日本地理学会発表要旨集
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発表要旨
  • 野上 道男
    セッションID: 621
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    伊能忠敬の測量法は、測線の長さと方位を次々に測る導線測量と、恒星の子午線通過高度を測定する星測(緯度測量)である.これらの測量値は野帳に文字として記入され、夜間に図化された.導線測量は天文測量に対して、細部測量という位置づけである.
     測線の距離は縮尺に応じて地図上の長さとなり、三角関数表を用いて、方位角から東西成分と南北成分に分解された.各成分は次々に加算され、導線の折れ曲がり点(測点)の位置(xy座標値)が決定された.
     地上の導線測量による南北成分の和と天文測量(緯度)による緯度に不一致がある場合は緯度を優先させた(別稿の課題).
     同縮尺の地図を接合する寄図、寄図しながら小縮尺の地図を編集する縮小寄図についても考察した.
  • 齊藤 由香
    セッションID: P083
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1,研究の背景と目的

     アンダルシア自治州は,カタルーニャ自治州とならび,スペインで最も景観に対する政策的関心の高い地域の一つに数えられる。しかしながら,カタルーニャとは異なり,景観法に相当する法律を持たないがゆえに,行政の縦割り構造のなかで,景観政策にかかわる施策が複数の省庁に分散してきた。

    本研究では,アンダルシア自治州においてとりわけ景観への関与の大きい環境・地域整備省,文化省,公共事業庁(勧業・住宅省)の3つの省庁を取り上げ,景観の名のもとで作成された地図資料を手がかりに,各々の施策を分析する。さらに,こうしたバラバラな施策を一つの景観政策に結合すべく現在整備中の景観カタログに注目し,政策ツールとしての射程と課題について考察する。

    2.景観への政策的かかわり

     環境・地域整備省は,森林管理や自然空間のマネジメント,生態系保護などの施策のなかで景観を扱ってきた。「アンダルシア景観地図(Mapa de los Paisajes de Andalucia)」は,同省が蓄積する膨大なデータベース(アンダルシア環境情報ネットワーク,Rediam)を活用し,主に地形,被覆,土地利用などの可視的な指標から,全自治州を83の景観エリアに区分している。

     文化省は,文化財保護の立場から,景観を歴史的建造物や考古学遺跡群などの文化遺産と結びつけて考える傾向が強い。しかし,近年では「アンダルシア文化的景観(paisajes de interes cultural de Andalucia)」プロジェクトにみられるように,自然と人間の相互関係の表れとして景観をとらえ,サイトとして可視化しようとする試みもある。

    公共事業庁は,道路,港湾,河川などの土木インフラの整備が景観に与える影響を評価し,周辺景観との一体化を図る目的から,これらの景観の特性把握に基づく整備事業を行ってきた。同庁がアンダルシア景観・地域研究所(Centro de Estudios Paisaje y Territorio)との共同で手がけた「景観道路(carreteras paisajisticas)」は,道路空間の整備と景観マネジメントを結びつけるための調査研究であり,114の区間の道路景観を取り上げている。

    3. 景観政策を結合するー景観カタログ

    こうした個別の施策を結びつけていくためには,欧州景観条約が定義するように,景観を地域(area)としてとらえる総合的なアプローチが必要となる。「アンダルシア景観戦略」(2012年)は,総合的・協調的な景観政策を実現するためのツールとして,景観カタログを位置づけた。景観カタログとは,景観の質に関する目標を地域計画に取り入れるために,カタルーニャ自治州が開発した政策ツールである(齊藤,2011)。アンダルシアの景観カタログは,カタルーニャの先例に倣いつつ,市民参加を基礎に置く景観の質に関する目標の策定を目指している。しかし,アンダルシアの場合,景観カタログの作成が法律上裏付けられていないために,現時点では景観把握のための分析文書としての域を抜け出ておらず,地域計画への橋渡しのツールとして機能しているとは言い難い。



    文献

    齊藤由香 2011. スペイン・カタルーニャ自治州における景観政策の新展開―「景観目録」の作成に注目して―. 金城学院大学論集(社会科学編)7-2:13-31.
  • 福田 崚
    セッションID: 814
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1. 背景と目的

    企業の立地の促進には特化の経済・都市化の経済により他地域に対して優位となる集積の存在が重要であると考えられてきた。しかしながら、新規に創設された企業の経過を検証すると、彼らは必ずしも都市全体の集積の利益を直截に享受しているわけではなく、当該地域での居住経験やスピンオフの際の母企業など特定の社会関係の中で、技術や知識のスピルオーバーに浴していることが明らかになっている。また、地方都市人口規模・密度が小さく、集積の点では不利な状況にある。これに対する解決策を提示するという点でも、集積の利益にとどまらない要素への着目が有用であると考えられる。本研究では、この人的資本・社会関係資本に着目し、UターンやIターンなど創業者の地理的背景との関係において地方における創業への影響を検証する。

    2. データ、分析視点、分析手法

    日本経営史研究所(1986、1996)・専門図書館協議会関東地区協議会(2008)に採録されているうち、国会図書館に所蔵されているうち、必要となる情報が掲載されていた327の社史を対象に分析する。

    これらを、創業時のイノベーションに着目して、イノベーションの新規性の度合いを社会関係や人的資本との関係において分析する。本研究の立場は企業にとって新しいものをすべてイノベーションと見做しており、創業時であればすべての企業がイノベーションを起こしていると言え、比較が容易である。また、創業時であれば創業者の背景の影響をより明確に判断できると考えられる。

    具体的な分析手法としては、①対象となる企業を一定の基準で分類した記述統計②上をもとにした回帰分析③いくつかのトピックについてのテキストによる定性的議論の三つの分析を展開する。

    3. 記述統計・回帰分析

    創業者の地理的背景は図1の通り。創業地域での地理的経験を持つ場合には地域内での社会関係にアドバンテージが、地域外、特に大都市圏での経験を持つ場合には人的資本の観点からの蓄積があろうと期待される。
    創業時のイノベーションが国内初となるような高度な新規性を有していた場合にそれ(ダミー)を説明する回帰分析を行った結果を見ると(表省略)、高生産性地域での経験と地域内での社会関係が組み合わさると、プラスに働くことが分かる。
    4. 定性的議論

    ウェットな記述を見ても、優れた技術を持つ新規創業企業が、地域内での社会関係を活かし、困難が多いと考えられる創業期の顧客獲得を成し遂げていた。また、偶然によるコミュニケーションは外部から模倣し地域レベルでは新規の事業を展開する際に効果がある事例が見られた。

    5. 結論

    定量的な議論からも定性的な議論からも、人的資本と社会関係資本が組み合わさることが高度なイノベーションに貢献することが示された。出身地であるために地域でのネットワークを保持しつつ、大都市圏で高い技術を身に着けたUターン者は新奇性の高いイノベーションを展開しつつ企業をするのに有利である。

    参考文献

    日本経営史研究所1986.『会社史総合目録』日本経営史研究所.

    日本経営史研究所1996.『会社史総合目録 増補・改訂版』日本経営史研究所.

    専門図書館協議会関東地区協議会2008.『会社史・経済団体史総合目録 : 累積版 追録43号-追録59号』専門図書館協議会関東地区協議会.
  • 一ノ瀬 俊明
    セッションID: 311
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    学術研究におけるアウトリーチ活動は一般的に,社会への研究成果の還元に関する活動ととらえられ,「研究活動・科学技術への興味や関心を高め,かつ国民との双方向的な対話を通じて国民のニーズを研究者が共有するため,研究者自身が国民一般に対して行う双方向的なコミュニケーション活動」と定義されている(文部科学省「アウトリーチの活動の推進について」2005年6月7日)。具体的に例示されているのは,市民向けのシンポジウム,ワークショップやサイエンスカフェなど,関心をもった方が会場に出向いて研究者と対話し,双方向のコミュニケーションを行うタイプのものである。演者の所属する国立研究開発法人においても,夏に公開シンポジウムや青少年をターゲットとしたオープンハウス(夏の大公開)を,恒例の行事として行ってきている。イベントを中心としたアウトリーチ活動の場合,その場で直接対話に参加した方からの再発信に依存する部分も大きく,市民向けのポータルサイトなどを使っての広範なコミュニケーションを併用していくといった工夫も必要となろう。一方,必要なアウトリーチ活動として演者がもう一つイメージしているのが,学者による行政支援である。多くの研究活動が公的資金で支えられていると強調される今日,自分たちの仕事の社会的な価値をつねにわかりやすくアピールしていく必要があることはいうまでもなく,その意味でもアウトリーチ活動はますます重要となっている。以上より本報告では,従前のアウトリーチ活動の経験を踏まえ,演者が主として研究に従事している地理学と環境科学を対比しながら,「学」としてのアウトリーチ,社会貢献を体系的に推進するための提言をまとめてみたい。
    「学」に関連する市民講座や巡検の企画・支援を,学会としても推進すべきである。たとえば,サイエンスカフェや,地元大学,市町村,地元企業とタイアップした地域おこし・ジオパークに関連するトレッキングツアーなどがその好例となる。実際このような活動には,個人ベースで(ボランタリーに)取り組んでいる人も少なくない。また,地域おこし活動そのものへの有識者としての参画・支援もありえるだろう。演者も本務として参加した,つくば地域で行われているサイエンスQ(筑波研究学園都市交流協議会)などの学校出前講義が一定の成果をあげている。総務省の地域おこし事業に,協力隊員やインターン学生を受け入れている自治体の中には,地理学や環境科学出身の人材が勤務しているケースや,関連学会員が外部有識者として協力・参画しているケースも少なくない。アウトリーチ活動への関わり方としては,本務,兼務(報酬あり),ボランタリーな参画など,その形態はさまざまであり,そのそれぞれにやりにくさとやりやすさがある。持続可能性やモティベーションの観点からは,本務の一環として行えるのが理想的と思われる。この場合,「学会」や「学」のプレゼンスをどこまでおもてに出せるのかが課題となろう。露骨な表現が許されるのであれば,「他の分野からの貢献」というような誤解を招かない努力も必要と思われる。
    アウトリーチ活動は単なる社会奉仕にとどまらない。研究活動を見直し,強めていくプロセスでもある。とりわけ,アウトリーチ活動を通じて得られた各種ステイクホルダーからのリアクションを,自身の研究活動にフィードバックしていくことが重要である。また,個人的な興味で始めたアウトリーチ活動であっても,その持続可能性を担保するという意味では,所属機関を含め,周囲の理解と協力(資金面など)を得られるような努力も必要と思われる。
  • 永田 玲奈, 三上 岳彦
    セッションID: S306
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    東九州の日降水量データを使用して,1901~2000年における日本の台風経路の変化について明らかにした.宮崎・大分の8月の日降水量データから東九州に地形性レインバンドをもたらす台風を定義したところ,1951年以降にこのような台風の数が減少していた.これは1951年以降に見られる北太平洋高気圧の南西へのシフトが原因であると考えられる.また,東九州と日本の51地点の気象官署の降水量との関係から,1951年以降に台風経路が南西にシフトしていることが示唆された.東九州において台風による降水量が年々減少していることも明らかにされたが,これは台風の北上する速度が速まっていることが原因の1つであると考えられる.
  • 竹中 克行
    セッションID: P082
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    欧州景観条約(以下「ELC」)の起草委員を務めたスペインの地理学者F.ソイドは,「地域(area/territorio)」「人々の知覚」「自然と人間」をキーワードとするELCの景観定義について,地理学的視点から望ましいと評価する。起草時には,景観を定義すべきか否かに始まり,文化的景観に傾斜したUNESCOの立場や自然環境に絞ろうとするIUCN(国際自然保護連合)など,立場の隔たりが大きかったという。
     そうした議論に表れる景観概念の幅広さは,ヨーロッパ各地で進められてきた景観政策のあり方に重なる。本報告では,ソイド自身が深く関わったスペイン・アンダルシア自治州の景観政策に焦点を当て,景観概念と政策の地理学的基盤を考察する。そのために,同自治州の景観政策が環境,文化,地域計画の各分野で行われていることを予備調査で掴み,2018年9月に現地調査を実施した。現地では,自治州の関係省庁における景観政策の統括責任者および産官学連携に重要な役割を果たした地理学者へのインタビューを行い,各分野において景観への政策的介入の中核をなすものは何かを問うた。
    1.環境政策
     主として,開発案件への自治州の認可に必要な環境評価を通じて,景観のマネジメントが行われている。土台となるのは,環境の質,土地被覆,環境リスク等に関する膨大なデータベース(Rediam)である。最近では,環境面の配慮を求めるEU基金の配分が開発コントロールの有効な手段に位置づけられている。自然保護空間法のもとで導入された「保護景観」制度は,景観を表に掲げる施策であるが,2018年現在の適用事例は,鉱山開発による汚染からの環境再生を進める2つのエリアに限られる。景観に関わる実質的な責任部局は,環境・地域整備省の副大臣室に置かれた情報・評価・環境分析・EU基金部で,地理学出身のJ.M.モレイラが部長を務める。
    2.文化政策
     アンダルシア文化遺産法にもとづく遺産保護が文化政策の柱の一つとされている。文化遺産の8つのカテゴリのうち,歴史的建造物群,歴史的サイト,考古学的サイトなどは景観との関わりが深く,それらの保護を通じて景観への介入が可能となる。典型例として,いくつかの考古遺跡では,他の行政主体との連携により,サイトの人類史的価値を理解するために必要な周辺エリアを含めた整備が進められている。文化省附置のアンダルシア歴史遺産院は,V.フェルナンデスをはじめとする大学の地理学者と協力して,文化的景観に関する調査・資料整備を進めてきたが,現在のことろ,文化的景観自体は保護のカテゴリではない。
    3.地域計画
     スペインでは,自治州が策定する地域計画(plan territorial)のもとに基礎自治体主体の都市計画を置く空間計画制度が採用されている。地域計画は,公共施設・公共インフラ整備と土地利用コントロールを軸に地域の将来像を導くものであるが,アンダルシア自治州の場合,計画に景観の観点を含めるか否かは計画者の判断に委ねられる。自治州制のもとで構築された地域計画制度は,地理学専門家に対して活躍の場を提供した。M.ベナベンなど,地理学出身のコンサルタントが作成したアンダルシアの個別地域計画では,農村部や都市外延部での開発コントロールや景観道路の設定などにより,地域計画に景観形成的な性格を与える試みがなされている。
     以上のように,アンダルシア自治州は,景観に関連する政策を広範に展開しているが,政策の対象/方法を示すキーワードは,「環境/マネジメント」「遺産/保護」「地域/計画」のように分野によって大きく異なる。それらは,景観を政策的介入の対象ではなく動機づけとして共有することで,互いに緩やかに繋がっている。したがって,すべてが景観政策だともいえるし,いずれも景観政策そのものではないという評価も可能である。
     自然と人間の接点に立ち現れ,人々によって知覚される地域というELCによる景観の定義は,万能であるがゆえに,統一的な制度として景観政策を構築することの難しさを暗示する。それは,地理学の学としての研究対象や認識論的基盤を明示する試みに付きまとう困難とも重なる。逆説的な言い方になるが,政策の表看板になりにくい景観への関わりは,特定の省庁とのパイプに縛られない地理学の得意領域といえるかもしれない。実際,本報告で取り上げた3つの政策分野は,地理学出身の専門家が活躍し,景観に関する研究・啓蒙事業を積極的に支援している点で一致している。
     専門分野によって異なる景観理解を出発点としたELC起案では,「聾者の対話」の限界を克服することが課題だったとソイドはいう。地理学専門家が職業人・研究者として各分野の景観政策を支えるアンダルシア自治州において,聾者の対話は生産的なコミュニケーションへと進化しただろうか。
  • 中川 清隆, 渡来 靖
    セッションID: 511
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    Ⅰ.はじめに
     筆者らは,昨秋の気象学会において最近30年間の我が国高層気象観測官署における地上気温と対流圏気温減率の対応関係を調査し,暖候季の対流圏気温減率はほぼ に収束するが,寒候季には対流圏気温減率が拡散して両者の散布図上プロットが疑似三角形を呈することを見出した.この度, 上記データのうち地上目視観測結果が有効な場合についてのみ, 天気別対流圏界面高度と対流圏気温減率の年変化および両者の対応関係の地域差を調査したのでその結果の概要を報告する.

    Ⅱ.対流圏界面高度の年変化
     対流圏界面高度の年変化は低緯度の南鳥島では一年中17000m前後のほぼ一定高度で推移するが,八丈島では寒候季に高低二段の対流圏界面高度が出現し,館野以北では暖候季に高く寒候季に低い明瞭な年変化が現れ,高緯度ほど暖候季の高高度期間は短くなる. 暖候季は熱帯対流圏界面,寒候季は極対流圏界面が上空を覆うためと解釈される.雪やみぞれは寒候季に限定されるが,快晴は通年の傾向を良く反映している.

    Ⅲ.対流圏気温減率の年変化
     対流圏気温減率の年変化は210DOY(8月下旬)付近の暖候季には対流圏気温減率はほぼに収束し,寒候季には様々な対流圏気温減率が出現するものの,天気別に異なる傾向は認められず,寒候季高緯度における対流圏気温減率の拡散が雲の有無によるとは判断できない.

