抄録
1. はじめに
道路管理において、道路工事、占用工事、自然災害等による道路構造の変化に関する情報を、迅速に集約・把握する必要性が高まっている。これらに対して、道路地図情報を用いた各種管理システムの利用が徐々に普及しつつある。各システムにおいては、ベースマップとなる道路地図データが重要となるが、その迅速な更新が新たな課題となりつつある。
国土交通省では、道路局を中心として、道路行政で用いる空間データのうち、各種サービスを実現する上で必要となる共用性の高い道路地図データ(以下、道路基盤データと呼ぶ)の整備を進めている。これにより、道路の現況情報が電子化され、維持管理段階を始めとする各種業務の高度化・省力化に寄与することが期待される。さらには、道路基盤データの流通が進むことにより、道路管理のみならず、ITS、地図更新、占用施設管理、不動産等の多様な主体による、道路情報と連携した、様々なサービスへ繋がっていくことが考えられる。
本稿は、道路基盤データ整備へ向けた基本的方針、現状の取り組み、今後の課題の概要を紹介するものである。
2. 道路基盤データ整備
道路基盤データは、道路構造を表現する大縮尺(1/1,000~1/500相当)のGISデータあり、道路内に存在する地物で構成され、地理情報標準に従って作成される。具体的な地物は、道路基本地物(距離標、道路中心線、車道部等)、道路関連地物(区画線、停止線、横断歩道等)、道路支持地物(法面、橋梁、トンネル等)に分類される29地物である(国土交通省, 2004)。
基本的な整備方針として、全国展開が可能となるよう「持続性を確保できる妥当なコストと品質水準であること」としている。そこで、工事の電子納品成果によるデータ蓄積を目指した。国土交通省では、CALS/ECの一環として平成16年度から全国の公共工事において電子納品を実施しているところである。最新の道路現況を示している道路工事竣工時(特に舗装工事竣工時)に着目し、直轄国道の工事完成図面を電子納品対象とする。道路工事におけるデータ作成のため、GISデータを直接作成するのではなく、CAD図面による電子納品を進めている。今後の流通のため、標準的な形式を意識し、「道路工事完成図等作成要領」(国土技術政策総合研究所, 2006a)により、完成図の定義や作成方法、電子納品方法を規定している。完成平面図CADデータは、道路基盤データへ変換することを意図し、GISデータと親和性の高いSXF Ver3.0(Scadec data eXchange Format)による作成仕様を定め(国土技術政策総合研究所, 2006b)、作成されたCADデータは、コンバータにより自動的に道路基盤データへ変換される。
本要領による道路工事完成図面の電子納品は、平成18年8月に本運用され、現状では、直轄国道で100km程度蓄積されている。ちなみに、高速国道では、独自仕様であるものの、平成17年度末に18,000枚の管理用平面図をCAD化、地方整備局への電子納品がなされている。
3. 整備展開へ向けた課題
ビジネスレベルでの利活用等も配慮し、位置精度、整備対象地域、更新周期等を中心としたデータの品質明記が重要である。そのためには、特に以下の検討が必要となる。
(1) 骨格となる直轄国道や高速国道における効率的かつ確実な整備の促進。確実な整備・更新を促進するため、更新周期を明確化する必要がある。また、独自仕様による既存の電子図面を有効利用し、効率的な整備促進のための方法を検討する必要がある。
(2) 実展開を踏まえた利活用方策の検討。内部利用・外部利用問わず、利活用の実展開へ向けた追加情報(高さ情報等)や試行の蓄積が必要となる。
(3) 整備対象地域の拡大。多様な主体が利活用するためには、網羅性が重要となり、地方公共団体への展開が課題となる。そのためには、自治体のインセンティブを誘起できるような仕組みを検討する必要がある。
文献
国土交通省(2004)『道路基盤データ製品仕様書(案)』/国土技術政策総合研究所(2006a)『道路工事完成図等作成要領』/国土技術政策総合研究所(2006b)『道路基盤データ交換属性セット(案)』