日本地理学会発表要旨集
2009年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 308
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風紋の登坂降坂限界傾斜角
*小玉 芳敬川内 勇人
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抄録

1.はじめに
 風成微地形の代表である風紋(砂漣)については,Sharp(1963)をはじめとして現地観測や風洞実験が多数なされてきた。ところが,砂丘地においては斜面が普遍的に存在するにもかかわらず,風紋と斜面との関係を扱った研究は極めて少ない。Howard (1977)は,バルハン斜面での風紋観測から,風紋のクレストが風向きに対して斜行することを示した。「風紋がどの傾斜角まで登坂・降坂できるものか?」この限界傾斜角に関する先行研究は見当たらない。
 本研究の目的は,まず現地調査を通して風紋の登坂降坂限界傾斜角を明らかにすることである。次に傾斜可変の小型風洞実験装置を製作し,風紋の限界傾斜角を風洞実験で探ることである。これらを通して風紋の限界傾斜角が成立するプロセスを考える。

2.鳥取砂丘における現地調査
 鳥取砂丘において2008年5月には140地点で,11月には急斜面を中心に50地点で,風紋が形成された斜面の最大傾斜角「斜面傾斜角」と「風紋の進行傾斜角」を計測した。風紋の進行方向は,断面形の非対称性から容易に判断できる。風紋のクレストに直交する方向を「風紋の進行方向」とし,その傾斜角を「風紋の進行傾斜角」と定義した。
 現地調査の結果,風紋の登坂降坂限界傾斜角は,登坂で24度,降坂で17度であった。

3.小型風洞実験
 風紋の登坂降坂限界傾斜角が成立するプロセスを探るため,傾斜変化が容易な小型風洞実験装置を製作した。透明アクリルパイプ(内径32cm,厚さ4mm,長さ1m)を4本つなぎ,全長4mの閉管路を風洞として,単管パイプで組んだ架台の上に置いた。架台の中央を支点として,傾斜±24度まで調節可能とした。上流側に設置した送風機(マキタ製 MF301)については,電圧変換機(東京理工社製 Riko-slidetrans RSA-5)により風速を制御した。
 傾斜を調整した後,風洞の底から厚さ10cmで砂丘砂を敷き,幅30cm長さ4mの平滑砂面を作り,20分間の通風実験を行った。なお,風洞下流端には砂面高に合わせた堰を設けた。実験中は砂面高を一定に保つように,風洞上流端で適宜給砂を行った。また下流端において,風洞の中心点(砂面から高さ6cm)で風速を測定した。実験後にはレーザー距離計を用いて風紋の断面形状を計測した。
 斜面に直行して前進する風紋は,登坂条件では0度∼18度,降坂条件では0度∼14度の範囲で観察された。風紋を形成するには,登坂では風速5∼6m/secで,降坂では4∼5m/secに調整する必要があった。
4.考察
 風洞実験の限界傾斜角は,現地の結果より小さい値を示した。実験装置の規模を検討する必要がある。
 風紋の進行限界傾斜角には,風紋の断面形態が影響していると考えられる。Sharp(1963)によると風紋の代表断面は,風上斜面で8度∼10度,風下斜面で最大20度を示す。登坂の場合,風上斜面の傾斜が安息角以上にはなれないため32度から8度∼10度を引いた22度∼24度が限界と考えられ,現地調査結果とほぼ一致する。いっぽう降坂の場合,風紋の風下斜面の傾斜が安息角以上になれないため,32度から20度を引いた12度が限界と考えられる。しかし実際の降坂限界傾斜角は17度であった。急斜面における風紋の断面形状を野外で詳細に調べることが当面の課題である。また安息角は湿潤条件下で急になる点に関しても検討が求められる。

5.結論
 現地調査において風紋の登坂限界傾斜角は24度,降坂限界傾斜角は17度であった。風洞実験では風紋の登坂限界傾斜角は18度,降坂限界傾斜角は14度であった。登坂・降坂限界傾斜角は風紋の形状と安息角の関係により成立する可能性が指摘できる。急斜面における風紋の断面形態を調査することが当面の課題である。

文献
Howard,A.D. (1977) Effect of slope on the threshold of motion and its application to orientation of wind ripples. Geological Society of America Bulletin, 88, 853-856. Sharp,R.P.(1963)Wind ripples. Journal of Geology, 71, 617-636.

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© 2009 公益社団法人 日本地理学会
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