    Ⅳ.対流圏気温減率の地上気温依存性
     対流圏気温減率の地上気温依存性を天気別に描画して観察した.低緯度の南鳥島ではかなり高い温度依存性を示すが,高緯度では寒候季に温度依存性が認められなくなる.快晴時のデータはほぼ一様に分布しており雲の有無の関与は認め難い.
  • 中村 努
    セッションID: S802
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    Ⅰ.研究対象地域の概要
     2015年現在,梼原町の人口は3,608,総世帯数は1,560と5年前と比べてともに約1割減少した。2014年現在の65歳以上人口比率は43.2%で年々上昇傾向にある。梼原町では,町内全域が一つの日常生活圏域として設定されている。2006年度には地域包括支援センターが町の直営により設置され,町内全域を対象に,介護予防ケアマネジメント業務,総合相談支援業務および権利擁護業務,包括的・継続的マネジメント支援業務を行っている。一方,多職種が情報共有を図る機会として,月1回の地域ケア会議が町内全域のスケールで実施され,類型(1)-Aの事例に該当する。

    Ⅱ.梼原町における地域包括ケアシステムの概要
     梼原町の地域自治における特徴は,住民から選挙で選出された区長を軸とする住民自治システムが行政の補完的役割を果たしていることである。行政の施策に地域住民のニーズが反映されるよう,ボトムアップ方式のガバナンスが維持されている。しかし近年,部落長や区長などそれぞれの自治組織のリーダーの担い手の不足から,彼らにかかる負担が増えている。梼原町は安定した医師確保に加えて,疾病予防や健康づくりに向けて,行政が住民と連携して地域保健,地域福祉の推進を進めてきた。以上のような地域自治の体制が,地域包括ケアシステムの基盤となっている。

     ハード面においては,1996年に国民健康保険梼原病院と保健福祉支援センター,高齢者生活支援ハウスや社会福祉協議会の通所介護施設を集約した施設が東区に設置された。これにより,職種間の円滑な情報共有が図られるとともに,物理的,時間的な移動を伴うことなく,保健,医療,福祉,介護の各ニーズが充足されるうえに,各種行政手続きや相談がワンストップでできるようになった。また,2018年4月,見守りを要する人や軽度者が,住み慣れた地域で安心して暮らし続けることを目的として,複合福祉施設が東区に新たに開設され,社会福祉協議会が指定管理者となって,施設全体の運営管理を行っている。

     ソフト面では,多職種が情報共有を図る機会として,月1回の地域ケア会議や週1回のケアプラン会が実施されてきた。前者では,福祉サービスのあり方や地域の課題等を協議するため,梼原病院医師,看護師,理学療法士,地域包括支援センター,居宅介護支援事業所,民生委員が参加している。とりわけ,養護老人ホームの入所判定や,生活支援ハウスの入居・在宅介護家庭支援金支給に係る申請などが検討されるが,地域課題を検討するには至っていない。後者では,保健・医療・介護・福祉関係者による定例会として,2008年度から週1回のケアプラン会が定期的に開催されている 。梼原病院の医師や看護師,理学療法士,管理栄養士に加えて,居宅介護支援事業所,地域包括支援センター,健康増進係保健師によって,在宅医療・介護連携事業が推進されてきた。主に在宅から梼原病院に入院してきた患者の方針や,退院後の患者の支援態勢が話し合われるとともに,在宅支援の必要なケースの共有が図られる。

    Ⅲ.梼原町の地域包括ケアシステムにおける課題
     2004年に解散した社会福祉協議会は,老老介護に対する家族や地域によるソーシャル・サポートの不足を補うため,2014年度に再法人化された。しかし,町外出身者にとって,プライバシーにかかわる生活支援ニーズを把握するために必要な住民との信頼関係を構築するのに苦慮するケースがある。2018年度には,包括的支援事業の一環として,町全体を管轄する協議体が設置されたものの,各区の地域課題を具体的に把握して,課題解決につなげるには至っていない。また,高度医療が可能な医療施設がないため,フルセットによる地域包括ケアシステムの構築が困難である。その場合には周辺自治体との広域連携が必要となる。このため,よりミクロな地域の住民ニーズを取り込む場合には重層的なローカル・ガバナンスの構築も今後の課題になると考えられる。
  • 小松原 琢
    セッションID: 418
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    段丘発達史のモデルとして、日本では貝塚(1977)の間氷期・氷期・後氷期における河川の侵食・堆積による河岸段丘形成モデルがごく一般に引用されている。しかし、演者の調査経験からみて、それに当てはまらないものの方が日本ではむしろ一般的ではないだろうか?貝塚(1977)モデルに対する反例を示し、議論を乞う。
  • 黒木 貴一
    セッションID: P014
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    人々の防災への関心は今日高く,各種ハザードマップが作成・配布されている。また学校安全の中では防災教育が注目されている。地図から土地の姿を認識できればハザードマップの情報が深く理解でき防災教育の効果は上がると思われる。しかし教育現場では地図を見ながら土地の姿を認識するフィールドワークは減少してきており,その課題解決が模索されてきた。また防災教育で地図を利用するDIGの有効性も示されているため,DIGにフィールドワークを組み合わせれば,いっそうの教育効果が期待できる。本報告では,1)地形図と現実の地形との関係を理解させ豪雨時に注意すべき場所を判断できるようにしたこと,2)判断した結果を地図情報として整理させたこと,3)その過程と結果を様々な場面で活用できることを確認させたこと,以上1)-3)の講義工夫と結果を紹介する。
  • 府和 正一郎
    セッションID: P078
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    ・目的 神社の野外寄進物には鳥居、狛犬、灯篭、社号標などがある。これらには寄進者の名称、居住地、寄進年代などが刻まれている場合が多く、文化的遺産である。加賀一の宮である白山比咩神社の野外寄進物については既に報告した(府和2018)。本稿は加賀二の宮であり、別表神社である菅生石部神社と、延喜式内社で加賀北部大野郷の総社であり、別表神社である大野湊神社について、野外寄進物の性格を明らかにすることを目的とする。



    ・方法 市町村史・神社史等による文献調査と現地調査による。現地調査は野外寄進物を社号標、鳥居、灯篭、狛犬、歌碑・句碑、その他に分け、寄進者の個人名・団体名、居住地、寄進年代などを記録する。2018年7月現在の調査結果を考察対象とする。



    ・結果 二社の共通点は、白山比咩社に比べ、江戸時代の野外寄進物が存在することである。また、寄進者神では地元の商人、北前船関係者が多い。1990年代以降は、野外寄進物の寄進が少ない。相違点は菅生石部神社では狛犬と動物像が大型、小型ともに多いことである。大野湊神社は海上安全関連の大型灯篭が多い。神社寄進物の性格に神社立地地域が関連しているとみられる。調査対象神社と地域の拡大が課題である。



    参考文献 府和正一郎.2018.「白山市白山比咩神社の野外寄進物」

    2018年人文地理学会大会研究発表要旨:88-89.
  • 中澤 高志
    セッションID: S403
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.なりわいを支えるネットワーク
    地域における所得機会の確保や社会的包摂の問題への対処を考える場合,われわれの思考は雇用機会の拡大と労働市場への参入の動機付けに偏りがちである.たしかに雇用されない働き方である自営セクターは,絶対量からすれば明らかに縮小している.しかし,20歳台後半から40歳台前半に限定すれば,現在でも雇用から非雇用に転じる流れがみられる.松永(2015)は,現代の「新たな自営」に注目し,そこにはローカル指向の「小商い」や「なりわい」というべき形態が多く,匿名的市場での利潤追求よりも,顔の見える関係を重視していると指摘する.

    報告者のフィールドである長野県上田市にも,労働力を販売するのではなく,自らの「なりわい」に依拠して暮らしている若手創業者が少なからず存在する.報告者は,そのような「なりわい」が存立する条件として,さまざまな契機による創業者同士のつながりが重要であり,上田市内にはそうしたつながりが生まれる「場所」が形成されていることを明らかにした(中澤2018).つながりに支えられた「なりわい」は,利潤追求には解消できない互酬的性格を持っており,社会保障が届きにくい人々の社会的包摂や上田市の文化的な底上げをもたらしていた.

    中澤(2018)では,上田市内における創業者同士のつながり(内なるネットワーク)に視点が特化していた.本報告では,それにも触れつつ,地域を越えた「外なるネットワーク」の重要性に目を向ける.
    2.外なるネットワーク
     報告者らは,2017年10月以来,断続的に上田市で調査を実施し,14事業体に2時間程度のインタビュー調査を行ってきた.その創業者のほとんどは上田市(周辺)の出身者(そうでない場合は配偶者)であり,かつ進学などによる他出の経験があった.

    他出の経験が「なりわい」に直接結びつきやすいのは,ICT技術を生かした仕事をしている例である.デザインを手がけるウッドハウスデザインとサングラフィカは,拠点を上田市に移して以降,次第に軸足を地元での仕事に移しつつあるが,以前の勤務先など,東京のクライアントとの取引も継続している.

    上田市内には人々のつながりが生まれる場所がいくつもある.そこで生まれるのは,地元創業者同士の「内なるネットワーク」だけではない.インターネット古書店を手がけるバリューブックスが経営するブックカフェNABOでは,週に何度もイベントが行われている.イベントの主催者は関東や関西にも広がっており,「外なるネットワーク」が生まれる場所にもなっている.「オンラインから地域へ」を標榜する瀟洒な読書空間であるNABOは,大手企業も注目するところとなり,無印良品やスターバックスとのコラボレーションが進行中である.

    バリューブックスを含む上田市の5つの事業体が主催するクラフトマーケット,ロッピス上田も,「外なるネットワーク」の形成に一役買っている.2018年は2日間開催され,約60の店舗が出店したが,その大半が松本市や長野県外に拠点を置いていた.ロッピス上田は,5つの事業体が協同でインターンを受け入れるプロジェクトに端を発しており,その運営には全国各地から応募したインターンの大学生が携わった.
    3.非市場経済との関係
    本報告が取り上げる創業者は,賃労働には従事していないが,生活の糧の大半は市場における交換から得ている.しかし,上田市の創業者の事業には,利潤動機よりは文化や社会の涵養に結びつく互酬的なものが特徴的にみられる.その際には,文化支援事業や地方創生関連の補助金といった再分配の恩恵を受けることもある.また,販売に供する食材の一部を自ら耕作している,狩猟を趣味としている,店舗の改装や内装をDIYで行うなど,家政による自給も,一般的生活者よりは明らかに重要な位置を占める.こうした事象に引きつけながら,「田園回帰」に象徴されるローカル指向と,ポスト(脱)資本主義や非市場経済との関係(立見・筒井2018)にまで議論の射程を伸ばすことができれば幸いである.

    文献

    中澤高志2018.地方都市の若手創業者が生み出すもの―長野県上田市での調査から―.2018年人文地理学会大会予稿集.

    松永桂子2015.『ローカル志向の時代―働き方,産業,経済を考えるヒント』光文社

    立見淳哉・筒井一伸2018.田園回帰と連帯経済の接点をさぐる.地理63(6):55-61.
  • 山口 幸男
    セッションID: 301
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    わが国の戦時下の地理教育は「軍国主義、超国家主義に基づき、わが国を思い上がったアジアの指導者にするための国家の政策に加担した政治の碑女としての地理教育であった」とまとめられるのが、後世(戦後)における戦時下の地理教育に対する大勢の評価ではなかろうか。それゆえ、戦時下の地理教育はただただ否定され続けられるだけの悪の存在であり、触れてはならぬタブー的存在であった。しかし、戦時下という状況の中においてこそ、平時ではみられない地理教育の在り方に関する見解・議論が浮かび上がってくる可能性がある。それゆえ、戦時下の地理教育論に本格的に向き合うことは、地理教育の本質的なあり方を検討する上で大きな意味を持つといえる。それはまた、地理教育の戦後を終わらせる上での不可欠な作業であり、戦前・戦後にまたがる地理教育史再構築の上での重要な作業でもある。本発表では、戦時下の地理教育に関する論点のうち「時局と地理教育」を取り上げ、地理教育本質論の立場から考察する。そして、その考察を踏まえて戦時下の地理教育論に対する新しい評価を提示したい。
  • 山口 隆子, 松本 昭大, 鈴木 敦
    セッションID: P025
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    「オルムゴル」は、韓国の密陽にある峡谷である。ここでは、夏になると氷が成長し、冬になると温風が吹き出す現象がみられる。オルムゴルに関する研究は、日本の研究者も行っているが、結氷の仕組みは未だ明らかにされていない。そこで、本研究では、オルムゴルの現状を観察し、結氷の仕組みを考察するため、観測を実施した。調査期間中の気温は、密陽市街地の観測値を最大で約10℃下回った。しかし、オルムゴル内でも、気温分布が異なり、気温勾配も一様ではなかった。発券場までは、気温変化がほぼみられないが、発券場から大光明殿の間に、等温線がやや集中し、気温が3℃低下した。このことからオルムゴルの冷気の到達範囲は、発券場の手前付近までと推測される。大光明殿周辺では、気温変化が再び緩慢となるが、湧水地を超えると等温線の間隔が密になり、気温は一気に4℃低下する。湧水の水温は6.1℃であった。結氷地の周辺では気温は20℃以下にまで低下した。結氷地は一面が巨礫に覆われた崖錐(テーラス)となっており、氷を確認することはできなかったが、冷気の吹き出しは強く感じられた。岩の隙間の表面温度の最低値は氷点下3.1℃にまで達した。結氷地の真正面のみならず、そこから横幅約10m、縦幅約50mもの広範囲にわたり、表面温度が15℃以下と低温になっていた。
  • 大貫 靖浩, 安田 幸生
    セッションID: 607
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    日本のブナ林は主に湿潤で寒冷な山地に分布し、古くから水源涵養機能が高い森林の代表とされてきたが、それをどのくらい有するのかを定量的に算出した研究はほとんどない。そこで演者らは、ブナの純林と呼んでも差し支えない岩手県北部の安比高原ブナ二次林に調査地を設定し、「保水能」の指標と考えられる土壌含水率と、「貯水能」を規定する主要因子である表層土層厚(土壌厚)を多点で測定して、両機能の定量化を試み、微地形との対応関係についても検討した。
     土壌含水率(地表面から各深度までの平均値)は、深度4cmと深度12cmおよび20cmで全く異なる傾向を示した。深度4cmでは、全48地点の平均は7.6%で、10%未満の値を示す地点が90%を占め、土壌には空隙が多く非常に乾燥していた(目視による観察による)。一方深度12cmと20cmでは、全48地点の平均は各35.7%、52.1%で、30%以上の値を示す地点がそれぞれ全体の81%、100%に達し、降雨後1週間経っても深度12cm以深は土壌が非常に湿った状態であることが確認できた。表層土層厚は、2.0haの調査範囲全体にわたって薄く(平均:0.93m)、1m未満の地点が80%、1~1.5mの地点が14%を占めた。特に船底状を呈する小凹地周辺では、0.5m未満の地点も認められ、石礫が多く存在していた。一方、調査範囲南西の谷頭凹地付近では、表層土層厚3m以上の地点が計10点認められ、最大で5m以上の値を示した。これらの表層土層が非常に厚い地点では、基岩付近まで土層内にほとんど石礫が存在しないことから、風成火山灰か西森山起源の細粒の火山泥流堆積物が厚く堆積しているものと推察される。
     以上のように、土壌の保水能の観点からみると、安比高原のブナ二次林は雨水を浸透させやすく、無降雨期が続いても土壌中に水を保持する能力が非常に高いと考えられる。しかしながら、いわゆる「緑のダム」(貯水能)としては、表層土層厚が平均1m未満と薄いことから、ダムの容量(保水容量)は大きくない可能性が高い。
  • 森脇 広, 永迫 俊郎
    セッションID: P062
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    最終氷期以降,とりわけ過去約3万年間は,最終氷期最寒冷期から急激な温暖化の最終融氷期,現在につながる後氷期という大きな気候変化が生じた最新の時代で,これに伴う諸古環境変化を年代的に高精度に解明することは,グローバルな環境変化の時間差やメカニズム,要因,将来の環境変化を検討する上で重要な課題となっている(Hoek et al., 2008;森脇,2011).これを進めるのに,高分解能で分析可能な氷床コアの酸素同位体変化に基づく環境変化と,これと深く関係する海底コアの海洋酸素同位体変化,陸上の諸古環境変化との高精度対比・統合化を目指すINTIMATE(INTegration of Ice-core, MArine, and TErrestrial records)のプロジェクトが,ヨーロッパやニュージーランドを中心として行われてきた(Alloway et al., 2007).日本でもこうした視点から,高精度古環境編年の地域的模式作成が行われており,古環境編年のグローバルな年代的高精度対比が進められてきた(Nakagawa et al., 2005).

     こうした大陸間スケールでの高分解能の事象を指標とした古環境の高精度編年・対比に対して,より小さな地域スケールでの多様な古環境要素の高精度な編年と,こうして得られた各地域古環境編年をさらに広域に統合し,空間的に高精度な編年はまだ十分な議論はなされていない.気候変化などグローバルに共通する変化に対して各地域の古環境諸要素は地域的な特性に応じて変化することから,より小スケールでの多様な古環境要素の年代的な高精度編年を,空間的にも高精度で統合することは,気候変化などのグローバルに共通した変化に対応して各地域で環境諸要素が全体として具体的にどのように変化したか,さらには人々とどのような関わりがあったかを知る上で重要と考える.これを進めるための一つの方法は,古環境や文化の諸要素の変化を同一の年代軸上で高精度で編年統合し,氷床地域など年代的に高精度な環境変化がえられている模式的地域との対比を行い,各地の古環境・文化諸要素の変化の相互関係を年代的により高精度に明らかにすることである.こうして各地で統合された各種古環境・文化の高精度編年をより広域に統合することは,地域間の古環境・文化の変化の年代的差異や類似性を時間的のみならず空間的にも精度を高めて論じる上で基礎的な資料を提供する.

     古環境・文化諸要素の編年を地域的にも年代的により高精度で進めるためには,高精度の年代フレームワークの構築が必要で,これに厳密な同時間面を与えるテフラは重要な役割を果たしてきた(Lowe et al., 2008; Lane et al., 2017).南九州には,後期更新世の過去10万年簡に100枚ほど,後期更新世末以降の過去3万年間に60枚以上のテフラが認められている (Moriwaki, 2010).それらは,多様な古環境・考古文化諸事象と関わって堆積しており,古環境・文化の高精度編年の一つのモデルを作成するのに好条件を備えている.

