織が残っている"未分解泥炭層の層準"と腐植が分解された"黒泥状の層準"とがある。泥炭層の母材となる植物遺体が堆積した後、ひきつづき水中にあれば分解されることはなくて植物の組織がそのまま残るが、堆積中もしくは堆積後に(常時または季節的に)地下水面より上で空気が通る場合には腐植はさらに分解されて植物の組織をとどめることなく泥状になる。

        3. 湿った植物遺体が水面上で腐朽する事例
     (1) 押出遺跡第6次調査(後述)で行われた珪藻分析では分解された腐植の層準では珪藻が検出されなかった。
     (2) 白竜湖周辺の水路の土留めの木杭列にはいくつかの水準に腐朽による刻みがあり、通年観察によれば現在の水位の季節変化に対応している刻みがある。
     (3) ペルー,チチカカ湖の湖岸の浮島の岸では、水中に明色の未分解植物層が、水面上の側面に暗色帯(被膜)が見える。この暗色帯がそれほど分解されていない(触ってみて固い)のは、空気が通う状態となってからの時間が短いためであろう。浮島の浮力が失われるたびに新しい水草層が踏み込まれるため、水中に暗色・明色の互層がみえる。

        4.押出遺跡の立地している地形と発掘範囲
     東西・南北約3kmの大谷地低湿地の北と東は丘陵地、西と南は吉野川と屋代川の自然堤防(幅は約500m)に限られている。押出遺跡は自然堤防と後背湿地の境界にある。深さ5mの矢板で仕切られた区画の上部2mが発掘された。
     [発掘区]  第1次(1985)―第3次(1987)の発掘区は道路建設にともなう東西幅40m×南北延長100m、第4・5次(2011-12)はこれに接して沖側の南北延長160mの水路の両岸、第6次(2015)はさらに沖側の飛び地25×5mであった。

          5.押出遺跡の基本層序と微地形
     縄文前期(大木4式1形式、遺物の14C年代では500年の年代幅)の40余の盛土住居遺構が発掘された(*住居遺構ではないとする近年の異論もある)。これらの住居跡は竪穴式と異なって打ち込み柱や転ばし根太に床土を盛り立てた構造をもち、盛り土の間のくぼ地は流れ込んだ遺物が堆積した水部であった。
     [基本層序] 地表より約3mの深さまでで第1層~第10層に区分され、第3-4,7層が分解された泥炭層である。第8層が縄文前期の遺物包含層(F)であり、高まりでは軟弱な地山層(第9層)に対して盛り立て・打ち込み・沈み込みが見える。くぼ地にある第8層下半部に流れ込みの遺物・木炭片が多く含まれている。くぼ地の第8層上半部は未分解腐植であり水中で堆積したままである。くぼ地の第8層下部の年代は微高地のF層の年代とほぼ等しく、8層上部の自然層の年代はF層の年代より若い。花粉組成では第9層は水性、8層は湿性に移行する環境変化を示す。第8層上部とF層を一様におおって第7層の分解泥炭層(下部年代は約4000 yBP―上部年代は2400yBP)が形成された。
    6.水際の変化は気候変化か微地形変化か
     微高地~くぼ地はみかけの不整合面を示す。この時期の水位変化・乾湿をヒプシサーマル期前後の気候変化に対応させる考えもあるが、第1-3次と第6次の間で地層が続かない層準(第7層中位の未分解泥炭薄層)もあるから微地形の(水平的)移動によるみかけの水位変化を考えたい。

     7.立ち木の根と木柱列の残存上限高度は地下水面を表す?
     立木の根が100×40mの範囲に10本程あった。立ち木の上限高度が、残存する木柱の上限高度とともに良くそろっている。地表面ぎりぎりにそろえて伐られたとは考えにくい。*高さのそろった木柱列は上屋のある建物の柱ではなく土留めとして地表まで打ち込まれたものであるという見解もあるが腐朽によって地下水面に上面がそろう場合との識別が今後の課題となる。
  • 櫛引 素夫
    セッションID: 215
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    1.はじめに
     北海道新幹線は2016年3月の開業から2年目を迎え、開業特需というべき旅客流動やイベントが逓減する一方、市民生活や経済活動において、さまざまな変化が進んでいるとみられる。発表者は、その一端を明らかにするため、2016年秋と2017年秋、青森・函館両市の市民各300人を対象に郵送調査を実施した。回収率は20%台にとどまったが、一般市民を対象とした継続的な調査がほとんど実施されていない、あるいは結果が公表されていない中で、開業が市民の意識や地域にもたらした変化を一定程度、把握できた。

