日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 313
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東京城東地域におけるカバン・ハンドバッグ産業集積の存立基盤
*遠藤 貴美子
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抄録

1. 研究目的
   1980年代後半以降日本経済はグローバル化を迎え,国際分業の進展によって生産拠点の海外移転が進み,産業の空洞化が懸念されてきた。このように,グローバリゼーションが国内の産業集積へ与える影響が問題視される一方で,新産業空間論などによって先進国の大都市における集積に伴う外部経済も注目されている。
 本発表で取り上げるカバン・ハンドバッグ産業も国際分業の形成に伴う再編に直面しつつも集積が維持されている産業である。本発表では東京城東地域のカバン・ハンドバッグ産業集積を対象に,生産の中核である「メーカー」に着目して,同産業の関連事業所間の連関構造を分析する。それを通して,生産活動のなかで外部経済がより強く発揮される場面を明らかにし,国際分業の進展後における大都市工業集積の存立基盤について検討することを研究目的とする。
2.研究対象地域と研究方法
 東京の城東地域は,問屋,裁断業・皮漉き業・職人(縫製やサンプル製作を行う)といった部分加工業,材料屋,メーカーが立地している。基本的に問屋が企画・デザインを行い,海外ブランドのライセンスも有している。しかし,問屋をはじめとする受注先から注文を受けて,部分加工業と結びついて生産を実現する製造の中心はメーカー業である。メーカーは外注先の職人から回収した製品を検品・箱詰めして問屋へ納品し,問屋が百貨店や小売へ卸を行う。
 徹底した分業形態のなか,メーカーがそれぞれの業態とどのような地理的配置にあり,打ち合わせや外注・回収の際にいかにして円滑に情報伝達・モノの移動を行っているかについて,東日本ハンドバッグ工業会へ加盟しているメーカーを中心に聞き取り調査を実施した。
3.調査結果
 メーカーと受注先,メーカーと部分加工業それぞれの連関において,高い割合で対面接触による暗黙知の共有が行われている。受注先との連関においてデザインを決定する際の打ち合わせはほぼ100%を対面接触によるものという企業が多く見受けられた。外注先への発注もまた企業間の地理的近接性にもとづいた対面接触による暗黙知の伝達が多く行われている。
 回収の際は対面接触への依存度がやや下がるものの,ファッション産業特有の製品の短納期の影響で企業活動の即時性が求められていることから,一日の宅配期間を惜しんでメーカーが回収に出向く事も少なくない。工程別にみると,対裁断業および対皮漉き業の部面で対面での加工指示を出す割合が特に高く,企業間の地理的近接性もとりわけ高い。しかも,均一化されていない皮革素材で生産を行うことから知識や技術を平準化することが難しく,試作を経た量産段階においてもメーカーとの対面接触への依存度が高いことが特徴である。皮革は,色,厚さ,柔らかさなどの点で均一でないため,材料選定の際にも直接見る事が望まれ見本帳の機能が小さい。そのため,材料供給地との近接性も,同産業にとって重要な基盤となっている。そして,縫製およびサンプルを請け負う職人は,量産時には対面による受注は減少するが,暗黙知を多分に要するサンプル製作時には高い割合でメーカーが直接出向いて指示を出している。
 東京城東地域におけるカバン・ハンドバッグ産業は,ファッション製品特有の性質と使用素材の特性から,メーカーを中核に企画・デザインから製造の末端まで,企業間の連関において外部経済の役割が発揮されており,材量供給をふくむ多種にわたる関連業種の集積が維持されている.

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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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