     これまで,演者らは南九州の臨海低地や古植生,海面変化,考古文化などについて,テフラ編年を基に,周辺海域やグローバルに模式的な高精度古環境編年との対比を目指して統合整理し,一つの編年図を提示してきた(Moriwaki et al., 2016). 今回,これに南九州・南西諸島の台地・砂丘などの諸地形の地形変化を加えて,最終氷期,特に最終氷期後半以降に焦点をあて,テフラを主な対比・編年指標として,周辺海底との比較,地域標準としての海洋酸素同位体,氷床コア同位体変化などとの対比を視野に入れた,古環境・文化諸要素の高精度な統合的編年の試みを提示する.
  • 栗栖 悠貴, 稲澤 容代
    セッションID: 317
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    近年,TwitterやFacebookなどSNSが普及しインターネット上で容易な情報発信や情報共有が可能になった.SNSには,リツィートできる機能を有するなど,ユーザー参加と情報拡散という面がある.一方,最新の情報が高頻度で発信されればされるほど過去の情報へのアクセシビリティが低下するというユーザーフレンドリーでない側面もある.また,SNSにおいて位置に関する情報を含めて発信した場合,ウェブ地図等へリンクさせて位置を確認することは容易であるが,SNSとウェブ地図で双方向から情報を確認する事例は少ない.しかし,ウェブ地図にSNSで発信している情報への入り口を確保することでこれらの問題は解決する.
    本報告では,地形や空中写真など有用な地理空間情報が豊富に掲載されている地理院地図<https://maps.gsi.go.jp/>および地形等を切り口とした教科横断的な学習や地域学習を支援するための具体的な活用例を多く発信している国土地理院応用地理部ツィッター<https://twitter.com/gsi_oyochiri>を活用した地理教育支援の取組みを紹介する.
  • 宇都宮 陽二朗
    セッションID: 622
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    筆者はBetts社の新型携帯地球儀を1855-58年製造と推定していたが、最近、NMAHの WebpageでBetts,1856年特許取得の記事を知り、英特許庁から直接,Bettsの特許情報を得て関連情報を含め、既報(宇都宮,2018)を修正・再吟味した。本報告では、Betts社の新型携帯地球儀の特許取得からその製造年は1856年以降であることが確定したことを明らかにし、遅くとも1853年(公表は1855年)に製作済であった墨僊の大輿地球儀は世界最初の傘式地球儀であることを明らかにした。また、幕末における情報伝達について推論を加えた。
     推論に推論を重ねた妄論かも知れないが、幕末当時の日欧間の航行期間及び日本周辺海域に出没する来航船や公認非公認の交易等に伴う情報流出との関係で、Bettsのそれは墨僊の地球儀情報に拠るかと推定した。さらに墨僊が長年、秘匿していた地球儀の公表を頻りに推薦した者(大久保要?) の着目点が傘技術改良による折り畳み可能性と携帯性ならば、1800年製作の地球儀は傘式地球儀の可能性がある。そうならば、発明/製作はさらに半世紀以上遡るが、詳細は不明である。いずれにせよ、田舎町土浦の一寺子屋師匠、沼尻墨僊の製作した傘式地球儀製作は世界の地球儀製作史におけるフロンティアをなしたと言える。
  • 西村 智博, 研川 英征, 関口 辰夫, 中筋 章人, 田村 俊和, 平井 幸弘, 石丸 聡
    セッションID: P004
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.常呂川水系の被害状況と治水地形分類
     常呂川水系では,8月17日から23日における台風7号,9号,11号の相次ぐ通過に伴って,記録的な大雨となった.この大雨により,常呂川水系下流域の太茶苗観測所および上川沿観測所では, 計画高水位を超える観測史上第一位の水位を記録した.
     これにより,北見市常呂町の太幌橋から北見市端野町の忠志橋にかけての常呂川下流区間では,合流する支川も含め堤防の越流や漏水,破堤が集中し,農地が広範囲に浸水した.また,常呂川水系上流域支川の無加川では,北見市留辺蘂町温根湯温泉周辺などで溢水や橋梁背面盛土の流出による被害が生じた.
     筆者らは,北海道開発局や土木学会調査団の調査結果(図-1)から被害状況を把握するとともに,2017年4月及び7月に常呂川下流域について現地調査を実施し,調査結果を治水地形分類図(更新版)「卯原内」「浜佐呂間」「日吉」上に展開(図-2)して被害箇所の特性を検討した.

    2.常呂川水系の被害の特性
     常呂川水系下流域では,支川である東亜川や柴山沢川の堤防の破堤や,常呂川沿いにおいては堤防の越流浸食,堤防直近の堤内地で噴砂・空気湧出などの被害が多数見られた.
     これらの地点の地形を治水地形分類図(更新版)により確認すると,噴砂や空気湧出が発生した箇所の多くは旧河道に位置することが読み取れる.旧河道では河床を構成していた砂礫の上にシルト質の堆積物が分布していることが多く,砂礫質の層が透水層(通気層)となっていたと考えられる.
     また,東亜川の破堤箇所は後背湿地上に位置していたことから,常呂川の水位上昇により合流できなくなり溢水したものと考えられる.さらに,柴山沢川の破堤箇所は小規模な扇状地から低平な氾濫平野へ流出する地点にあたり,本川の水位が上昇して支川に逆流したところに流速の早い濁流が流れ込んだために破堤したと考えられる.
     その他の越流地点も河道の屈曲部や旧河道部といった流水が集まりやすい箇所に該当しているところが多い.
  • 森 岳人
    セッションID: S703
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1. アウトリーチにおける出版の役割と現状

     出版の役割は、書き手の考えや様々な情報を世の中に広く伝えることにある。だとすれば、出版すること自体がアウトリーチそのものとも言える。ゆえに地理学の面白さや有用さを世の中に広く知らしめるためには、出版は欠かせないと考える。

    もちろん、これまでも地理学の書籍は出版されてきた。しかし、例えば歴史分野などと比べると出版点数は少なく、学術書や大学の教科書のようなものが大半で、内容やレベルにおいて一般読者を対象としたものが少ない(森 2018)。アウトリーチの主旨からすると、出版点数を増やすことに加えて、地理学に詳しくなくても読むことができ、容易に入手できるものが求められる。この点で、出版における地理学のアウトリーチは、まだ道半ばであると言わざるを得ない。アウトリーチにおいては、学術に携わる読者を対象とした専門書ではなく、より多くの一般読者を対象とした「一般書」の出版が必須である。

     一方で、情報を広く伝えるという意味では、ラジオやテレビ、インターネットという方法もある。伝達という点では、書籍の出版よりもスピードと拡散力において優るだろう。しかし、それなりの分量の情報を目的に応じて読みやすくパッケージし、信頼性を担保しながら、広く伝達するにはまだ書籍が優ると考える。さらに、書籍は知識の錨の役割を果たし、蓄積性にも優れているので、学問的な内容を扱うのに向いている。地理学のアウトリーチにおいても、書籍の出版はいまだ大きな役割を果たすことができると言えるだろう。



    2.専門書と一般書の違い

     先に地理学のアウトリーチにおいては、専門書ではなく、一般書が必須であると述べた。しかし「一般書」とはいったいどのようなものを指すのだろうか。そもそもこの用語自体に明確な定義はない。出版業界において、専門書と区別するために便宜的に用いられている用語である。端的に表現するなら「一般大衆に向けてわかりやすく書かれた本」と言うことができるだろう。専門書が、読み手にある程度の知識があることを前提にして書かれたものであるのに対し、一般書は、前提知識がなくても読んで理解できるように書かれたものであるとも言える。

    もちろん読み手の知識レベルや興味関心には幅があるので、一般書と言われるものでも、そのテーマやレベルは様々である。したがって、専門書であるのか一般書であるのかを明確に線引きすることはできず、そうした分類を客観的にすることにもあまり意味がない。まず書き手・作り手側の意識が重要で、対象読者を専門家以外の一般大衆に設定し、彼らが理解できるようにわかりやすく作ることが一般書の条件となる。特にアウトリーチにおける出版は、地理学の知識が乏しかったり、地理学への関心が薄い人々に対して興味関心を喚起することに主眼が置かれるので、そのための工夫も必要となる。専門書は目的買い要素が強いのに対して、一般書は衝動買い要素が強く、潜在的な需要を掘り起さなければならないからである。



    3.一般書で地理学の面白さを伝えるには

     地理学に限らず、一般書を作るうえで大切なことは、読者を明確に見据え、伝えたいことがしっかり伝わるように工夫することである。「誰に、何を、どのように」伝えるか、さらに言うと、「何のために」出版するのかをしっかりと考える必要がある。

    地理学のアウトリーチにおいては、世の中の多くの方に地理学の面白さを伝え、地理学に興味を抱いてもらうことが目的となる。そのためには、身近な事柄や人々が普段から関心を寄せている事柄と地理学を結びつけた企画や切り口を錬ることが求められる。例えば、『経済は地理から学べ!』(宮路 2017)は、ビジネスマンにとって身近な経済と地理を結びつけ、『東京「スリバチ」地形散歩』(皆川 2012)は、散歩と地形を結びつけて、多くの一般読者の興味を喚起した。
    他にも知識の乏しい読者が地理を学びなおすための入門書や啓蒙書も提供していく必要がある。これら一般書を作るにあたっては、タコつぼ的な狭いテーマは避け、地理学の全体像がおぼろげにでも見えるようにする、前提知識は高校生でも理解できるレベルにする、目次構成や見出しは、読者の関心が途切れないように工夫する、解説や文体は読者目線を心掛け、細部にこだわりすぎないようにするなど、様々な要素を対象読者に見合うように設計しなければならない。学問的な内容でも論文のような作法や表現方法にとらわれずに作ることで、専門書や教科書では得られない読みやすさやわかりやすさが生まれ、読者や学習者の間口を広げることができるのである。
  • 小泉 諒
    セッションID: S808
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1. はじめに

    横浜市では早期から地域福祉の取り組みがなされ,1974年に「横浜市地域の風土づくり推進委員会」が設置された.その後,各区の社会福祉協議会との連携や協力によって,市内で各区の特性を生かした地域福祉が展開されてきた.そのような蓄積をもとに,1991年に地域ケアシステム基本指針が制定され,横浜市地域ケアプラザ条例が施行された.その第1条には,「市民の誰もが地域において健康で安心して生活を営むことができるように、地域における福祉活動、保健活動等の振興を図るとともに、福祉サービス、保健サービス等を身近な場所で総合的に提供するため、本市に地域ケアプラザを設置する」とある.この理念において,地域ケアシステムの対象者は高齢者に限らない.しかし,当初は急激に進む高齢者への対応が必要とされ,当面は高齢者を中心に取り組まざるを得なかったとされる.

    2.包括型地域支援拠点としての「地域ケアプラザ」

    地域ケアプラザが他都市の包括型地域拠点と比較して特徴的な点は,地域包括支援センターと地域活動交流部門の併設し,複数の機能を持たせている点である.横浜市では地域活動の拠点と併設されることで,相談と活動を結び付けやすくすることが意図されている.地域包括支援センターは介護保険制度に基づく施設であり,ここでは,地域住民の身近な相談窓口として,介護保険の利用相談や地域の介護予防教室の案内などに対応している.地域活動交流部門では,地域活動や交流の場として,施設内の多目的ホールなどを利用した健康づくりや介護予防教室,子育てサークルなどの活動が行われている.また,地域住民が団体を立ち上げ,地域で必要とされているサービスの活動を行っている例もみられる.このような活動は多岐にわたり,対象が現在では高齢者に限らないまでに拡大していることも,地域ケアプラザの特徴の一つと言える.

    3. 横浜市「地域ケアプラザ」の形成と運営

    地域ケアプラザの開所年について,1991年以降を5年ごとに集計すると,1991年~1995年(第I期)が20件,1996年~2000年(第II期)が49件であった.これは,施設の過半数が2000年までに開所し,横浜市に地域ケアプラザが定着していることを示す(図1).

    地域ケアプラザの担当地域は,中学校区を基準として定められている.担当地域内の人口を求めると,平均は25,533人であった(2015年国勢調査結果).しかし地域ケアプラザによって,高齢化率などその年齢構成には差異がみられた.そのため,包括型の地域拠点として地域ケアプラザに求められる役割も,担当地域によって異なることが示唆された.

    施設の運営には指定管理者制度がとられ, 57の社会福祉法人に運営が委託されている(2018年現在).受託している社会福祉法人には,高齢者を得意とする社会福祉法人のみならず,障害者や医療を得意とする法人もみられた.また,過半数の72施設が,他の施設を併設していた.そのうち21施設は,市の地区センターまたはコミュニティセンターであり,地区の拠点として機能していることがうかがえる.そのほかに,特別養護老人ホームと,障碍者関連の施設との併設が9施設ずつみられた.これは,それぞれの施設における独自事業に,運営を受託している社会福祉法人の専門性が発揮される可能性を示すと考えられる.
  • 鈴木 晃志郎
    セッションID: S104
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    はじめに

     観光開発や公共事業,さらには世界遺産登録に至るまで,地域に何らかの人為的インパクトが加わるとき,多くの地域で不可避的に発生するのが景観紛争である.発表者はこの10年間,地理学が得意とする空間的可視化の手法を用いて景観紛争の空間的諸相を明らかにし,そのプロセスやメカニズムの解明を通じて社会貢献をなすことを志してきた.筆者が主に関わってきたのは,公共事業のあり方をめぐって地域を二分する紛争となった「鞆の浦港湾架橋問題」(広島県福山市)と,いわゆるFIT法成立に伴い全国に乱立した太陽光パネル発電施設をめぐって周辺住民と事業者の間で法廷闘争にまでもちこまれた景観紛争(山梨県北杜市)の2つである.本発表ではこれらの事例を紹介し,双方に共通する紛争の構図や生成メカニズムについて整理して話題提供することを通じて,シンポジウムにささやかな貢献を果たすことを目的とする.

    景観紛争の構図

     鞆の浦の紛争は,公共事業(地元行政)の是非をめぐって推進派住民と反対派住民及び文化人や有識者との間で論争となった.一方,北杜市の場合は,届出義務のない小規模な太陽光発電施設を事業者が住宅地に設置したのを契機に,周辺住民が反対の声を挙げたものである.二者は様相を異にする紛争でありながら,大きく2つの点で共通項がある.第一には,発表者が「『神話』性」(鈴木2014)と呼ぶある種の共同幻想の存在であり,景観紛争はこの共同幻想を深く内在化している者の間でより尖鋭化される傾向がある.第二には,対立する当事者たちのうちの少なくとも一方が,自らの属する空間スケールの外側に向けた「政治の行使」をすることである.鞆の浦の場合,鞆町という空間スケールの内側で架橋計画に反対する住民は少数派であった.しかし,彼らは「鞆の浦を世界遺産に」をスローガンに掲げ,在京文化人や研究者,さらにはユネスコの諮問機関イコモスの会長までを運動に巻き込み,最終的に架橋事業を断念させた.また北杜市で,私設の太陽光発電所を運営する個人事業者や北杜市出身の市長ら地元出身者による再生可能エネルギー重視の見解と相剋するのは,定年後に移住してきた別荘地の住民たちであった.彼らが訴えるのは,身近な眺望景観の毀損や「光害」であるが,彼らは自らを「市民」と称し,鞆の浦の反対派と同様,外部に向けた働きかけによって思いを遂げようとしていた.

    おわりに

     四半世紀にわたる紛争が根深い相互不信を生み,鞆の浦では「住民協議会」開催後も双方に根深いしこりが残る結果となった.ジオを「描写する」学問であることの無力さを痛感した発表者は,北杜市では自らが交渉役となり,紛争が深刻化する前に当事者同士が「見られながら議論する」場を設けて,相互理解を促進することから「神話」を乗り越える試みをした.その影響と効果について,発表者はまだ明確な答えを得ていない.当日はこの試みを通じた教訓や知見を披瀝し,議論の材料に供したいと考える.

    文献
    鈴木晃志郎 2014. 住民意識にみる公共事業効果の「神話」性とその構成要因. 歴史地理学56(1): 1-20.
  • 鈴木 晃志郎, 于 燕楠
    セッションID: 613
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    研究目的

     本発表は,地理学が得意とする空間的可視化の手法を用いて,富山県内の心霊スポットの分布が現代と100年前とでどう異なるかを空間解析し,その違いをもたらす要因について考察することを目的とする.本発表はエミックに扱われがちな事象をエティックに捉える試みであり,民俗学を中心に行われてきた妖怪変化の分類学を志向するものでもなければ,超常現象そのものの有無を論ずるオカルティズム的な関心も有しない.
     超常現象が何であるにせよ,それらが超常現象となり得るには,人目に触れ認知されなければならない.ゆえに超常現象は高度に文化的であり,その舞台として共有される心霊スポットは,組織化され商業化された一般的な娯楽からは逸脱した非日常体験を提供する「疎外された娯楽(Alienated leisure)」(McCannell 1976: 57)の1つとして社会の文化的機能のなかに組み込まれているとみなしうる.その機能に対して社会が与える価値づけや役割期待の反映として心霊スポットの布置を捉え,その時代変化を通じて霊的なものに対する社会の側の変容を観察することは,文化地理学的にも意義があると考えられる.