    2.主な調査結果
     2016年、2017年とも回答者中、青森市は7割弱、函館市は半数が北海道新幹線を利用しておらず、利用経験者の割合は、ほぼ同水準だった。各項目の回答を総合的に検証すると、函館市民の方が積極的に北海道新幹線を利用し始めているとみられる。調査対象者が異なるため単純比較はできないが、2016年と2017年のデータを対比すると、函館市は北海道新幹線を複数回、利用している人の割合が多い。
     2回の調査とも、青森市の回答者は新幹線で出向く先が函館市とその周辺にほぼ限られ、目的もほとんどが「観光」である。一方、函館市の回答者は行き先が東京・首都圏や仙台、盛岡など東北新幹線沿線に及び、目的も「家族や友人に会いに」「仕事・出張」「観光」など多様である。2017年の調査ではライブやコンサートのため仙台付近へ出かけたり、単身赴任先の静岡県との往来に利用している人々もいた。
     青函間の鉄道利用について、2017年の調査では、特急料金の値上げ、新青森駅・新函館北斗駅での乗り換え発生を反映し、青森市は「減った」と答えた人が「増えた」と答えた人を上回った。また、「函館への関心が薄れた」という回答も複数あった。函館市は「増えた」と答えた人が「減った」と答えた人を上回ったものの、両市とも、北海道新幹線は「早くて快適ながら、高く乗り継ぎが不便で、仕方なく使う」という不満は強く、割引料金の導入を求める人が多い。
     両市とも「移動手段をフェリーに切り替える」、さらには互いの市へ「行く機会を減らす」と答えた人がいたほか、フェリーの利用回数も「増えた」という人と「減った」という人が存在した。これらの結果を総合すると、①北海道新幹線開業が利便性を高め、流動を増大させている面と、フェリーへの不本意な乗船をもたらしている面がある、②新幹線・フェリーのいずれによる移動もせず、往来そのものを控えるようになった人々が存在する-と考えられ、北海道新幹線開業で利益を享受した人と、不利益を被った人への分極が発生している可能性を指摘できる。
     北海道新幹線が「暮らし」「自分の市」「青森県/道南」に及ぼした効果については、開業特需や関連イベントが減少したためか、全般的に2016年より2017年の評価が低い。ただ、対策や効果の情報発信が乏しいと指摘する意見もみられ、連携不足による逸失利益が生じている可能性もある。

    3.青函交流の行方
     青函交流の行方について、「観光面」「経済面」「文化面」など5つの観点から予測を尋ねた質問に対しては、全体的に青森市より楽観的な傾向がある函館市でも、2017年調査で「活発化していく」と答えた人は20~35%にとどまり、人口減少なども背景に「衰退していく」とみる人が5~10%程度いた。一方、青森市は「活発化していく」が15~22%、「衰退していく」が8~16%だった。2016年調査では、函館市は観光面の交流が「活発化していく」と予測する人が50%に達していたのに対し、2017年は35%と低かった。青函交流については、2016年の調査時点でも「活発化させるべき」といった期待感の記述が目立っており、2017年の調査時点で、生活上の実感を反映した回答が出てきた形になった。

