抄録
I.本研究の研究対象地域と目的
兵庫県を北へ流れ日本海に注ぐ円山川は最下流部に平野がなく,川沿いの沖積低地は非常に低平で,縄文海進時には広い内湾が形成されていたと考えられている.本研究は,円山川の中・下流域と,円山川支流の出石川流域を研究対象地域とし,当該地域における,沖積層の層序と最終氷期以降の古地理の変遷について明らかにすることを目的とした.
II.方法
1)研究対象地域の地形分類図の作成や,貝塚や低地の遺跡,条里制の分布などを調べる.
2)既存のボーリングデータを収集し,地質断面図を作成する.
4)既存のボーリングやハンドオーガによるボーリングから得たコアサンプルのイオウ含有量の分析と貝化石の同定を行う.
5)ボーリングコア中の火山灰の同定や,14C年代測定を行う.
6)以上の結果を総合し,研究対象地域の最終氷期以降の海岸線の変化を中心とした古環境の変遷を明らかにする.
III.結果
1)研究対象地域の地形の特色
円山川中・下流域の地形は山地と沖積低地が明瞭なコントラストを示し,沖積低地内には円山川・出石川沿いに旧河道や自然堤防が分布しており,旧河道は大きく蛇行している.
2)沖積低地の開発
豊岡盆地内では縄文時代~古墳時代の遺構はほとんど確認されておらず,沖積低地への進出が遅かった可能性が高い.奈良時代以降は条里制地割が盆地内に広く分布し,氾濫原や後背湿地などで大規模に水田が拓かれていった.
3)沖積層の層序
研究対象地域の沖積層は下部から基底礫層(BG),下部砂泥層(LS),中部泥層(MM),上部砂層(US),最上部泥層(UM)に区分することができる.沖積層の層厚は円山川河口部で約60m,豊岡盆地中央部で約40mである.海成層とみられる中部泥層は盆地地下では約20mの厚さで,円山川では河口から21km付近まで,出石川では円山川との合流点から8km付近まで分布している.また中部泥層下部あるいは下部砂泥層中部に鬱陵隠岐火山灰,中部泥層中部に鬼界アカホヤ火山灰がみられる.
IV.最終氷期以降の古地理の変遷
(1)最終氷期の最大海面低下期
古円山川は当時の海面に対応し,河口部で-60m以深の谷を形成していたが,顕著な古円山川の埋没谷は認められなかった.
(2)約10000cal.BPごろ
海岸線は円山川河口から13~14km付近,現在の豊岡市街地に達していたと考えられる.
(3)約8000cal.BPごろ
海岸線は円山川河口から19~20km付近,出石川の円山川との合流点から6~7km付近にあったと考えられる.
(4)約6800cal.BPごろ
相対海水準は0.3~0.9mの間にあり,海岸線は円山川河口から21~22km付近,出石川の円山川との合流点から7~8km付近にあったと考えられる.海岸線は,海成層の分布や先行研究の結果から,縄文海進最盛期を示すものと考えられる.
(5)約2000cal.BPごろ
海岸線は円山川河口から10km付近にあったと考えられる.