    研究方法・分析対象

     2015年,桂書房から復刻された『越中怪談紀行』は,高岡新報社が1914(大正3)年に連載した「越中怪談」に,関係記事を加えたものである.県内の主要な怪談が新聞社によって連載記事として集められている上,復刻の際に桂書房の編集部によって当時の絵地図や旧版地形図を用いた位置情報の調査が加えられている.情報伝達手段の限られていた当時,恐らく最も網羅的な心霊スポットの情報源として,代表性があるものと判断した.この中から,位置情報の特定が困難なものを除いた49地点をジオリファレンスしてGISに取り込み,100年前グループとした.比較対象として,2018年12月にインターネット上で富山県の心霊スポットに関する記述を可能な限り収集し,個人的記述に過ぎないもの(社会で共有されているとは判断できないもの)を除いた57の心霊スポットを現代グループとした.次にGIS上でデュアル・カーネル密度推定(検索半径10km,出力セルサイズ300m)による解析を行い,二者の相対的な分布傾向の差異を可視化した.このほか,民俗学的な知見に基づきながら,それらの地点に出現する霊的事象(幽霊,妖怪など)をタイプ分けし,霊的事象と観察者の側とのコミュニケーションについても,相互作用の有無を分類した.

    結 果

     心霊スポットの密度分布の差分を検討したところ,最も顕著な違いとして現れたのは,市街地からの心霊スポットの撤退であった.同様に,大正時代は多様であった霊的事象も,ほぼ幽霊(人間と同じ外形のもの)に画一化され,それら霊的事象との相互作用も減少していることが分かった.霊的なものの果たしていた機能が他に代替され,都市的生活の中から捨象されていった結果と考えられる.

    文 献
    MacCannell, D. 1976. The Tourist: A new theory of the leisure class. New York: Schocken Books.
  • 畠山 輝雄
    セッションID: S804
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    .はじめに

    本報告では,地域包括ケアシステムの類型(3)の「地域包括支援センターが複数の自治体における地域包括ケアシステム」の実態を考察する。類型(3)には,多様な都市自治体が存在し,類型(1)や(2)に比べて人口規模の大きい自治体が多い。そこで,首都圏郊外に位置する人口約42万の神奈川県藤沢市を事例に報告する。

    Ⅱ.藤沢市の地域包括ケアシステムの概要

     藤沢市では1980年代以降に進めてきた自治体内分権の基礎となる13地区を日常生活圏域として設定し,圏域ごとのネットワークを基盤とした地域包括ケアシステムの構築を目指してきた。また,各圏域に市内の事業者に委託した地域包括支援センターを設置し,同圏域単位にセンターを中心とした「小地域ケア会議」を開催している(図)。小地域ケア会議では,日常生活圏域内の高齢者の見守りをテーマにしており,圏域内のネットワークを活用して地域の特性に合った議論が重ねられている。

     また,市内の高齢者を中心とした住民の課題解決や政策反映を目的に,全市域を対象とした「テーマ別地域ケア会議」も開催している。同会議では,認知症関連,介護・医療連携などの4テーマについて,専門職を中心に様々な事例の検討を行い,各圏域にフィードバックしている(図)。

     さらに2015年度からは,「藤沢型地域包括ケアシステム推進会議」を設置した。同会議では市全域を対象に,高齢者分野に限らずに,医療,子育て,障害者福祉,学校などの様々な分野間での連携を図り,全世代型の地域包括ケアシステムを目指している(図)。会議では,地域の相談支援体制づくりや健康づくり・生きがいづくりなどの6つの専門部会を設置し,その議論の内容を議会でも報告し,全市的な政策化を図っている。同会議の取り組みは,地域共生社会の理念とも一致している。

     以上のように藤沢市では,市全域と日常生活圏域の2層のスケールによる地域ケア会議を基盤とした地域包括ケアシステムが構築された(図)。

    Ⅲ.藤沢市の地域包括ケアシステムにおけるローカル・ガバナンス

     藤沢市では,2層のスケールによる重層的なローカル・ガバナンスを形成した。また,人口の多さや多様な地域性を考慮し,日常生活圏域単位で地域包括支援センターを設置して小地域ケア会議を実施するという,分権型のローカル・ガバナンスの構築を目指した。

     この分権型のローカル・ガバナンスの課題として,日常生活圏域内の活動の良悪が,委託した法人の意識に左右されることである。藤沢市では法人の努力の結果として,日常生活圏域間の活動実績に大きな差異は生じていなかったが,他の自治体では圏域間で差異が生じている事例も報告されている(畠山2017,畠山ほか2018)。

     このため,日常生活圏域ごとの地域特性を考慮しつつ分権型のローカル・ガバナンスを構築しつつも,日常生活圏域単位の地域包括支援センターを中心としたローカル・ガバナンスをチェック、調整する自治体のメタ・ガバナンスとしての役割は大きいといえる。



    文献

    ・畠山輝雄(2017)地方都市における地域特性を考慮した地域包括ケアシステムの構築と行政の役割,佐藤正志・前田洋介編『ローカル・ガバナンスと地域』,153-174,ナカニシヤ出版。

    ・畠山輝雄・中村努・宮澤仁(2018)地域包括ケアシステムの圏域構造とローカル・ガバナンス,E-journal GEO,13巻2号,486-510。
  • 伊藤 智章
    セッションID: 316
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    2022年度から新設される高校の必修科目「地理総合」では、GIS、国際理解、防災の3つテーマを柱とし、学習の入り口として地図とGISの活用が強調されていることから、年間の授業の早い段階でGISを使った授業が行われることが予想される。
     しかし、地理の授業においてGISを扱う環境や、教員の指導経験は不十分であり、Web GISや紙地図を使った「アナログGIS」など、導入段階での教材の充実が求められている。ただ、GISや地理教育の指導に不慣れな教員が、「アナログGIS」を導入教材ではなく、デジタル的な指導が出来ない状況での「代替教材」として位置付けたり「地図の色塗りや重ね合わせを指導すればGISを扱った」と錯覚してしまいかねないことが懸念されている。こうした状況を踏まえ、デジタルの実習との連続性のあるアナログGIS教材を作成し、高校3年生を対象に実践を試みた。
     高等学校の「地理A」の人口問題の単元において、世界の国別の各種指標(出生率・乳幼児死亡率・合計特殊出生率・識字率)を白地図に重ねた透明シート上で地図化させた。それらを重ね合わせることで指標同士の相関性を検討させた。教材の作成にあたっては、GISソフトを用い、作業の補助となるベースマップを作成した。統計資料を塗り分け、重ね合わせる作業を通じて、国ごとの人口指標を左右する背景を視覚的に捉えさせることができた。
     教材作成に用いたデータを用いてGIS実習を行うことができれば、GIS導入の連続性が担保できる。しかし、アナログGISによる実習からいきなり各自がGISソフトを操作するパソコン実習に移行しても十分な教育効果が挙がるかに関しては疑問の余地が大きく、教師の指導経験やICT活用能力によっても差異が出る可能性が高い。アナログGISとGISソフトに実習の間を埋める教材を開発し、普及させることができるかが今後の課題である。
  • 後藤 秀昭
    セッションID: P045
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに  今世紀に入ってマルチビーム測深調査が本格的に進み,海底の高解像度な地形データが収集されつつある。地質構造を手がかりにしながら,海底地形を解釈することで,これまでとは全く異なる断層分布やプレート境界像が描かれるようになった(Nakata et al., 2012など)。

     沿岸域の変動地形については,陸上地形と海底地形がそれぞれ別の分野で研究され,統合的に検討した研究は少なかった。分野の違いだけでなく,海陸を統合して俯瞰する詳細な地形資料に乏しいことによると考えられてきた(後藤,2014)が,データの収集や地図表現の工夫などによって,陸上に分布する活断層の海底への延長や陸上に認められる変動地形を合理的に説明できる海底の活構造が明らかにされつつあり(Goto, 2016;Goto et al., 2018;後藤,2018),沿岸部の変動地形研究は新展開を迎えていると考えている。沿岸陸域には人口が集中しており,地震や津波の防災にとっても重要な研究であるといえる。

     本研究では,沖縄島の北端から西北西約30kmの伊是名島とその周辺を対象に,沿岸部の陸上と海底の地形の情報を作成・収集し,統合した数値標高モデルを作成し,1枚の画像で海陸を判読できる地形アナグリフや地図を作成した。これを変動地形学的な手法で判読したところ,西北西—東南東方向に延びる活断層が陸上から海底に連続して延びることが新たに解った。地形の特徴から正断層と考えられ,沖縄島の北の島棚を横切る活断層と同様の走向,変位様式である。

     伊是名島は東西約4km,南北約4kmの小規模な島であり,変動地形はこれまで報告されていなかった。孤立した小規模な島が分布する南西諸島などでは,最終氷期の地形が観察できる沿岸海底を含めて地形発達を検討することで広域的で連続的な変動地形が確認できるようになる可能性があることが示されたと考える。

    2.作成方法と概要  陸上地形については,国土地理院のカラー空中写真をSfM-MVS技術を用いたソフトウェア(Agisoft社PhotoScan Professional 1.2.6)に取り込み,数値表層モデル(DSM)を生成して分析に用いた。空中写真は最も古いカラー写真である1977年撮影の約8,000分の1のもの(COK-77-1)を1200dpiでスキャンした27枚の画像を用いた。地上基準点(GCP)としては1972年作成の5千分の1縮尺の国土基本図に記されている独立標高点を用いた。撮影後の人工改変が極めて大きいことから,当時の地表が記録されている地図を用いた。これにより,約3m間隔と高解像度の伊是名島のDSMが得られた。現地においてSpectra社のPrecision ProMark120を用いたGNSSのスタティック法による測位を行い,地形モデルの検証を行った。

     一方,海底地形の情報は,1)海上保安庁の取得したマルチビーム測深データ(安原,2013),2)JAMSTECのデータ探索システム「Darwin」から収集したマルチビーム測深データ,3)(財)日本水路協会発行のM7020の等深線データ,4)海上保安庁の500m間隔のデータ(J-EGG500)を用いた。これらをそれぞれDEMに加工し(上記1からは約1.44秒(約44m)間隔,2および3からは約2秒(約65m)間隔),解像度の高いものから順に重ねあわせた。

    3.伊是名島周辺の海底段丘と活断層  伊是名島とその北の伊平屋島の周りの海底には,120m以浅の地形が広がっており,最終氷期には最大幅20km,長さ40km程度の単一の陸地が広がっていたと考えられる。この付近の海底地形を細かく観察すると2段の平坦面が認められ,海底段丘と考えられる。伊是名島周辺ではそれぞれ,水深80m程度と50m程度である。

     伊是名島の東には,これらの段丘地形を西南西方向に横切り,北側を低下させる約4kmの低崖が2条,認められる。また,この南の屋那覇島を横切る西南西走向の低崖が約20km断続的に延びており,低崖の北西部の海底段丘は南西落ち,南東部は北東落ちが明瞭である。段丘崖の横ずれは不明瞭で,低崖下の段丘面の変形が顕著である。これらの地形的特徴から正断層による変位地形と考えられる。

    4.伊是名島の地形と活断層  伊是名島は,中央と北部に,北西—南東に延びる標高100m程度の低山が2列,細長く延び,その周りに3段の段丘面が分布する。いずれの段丘も薄い砂礫層からなる。

     伊是名島の東の海底に認められる低断層崖のうち,南の断層の西延長は伊是名島中央の山地の北東山麓に連続する。山麓に広がる中位の段丘面には北東落ちの低断層崖が認められる。一方,北部の山地の北東には,中位面を変位させる北東落ちの断層崖が認められ,海底段丘を変位させる北側の断層に連続するようにみえる。
  • 福井 幸太郎, 藤田 裕行, 菊川 茂, 飯田 肇
    セッションID: 437
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1. はじめに
    水蒸気噴火はマグマ噴火よりも小規模なため,従来から行われてきた地震や地殻変動の観測だけでは,噴火の前兆を捉えることが難しい.このため,現在,水蒸気噴火の兆候を早期に把握するための新たな手法の開発が求められている.本研究の目的は2014年から間欠泉になっている立山カルデラの火口湖新湯の水位変化から水蒸気噴火の兆候を把握できないか検討することである.まず,現地観測から2014~2018年の新湯の水位変化の特徴を把握する.つぎに間欠沸騰泉の数理モデルで,観測された新湯の水位変動を再現し,新湯直下の温泉水貯蔵層への熱供給が増加して水蒸気噴火のリスクが高まった場合,水位変動にどのような変化が生じるのか数値実験を行う.
    2. 新湯の水位変動
    新湯の湖岸に設置したタイムラプスカメラの画像からは,温泉水が湖底の噴出孔から噴出して,水位が徐々に上昇,4日前後で満水になり,一定期間,満水状態が継続した後,噴出孔に温泉水が逆流して,半日で干上がった状態になり,約4日後,再び噴出が始まる様子が読み取れた.なお,以下では,水位上昇時間と満水時間を合わせて噴出時間,水位低下時間と干上がっている時間を合わせて休止時間と呼ぶ.
    噴出時間は4日ほどで終わることもあれば,72日にわたることもあり,ばらつきが大きかった(図1).これに対して,休止時間は全観測期間を通して4日前後(最短約2日,最長約6日)とほぼ一定であった(図1).
    3. 数理モデルによる計算結果と考察
    間欠沸騰泉の数理モデル(Kagami 2017)を用いて,地下の熱源から温泉水貯蔵層へ単位時間当たりに供給されるエネルギーα(図2)の違いによって休止時間にどのような変化が生じるのか検討してみる(図3).
    モデルからはαが増加すると休止時間が短くなる結果が予想された(図3).現地観測結果からは,2014~2018年の約5年間,休止時間が4日前後で一定であることが明らかにされている.これらのことから,新湯地下の温泉水貯蔵層へ供給される熱量は2014~2018年の約5年間,ほぼ一定であったことが推測される.
    浅部熱水の加熱は水蒸気噴火の準備過程のひとつと考えられている.このため,休止時間が短くなった場合は,水蒸気噴火のリスクが高まっている可能性がある.
    文献: Kagami, H. 2017. Proc. SPIE, 10169, p.101692K-1 – 7.
  • 浦山 佳恵
    セッションID: P073
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    一万年前から続く日本の温暖で湿潤な日本の気候条件のもとでは,人の手が入らない限りほとんどの場所で植生は森林へと変化する。そうしたなか近世の日本では肥料や秣,屋根葺き用の萱を得るための採草活動が盛んに行われ,近代まで広大な草地が維持されていた。20世紀初頭の日本の草地面積は国土の13%を占めていたという推計もある。しかし戦後,農業の機械化,化学肥料やトタン屋根の普及等によって草地は減少し,2011年の草地面積は国土の1%あまりとなった。

    近年、草地は地域の持続的な農業システムや伝統文化と深く関わり,希少な動植物の生息・生育地となっている点で改めてその価値が見直されている。かつて日本の多様な自然環境の中で,地域毎に人々は草地やそこに生育する植物を認識し,採取・活用し,草地利用に関わる様々な知識を伝承してきたと考えられる。しかし,草地利用に関わる伝統知についてはあまり把握されていない。

    近世以降の木曽馬の産地であった長野県開田高原では1955年頃まで馬飼育のための草地利用が続けられており,現在も0.5㏊の伝統的利用が継続されている草地が存在する。本研究では,日本の草地利用に関する伝統知の一端を把握することを目的に,長野県開田高原の1955年頃の草地利用について明らかにする。

    当時の開田高原の草地利用については,当地域の農業形態や木曽馬と人の暮らしとの関わりが検討され,草地と農地と馬は厩肥生産を通して有機的に関わっていたこと,草地には夏用の秣となる生草を採る夏草場・冬用の秣となる乾草の生産を目的とした干草山・放牧場があったこと,高冷地のためほとんどが隔年採草であったこと,干草山では草を刈る年の春に山焼きが行われていたこと等がわかっている。本研究では,人々の草地や草等の植物に対する具体的な働きかけの実態に注目する。
  • 小林 岳人
    セッションID: S211
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    地理教育におけるGISの有効活用については、20 年余り前から言われている。日本地理学会、日本地図学会、地理情報システム学会など全国規模の学術大会にて、たびたびシンポジウムが開催されている(佐藤 2014)。次期の学習指導要領では必修科目「地理総合」なかでは柱の一つとして扱われる。しかし導入に際しての課題(PC教室、機材、時間割、生徒の実情、教員の知識・技能など)も多く(小林2005)、普及しているとは言い難い(谷・斎藤 2019)。課題の中でも実際の指導にあたる教員のGISについての知識・技能は重要である。また、現在は地理教員の世代交代の時期にあたっているため、地理教員養成課程におけるGIS関連カリキュラムが大きな課題となっている。そこで、ここでは、現職教員のGISの研修と教員養成における教育実習でのGISの扱い事例を述べる。

    まず、教員研修についてである。千葉県高等学校教育研究会地理部会では、教育GIS 研究グループを組織し、GIS ソフトウエアの操作、作成教材データの交換会、授業アイディアについてのワークショップや発表などを行っている。期末考査の考査返却時(3月、7月、12月)の午後(14:00~16:00)に活動時間を設定し、県内各地の高等学校からの交通の利便性、コンピュータ教室におけるGISソフトウエア環境(ArcGIS、QGIS、MANDARA、Google Earthなど)などから、毎回、県立千葉高等学校で開催している。研究会の具体的内容としては、デスクトップGISの代表であるArcGIS、QGIS、MANDARAの操作方法や具体的教材作成、WebGISに分類される地理院地図、GoogleEarth、各国の官製地図サイトの紹介や授業での利用例、ビッグデータを利用した交通関係地図サイトの紹介、スマートフォンの地図サイトの紹介、さらに紙地図でのGIS的学習の紹介や実践例など、GISに関して一通りの内容を扱っている。研究会の形式は、講師の先生を招いてなどワークショップ形式の他、参加者の授業実践の持ち寄りなど、双方向からのアイディアを交わすことができるような場となっている。研究会への先生方の参加状況をみると、20~30代前半の先生方と50代の先生方がほぼ半々である。これは、実際の教員構成と同じである。若手の先生方はソフトウエアの操作方法についてとてもスムースになされるが、出来上がった地図(特に主題図)についての読図については、ベテランの先生方の鋭い知見が交わされる。ベテランの先生方と若手の先生方が単に人数的な面でミックスされているという以上に、それぞれの特性が良い効果をもたらしているといえよう。なお、教員研修については、12 年前に研究グループの立ち上げ研修会と称して、1 度だけ開催されたことがある(小林2005)。参加者も多く、盛況であった。しかし、その後、定期的な活動には至らずその場かぎりのものとなってしまった。当時の取りまとめをおこなった発表者にとっては今回の研究グループの活動は12 年越しのものでもあった。

