日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P228
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住宅地における緑地量が居住者の生活環境評価に与える影響
東京23区を事例に
*池田 洋文
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抄録

1.はじめに
 近年、地球温暖化現象やヒートアイランド現象などに起因すると考えられる地球環境、都市環境の変化が如実に実感させられるようになった。都市緑地、特に樹林地が有する効果にはヒートアイランド現象の緩和、大気浄化など物理的機能と、リラクゼーション効果など心理的効果を有することが示され、その評価と活用に期待が寄せられている。
 今日までに様々な手法で緑地の評価が試みられてきたが、緑地の物理量や緑地からの距離と緑の満足度とを関連付けた研究は少ない。また、物理量は樹林地以外(公園のオープンスペースや水域、農地等)の面積が含まれることが多く、樹林地のみを評価した研究は少ない。
 そこで、本研究では東京23区を対象に、衛星データを用いて樹林地からなる緑地の物理量(以下緑地量とする)を計測し、その緑地量が住民の生活環境評価に与える影響を住民の意識調査によって明らかにすることを目的とする。
2.研究手法
 本研究では、調査対象地をヒートアイランド現象が顕著に見られる東京23区とした。緑地量の計測には、RESTECより公開されているAlosデータを用いた。
 意識調査の対象地域は23区内で緑地率の高、低2地域からそれぞれ1ヶ所選定し、住民の生活環境評価についてのアンケート調査を行うこととした。また、地域の核となる緑地からの距離も住民の生活環境評価に影響を与えるのではないかと考え、一定規模を有する緑地から徐々に緑地率が下がる、ほぼ直線上の距離2kmに並ぶ街区を選定した。
 意識調査は2007年8月から9月にかけて、一戸建て住宅を対象に留置郵送回収によって行った。
意識調査の内容は(I)「緑」に関する質問、(II)周辺環境の評価に関する質問、(III)回答者属性に関する質問の3つからなる。
 意識調査結果の分析は、緑地率の高、低2地域それぞれに、緑の多少感、緑に対する満足度等と緑地率との関係、緑地の利用効果と存在効果および緑地からの距離が、居住者の緑地に対する評価と生活環境評価に与える影響について考察した。
3.調査結果
 Alosデータを用いた緑地面積の計測の結果、緑地面積(樹林地のみ)は東京23区で合計2154.9ha(緑地率3.5%)となった。また、緑地率の分布は山手地域で高く、下町地域で低い傾向にあった。
 意識調査の対象地は、緑地率の高い地域の例として世田谷区等々力周辺とし、緑地率の低い地域は墨田・江東区にまたがる猿江恩賜公園周辺とした。世田谷では意識調査の回答は回収率19.8%で、192の有効回答を得、江東区、墨田区では、回収率13.4%で、有効回答118を得た。
 相関分析の結果、世田谷では緑に対する満足度、緑の多少感、緑地の利用といった緑地に対する評価は、いずれも緑地率や緑地からの距離との間に有意な関係がなく、評価は、緑地率や緑地からの距離といった物理的な量に影響を受けないが、緑地の存在認識(緑の多少感)は、緑の満足度に影響を与えていることが分かった。
 一方、墨田・江東では、緑に対する満足度と緑の多少感には距離との相関関係が認められたが、緑地の利用については距離との関係が低いことが分かった。また、存在効果と生活環境評価との関係は相関係数0.52**、存在効果と緑の満足度とも0.81**で有意な関係が認められ、緑地の存在認識(緑の多少感)が生活環境評価と緑の満足度に影響を与えていることが分かった。
 世田谷では緑に対する満足度、緑の多少感、緑地の利用のいずれも中心となる野毛公園、あるいは等々力緑地からの距離と有意な関係はなかった。その理由として、世田谷も場合、基本的に緑地が満遍なく分布していること、また、既往の研究でも示されているように、庭などのより身近な緑と緑の満足度との関係があることがあげられる。本研究においても庭の存在が緑の多少感、緑の満足度、生活環境評価を高めることが示唆された。
 このことから、緑地に対する評価は、世田谷では、基本的に緑地が多い上、庭などのより身近な緑地に影響を受けていることがうかがえる。
 一方、墨田・江東では緑に対する満足度と緑の多少感に猿江恩賜公園から距離との相関関係が見られた。このことは、墨田・江東では猿江恩賜公園に緑地があるものの、その緑地量は少なく疎であり、庭の存在も少ないため、猿江恩賜公園の影響力がフィーチャーされているからだと考えられる。
 以上の結果から、住民の緑地に対する意識は公園のオープンスペースや水域、農地などを含まない、樹林地を基本とする緑地の存在に影響を受けることになるため、樹林地を増やすことが都市環境の改善、ならびに生活環境評価や緑に対する満足度を向上させることにつながると示唆された。
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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