    4.今後の展望
     2カ年の調査を通じ、2市の住民が、互いを身近な存在として意識し直した様子が把握できた。また、料金や利便性の制約を背景に、北海道新幹線を活用する目的や経済力がある人々、不利益を甘受しつつ往来する人々、往来そのものに消極的になった人々、もともと青函交流に接点や関心が乏しい人々など、幾つかの集団の存在が浮かび上がった。これらの集団のマインドや動向が今後、地域政策の形成やその実効性にどう影響するか、上越市が2015年に実施したような、地元自治体等による市民意識の調査が期待される。
  • 杉山 武志
    セッションID: 818
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    本研究の目的は,ドイツの日系企業集積をめぐる経済的プレゼンスの問題を研究したものである.特に,進出先であるホスト社会とのしなやかな関係構築と当該ホスト社会における他国企業の動きに適応させていく論点の一端を,ドイツでの事例から明らかにする.研究の背景には,近年の日系企業の海外進出に関する研究,日系企業集積研究において,プレゼンスへの懸念が示されるようになってきていることがあげられる.こうしたプレゼンスの問題をめぐり,「再領域化された日本」や「同質」な集積という視点を克服することが求められる.研究の結果,グローカル・コミュニティとして進化している在独日系企業集積のプレゼンスは,懸念はあるものの行研究で指摘されているほどの弱さなく,ホスト社会における新たな環境変化への適応を試みるレジリエントさが備わっていることが理解された.
  • 中岡 雄一郎
    セッションID: 115
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    Ⅰ.目的と方法
     屋上菜園は、建物屋上またはベランダで農作物が栽培されている施設を指す。近年、ロンドンやパリ、ニューヨーク、日本でも東京や大阪など大都市圏を中心として屋上菜園を開設する動きがみられている。屋上菜園に関わる人々は市民の他に企業や教育機関、医療福祉など様々であり、農作物も野菜、米、養蜂など多岐にわたる。
     これらの現象を屋上の利活用としてみた場合、屋上緑化との関連が考えられる。屋上緑化は主に都市のヒートアイランド現象の対策として用いられ、東京都では2001年に屋上緑化を義務付ける条例が施行された。しかし、屋上菜園は「緑地」として認められないケースが多い。それにもかかわらず、義務面積外で設置し、あるいは緑地として設置するにしてもわざわざコストのかかる屋上菜園を選択することに疑問が残る。他方で非農家の活動に着目すると、地理学では市民農園や体験農園など非農家の関わる都市農業の立地は都市部における農地の保全という文脈で語られてきた。よって、「農地」ではない屋上菜園ではその立地要因を説明できない。
     そこで本研究では屋上菜園の立地要因を明らかにし、現代的な都市農業に新たな視点を与えることを目的とする。研究対象は東京都区部における屋上菜園とし、分布の地域的差異や政策的背景を検討するとともに、運営者や利用者への聞き取り調査から、屋上菜園のニーズを検討した。
    Ⅱ.東京都区部の屋上菜園
     ホームページやSNS等で屋上菜園を公開している施設は東京都区部においては2017年10月の時点で88か所確認できた。屋上菜園の開設件数は2000年以降に増加し2009年前後にピークとなる屋上緑化の施行件数の推移と似た傾向を示すことから、屋上緑化政策との関わりが示唆される。
     建物種類別に分布をみると、企業の事務所やデパートなど小売店舗の屋上菜園は千代田区、中央区、渋谷区などの都心の地価の高い商業地に集中している。これらの施設ではCSRの一環として一般開放した屋上庭園の一部を利用したもの、地域住民や近隣の教育機関に区分貸出、米や野菜の収穫祭などのイベントを行うなど多様な形態がみられた。教育施設や医療福祉施設の屋上菜園は都心から離れた周辺の区か都心でも駅から離れた住宅地の中に立地している。利用者は建物施設の利用者であり、開設の目的は利用者への教育や生きがいの創出などであった。よって、いずれの施設にとっても屋上菜園を開設することが当該企業・団体の本来のねらいを果たす効果があることが立地要因の一つと考えられる。
     次に、千代田区と渋谷区にある屋上菜園の利用者の言説からは、利用の動機や目的が余暇活動や農業への関心、子どもの教育などであった。また、自宅や職場に近いことが利用頻度に影響している。これらのことから都市農業に関わる非農家と同様のニーズが都心にも存在し、屋上菜園がそのニーズの空白地を補完する役割を担っていると考えられる。
  • 田上 善夫, 森脇 広, 稲田 道彦
    セッションID: P342
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    ニュージーランドでは前世紀末頃より農業生産が大きく変化しているが、その傾向はワイン生産に顕著である。南半球での生産地にくらべ最も高緯度にあたるが、そのブドウ栽培の背景を気候的特色より明らかにする。とくに南島のセントラルオタゴと,北島のオークランド・ワイヘケにおいて、2016年12月に小気候観測を中心とする調査を行った。
     セントラルオタゴは夏季には、この地域の中央にあたる盆地部で高温が現れる。また低温の地域は多雨,高温の地域は少雨の傾向がある。小気候観測地域は東西80km×南北100kmほどで,Clutha川などが流れ、急峻な峡谷と盆地が形成される。峡谷部は上流からKawarau,クロムウェル,ロクスバラに分かれ、その間にはGibbston,Bannockburn,アレクサンドラなどの盆地がある。観測は気温・照度を中心とし、データロガーを10台で定点観測,1台を自動車の前部に取り付けて移動観測を行った。同時に位置をGPSカメラにより記録した。