    次に教育実習についてである。発表者の勤務校である県立千葉高等学校の教育実習においてGISを扱った実習を行った(小林 2018a)。実習生は早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修に所属し、GIS全般についての講義・実習を受講していた。県立千葉高等学校の地理A授業は2単位1年生必修(8クラス)である。週2回授業のうち、1回はコンピュータ教室を利用できるような時間割設定がされている。各クラス4回が実習期間の授業回数である。そこで、前半の2回を主に指導教員の授業の見学・体験とし、後半の2回を実習生の担当授業とした。後半の2回は地誌学習として、1回はArcGISを生徒に操作させる形での実習(エストニアの地域別ロシア系住民の割合の主題図の作成)1回が教室での講義形式の授業(生徒各自が作成した主題図を用いてのエストニアの地誌)行った。考査問題は授業の内容のまとめにもなるので、内容については作問も実習に含めた。

    GISは地理的な見方・考え方を大いに涵養する(小林2018b)。さらに、GIS は地理教育において高い有意性を持つだけではなく、専門性を強く示すものとしても大きな意味がある。「地理総合」における“肝”であるとともに、地理の存在感を他教科、他科目などへおおいにアピールすることにもなる。
  • 神宮 公平
    セッションID: P095
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1.はじめに

     2022年度より全国の高等学校で「地理総合」が実施されることになっている。2018年3月告示の高等学校学習指導要領(以下,新指導要領)の「地理総合」に関する内容では,「A地図・地理情報システムで捉える現代社会」「B国際理解と国際協力」「C持続可能な地域づくりと私たち」の3つの大項目から構成される。新指導要領では,これまでの知識・理解したことを前提の上で,それらを活用する資質・能力を育成するコンピテンシーベースの学習が重視されるようになった。例えば,自然地理学的内容で学習したことを活用して,自然災害の被災を避けるためにどのような場所に居住すればよいかや,災害時の避難行動の在り方などを自らで思考・判断し,行動する能力を育成することがコンピテンシーベースの学習と考える。
     発表者は,2011年度から国際地理オリピック日本委員会の実行委員を務めており,鹿児島会場を担当している。鹿児島県には高い進学率を誇る私学の中高一貫校が所在することもあり,毎年地理オリンピック第2次選抜試験まで進む生徒が多い。地理オリンピックの第1次選抜,第2次選抜ともに試験問題は,ふんだんにコンピテンシー能力を活用する設問構成となっており,地理的思考・判断力を問われる。
     そこで本研究では,2016年に実施された第11回日本選手権および第14回国際大会の第2次選抜問題を使用して教材化・授業実践を行い,「地理総合」への有用性について検討した。取り上げた設問はA(4)を使用した。設問内容は,一級河川の上流で時間雨量100mmを超える雨量を記録し,この河川の危険水位を超えた。このような事態が発生したことを想定し避難計画を策定する際,最も優れている避難先を選択して,その理由を述べさせる設問である。新指導要領の「地理総合」では,C(1)自然環境と防災という項目において地理で防災教育を取り扱うように明記されている。この設問は,防災の観点から受験者の意思決定を問う内容となっており,地理的事象を理解し,それを説明するような従来の記述式に加え,意思・判断まで問うことまでできる良問である。発表者は,勤務校にてこれをもとに単元構成を施し,授業実践を行った。講座名は地理Bで,対象生徒は2年文系クラスの40名,選択者の大半が大学進学を希望し,センター試験で地理Bを受験する。

    2.授業の概要
     単元は,帝国書院の地理B教科書の「第Ⅱ部現代世界の系統地理的考察」「1章自然環境(開発に伴う災害と防災)」で行った。授業時間は50分,導入で本時の目標と教材を提示して,3~5名のグループで授業を展開した。展開①では,設問中の図からB地点の地形的な面において,ここに留まってはいけない理由を考えさせたうえで,同じ図に示される3つの避難候補地点X・Y・Z地点において有利・不利な面について考察させた。展開②は展開①を踏まえて避難先として最適な地点を答えさせ,意見をまとめたことを発表させた。終末は本時のまとめを行ってから,授業内容に関するアンケート調査を行った。時間の都合上,全グループの発表はできなかったが,3グループの発表を行うことができた。教科書・資料集を活用しながら既習分野(沖積平野など)で得た知識を用いて,正解を導き出していたグループが多く見受けられた。授業後のアンケート調査では,「これまでの習った地形の特徴など知識を生かして対応できるようにしたい」「ハザードマップで事前に避難場所を確認したい」などの感想が見られた。一方で,選抜問題に使用されるだけあって「難しかった」という意見も散見された。

    3.まとめ
     国際地理オリンピック代表選抜問題は,新指導要領や世界的な地理学習の流れを反映して作問されている。これらの設問を教材化することは,地理教師が比較的短い時間で地理的思考・判断力を育成する教材が作成できると考える。一方で,この設問から教師の側がオリジナルの地理教材の開発に取り組んでいくための創意工夫を要することを認識した。

    【参考文献】
    碓井照子編 2018.『「地理総合」ではじまる地理教育』.古今書院.
    由井義通 2018.「地理総合」と「地理探究」で育成する資質・能力.地理・地図資料2018年度特別号.帝国書院.2-5
    国際地理オリンピック日本委員会実行委員会編 2018.『地理オリンピックへの招待』. 古今書院.
  • 横山 智, 広田 勲, パンサイ インサイ
    セッションID: 716
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    中国南部から東南アジア大陸部山地に住むモン(Hmong)の人々は、焼畑陸稲作と家畜飼育を生業とする山地民として知られている.モンが多く住むラオス中部のシェンクワン県では、古くから正月や結婚式などの人が集まるハレの日に仲間うちで数頭の雄牛を集めて闘牛を行ってきた.闘牛は,娯楽として行われる伝統的な文化行事であるが,同時に闘いに勝つような雄牛を所有する者は,社会的にも高いステータスを得られるという側面も持ち合わせている.
     ところが近年,闘牛は特別な機会に限らず,各地で定期的に開催されるようになり,1990年代後半以降は,大規模な闘牛大会が正月に特設スタジアムで開催されるようになっている,そして,闘牛で闘う牛(ゴア・ソン)は,肉牛(ゴア・シン)よりも高く取引されるようになっている.強いゴア・ソンを育てるには,時間的にも経済的にも余裕がなければならないと考えられるが,実際には自給的な焼畑を生業とするような村でも,多くの世帯がゴア・ソンを飼育していた.彼らは,どのように闘牛に関わり,そしてゴア・ソンを飼育しているのであろうか.これまで,モンの人々の闘牛に関する研究は,管見の限り存在しない. そこで本研究では,ラオス中部シェンクワン県における牛の飼育方法と流通システムから,モンの人々の闘牛が近年活況を呈するようになった要因を文化生態学的視点から解明することを目的とする.
     研究の結果,ラオスのモンの人々が伝統文化として古くから行っていた闘牛が,近年活況を呈するようになった理由は,闘牛大会が制度化されたことによって,闘いによって牛がダメージを負った場合でも、その牛を肉牛価格で買い上げる保証制度が整備され,自給的な焼畑を生業とするような世帯でも牛の肥育者が闘牛に参加する障壁が低くなったことが大きく影響していた.牛の肥育は,2006〜07年に県農林局が牧草を栽培するプロジェクトによって導入されたものであり,肥育によって太らせた牛をゴア・ソンとして育てるか,ゴア・シンとして育てるか,飼育者が肥育の段階で選択するのではなく,闘牛の勝敗の結果で決めることができるようになり,負けても損をしない経済環境が構築されたことは,闘牛の参加を更に促す結果となった.すなわち,肉牛の飼育と販売の環境を改善するために導入された技術と制度は,結果的に闘牛文化の存続と発展にも大きく貢献したのである.
  • 小野 映介, 小岩 直人
    セッションID: P053
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    Ⅰ.はじめに
     青森平野の臨海部には浜堤列が発達しており,その内陸側には堤川(荒川)をはじめとする諸河川によって形成された地形が認められる.当地における最終氷期以降の地形発達の特徴としては,1)十和田火山の火砕流による埋積と大河川がないことにより沖積層下に明瞭な埋没谷が形成されなかった.2)それにより縄文海進の時空間的広がりが小さかった.3)海岸部に浜堤列が形成される一方,内陸部では湿地が形成された.といった点が挙げられる(久保ほか2006).このように,青森平野の地形発達の概要が明らかにされるとともに,流入河川の上流域の地質が平野の地形発達に影響を及ぼしたことが指摘されている.しかし,海岸部に認められる浜堤列の詳細な形成時期や,堤川などの河川の動態(平野内でどのように土砂を運搬・堆積させたのか)については十分に解明されていない.
    現在,筆者らは上記の問題を明らかにするために調査を進めており,浜堤の形成時期に関する研究成果の一部は髙橋ほか(2017)で公表した.また,これまでほとんど情報が得られていない平野南部の地形環境変遷を明らかにするための手がかりとして,2016年から2017年にかけて青森県埋蔵文化財センターが実施した篠塚遺跡の発掘調査に参加し,地質調査を実施するとともに周辺の地形の特徴についての検討を行ってきた.
     本発表では,篠塚遺跡周辺の地形・地質調査の結果を提示するとともに,完新世後期の青森平野南部において急激な地形環境の変化が生じた可能性を指摘する.
    Ⅱ.篠塚遺跡周辺の地形
     主に平安時代~中世の遺構・遺物が検出されている篠塚遺跡は,青森平野南部の堤川と牛館川の合流点のやや上流側に位置する.遺跡周辺の地形は,堤川沿いの現氾濫原面と遺跡が立地している段丘面に大別され,両者の比高は約5 mである.現氾濫原面には小崖や旧河道が認められ,堤川は同面を約2 m下刻して流れている.一方,段丘面は堤川の右岸と左岸で様相が異なる.遺跡が立地する前者には,幅が狭く直線状の侵食谷の発達が複数個所でみられ,それらは堤川の現氾濫原面へと連続する.また,後者には現氾濫原面との境界部に自然堤防やクレバススプレーの発達が認められる.
    Ⅲ.篠塚遺跡における地質調査結果
     遺跡範囲内で行われた深掘り調査では,地表面下1.7 m(標高10.6 m)以深に黒色~灰色の極細粒砂混じり泥層が広範囲に堆積していることが明らかになった.同層の最上部に挟在した木片について放射性炭素年代測定を実施したところ2,955-2,790 calBP(2σ: Beta-454462)の値が得られた.
     黒色~灰色の極細粒砂混じり泥層は,主に褐色や暗褐色を呈する泥層・砂層・砂礫層によって不整合に覆われている.これらの泥層・砂層・砂礫層には火山性の物質が多く含まれ,遺跡範囲内で複雑な指交関係を呈しながら堆積しており,砂礫層においては明瞭なフォアセットラミナが確認された.なお,平安時代~中世の遺物包含層は地表面下の浅部に認められ,また,同層には縄文時代の遺物も混在する.
    Ⅳ.篠塚遺跡周辺における地形環境変遷
     2,955-2,790 calBP以前,篠塚遺跡では有機物を多量に含む細粒物質が堆積する環境であった.その後,当地では泥層・砂層・砂礫層が「蛇行河川システム」(斎藤2003)のもとで堆積する環境へと変化した.篠塚遺跡の立地する段丘面では,完新世後期(2,955-2,790 calBP以降)における堆積物の垂直累重が認められる.したがって,堤川による下刻,すなわち現氾濫原面と段丘面の分化は上記の年代値以降に生じたと考えるのが妥当であろう.
     篠塚遺跡における層相・層序や堤川左岸の段丘上における自然堤防やクレバススプレーの存在は,完新世後期における段丘化の直前に大量の土砂供給が生じたことを示唆する.一方,堤川の下刻にともなう現氾濫原面の形成や,遺跡周辺の段丘面を削る直線状の谷の存在からは,相対的な土砂供給量の減少と侵食基準面の低下が生じたことが推定できる.このように,当地における完新世段丘の形成要因は,河川による土砂供給量の増減によるものと考えられる.なお,土砂の増減を生じさせた要因については,今後の検討課題とした.また,篠塚遺跡周辺で生じた土砂供給量の増減は,堤川下流部(青森平野北部)の地形発達(内湾の埋積や浜堤列の形成過程)に影響を及ぼした可能性がある.今後は,その点を念頭に調査を進める予定である.
  • 畔蒜 和希
    セッションID: 819
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    東京大都市圏は保育サービスに対するニーズが高く、依然として待機児童問題は耳目を集めている。その一方で、保育を提供する労働力である「保育士」の不足も同様に問題とされ、人材確保は喫緊の課題とされている。しかしながら、地理学では保育サービスの需要側からの研究は蓄積されているものの、サービス供給側の視座に立ち、段階的なキャリアパスと労働市場の構造を捉えた研究は少ない。本研究はこうした状況を踏まえつつ、新たな人材供給という視角から、保育士養成校を卒業し就職を果たした新規学卒者の労働市場への参入過程を明らかにすることを目的とする。
     保育士は資格取得後、各都道府県に保育士登録を行うことが義務付けられているため、対象地域は千葉県をひとつの労働市場の単位として捉えた。県内には20校(計27課程)の保育士養成校が存在し、うち7校に学生の就労動向に関する聞き取り調査を実施した。
     本研究では新規学卒労働市場としての特徴を捉えるため、学生の出身地から保育士養成校を経由して採用に至るまでの就職プロセスに着目し、調査対象のうち3校からは2017年度卒業の学生の出身高校所在地および就職先の所在地に関するデータを取得した。加えて、千葉市の私立保育所に勤務する経験年数3年以内の18人の保育士を対象に、出身地から就職までの地域移動およびその経緯について聞き取り調査を行った。
     一連の調査の結果、保育士養成課程の学生のほとんどは千葉県内の出身であり、かつその多くは自宅から通学可能な範囲の養成校を選択していた。また就職先の選択においても自宅からの通勤および近接性を意識しており、保育士への聞き取りでは18人中13人が自宅から通勤可能な範囲に就職先を選択し、通勤時間は最も短い者は10分程度、長くても1時間以内であった。このように、千葉県では極めてローカルな保育士の新規学卒労働市場が展開されているといえる。ローカルな新規学卒労働市場が形成される背景として、初職先が養成校在学時の実習先であったことや、教員の紹介等が契機となっていたことから、養成校が学生の就職チャンネルかつ地域に人材を輩出するパイプラインとして労働市場に埋め込まれている構造が窺える。さらにこうした養成校は東京大都市圏に2000年以降急増しており、必然的に資格取得機会および就業機会が身近になることが、学生自身の就労志向が自宅を起点としたローカルな傾向と結びついていることも推察される。また養成校3校から取得したデータでは出身地から就職先への移動範囲にも差がみられたことから、必ずしも保育士自身の主体的な選択とは限らず、背後にある家庭の経済的な状況や保育士の低賃金な環境が離家の足かせとなっているといった経済的な要因がローカルな就労志向かつ新規学卒労働市場の形成に影響を与えている可能性も示唆された。
  • 小林 岳人
    セッションID: 318
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    地図は高等学校次期学習指導要領「地理」の必修科目「地理総合」では「地図とGIS」という大項目として設定され地理教育の柱の一つとして期待されている。「地図とGIS」はすべての地理学習に際して活用されるという位置づけである。地図の学習を大縮尺/小縮尺、一般図/主題図などの観点で捉えると大縮尺・一般図における地図教材は国土地理院の地形図が代表的存在である。各国の政府地図作成機関発行の地形図も大縮尺・一般図の教材として相応しいものではあるが、購入方法、値段などから利用しやすいとは言い難い。地図は紙媒体から電子媒体へとシフトがされ、国土地理院地形図も地理院地図での利用が進んでいる。諸外国でも同様であり、政府地図作成機関による各国のWeb地図が充実してきており、教育利用の可能性が出てきた。官製Web地図はどの国でも提供されているわけではなく、今のところは欧米の先進国が中心である。基本的には地図による国土の閲覧であるが、拡大縮小、計測などの機能が備わっている。総描などを省き空間データをそのまま表現するものが中心であるが、紙地図と同じ図式での地図表現を提供しているところも少なくない。作図やkml形式などでの保存、断面図や段彩図の作成、3D表現、空中写真の重ね合わせ、統計データを扱った主題図的表現、旧版地形図の重ね合わせなどの機能を備えたサイトもある。
     発表者の勤務校である千葉県立千葉高等学校は地理Aが第一学年で必修であるほか、第三学年は文系では地理Bが、理系では地理特講(学校開設科目)が、それぞれ選択科目として開設されている。第三学年の選択科目は授業内容など自由度は高い。そこで、第三学年の地理特講(162名受講)にて「各自の興味があることについて各国官製Web地図とストリートヴューなどの写真を組み合わせ、プレゼンテーションソフトを使って地理的に説明せよ。」という1分間発表を課題とした授業実践を行った。1時限目でスイスの官製Web地図サイトであるswisstopoを紹介し、スイスの概観をしながら機能や利用例を説明した。2時限目ではオランダの官製Web地図サイトを紹介し、50か国程の官製Web地図サイトリストを配布し、プレゼンテーションファイルや提出レポートの作成方法や提出先についての説明を行った。3~5時限目をPC室で各自の実習時間とし、6時限目を発表時間とした。紙の地形図では地形図作業として点を打つ、線を引く・なぞる、面を塗るなどを行い、一般図である地形図を主題図化することで、事象の地理的な理解や説明を行う。スライドショー下ではWeb地形図は複数画面での利用が可能である。ここで、異地点比較、視点変化、縮尺変化、経年変化、3D表現、断面図作成や、通常写真・斜め写真・空中写真と地図を照合させることなどを行う。事象の説明はこれらを組み合わせて行う。生徒の発表は動画地図によるアイセル湖干拓、運河の街ギートホールン、アイスランドのギャオ、エルベ川中流部の三日月湖とその形成、ハンザ都市ヴィスヴィー、囲郭都市ネルトリンゲン、モンサンミッシェルとトンボロ、タウポ湖とカルデラ、ジャイアントコーズウェーの柱状節理、ソグネフィヨルドとその形成などであった。
     生徒が作成したスライドは地理的技能を表している。スライド中で点を打つ、線を引く・なぞる、面を塗る、異地点比較、視点変化、縮尺変化、経年変化、3D表現、断面図、通常写真、斜め写真、空中写真について各1点として合計得点を地理的技能得点とした(①)。発表時間での発表と提出レポートは、作成したスライドショーの読み取りを表している。これに地理的な見方・考え方を尺度化したものを当てはめて数値化した(②)。提出レポートの中で一連の授業についての興味関心と有用性について5点満点で答えてもらい合計得点を求めた(③)。また、期末考査中の関連部分の得点(④)を抜き出した。このようにして数値化した地理的技能(①)、思考判断表現(②)、興味関心態度(③)、考査関連部分得点(④)とのそれぞれ間の相関係数と、①と②と③の合計得点で表現される一連の授業全体と考査との関係の相関係数を求めた。地理的技能と思考判断表現にあたる地理的な見方・考え方との間に高い相関関係(r=0.589)があった。各国の官製Web地図を使った作業学習が地理的な見方・考え方を育成していることが示された。
     地形図が教育現場で利用されている理由は、統一した図式で国土全体を表現、比較的大きな縮尺、信頼性が高い政府地図作成機関が作成、長年検討されてきた図式、などが教材として相応しいからである。各国の官製Web地図によって地形図学習が諸外国の諸地域でも可能となり、「地理探究」にての活用も期待される。官製Web地図はWebGISに位置付けられることから、GIS利用の観点からも期待される。
  • 仁科 淳司, 三上 岳彦
    セッションID: 514
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では、3時間ごとの観測値を用いて、19世紀末以降約120年間の8月の東京における地上気圧の経年変化と年々変動の特徴を検討し、以下の結果を得た:1,この期間気圧は100年間で0.83hPa低下している。年々変動を見ると、1950年代以前は気温の上昇傾向と気圧の低下傾向が認められるのに対し、それ以降は両者の関係はやや不明瞭になる。2,最も気圧の低下が大きいのは15時である。日中の気圧低下は,1940年代後半と70年代前半に大きくなる。3,最低気温の上昇率は100年間で2.5℃であるが、夜間の21時から6時の気圧と9時の気圧の差は、100年以上通してみるとほとんど変化がない。
  • 佐藤 弘隆
    セッションID: 611
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    祭礼は⽂化・⽂政期頃に定着し、明治期にかけて発展したとされ、都市における共同性を形成・維持する装置として捉えられてきた。近年でも祭礼はまちづくりや観光の資源として注目を集めている。しかし、発表者は上記のような祭礼の機能を認めながらも、その継承を考える際には、祭礼の持続的運営を支える都市機能を解明する必要があると考える。祭礼を支える諸組織・集団の関係性が重層的な都市構造によって規定されていることは社会学や地理学の既往研究において既に指摘されており、それによって生まれる共同性やアイデンティティが祭礼の存在を精神的に支える原動力とされている。しかし、それを物理的に支える基盤を構築する都市の機能の解明は十分になされていない。
    本研究は近代京都における山鉾町を対象地域とし、各町内の土地所有・利用状況と祭礼運営の関係性を明らかにする。とりわけ、ミクロスケールでの時空間的変化に注目しながら、借家の存在が山鉾の運営に与える影響を明らかにする。これにより、祭礼の持続的な運営基盤を構築する都市機能を示し、現代都市における伝統的な地域文化の継承の在り方を考察する。
    山鉾町は京都市都心に位置し、京都祇園祭において山鉾を出す35つの町内である。京都市の元学区でいうと、全山鉾町のうち、15つが明倫元学区、10つが成徳元学区に属す。両元学区には、1940(昭和15)年に警防団によって製作された住宅地図形式の大縮尺図が残されている(警防団地図と呼ぶこととする。明倫:京都市学校歴史博物館所蔵、成徳:公益財団法人鶏鉾保存会所蔵)。本研究では、両図のアーカイブ及びGISデータを主な資料とし、立命館大学地理学教室及びアート・リサーチセンターで蓄積されてきた近代京都の歴史GISデータ(統計や地籍図、地誌類など)と組み合わせながら、大正・昭和初期の同地域の社会構成を明らかにする。そして、その状況が祇園祭における山鉾の運営基盤として如何に機能したかを分析する。
    1940(昭和15)年の警防団地図の建物ポリゴンと同時期の地籍図の土地ポリゴンを照合させると、土地1筆に複数の建物(主屋)が含まれる場合がみられる。このような場合、路地奥に裏長屋が建てられ、借家として利用されていたと推測される。また、警防団地図に記載された居住者と旧土地台帳の土地所有者とを照合させることで、そこの居住者が借家人(もしくは借地人)かどうか推測できる。これにより、両区の土地所有と借家利用の状況が復元された。さらに、この結果に商工人が記載された地誌類のデータをあわせることで、借家人にも有力な商人が含まれることが判明した。
    当時の状況を1911(明治44)年実施の『京都市臨時人口調査要計表』の本所帯数及び『京都地籍図』の町内居住の土地所有世帯数から算出した借家世帯数の推測値と比較すると、大正・昭和初期にかけ、多くの町内で抱屋敷が増加し、借家利用が増加していた。また、1911(明治44)年時点では借家の少ない町内と多い町内の差がはっきりしていたが、1940(昭和15)年には差が目立たなくなっていた。
    以上を踏まえ、橋弁慶山(明倫)や船鉾(成徳)など両区に所在する複数の山鉾の運営基盤を構築する人員・資金・場所の確保の基準・論理と各町内の社会構成との関係性を分析した。すると、従来、人員や場所の確保で制限が強かった借家人の関与であるが、大正・昭和初期にかけては人員確保における制限が緩和されていった。また、従来でも借家人に対する制限が比較的に緩い資金確保においても、家持と借家人の均等化がさらに進んだ。
    山鉾運営の基準・論理には各町内間で時空間的に若干のズレがみられ、それは各町内の社会構成の差異に規定された。つまり、祭礼の存立を物理的に支える基盤は都市構造の変化に対応して再構築されるものなのである。このように、祭礼の継承は合理的にシステム化されており、一定の枠組を維持しながら、そこに代替の効く要素が適宜に取り込まれることで持続的な運営を可能としている。
  • 小田 宏信
    セッションID: S407
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    「とくしまサテライトオフィスプロジェクト」は「とくしま集落再生プロジェクト」の一環として,2011年度より開始された。難視聴対策のためのCATV網に基づく恵まれた高速ブロードバンド環境を活用することが集落再生の切り札と考えられたためである。プロジェクトの開始より8年近くが経過した2018年12月末現在で,サテライトオフィスの立地件数は62社を数え,それに伴って一定程度の移住者を迎えるとともに,地元雇用ももたらしている。本報告では,遠藤(敬愛大),藤田(和歌山大)との共同調査のうち,概括的な報告を行う。

