抄録
1.はじめに
1980年代以降の北日本夏季気温は、年々の変動が大きく、冷夏や暑夏が交互に出現する傾向にある。その原因の一つとして、西部太平洋熱帯域の対流活動が考えられる。本研究では、北日本夏季天候とPJパターンとの関係について解析し、その発現域であるインドネシアと、影響域である東アジアでの気候環境について、気温と降水量を用いて考察する。
2.データ
SSTデータは、2007年9月にリリースされたNOAAのERSST (Extended Re-constructed Sea Surface Temperatures)データver.3を、グローバル気象データはNCEP/NCAR再解析データを用いた。また、観測データに基づいて作成されたUniversity of Delaware (U-Del)の0.5度グリッド地上気温・降水量データを用いた。
3.結果
1)Kanno(2004)により、北日本夏季天候の1982年以降の5年周期が指摘されていたところであるが、2007年夏季までその周期に則っているようにみえる(図1)。
2)南シナ海とフィリピン東方海域との海水面温度(SST)東西差を、前回の報告(2005年春季大会)では領域S(10-20N, 110-120E) -E(10-20N, 130-140E)を用いたが、データの変更等で今回はC(5-15N, 110-130E)-D(5-15N, 140-160E)で計算した。図2にはC-Dと500hPa高度との相関係数分布を示す。赤道域の広い範囲に正の相関が見られるほか、日本から東シベリアにかけての波列パターンが明瞭に把握できる。PJパターンが北日本夏季天候の周期的な年々変動と深く関わっていることが明瞭である。
3)インドネシア、ジャワ島におけるU-Del雨量データと地上気圧との相関係数分布を図3に示す。ジャワ島南東方の広い範囲で負の相関を示し、雨量の増加に気圧の低下を伴うことが把握できる。また、北日本に正の相関が見られ、ジャワ島の雨量が多いときには気圧が高まる、すなわち夏季気温が高温になることが示唆される。これらについては、PJパターンの伝播による影響で説明できそうだが、波源の地上雨量と影響域でスポット的に有意な関係がみられるのは非常に興味深い点である。インドネシアにおいては、2006年から現地調査ならびに雨量観測を実施しており、それによる気候環境の調査結果については別途報告の予定である。
4)東アジアにおけるコメの生産地として、日本の東北地方、朝鮮半島、中国東北部について、気温・降水量と大規模場との関連性について検討した。それらの結果については当日ご報告したい。