     気温観測から,アレクサンドラ盆地で最も高温となるのは,南部を限る小さな斜面部である。北東の斜面上方は,盆地下部にくらべて低温の傾向がある。高温となるところは日照を受け南からの風が遮られるのに対して,斜面上部は北向き斜面であり風も受けやすいことが影響すると考えられる。
     このアレクサンドラには,世界最南端のワイナリーがある。岩山の北向き斜面にブドウ園が広がる。ブドウ栽培地は盆地内に広がり,北向き斜面に多い。高温で,乾燥している地である。その出現には,以下のような場合が考えられる。1) 盆地にあって冷気が侵入しないことである。2)周囲が山地よりも丘陵性の地である。3) さらに一帯の標高は低いことである。セントラルオタゴは南アルプスの東側に位置し,山脈を越えてフェーン性の昇温し乾燥した気流が吹く位置にあたる。またアルプスの雨影となることも降水の減少にかかわると考えられる。
  • 田林 明, 菊地 俊夫
    セッションID: 831
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
    会議録・要旨集 フリー
    研究の課題 先進国の農村空間では生産機能が相対的に弱まり、消費機能が強まっている。そして様々な農村資源を消費者に提供することを、農村空間の商品化と捉えることができる。発表者らは、2014年以降カナダのブリティッシュコロンビア州において、農村空間の商品化がいかなる形態で、どのように進み、それによっていかに農業・農村が維持されているかをフィールドワークによって明らかにしようとしてきた。この報告は、農村資源の主要な消費者である都市住民にとって、農村空間の商品化はどのような意味を持っているのかを、地域差に着目しながら検討する。
    農村空間の商品化の地域差 ここでは連続した市街地を除く地理空間を農村空間とすることから、ブリティッシュコロンビア州には場所によって多様な農村空間の商品化と都市住民の消費活動がみられる。まず、(1)バンクーバー大都市圏の都市農業は、都市住民にとって日常的な緑地空間や余暇空間、アメニティ空間の創出という役割を担っている。(2)ローワー・フレーザーバレーは、大都市への農産物の供給地というだけではなく、都市住民が週末などに日帰りで農場を訪ね、農産物を生産者から直接入手し、農村の友好的な雰囲気にふれることができる地域である。(3)オカナガン地域の農村空間の商品化はワインツーリズムによって象徴され、観光シーズンにはカナダ各地からも多くの人々が訪れる。(4)内陸のトンプソン・カリブー地域は、かつては粗放的な大規模牧畜地域であったが、オーガニックの牛乳生産に専門化したり、醸造用のブドウを栽培しワインを醸造したり、大規模な野菜栽培に転換することによって、ブランドをつくり独自の販路を開拓するようになった。農地の周辺の丘陵地や湖に面した場所では別荘地が多く、主としてバンクーバー大都市圏の住民が利用している。(5)バンクーバー島南部は、ローカルな産物に基づくスローライフによって特徴づけられ、退職者が老後を過ごす場所として、カナダ全体から高く評価されている。(6)南東部のクートニー地域では、地元消費を念頭においた小規模で集約的な有機農業が盛んである。(7)北東部のピースリバー地域は、世界市場向けの穀物と肉牛の生産地であるが、アラスカハイウエーのゲートウエーとして、世界ジオパークなどの存在から、カナダのみならずアメリカ合衆国からの観光客を引きつけている。(8)さらに国立公園や州立公園が多い山岳地域には、世界中から多くの観光客が訪れる。
    農村空間の商品化による都市-農村共生システム ブリティッシュコロンビア州では、人口分布や農業、土地資源など地域の条件を反映して、農村空間の商品化が多様である。その多様性は、時間的には消費者の日常的なものから、週末、年次休暇、退職後といった違い、空間的には地元、バンクーバー大都市圏、カナダやアメリカ合衆国、そして世界からの消費者といった違いを反映しており、全体として地域の産業や社会を維持するために重要な役割を果たしている。
  • 桐村 喬
    セッションID: P337
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    I 研究の背景・目的
     モータリゼーションの進展の結果,自家用車の普及に伴い,東京・大阪の二大都市圏以外では,自家用車が最もよく通勤に利用されている(Nojiri, 1992).一方,自家用車利用の増大は二酸化炭素排出量の増加に繋がるため,1998年に閣議決定された第5次全国総合開発計画では,環境負荷が少ない交通体系の形成が提唱され,公共交通機関や自転車,徒歩での移動を促進する方針が示されている.しかし,1990年以降を対象とした通勤・通学時の利用交通手段に関する研究は,個別都市の事例分析を除けば管見の限りなく,その後の変化は十分には把握されていない.
     そこで,本発表では,日本における1990年から2010年までの通勤・通学手段の変化の動向を都市圏単位で整理する.総務省による国勢調査結果に基づく大都市圏・都市圏は数が少なく,地方都市の分析が不十分となるため,本発表では,金本・徳岡(2002)による大・小都市雇用圏の枠組みを利用する.また,国勢調査において常住地と従業・通学地間の利用交通手段別の集計がなされているのは,常住人口が10万人以上の市に限られ,すべての都市雇用圏について検討することができない.そのため,都市雇用圏の中心市町村(以下,中心都市とする)のみに注目し,従業・通学地ベースの利用交通手段別の通勤・通学者比率を求め,その変化を分析する.対象地域は,2010年時点の229の大・小都市雇用圏の中心都市であり,複数の中心都市からなる都市雇用圏は1つの中心都市として合算して扱う.なお,都市雇用圏の大小は,中心都市のDID人口で分けられており,1万人以上5万人未満が小都市雇用圏,5万人以上が大都市雇用圏である.

