抄録
1.はじめに
近年の「平成の大合併」により,市町村の広域化が顕著に進展してきた.この流れのなかで,1999年の市町村合併特例法改正による地域審議会の制度導入後,同法による地域自治区,合併特例区(以下では,これら3制度並びに類似制度を「地域自治組織」と表記する)の制度化など,さまざまな合併前の市町村を単位とした枠組みを公的に維持させる仕組みが構築されてきた.
これらの制度については,根拠法の規定が緩やかであることから,設置市町村によってその形態が異なってきたことが指摘されている(例えば,朝日新聞2006年12月25日朝刊).さらに,地域審議会や地域自治区の下での地域協議会などの附属機関(以下,「地域別附属機関」と表記する)については,類似した権能が規定されている場合でも,活動・運用の実態には大きな差異が生じつつある.
そこで本報告では,合併関係市町村間で人口や財政等の規模に差異が大きく,合併による住民生活への影響が特に大きいと考えられる中核市・特例市を対象として,合併後に設置された地域別附属機関の制度と運用の実態について整理する.
2.中核市・特例市における「地域自治組織」の動向
2006年9月に実施したアンケート調査によれば,1999年度以後に市町村合併を実施した40の中核市・特例市のうち,32市で「地域自治組織」が設置されている(美谷 2007).最も多いのは地域審議会の22市であり,地域自治区が9市,合併特例区が2市,市の独自組織が1市となっている(複数制度を併用する市もあるため,合計は32を超える).
地域自治組織の設置区域は,地方自治法に基づく地域自治区を導入している浜松,豊田,宮崎の3市を除いて,旧中心市を除く区域となっている.
3.事例市における地域別附属機関の制度と運用実態
(1)静岡県浜松市
浜松市では,合併前の12市町村単位で地方自治法に基づく地域自治区が設置された.地域協議会の機能はきわめて細かく,かつ広範囲に規定されており,運用面でも非常に多くの諮問がなされている.また,地域自治区内の事業に係る予算編成過程では,支所に相当する地域事務所で編成・執行する「地域自治振興費」について,地域協議会への諮問・答申が必須と位置づけられるなど,政策過程における強い権能が付与されている.
(2)愛知県豊田市
豊田市においても,浜松市と同じ地方自治法上の地域自治区が設置された.このうち旧豊田市については,5支所の区域に分割する形で地域自治区が設置され,地域協議会はさらに,この単位の5つの「代表者会議」と20のコミュニティ単位での「地域会議」の二層で構成されている.
地域協議会には新市建設計画や予算編成に関する意見陳述・建議の機能が想定されておらず,自らの地域の課題抽出とその解決方策を議論することが求められている.また,地域協議会は意見集約や意思決定を行う場であり,それに基づく事業実施は,同じ区域に設置されている「地区コミュニティ会議」が行うという形で役割分担が図られている.
(3)兵庫県姫路市
姫路市では,合併前の旧4町の区域に,それぞれ地域審議会が設置された.審議会の権能に大きな特徴はないが,これまでのところ,各年度に新市建設計画に関する市長からの諮問がなされ,3回程度の審議を経て答申書が提出されている.翌年度の予算編成に際しては,この答申内容が参考にされることとなっており,地域別附属機関からの意見の取扱手法が明確化されていない事例も多いなかで,文字通り「審議会」的な運用がなされている.
4.おわりに
以上のように,中核市・特例市の地域別附属機関の運用には,浜松市の事例に代表される,政策過程に強い影響力を及ぼし得る「準議会型」,逆に,地域のまちづくりに特化する豊田市のような「まちづくり組織型」,制度趣旨に合う純粋な形での運用を行う姫路市のような「審議会型」といった形態が確認された.
しかし,多くの設置市では,地域別附属機関の活動が,予算編成の際の意見交換が中心となるような「懇談会型」の運用にとどまっている.したがって,制度の導入だけでなく,内実をともなう運用をいかに確立するかが,合併後の地域自治を進めるうえで重要になるものと考えられる.