     サテライトオフィス62社の市町村別内訳では,美波町の17社を筆頭に神山町16社,美馬市8社,三好市7社などとなっている(2018年12月末現在)。最初に実証実験が行われた神山町が当初はリードしていたが,その後,美波町が急進し,2016年度より総務省「お試しサテライトオフィス」モデル事業として「にし阿波・サテライトオフィス誘致促進事業」を実施されると,三好市,美馬市への進出が目立つようになった。各企業の本所地ないし従前地を集計すると,首都圏由来の企業が4分の3を占め,京阪神圏由来の企業が2割を占めており,大都市の企業がサテライトを設けたり,仕事場を移したりする場合が圧倒的に多い。

     短期間での企業誘致の成功要因として,①高速のブロードバンド環境の存在,②優れた地域景観資源の存在,③古民家など遊休建物ストックの存在,④各市町におけるキーパーソンの存在,⑤ジャストシステム社に関係したICT人材の存在,⑤そして,しばしば指摘されることは四国遍路に由来する「お接待文化」の存在が指摘できる。

     初期に進出したサテライトオフィスは「半X半IT」と言われて当地でのワーク&ライフ・スタイルを求めたことで注目を集めたが,その後の経過をみる限りにおいて,地域のマーケットニーズと関係した進出が増えている。すなわち,当地でのニーズや地域課題を製品化に結びつける,当地をブランディングすることで利益を生み出すというようなケースである。それゆえ,コミュニティと強く関わらなければならない必然性を有しており,多くの企業はソーシャルビジネスとしての側面を合わせ持っている。徳島県のサテライトオフィスがかつて言われた「リモートワーク」「テレワーク」「リゾートオフィス」などと本質的に異なるのはこうした点においてである。そして,サテライトオフィス誘致は地域活性化のための一手段であって,これを契機にした波及効果が期待され,また事実,見え始めている。
  • 白坂 蕃, 渡辺 悌二, 韓 志昊, 孫 玉潔
    セッションID: 702
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    ネパール東部、エヴェレストを含むKhumbu Himal地域には牧畜と、農耕を組み合わせたagro-pastoralismがみられる。

    Khumbuの集落は年間を通して居住する集落である「本村」、および「季節的に居住する集落」である冬村と夏村の二つがある。

    現在のクンブ地域で飼育される家畜は、いわゆるヤク(一般名称yak;オスはyak, メスはnak)、およびヤクと高地ウシとのハイブリッドである一代雑種F1(オスはゾプキョzopkiok, メスはゾムzom)であり、yakとzopkiokはKhumbu地域の輸送を担っている。

    Khumbu Himalでは寒冷であるため夏季にのみに耕作が可能であり、いわゆる、一年一作である。夏季モンスーンのもたらす降雨にたよっており、天水に依存した畑作である。その耕作限界は約4500mであり、森林限界は約4000mである。

    Khumbu Himal地域は、ほぼ3500mより標高の高い地域にあり、そのなかで標高差1500mに及ぶ範囲に分散する耕地と放牧地との間を季節に応じて頻繁に人間と家畜とが移動することによって農牧を複合した生業agro-pastoralismが成り立っている。
    1970年代以降、牧畜や集落は観光化により大きく変貌している。
  • 吉田 国光
    セッションID: S502
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    産資源はタンパク源としてだけではなく,個人や企業にとって重要な収入を得る手段である。そのため水産資源をめぐる諸課題は,乱獲の抑制や持続的な利用,途上国における貧困の克服に向けた経済活動など様々な観点から重要な研究テーマであり続けている。地理学においては,気候変動に対するローカルな対応や,貧困の克服に向けた漁業者による水産資源を利用したローカルな経済活動といったような研究が進められつつある(Belton and Bush 2014など)。こうした研究のなかで,持続的な漁場利用の担い手として,漁業者だけでなく,流通業者や消費者などが取り上げられるのようになってきている。

     水産資源の持続的な利用は,様々な観点から捉えられる地理学的な研究テーマであるものの,日本のみならず,英語圏においても水産資源を取り上げた地理学の研究は少なく,枠組みの検討や事例研究の蓄積などが課題とされている(Lim and Neo 2014)。例えば,フードシステムの観点から取り組まれた研究では,食料供給体系の実態と主体の広がりを提示できたとしても,それに関わる漁業者や流通業者,小売業者など主体間の結びつきを読み解く視点の検討は乏しい。また,従来の漁業地理学や村落地理学では漁業者を分析対象とした方法論は精緻化されてきたが,流通業者や消費者を含めた主体を捉える方法論的検討は十分ではない。地理学として方法論的検討が希薄なままの事例蓄積への過度の依存の危険性も指摘されている(田和 2017)。

     他方,水産資源が蓄積・涵養される漁場の持続的な利用・保全に関する研究ついては,政策科学や生態学などが中心となったコモンズ研究という研究領域で分野横断に取り組まれ,方法論や事例研究に関する様々な検討が重ねられてきた(Berkes 2004など)。コモンズ研究における漁場の利用・保全(以下,漁場利用)を取り上げた研究では,社会ネットワークや社会関係資本,「スケール」など,人文地理学でもキーワードとして用いられつつある理論や概念がみられる(Carlson and Sandstrom 2008; Poteete 2012など)。こうしたなかで漁場利用に関する研究において,コモンズ研究と地理学との議論の共有が試みられつつある(Thompkins et al 2004など)。日本の漁業地理学においても,崎田(2017)などコモンズ研究を意識した研究もみられるようになっている。しかし,分野間もしくは地理学界内でも農村地理学で取り組まれてきたような,社会ネットワークや社会関係資本に関する議論の共有も十分ではない。分野間での相互参照につながるように,地理学的方法論を整理することも必要と考えられる。

     そこで本発表では,水産資源をめぐる諸課題のうち,とくに方法論的検討や事例研究の分野横断的な議論の共有の萌芽がみられる漁場利用に関する研究動向を整理し,地理学的な方法論としてどのような独自性を見出せるのかを展望する。とくに,2000年以降に頻出している社会ネットワークと社会関係資本,「スケール」の指し示す範囲や内容について検討し,漁場をめぐる主体間関係を読み解く研究方法のいくつかの方向性を提示することを目的とする。主体間関係に注目する理由としては,フードシステムが構成されるにしろ,持続的な漁場利用にしろ,漁業者やその他の主体間の関係のなかで様々な現象が引き起こされるためである。主体間の関係に注目することで,漁場利用をめぐる事例研究に適用可能な研究方法を提示できると考えられる。なお本発表で対象とする漁場は,沿岸海域を中心とする。漁場利用について考える際,ミクロスケールでのフィールドワークの特徴が発揮されるの沿岸の漁場である。漁業を含めて日本の第一次産業を対象としてきた地理学は,ミクロスケールでのフィールドワークを重視してきた。ミクロスケールでの詳細な実態の把握が欠かせない漁場利用を対象とすることで,日本の漁業地理学の特徴を活かした方法論を提示できると考えられることから,沿岸の漁場を中心として検討する。
  • 宋 弘揚
    セッションID: 718
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
     グローバル化の進展は,国際人口移動に重要な影響をもたらしている.世界的な情報・通信・交通ネットワークの発展は国際人口移動を促進している.このような国際人口移動は,政治思想に関係なく,数多くの国々で進展している.日本も,留学生30万人計画や高度専門職ビザの新設,永住権獲得所要年数の短縮などの施策を通じて,留学生や専門的・技術的外国人材の日本への移動,長期滞在を促している.
     日本における中国人移住者に関する既存研究は,チャイナタウンなどの集住地域研究が大多数である.他方,移住者個人の移住動機や行動,彼(女)らを取り巻く社会環境の変化への着目が欠けている.また,既存研究の着目対象として,技能実習生等の単純労働者があげられる一方,移民起業家や研究者のような「高度人材」もあげられる.このような労働市場の両極端にある者が多く研究されているのに対し,その中間層に位置づけられる者への着目が乏しい.しかし,近年は移住の目的と様相が多様化しており,既存の研究だけで在日中国人社会の様相を描き出すことがより困難になっている.
     そこで,本報告では,東京大都市圏に滞在する若年中国人移住者を対象に,彼(女)らが国際移動を行った動機と来日後の社会関係構築の様相を分析することで,近年における在日中国人社会の変化に関する考察を試みる.

    2.研究対象地域と研究方法
     具体的な研究対象地域として,東京大都市圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)を取り上げる.とりわけ東京大都市圏は日本で最も中国人が居住している地域である.特に,「技術・人文知識・国際業務」,「高度専門職」などといった専門的・技術的分野の在留資格を所持している中国人が集まっている地域でもあるため,東京大都市圏は研究対象地域にふさわしいといえよう.
     本研究の研究対象者を20代前半~30代後半の中国,日本,または第三国の高等教育機関を卒業・修了し,日本において合法的な就労に関する在留資格(永住者等も含む)を所持している中国人とする.研究目的を達成するために,報告者は14名の研究対象者に対して,基本属性,移住の動機,来日後の居住歴・職歴,住居地選択の影響要素,社会関係の構築などについて1時間~1時間半の半構造化インタビュー調査を実施した.サンプルの収集方法はスノーボールサンプリングである.

