抄録
ペルー、ナスカ台地の地上絵の考古学調査において、人工衛星Quick Bird画像によって地上絵分布図を作成すること、同画像の画像処理によって地形分類図を作成する手法の開発などについては先に述べた(阿子島2005.3 日本地理学会)。
地上絵の分布と地形分類図によって表現される土地条件すなわち地表面の安定度・不安定度(台地表面の風化礫の保存の違いであり、遠望したときの地表の色の違いでもある)、平坦面のひろがり、起伏との関係を論じ、また約1500年間の地上絵の損傷程度、将来の地上絵の損傷の見積りなどについて検討してきた(阿子島2006.5東北地理学会, Sakai y AKOJIMA,2006ed,YAMAGATA Univ. のpp.41-59; 阿子島2007,山形大学社会文化システム研究科紀要のpp.139-149))。
台地上面の地形変化を論ずることは、地上絵の保存計画において重要である。台地の地表面の変化の様式と速度は、微地形面によって異なる。現在の地表面に働いている地形変化作用は、日常的な砂嵐と10年に1回程度のエル・ニーニョの際の短期間の降水による表流水の影響である。1998年に顕著な土石流を発生した。しかし、土石流が生ずる河川は台地面のなかでも限定的であり、河川の作用の及ばない部分に選択的に地上絵が集中していることもうかがわれる。
【今回の検討目的】 2006年2月17日の洪水によって、どのような地形変化が生じたかを、洪水の前後の2時期のALOS画像の比較によって明らかにする方法を検討した。前述の「台地面の安定・不安定度による微地形面3区分」のうち、最も不安定な河道部分の変化過程の検証である。
【資料】 山本 睦氏(総合研究大学院大学 文化科学研究科)と在ペルーのウーゴ・津田氏は 2007年2月17日夕刻にナスカ台地のパンアメリカンハイウエイで洪水が道路に冠水する場面の写真・ビデオを撮影していた。この洪水痕跡は2007.12でも明瞭に残っており、現地観察・空撮することができた(図1 台地東部)。
使用できたALOS画像は、2006年12月2日撮影(図3)および2007年6月4日撮影(図4)である。
QuickBird画像は、最小分解能が0.7mであるが高価である。ALOS画像は最小分解能が2.5mであるが、比較的安価で広い範囲の分布図作成に適している。
【方法】 同一範囲の画像の明るさ分布がほぼ似たグラフとなるよう調整したのち、空撮画像を参考に新規の土石流範囲を抽出できる明るさのしきい値で2値化して更新された流路跡を抽出した。新旧2画像(図3,4の例)は、それぞれ撮影条件が異なるために原画の明るさ分布が厳密には異なることと、しきい値の設定に任意性が残るという問題があるが、両者の平面パターンの差から新規の土石流流路部分は検出可能である。
【結果:更新された流路の分布の特徴】 明るい色調として表れる「更新された地表面」の分布の特徴は次のとおりである;
1. 雨域が狭かったためか、台地上面を刻む河流群のうち、となりあった数kmの範囲で河道が更新されたところと、そうでないところがある。扇頂より数km上流より始まり、それより上流側では更新が明瞭ではない。
2. 周辺の丘陵の斜面に顕著な更新は生じていない。
3. 更新部分は面的ではなく線的である。
4. 更新河道は台地の上端から下端まで10~15kmに及び、下流端は緑多い低地に達して不明瞭となる。更新されなかった支谷の谷底面とは不協和合流を生じている。
5. 台地内で洪水流が道路を横切る箇所では、一時的な堰きとめが生じて、道路に沿って流れた後に道路の低所から流れ出すため、流路のつけかえが生じているところがある(図5の例 空撮斜め写真)。
