日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P820
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甲賀市における生ごみ堆肥化事業に見る普及/阻害要因と地域社会特性
*香川 雄一片岡 祥子
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抄録
近年,未利用有機資源の一つである家庭系生ごみの有効利用に社会的関心が高まっている.家庭系生ごみの排出量は食品廃棄物発生量の約半分を占めているが,成分面が複雑性を有し,排出源が少量分散型であることから,家庭系生ごみの再利用は十分に進んでいない.
そのような現状の中で,廃棄物の増加や処分場の残余年数の緊迫化,ダイオキシン問題等,廃棄物の処理問題が深刻化しており,多くの自治体で家庭系生ごみの資源化が注目されている.
滋賀県甲賀郡水口町(平成16年10月1日より甲賀市)でも可燃ごみの増加に伴い,焼却炉の容量を廃棄物の排出量が上回るようになったため,生ごみの堆肥化事業に取り組むこととなった.しかし,実施から数年を経ても甲賀市の堆肥化事業の普及率は上がっていない.そこで,甲賀市における堆肥化事業の実施状況や普及阻害要因,小地域単位の地域社会特性を探り,その結果を踏まえた上で,どのような地域に甲賀市が行っている分散・集中処理型システムの生ごみ堆肥化事業が適しているのかを明確にする.
甲賀市の堆肥化事業の概要把握を既存資料や市役所等へのヒアリングで行う.その後、事業実施状況の把握や地域社会特性の抽出を住民へのアンケート調査や国勢調査の結果により探る.さらに調査対象地域の住民へのアンケートから算出した堆肥化事業普及率と小地域別統計データの各項目間との相関分析を行う.また,事業の高普及率/低普及率の地域の自治会長へのアンケート調査により普及/阻害要因を探る.
これらの結果を踏まえ,生ごみ堆肥化事業普及の阻害要因や改善点を考察し,甲賀市の生ごみ堆肥化事業が適する地域の条件を解明する.
甲賀市の生ごみ堆肥化事業は,高度経済成長期以前の自然堆肥を有効利用していた経験のあると思われる50代以上の住民がごみを出す世帯ほど参加率が高かった.15歳未満住民の割合が低ければ低いほど,事業参加率が上がることから,新興住宅等による新たな住宅地というより,旧来からの農業集落などの古くからあった地域に適していた.あるいは子供に手がかかるなどの理由も子供の面倒をみる人間がいれば問題ないことから,大家族が多い地域に適しているのではないかと考える.
 また,居住環境に関しては植物を育てる場所の有無は堆肥化事業参加率には関係が見られなかったことから,市街地か農村部かは普及率には関係ないようである.住居と集積所の距離が近ければ近いほど,事業参加率が上がることが明らかになったため,住居に近い位置に生ごみ回収容器を設置した集積所の数を増やす努力をすれば,堆肥化事業参加率が上がると考える.集積所の設置は,地域社会特性に関係なく変更可能である.集積所の数の増加による堆肥化事業の普及が望まれる.
 以上の結果より,分散・集中処理型生ごみ堆肥化事業は,新興住宅地よりも旧集落などの古くからある地域に適しているということがわかった.住民は自治会で事業を知り,説明会をきっかけに堆肥化事業に参加することが多く,説明会の開催は生ごみ堆肥化事業普及のためには活発に行う必要がある.
説明会も,集積所の数と同様で,地域社会特性に関係なく回数を増やすことは可能である.説明会の増加も堆肥化事業の普及につながるであろう.
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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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