    II 利用交通手段別通勤・通学者比率に基づく類型化
     まず,利用交通手段別の通勤・通学者比率をもとに,都市雇用圏の中心都市を類型化する.2時点間の変化を検討するために,1990年と2010年の2時点のデータを同時に類型化する.類型化に用いる指標は,「徒歩だけ」,「鉄道」,「乗合バス」,「自家用車」,「自転車」によるそれぞれの通勤・通学者比率である.このうち「鉄道」に関しては,1990年と2010年で集計方法が異なるため,1種類または2種類の交通手段を利用するもののうち,JR又はその他の電車・鉄道を用いるものを集計し,2時点で求める.類型化には,Ward法のクラスター分析を用い,各指標値を標準化したうえで類型化する.
     類型化の結果,5類型が得られた(表1).公共交通機関の利用が卓越するのは公共交通機関型のみであり,その他の類型では,自家用車の利用が半数以上を占めている.

    III 都市雇用圏中心都市における利用交通手段の変化
     所属類型の変化を示した表2によれば,1990年時点では半数以上が自家用車半数/自転車型(144都市:静岡,新潟,浜松など)に属し,公共交通機関型は11都市(東京,大阪,名古屋・小牧など)に過ぎない.2010年では,自家用車の利用が自家用車半数/自転車型よりも多い,自家用車卓越/自転車型(60都市:前橋・高崎・伊勢崎,浜松,宇都宮など)や自家用車卓越型(106都市:富山・高岡,豊田,福井など)の増加が顕著である.自家用車半数/自転車型と自家用車半数/徒歩型,自家用車卓越/自転車型から,それぞれ自家用車利用の比率が高い類型に変化してきており,自家用車利用のさらなる高まりが確認できる.
     一方,1990年で公共交通機関型であった11都市のうち,9都市は2010年でも公共交通機関型であった.残り2都市(北九州,日立)は,自家用車半数/自転車型に変化した.いずれも,期間内に市内を走る鉄道の廃止が行われており,それによる鉄道利用の減少が類型の変化につながったものと考えられる.

    参考文献
    金本良嗣・徳岡一幸 2002. 日本の都市圏設定基準. 応用地域学研究7: 1-15.
    Nojiri, W. 1992. Choice of Transportation Means for Commuting and Motorization in the Cites of Japan in 1980. Geographical Review of Japan 65B(2): 129-144.
  • 菅野 洋光, 山崎 剛, 大久保 さゆり, 岩崎 俊樹, 神田 英司, 小林 隆
    セッションID: 534
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/27
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    北日本における稲作を考える場合、低温による冷害とともに、イネいもち病も減収の重要な要因の一つである.例えば、2003年冷害の場合、イネの被害割合で23.3%がヤマセによる低温被害だが、いもち病による被害も5.3%発生している.地球温暖化により梅雨明けが遅れるとの研究もあり(Kusunoki, et al., 2006,JMSJ)、植物体の濡れによる病害発生リスクには今後も注意が必要であると考えられる.
    いもち病の感染には適温と葉面の持続した濡れが必要であり、それらを把握することで、適切な薬剤の散布が可能になる.イネいもち病については、アメダス気象4要素を用いた予測手法BLASTAMが開発されており(越水,1988,東北農試研報)、現場で広く運用されているが、アメダス気象観測点の密度や立地に依存するところが大きく、より汎用性の大きい手法が求められている.そこで、メソ数値予報モデルGPV(MSM)データの相対湿度を用いたイネ葉面濡れ時間予測手法を試作した.
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