抄録
近接する住棟による日影は、日射の室内進入を制限することから、住宅の冷房、暖房、照明に大きく影響する。eQUESTは米国エネルギー省(US DOE)により開発されたユーザーフレンドリーな住宅電力消費量計算ツールである。これは、与条件および通年の気象時間値(8760時間)をもとに、屋内の電力消費量(冷房、暖房など)の時間値を計算するものであり、近接住棟による日影効果を高精度に計算できる。本研究では、中国の夏暑冬寒気候帯における5大都市(上海、武漢、長沙、成都、重慶)を対象(非単身世帯:全電化を仮定)として、eQUESTを用い、近接住棟による空調用電力消費量への日影効果について数値シミュレーションを行った。ここでは住宅街区の形態パラメータとして、W/H(建物高さに対する棟間距離の比:つまりアスペクト比の逆数)を用い、エネルギー消費の視点からみた住宅街区形態の最適解提示を試みた。
その結果、以下の知見が導き出された。1) 対象地域においては、日影効果による冷房用電力消費量削減率は10~20%程度、暖房用電力消費量増加率は0~20%程度に達し、対象地域における近接住棟による日影効果としては、冬期の暖房需要に対する増加効果よりも夏期の冷房需要に対する削減効果が優っている。2) 上海、武漢ではこれら2つの効果が相殺しているが、長沙、成都、重慶では冬期の暖房需要に対する増加効果はほぼみられない。3) 内陸側の3都市(長沙、成都、重慶)では、近接住棟による日影効果を最大限生かすようなデザイン(推奨最小棟間距離による住宅街区設計)を推進すればよい。4) 上海、武漢では棟間距離を広めにデザインすると同時に、住棟に隣接して落葉樹の高木を植栽し、緑陰による日影効果に引き出すなどの考え方が有効である。5) 上海以外では、推奨最小棟間距離でデザインされた住宅街区において、最も高い削減率が期待できる。6) 武漢と長沙では、現状の推奨最小棟間距離が電力消費量削減の視点からも好ましい数値である。
謝辞:本講演は、環境省地球環境研究総合推進費E-0806「低炭素型都市づくり施策の効果とその評価に関する研究」(代表・井村秀文)の研究成果の一部である。