    3.研究結果
     本研究から得られた知見は以下の3点である.
     1点目は,多数の若年中国人移住者が挙げた動機は,①日本社会・日本文化への興味,②日本企業での就労意欲の高さ,③中国において,中学校または高校,大学において日本語教育を受けたこと,④中国での社会経済的地位の上昇が同世代に比べ見込まれないことである.
     2点目は,彼(女)らの多くは,同じエスニック集団の集住を求めず,通勤の利便性や居住環境を重要視している点である.また,SNSを通じたエスニック集団と社会関係の構築を強く志向していることである.パソコンやスマートフォンなどの普及により,従来では集住しなければ得られなかったエスニック的なつながりがオンライン上で構築することが可能であり,集住の意味が弱まっていることが示唆される.
     3点目は,彼(女)らが高度専門職ビザや永住権などの獲得に高い意欲を示すが,それは永住意欲が高いからではなく,施策上の恩恵を受けられることにある.また,彼(女)らは日本に滞在しながらも,SNSなどを介し,中国国内とのつながりやビジネスチャンスを追求している.中国人若年移住者は,従来の永住か帰国という二分論のような選択ではなく,日本と中国の間で自由に往来することを希求する傾向が強まりつつある.
  • 志村 喬, 阿部 信也
    セッションID: P012
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    1.問題の所在災害に適切に対応するためには,自分自身が被害にあう可能性のある災害を正しく認識し,主体的に行動することが必要である。災害の正しい認識を獲得する場として,学校の教科が果たす防災教育の役割は大きい。しかし,従来の防災教育は教科での指導が想定されつつも,実際には教科外で行われることが多く,その内容も災害発生後の対応に重点が置かれているという問題がある。

    2.目的・方法本研究では,防災教育の学習構造を構築し,それを用いた教科・領域での単元開発と授業実践を通して防災教育カリキュラムの在り方を探ることを目的とする。方法としては,災害発生のしくみを学習の中心に据えて防災教育全体を構成する要素を明らかにし,自校化された防災教育実践の学習構造を最初に設定する。次に,中学校社会科地理的分野で自校化された防災教育の単元開発・授業実践を行い,設定した防災教育の学習構造の有効性を検証する。

    3.単元開発・授業実践防災教育は防災学習と防災指導に分かれるが,先ず防災学習に,素因理解である事実認識と,一般的な災害発生のしくみ理解である概念認識とを学習する構造を組み込んだ。さらに,防災教育は地域に根ざすこと(自校化)が求められることから,続く防災指導でも地域の素因を扱い,防災学習と防災指導の内容に関連を持たせた自校化された防災教育の学習構造を設定した(第1図:自校化された防災教育の学習構造と教科・領域との関係)。

    この学習構造をもとに,全5時間の中学校社会科地理的分野での単元開発・授業実践を,水害被害を主に想定しながら新潟県三条市の中学校で行った(第2図:防災学習の事実認識・概念認識の防災指導への影響)。防災学習にあたる1時・2時ではそれぞれ事実認識と概念認識を習得させた。防災指導にあたる3時から5時では,事実認識と概念認識の獲得状況の差が防災指導でどのように影響を与えるか分析し,防災学習における事実認識と概念認識,防災指導における主体的な態度,防災学習と防災指導のつながり,それらの関係・重要性を検証した。

    4.研究の成果:①防災学習の事実認識と概念認識はともに防災指導に影響を与える。特に,事実認識は重要であり,概念認識で災害発生のしくみを理解したとしても,素因が不確かな状態では,災害の正しい理解にはつながらない。事実認識で土地の素因を知ることが,地域的な現象である災害を正しく認識することになり,防災指導で活用できる知識となる。②1つの教科・領域に学習構造を適用することは有効である。同一教科・領域内で防災教育を実施することで防災学習と防災指導のつながりが強調され,防災学習で事実認識と概念認識の2つを身に付け災害を正しく理解した子どもは,防災指導でも学習で得た知識を十分に活用し主体的に地域の課題に向き合おうとする姿勢が見られた。防災教育のねらいは「災害に適切に対応する能力の基礎を培う」ことである。災害は地域的な現象であるため,各学校で教員が子どもの立場になって自校化を達成すれば,災害に対して適切に対応する能力,すなわち「主体的に行動する態度」をもった子どもが育成できるはずである。

    本研究成果の一部はJSPS科研費16H03789(代表:村山良之)による。
  • 小田 宏信, 中澤 高志, 石丸 哲史
    セッションID: S401
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    地方圏経済は,1990年代に進んだ工業生産の海外移管などが引き金となって長期にわたって低迷し,2008年からのリーマンショック期,さらには2011年の東日本大震災後に至るまで雇用難の時代が続いてきた。しかし,2014年前後を転機に地方圏経済は大きく持ち直し,2017年平均の有効求人倍率は全ての都道府県で1を上回る数値になった(「職業安定業務統計」による)。その倍率は,山形県,島根県などでは1.5を超えており,雇用難の時代から転じて空前の人手不足の時代となっている。

     こうした状況は,地方圏が人口を取り戻す大きなチャンスと言えなくはないが,次の理由から単純に楽観的な見通しを描くこともできない。第1にはいずれの県も生産年齢人口の急減の下での雇用拡大であるということである。第2には,各県の雇用状況にも跛行性があり,県庁所在都市もしくは主要な交通軸上に位置する職安管内が突出しているしている県,または福祉系の職種への偏りを示している県が少なくないという点である。また,第3には何よりも東京都の突出した求人倍率の高さが横たわっており,オリパラ特需に後押しされる中で容易には人口還流のうねりを呼び起こすことはできないであろうということが挙げられる。

     さて,UIJターンと総称される人口還流が政策的に推進されるようになったのは,安倍内閣の「地方創生」以前に,福田内閣の下で2007年11月に発表された「地方再生戦略」に端を発すると言っても良いであろう。「地方再生戦略」は,「地方と都市の『共生』」を基本理念に,①補完性,②自立,③共生,④総合性,⑤透明性の五原則を掲げた。以後,具体的な施策として,2008年度から農水省の「田舎で働き隊」(のちの農水省版地域おこし協力隊),2009年度から内閣府の地域社会雇用創造事業(社会的起業人材創出・インターンシップ事業,インキュベーション事業),総務省の「地域おこし協力隊」,2012年度から農水省の新規就農者確保事業(青年就農給付金)などが講じられてきた。

     こうした施策が功を奏したとみるべきか,地方圏の景気回復一般に後押しされたとみるべきか,震災が契機となったと見るべきか,2010年代半ばになると,地方移住者の増加が指摘されるようになった。省庁の報告書でも2014年の国土交通省「国土のグランドデザイン2050」を皮切りに「田園回帰」の語が頻繁に用いられるようになり,2015年を「田園回帰元年」(小田切・筒井編,2016)と呼ぶ向きもある。

     UIJターン施策として,島根県海士町の取り組みは代表事例であろう。平成の大合併を拒絶したことを契機に,町職員と町民の意識的な取り込みが行われるようになり,六次産業化をはじめ,さまざまなストーリーが生み出され,迎え入れた移住者数は2018年3月末現在428世帯,624人に達し,2018年4〜11月の「隠岐の島」管区の有効求人倍率は2を上回る状況になっている。これ以外にも,複数の市町村が成功例として描かれ,これまでの市場経済の価値観とは,やや異なったところで進行しているという共通項も見出せる。

     こうした状況に対し,小田切徳美氏を代表的論客に,この数年で田園回帰の議論が進められるようになり,日本地理学会でも2017年秋季学術大会において小島泰雄氏・筒井一伸氏をオーガナイザーにシンポジウム「田園回帰と地理学理論」が開催され,その成果は雑誌『地理』の特集号にも示された。本シンポジウムも,先行するシンポジウムの問題意識を引き継ぐものであるが,実態分析の蓄積を計って行きたいという点,経済地理,産業地理系の研究者が加わることで,ソーシャルビジネスや新規起業を含むスモールビジネスの役割と地域内外のネットワーク,集積による相互効果に着目したいという点の2点に開催の趣旨がある。

     以下では,人口地理学的な分析(平井報告),移住創業に関わる2地域の例(中澤報告および小室ほか報告),ソーシャルビジネスの地方展開に関わる考察(石丸報告),中小企業(スモールビジネス)支援と企業同士の学び合い(平報告),サテライトオフィス誘致を契機にした地域活性化(小田,遠藤,藤田報告)という順にプログラムを編成している。さまざまなご意見を頂戴したい。
  • 藤田 和史
    セッションID: S409
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    I はじめに

     「とくしまサテライトオフィスプロジェクト」は「とくしま集落再生プロジェクト」の一環として,2011年度より開始された.2018年12月末現在で,サテライトオフィスの立地件数は62社を数える.それに伴って,一定程度の移住者,地元雇用が生じている.

    それら企業のサテライトオフィスとともに,徳島県内に立地する大学のサテライトオフィスが県内各地に展開している.本報告では,小田(成蹊大),遠藤(敬愛大)との共同調査のうち,美波町への大学サテライトオフィスの立地と,それらの活動による地域活性化への寄与にについて報告する.



    II 大学の地域連携とその展開

    大学の地域連携は,1980年代後半に始まった.80年代から90年代の地域連携は,産学連携が先行した.全国の地方国立大学には,産学連携拠点や技術移転組織が設置された.90年代に入り,生涯学習需要の昂進に伴い,生涯学習拠点が全国の大学・短大に整備された.ただ,これらの施設・組織の多くは,既設の大学キャンパス内への設置にとどまっていた.

    大学のサテライトキャンパス設置の動きが始まったのは,2000年前後である.その契機となったのは,2005年に発表された平成17年中教審答申『我が国の高等教育の将来像』である.その中に,大学の第三の使命として「社会貢献」が記載された.また,2006年には教育基本法が改正され,第7条に大学の社会貢献が明記された.これらに基づき,大学は業務としてより積極的に地域連携・産学連携を進める必要が生じた.

    上記の制度的な変遷とともに,大学は政策的にも地域連携を進める必要が生じた.とくに2012年から開始された「地(知)の拠点整備事業」(以下,COC事業)である.COC事業は,地域再生の核となる大学を目指し,地域課題の解決を地元自治体・企業との協同で取り組むことが目的とされた.COC事業は,2015年に安倍政権の地方創生推進事業と呼応する形で「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」(以下,COC+)へと改められた.従前の事業との差異は,大学が地元自治体・企業と協同して地方創生へと積極的に関与し,地域が求める人材を育成し,地元へ定着させることが求められた.

    以上のように,各大学はそれぞれの事情に基づいて,学内外の地域連携拠点の整備を進めてきた.とりわけ,地方大学においては,上記の政策の後押しから立地道府県への連携拠点整備が活発に行われ,多数のサテライトオフィスが設置されている.



    III 美波町への大学サテライト立地と活動

     美波町には,2018年現在,徳島大学,四国大学,徳島文理大学,神戸学院大学の4大学のサテライトが立地し,活動している.

     徳島大学は,「地域づくりセンター」として,美波町役場由岐庁舎に拠点を構え,美波町の「持続的なまちづくり」をテーマとした活動を2013年から開始している.サテライトオフィスには連携コーディネーター(以下,CD)1名が駐在し,防災・地域振興などの事業を実施している.なかでも,地域防災組織による「まったりカフェみなみ」の活動支援が特筆される.

     四国大学は,「南部地区スーパーサテライトオフィス」として,徳島県南部総合県民局庁舎の一角に拠点を構え,COC事業指定を受けた2014年から活動を開始している.サテライトにはCDが2名駐在し,道の駅との商品開発などの事業を展開している.

     徳島文理大学は薬王寺門前町の桜町商店街に,神戸学院大学はミナミマリンラボに拠点を構え,多様な活動を展開している.

     シンポジウムでは,大学の活動を紹介しつつ,地域活性化への大学サテライトの寄与,果たす役割等を議論したい.

    本研究はJSPS科研費16K03201の助成を受けたものです.
  • 白井 伸和
    セッションID: 536
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    1.目的と背景 
     2018 年7 ⽉6 ⽇~7⽇に起きた平成30 年7 ⽉豪⾬による災害は,⻄⽇本を中⼼に多くの災害をもたらした。特に,岡⼭県及び広島県,愛媛県においては,各種の報道にもあるように多くの⼈的被害をもたらした。
     筆者が災害応急対応を⾏った,岡⼭県倉敷市真備町の被害状況は,死亡者を含めた⼈的被害は157 ⼈,住宅被害においては,全壊及び半壊等を含む損壊家屋が5,899 棟とる⼤きな被害を被った(2018 年9 ⽉値,岡⼭県調べ)。
     平成30 年7⽉豪⾬によって被災した道路等の交通インフラの応急復旧の前段として,道路啓開を⾏うこととなる。これに関わる国及び市の対応として,国道の復旧は国⼟交通省直轄班及び国より応急復旧作業を請け負った⼤⼿建設業者による道路啓開作業を⾏い,市道及び市管理県道では,地元建設業者を中⼼とした,地元建設業組合が道路啓開作業を⾏った。
     道路啓開を⾏う中で,市が担当する市道は⽣活道路であり,道路啓開を⾏い⾞両等の通⾏が確保されないことには,被災家屋からの資材搬出及び⼟砂搬出が⾏えないことから,早急に道路啓開を⾏わなければならなかった。これらの道路啓開について,国及び市の対応について⾔及し,道路啓開と並⾏して,現地に赴いたボランティアがどのような活動を⾏い,地元住⺠に対してどのような⽀援を⾏っていたかについて述べる。
     これらを踏まえ,本発表では,倉敷市真備町の⽔害の歴史と地域的特徴を述べるとともに,⼤規模な災害に対する地域復旧に関する課題について述べる。課題点とは,被災地の災害応急対応⼒の著しい低下と復旧のための⼈員及び資源の⼈⼝密集地への集中がみられる。
     つまりは,被災により住⺠による共助体制の⽡解及び地元建設業者による災害対応が不能に陥る。また,公的機関を含む⼈⼝密集地が着⽬され,地域内において⽐較的多くの⼈員及び資材等が応急復旧活動に投⼊される。しかし,地域の縁辺になる箇所においては,⼈⼝密集地への⼈員及び資材等の集中から,多くの⼈員及び資材を割り当てられない。また,実作業の問題点として,現在では,⺠地に⼊り込んだガレキ混じり⼟砂は公費等での撤去が⾏える様になったが,被災当時はそのような取り決めもなく,多くの住⺠より現地で要望されたが,⺠地であることを理由として⾃治体での撤去はできなかった。これらの事象を今回の豪⾬災害対応との関係で地元⾃治体と地元建設業組合が⾏った道路啓開活動の実態と課題について発表する。

    2.結果
     災害に対する対応の柱として,住民同士の共助があげられるが,今回の様な大規模災害では多くの住民が被災していることから,共助体制が取れなかった。また,真備町を地場とする地元建設業者も被災していることから,初動体制がといれなかった。結果,同市内の他地区建設業者が初動体制に当たった。つまりは,地元建設業者の従業員も被災地の住民であり,災害に対処できず大きな災害の前では地元に備わっている災害応急対応力は低下する。
     災害応急対応力の低下に際し,自治体等による対応もあるが,ボランティアによる対処が著しく,今後の災害対応力の柱の一つとしてボランティアの力が重要であり,ボランティアを呼び込む自治体の力とそのボランティアに対する適切な対応が災害応急対応力に関わってくると言える。
  • 中島 弘二
    セッションID: S604
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    近年の「人新世」をめぐる議論では、もはや「人間−自然」の素朴な二分方では現実に生起するさまざまな環境問題を捉えきれなくなったことが指摘され、自然と人間をめぐる新たな関係のあり方が模索されている。本発表では、1970年代の日本におけるいくつかの環境運動の検討を通じて、このような「人新世」の時代における環境運動の新たな可能性を模索することを目的とする。それは、自然が人間によって一方的に破壊されたり、保護されたりするのではない、両者の存在論的な結びつきに対する認識と、そうした結びつきが破壊されることに対する危機感を基盤とするものであるだろう。
  • 桐村 喬
    セッションID: P088
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    I 研究の背景・目的
    職業別の人口構成は,社会経済的状況に基づく居住分化の状況を示す代表的な指標であり,年齢や世帯構成に関する指標などとともに,これまでの居住地域構造研究においても盛んに用いられてきた.しかし,日本の国勢調査に基づく小地域統計において職業別就業者数を把握できるのは1965年以降であり,これ以前に関しては,市などが独自に作成した統計資料が存在しない限り,職業別人口の分布を検討することは困難である.そのような資料が得られない都市や年代においては,様々な資料を組み合わせながら分析することになる.
    そこで,本発表では,これまでに用いられてきた国勢調査,失業統計調査に加え,電話帳を用いて戦前期の大都市におけるホワイトカラーの居住地分布を把握することを試み,職業別の居住分化の分析資料としての電話帳の特徴や限界について整理することを目的とする.
    II 戦前期の職業分類でのホワイトカラーとその居住地
    2009年設定の日本標準職業分類において,一般的にホワイトカラーに相当すると考えられるのは,管理的職業従事者,専門的・技術的職業従事者,事務従事者である.一方,戦前期の国勢調査で用いられた職業分類に関しては,多くの既往研究において,公務自由業が「新中間層」としてホワイトカラーに相当する職業として扱われてきた.ただし,1920年の職業分類は産業分類に近く,公務自由業には民間企業の事務職は含まれていなかった.一方,1925年の国勢調査と同時に実施された失業統計調査では,給料生活者と労働者の区分がなされている.給料生活者の定義は「官吏,公吏,其他俸給給料又は之に準ずる報酬を得て事務又は技術に従事する者」であり,ホワイトカラーに相当すると考えられるが,有業者であっても雇主や月収200円以上の給料生活者は除外されており,管理職を中心とする高給のホワイトカラーは除外されている.
    上野(1981)で用いられたのは国勢調査結果であり,1920年の東京市においては,公務自由業有業者が市域西半分の台地上に集住しており,東側の低地にはほとんど居住していなかった.また,大阪市における失業統計調査結果を利用した水内(1982)では,南部の台地上に開発された新しい住宅地だけでなく,都心部にも依然として多くの給料生活者が居住していたことが示されており,東京市とは異なるパターンとなっている.しかし,1925年の失業統計調査結果を確認すれば,東京市の都心部にある日本橋区などにも多くの給料生活者が居住しており,上野(1981)が指摘した周辺部だけでなく,都心部も含めた西側の広い範囲にホワイトカラーが分布していたことになる.
    失業統計調査の給料生活者の数値はホワイトカラーの分布を示すデータとして重要であるものの,その後,失業統計調査は実施されておらず,時系列的に連続して把握することはできない.また,小地域単位で集計結果が利用できるのは大阪市や京都市など一部に限られている.
    III 電話帳から把握できるホワイトカラーの居住地
    電話帳は電話加入者の名簿であり,大都市を中心として時系列的にある程度継続して利用できる資料である.戦前期には職業が記載されていることが多く,職業別に配列された電話帳も刊行されている.戦前期の電話帳からは,会社重役・会社員や官公吏など,ホワイトカラーと考えられる職業別の電話加入者の住所を把握できる.企業や店舗以外での電話の加入率はまだ低く,これらの職業の電話加入者がホワイトカラー全体を示すものと考えることは難しいが,資料が限られている状況下においては,電話帳は一定の意義をもつデータといえる.
    1935年の東京市における会社重役・会社員の電話加入者の分布をみると,都心部には少なく,西側にセクター的に広がっている傾向を確認できる.一方,失業統計調査で給料生活者に分類される商店員の分布をみれば,会社重役・会社員と比べて都心部の居住者が相対的に多い.郊外化は進んでいるものの,都心部にもまだ一定数のホワイトカラーが居住していたといえ,失業統計調査の結果や水内(1982)でみられたパターンと対応している.ただし,商店員の電話加入者数は会社重役・会社員と比べて非常に少なく,電話加入率が低いものと考えられることから,都心部のホワイトカラーの絶対数や規模を推測することは難しい.
    東京に関しては,日本商工通信社が職業別の電話帳をおおむね年1回刊行しており,公共図書館には1920年代前半から1930年代後半までの資料が所蔵されている.また,大阪など他の都市に関しても職業が記載された電話帳が刊行されており,これらを活用すれば,都市間の比較も可能である.他のホワイトカラーに関する電話加入者のデータベース化を進めれば,戦前期のホワイトカラーの居住地分布の全体像の把握に近づくことができよう.
  • 荒木 一視
    セッションID: 537
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    ここでいう7.18水害(紀州大水害)とは1953年7月18日に和歌山県を襲った水害で,和歌山県内で死者・行方不明者1,015人,負傷者5,709人,家屋全壊3,209棟,家屋流出3,986棟,床上浸水12,734棟,床下浸水15,313棟,道路損壊8,102箇所,橋梁流失1,293箇所という大きな被害をもたらした。本報告ではこの水害に着目し,堤防の決壊により深刻な被害を受けた御坊周辺での炊き出しの実施状況を取り上げる。典拠としたのは標記水害誌の詳細な記録であり,当時の被災地への食料供給を中心とした救援活動の実態を検討する。過去の災害における救援活動を検討することを通じて,現在の被災地への救援活動の課題を提起したい。

