抄録
(1)はじめに
昨今の温暖化に伴う熱中症などは数時間から一両日程度における温度の変化がもたらす熱ストレスである。しかし、通勤・通学で利用する電車の乗り降りで、短時間のうちに急激な温度変化にさらされて、瞬間的ではあるが相当な熱ストレスを経験することになる。そこで、本研究は、夏季における猛暑の外気からクーラーの効いた列車を出入りしたり、逆に極寒の冬季は暖房の効き過ぎた列車に出入りする時の熱的変化を定量的に把握することを目的とした。
(2)研究方法
共同研究者の一人が、通勤先の立正大学熊谷キャンパス(埼玉県熊谷市)と自宅の千葉県佐倉市の間を通勤する際に、「おんどとり」(RTR-53)を使用して片道約3時間を30秒間隔で自記録した。観測は、冬季(2006年12月、2007年2月)、春季(2007年4月)、夏季(2007年8月)それぞれ朝夕の通勤時間帯に実施した。なお、参考比較のために最寄の気象台・アメダス(佐倉・大手町・熊谷)と立正大学熊谷キャンパス内に設置してある総合気象観測装置の気温データも使用した。
(3)結果と考察
1:2006年12月20日の夕方における観測結果から外気(駅ホームなど)が10ないし11℃前後であるのに対して、暖房の効いた列車内に入ると20ないし25℃と十数℃も急上昇している。逆に、その高温状態から外へ出る時は、急激な降温を体験し、かなりの熱ストレスが予想される。
2:翌22日早朝出勤時は外気温が7℃前後であるのに対して、列車内は23ないし25℃となり、やはり十数℃も急上昇していることがわかった。なお、ほぼ同時刻における気象台やアメダスなどの値は駅ホームよりさらに2℃ほど低く、列車内との温度差はもっと大きくなっている。
3:夏は冬ほどの温度差はないものの、列車への乗り降りで急激な温度の上昇・下降が見られる。
(4)あとがき
かつて東北・北海道地方で冬季にトイレ内や浴室・脱衣所などでの脳卒中患者が多発したのは、急激な温度低下におかれた時に発生していたとされる。本研究結果のように、冬季、暖房した室内やおよび電車などから急に外に出た時に瞬時ではあれ、もっと大きな温度降下という現象が日常的であり、このことは特に高齢化社会では火急の課題であると思われる。