    なお,御坊市は1954年4月に和歌山県日高郡御坊町,湯川村,藤田村,野口村,名田村,塩屋村が合併して発足したもので,被災当時は御坊町であった。ただし,水害誌の刊行は合併後であり,水害誌のタイトルは御坊市となっている。

     御坊町内外を含め広い範囲が浸水し,市街地中心部では最大で2メートルを超え,北部の御坊駅周辺でも1メートルに達したという。御坊町では死者26,行方不明者100,重軽傷者約3,000,推定床上浸水4,000うち流失365とされている。この他に湯川村では死者1,行方不明者1,重軽傷者60名,床上浸水555,床下浸水250,藤田村では重軽傷者20,家屋前回100,家屋流失30,家屋半壊150,床上浸水150,床下浸水30,野口村では死者30,行方不明者24軽傷者100,家屋全壊30,家屋流失105,家屋半壊100,床上浸水80,名田村では床上浸水2,床下浸水40,塩屋村では使者8,行方不明30,重軽傷者67,家屋全壊14,家屋流失48,家屋半壊24,床上浸水95,床下浸水25が報告されている。

     これは合併時(1954年)の御坊市の人口が31,844人であることから見ても,5,000軒の床上浸水,死者行方不明者200名,重軽傷者約3,250名というのは未曾有の災害であったと言える。
     同書は水害から5年後の1958年に御坊市水害誌刊行委員会によって編纂されたもので,本編部分の466ページに加えて,88ページにのぼる写真集を備えた大冊である。水害の発災からの経過や救援活動の実態などが詳細に記されており,その資料的価値は高いと考えられるとともに,当時の状況下で本書を編纂し,水害の記録を残したことの意義も極めて大きい。


     御坊町では小学校や役場など6カ所で32日間に渡り,実人員16,300人,のべ290,732人に対して炊き出しが実施され,期間中に米101,756kg,乾パン30,060食,パン3,000個,缶詰5,544個などが提供されている。米の供給量をのべ人員で割ると,1人1日あたり350gとなる。1950年の日本人の1人当たり米供給量は300gであることから,米に関しては不足のない量が提供されていたとみることができる。特に,実人員16,300人ということは当時の御坊町の人口の半数以上が炊き出しを受けたことになり,この人数に相当量の米を供給し得たことは評価できる。

     同様に被害の大きかった野口村でも13カ所で炊き出しが実施され,のべ43,597人(うち他村分7,797人)に対して,米14,874kg(1人1日あたり約340g)が,湯川村でも7カ所でのべ59,455人に米20,740kg(1人1日あたり約350g)が供給されている。加えて,味噌や塩,野菜,煮干,たくあん,梅干,漬物などの副食類の供給量も詳細に記録されており,十分とはいえないまでも,一定の食料供給が維持さていたことがうかがえる。

     一方で,飲料水の供給に対しては,被災直後の7月20日に空樽20個,ポンプ打ち込み2本が記録されているだけで,経費も合計16,000円にすぎない。これは炊き出しほか食品の供与費が全体で869,550円であることと比較すると軽微である。その背景には当時は上下水道が整備されておらず,多くの世帯が井戸水を利用していたことが考えられる。今日のように水害によって浄水施設やポンプが被災して水道システムが機能しなくなる事態は起こり得ず,実際に同書においても,水害直後から井戸が清冽な水を供給し続けたことが記載されている。その意味ではこの時代の方が高い災害耐性を持っていたという側面も指摘できる。
  • 長谷川 直子
    セッションID: S701
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1. はじめに/シンポジウムの目的

     社会に対して学術情報を発信することは、アウトリーチや科学コミュニケーションと呼ばれる。なお本シンポジウムでは両者を合わせてアウトリーチと呼ぶ。

     地理学のアウトリーチ研究グループでは、2017年春季学術大会において、「地理学のアウトリーチ・科学コミュニケーション活性化のために」というシンポジウムを開催した。つづく今回のシンポジウムでは、それぞれのフィールドで地理関連コンテンツの発信を手がけている人たちの活動内容や工夫、受け手の反応を知ることで、一般の人に地理学に興味を持ってもらうヒントをえる場としたい。具体的には、サークル的まちあるき活動、第四紀学会、一般書籍を事例として関係者から話題提供を頂く。

     さらに今後地理学を発展させていくためにそれぞれどのようなアウトリーチができるのか、会場を巻き込んで意見を出し合いながら議論を深め、今後の地理学のアウトリーチの活性化へつなげる機会とできればと考えている。



    2. 登壇者の発表内容とシンポジウムでの位置付け 

     招待講演として、東京スリバチ学会会長の皆川典久氏より、東京スリバチ学会での活動を紹介いただく。皆川氏は地理学出身者ではなく建築関係の仕事をされているが、趣味として地形に大変な関心を持ち、東京スリバチ学会というサークル活動を立ち上げた。『東京「スリバチ」地形散歩1・2・多摩武蔵野編』(洋泉社)は売れ行き好調となっている。カシミール3Dなどを駆使した大変ビジュアルに訴える地図表現と、心から楽しいと思って話す話術に多くの人が魅了され、コアなファンも多い。東京スリバチ学会の活動が周知されるにつれ、全国に地方のスリバチ学会が結成されるようになった。皆川氏が行っている活動は、地形のことを全く知らない人に対してその面白さを広めるという点で、アウトリーチを進めるヒントが詰まっている。特にビジュアルに訴える地図・パワポ表現と話術は、地理関係者が授業や巡検を行う上でも大いに参考になると思われる。

     次に、千葉科学大の植木岳雪氏より、第四紀学会を中心とした、地質系学協会でのアウトリーチ活動に関する報告をいただく。一般に地理に比べて地学では、高校での開講が少ないこともあり危機感が大きく、アウトリーチ活動が比較的盛んに行われている。隣接分野でのアウトリーチ活動は地理学会でのアウトリーチ活動を進めていく上で参考になる点が多々あると思われる。

     最後に、(有)ベレ出版編集者の森岳人氏から、一般書の視点からのアウトリーチについて話題提供をいただく。森氏は「出版業界から見た地理学のアウトリーチ」という論文をE journal GEOに執筆しているが(森2018)、この話にも触れつつ、一般書(前提知識を必要としない、中規模の書店でも販売されている本)の中での地理学関連書籍の置かれている状況の概要と、一般書を書くというのはどういうことなのかについて、レベルの設定や内容の選定、企画の立て方、などについて概説をしてもらう。地理学関連の一般書が少ない現状を学界内でも共有し、また、これまでに一般書を書いたことがないが執筆に興味がある人にとっては、地理一般書を書くときのイメージが持てると思われる。

     以上の主に3点から、様々な情報を得ることで、今後の地理学界のアウトリーチの活性化を、個人レベル、また組織レベルで進めていくヒントが得られると考える。



     なお、シンポジウムは午前中に開催するが、午後は希望者を募り(先着20名)、皆川氏による四谷・荒木町まちあるきを開催し、巡検のやり方を現地学習する予定である。





    参考文献

    長谷川直子2017 地理学のアウトリーチ・科学コミュニケーション活性化のために, E-journal GEO, 12(1),151-154.

    皆川典久 2012,2013,2017, 「東京「スリバチ」地形散歩1・2・多摩武蔵野編」洋泉社.

    森岳人2018, 出版業界から見た地理学のアウトリーチ E-journal GEO, 13(1),170-183.
  • 鈴木 康弘
    セッションID: S214
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
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    1. 本発表の目的

     これまで日本学術会議地理教育分科会や地理学会地理教育専門委員会や災害対応委員会は、2022年度から大きく改革される高校地理教育にどのように臨むべきかを検討してきた。筆者は2017年に日本学術会議から発出された提言「持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実」の取りまとめに関与した。その中で、学会や関係省庁へ緊急的な提言しているが、課題解決を急ぐ必要がある。

     本発表は、主に自然地理および防災教育の具体的内容、指導方針および留意点について議論することにある。またシンポジウムの趣旨により、「現場となる初等・中等教育だけでなく、教員養成を担う大学教育や関係省庁が取り組むべき様々な課題を整理し、新しい地理教育を今どのように推進すべきかを提案する」ことを念頭に置く。なお発表当日は、第二部:「地理総合」と防災:何をどう教えるか?」(主担当:災害対応委員会)の議論の結果を踏まえる。



    2. 提言「持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実」の内容

     日本学術会議は以下の5点を提言した。(1) 「持続可能な社会づくり」に向けた解決すべき課題の明確化、(2) 「持続可能な社会づくり」に資する地理教育の内容充実、(3) 「持続可能な社会づくり」に向けた地理教育を支えるための体制整備、(4) 「持続可能な社会づくり」に向けた学校教育・教員養成を支える大学教育の充実、(5) 「持続可能な社会づくり」を支える地理教育の社会実装。

     現状を批判的に見れば、「持続可能な社会づくり」とはいうものの、社会的軋轢から問題の所在を明確に指摘しづらい風潮がある。そのような状況の中でどのように教育を保障するか。例えば学習指導要領は地球的課題の解決について、「・・複数の立場や意見があることに留意すること。・・産業などの経済活動との調和のとれた取組が重要」としているが、重要なことは立場ではなく価値観であり、また経済活動のみでなく伝統や文化が尊重されるべきではないか。これは教育方針に直結する問題であり、早急にオープンな議論が求められる。また教員育成において大学教育にも深く関わる。



    3. 「地理総合」における自然地理の課題は何か

    (1)防災教育の一部ではない

     新指導要領ではC(1)「自然環境と防災」として、防災と自然地理がセットで取り上げられているが、「自然地理はここで教える」と短絡的に理解することは以下の2つの理由で適切ではない。第一に、災害に関連する自然地理はネガティブな極端現象であり、人間の営みと関係する平常の自然環境を扱いづらい。また「災禍」が強調され、「恵み」を確認できない。B(1)の基礎として自然の恵みの地域性を学習させる必要がある。また突発災害のみでなく、B(2)においては徐々に進行する自然環境変動とその影響を科学的裏付けを含めて扱うべきで、教科書の章立てに明示される必要がある。自然地理が「持続可能な社会づくり」へ貢献するには、自然と人間(地域社会)の関係を多面的に捉える教育が重要である。

    (2)「統合自然地理学」的扱い

     必須の「地理総合」は、生徒の学習意欲の高低にかかわらず、全員に地理的素養を教授しなければならない。そのため、①「地形」「気候」「植生」といった系統的扱いではなくそれらの統合(岩田、2018)として扱う。②教科書の記述も大→小スケールではなく、具体例から地域規模→世界規模へと視野を広げる(大地形や気候区分の詳細は「地理探究」へ譲る?)。③自然現象そのものから教えるのではなく、結果から見る(例えば地震はマグニチュードからではなく震度から)。以上の取り扱いは理科と大きく異なる。なお、「地理総合」で身近な現象から地球規模現象への有機的つながりを実感させることにより、「地理探究」の要素分析的学習が活きる。

    (3)大学の入試問題における扱い

     「地理総合」と「地理探究」は従来の「地理A」「地理B」とは構造的に異なるため、今後は「地理探究」のみを入試科目として指定することがないように文科省ならびに全国の大学に呼びかける必要がある。これは自然地理に限ることではない。狭義の「地理探究」のみでは、例えばGISも防災もSDGsも無関係と誤解され、「地理総合」必修化の意義が薄れる。「地理探究」の教科書において、「地理総合」の重要項目が記述されることも重要(解説には注意書き有り)。

     また、防災や地球的課題について、「よりよい社会の実現を視野にそこで見られる課題を主体的に追究、解決しようとする態度を養う」という教育目標に留意した出題配慮が強く求められる。これは現状の大学の自然地理研究者が必ずしも得意としていない。地理学界内の分野連携で補うとともに、これからの地理教育に必要な素養を有する大学の自然地理研究者の育成も課題である。
  • 木村 惟啓
    セッションID: 319
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/30
    会議録・要旨集 フリー
    IT革命とともにGISが学術研究やビジネスに導入されていく流れを受け,学校教育においてもGISの利用が1990年代から議論され始めた。特に2000年代以降は,GISの地理教育上の意義として新しい学力観を伴う学習過程との親和性も指摘されている。しかし,現在でも地理教育におけるGISの利用は進んでおらず,この背景にはGIS利用の煩雑さや学校現場におけるコンピュータ環境の不備がある。従って,操作が簡便で,特定のコンピュータ環境に依存しないGISとその利用法を提示すれば,GIS利用の促進に繋がる可能性がある。

    Web GISはインターネットを通じて地図の作成や地域分析が行えるシステムであり,その多くはWebブラウザ上で動作する。Web GISは動作する端末やOSが限定されず,またソフトウェアのインストールが不要であるなどの利点を持つ。そこで本研究では,地理教育上の意義を持つWeb GISの利用法を「地形断面図描画ツール」とそれを活用した学習事例として具体化し,Web GISの有効性について考察した。

    まず,探究的な授業は新しい学力観を伴う学習過程との親和性が高く,GIS導入の有効性が見込まれると同時に,地理的な見方・考え方の形成も期待することができた。次に,探究的な授業に対応したWeb GISを検討したところ,特定の事象の背景にある地理的要因を主題図として表現できるものが有力であった。以上をふまえ,任意の地域について地形断面図を描画できるWeb GIS「地形断面図描画ツール」を制作した。地形断面図を選択した理由は,これが気候や植生,社会生活といった幅広い内容と関わりうる主題図であり,高校地理において説明に用いられる機会も多いためである。制作に際してはGoogle Maps JavaScript APIおよびGoogle Visualization APIを用い,またWeb GISの機能を一つに絞ることでその操作方法を簡便なものに留めた。

    学習事例は2時限の授業と自由課題から構成される。初回の授業で地形が社会生活と関連している例を示した後に,自由課題を通して類似の事例を生徒自らに発見させ,最後の授業は生徒による成果の発表に充てる。授業と自由課題はともに探究的な学習プロセスを持つよう構成され,その中でWeb GISの操作は中心的な役割を担う。

    学習事例の高校地理単元への位置づけとしては,第一に地域調査学習への導入として用いることが考えられる。「地形断面図描画ツール」単体での利用については,土地の高低が問題となる授業で補足に用いたり,生徒が学習した内容を自宅で確認・定着する用途に用いることが期待できる。

    今回の学習事例の特徴は,動作する端末への制限が少ないというWeb GISの特徴を活かし,自由課題の補助ツールとしてGISを導入した点である。この方法であれば,多人数によるインターネットへの同時接続という状況が生じず,Web GIS導入の障壁であった回線への高負荷が回避できる。また,ほぼ全世界を網羅するGoogle Mapsをベース地図として用いたことにより,生徒が題材とする地域やスケールへの制約が少なくなり,探究学習の自由度がより高まった。

    東京学芸大学の学生に対し,1時限(90分)の授業の中で試験的に事例の提示(20分),自由課題(60分),発表(10分)の構成で今回の学習事例を行ったところ,海外の事例や学生の出身地が取り上げられるなど活発な活動が行われたが,地形と他の事柄との関わりを示した学生は少数であった。従って,学習事例を行う際の留意点として「地形と他の事柄との関連を示す」という視点が学習者から抜け落ちやすく,最初の段階で十分に説明される必要がある。

    Web GISの今後の可能性は,主にその入手・改変・再配布の容易さにある。JavaScriptを用いたWeb GISはソースコードが誰でも入手できるため,将来的に教員が授業実践を重ねながらWeb GISの入手・改良・再配布を繰り返し,教材がより洗練されていく可能性が指摘できる。

    本研究で制作したWeb GIS「地形断面図描画ツール」は以下のURLから利用できる。

    http://www.u-gakugei.ac.jp/~chiriken/drawprofile
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