抄録
はじめに
近年、日本海側地域において積雪量が減少する傾向があり、それに伴うとされる動植物の分布の変化が報告されている。筆者らはこういった現象の現状の確認のために各地で植生変化と積雪量変化の対応について検討を行っている。その一環として、日本でも有数の積雪地帯である黒部川源流部での植生変化と積雪環境について検討を行った。
調査方法
植生の変化を検出するために、過去から現在にかけて撮影された空中写真の比較を行った。黒部川源流部を撮影していて植生が判別できる入手な空中写真の内、最も古いものは1969年のもの最新のものは2005年のものだった.それぞれの空中写真は図化ソフト計測名人(アジア航測社製)で正射図化して歪みを取り除き、得られた画像をGISソフトArcGIS9.3(ESRI社製)上で位置合わせをして重ね合わせて表示し、植生の変化を検出した
植生の変化が認められた地点については、2009年8月に現地で植生調査を行ってどのような植生の変化が発生しているかを確認した.その際に精密GPS(日本GPSソリューソンズ社製NetSurv2000)で位置計測を行って画像の位置合わせの精度を向上させた。
積雪量変化を把握するために、黒部川上流部で永年気象観測を行っている黒部ダムの気象観測記録を関西電力より提供してもらい、その観測資料から、植物の生育に影響を及ぼすと考えられる・年間の積雪被覆日数・年最大積雪深を抽出してその変化を検討した。
結果
空中写真の検討の結果、斜面の崩壊などを除いて植生の変化が顕著だった部分は黒部川源流部の北ノ俣岳北東側斜面の残雪凹地周辺だった。現地調査の結果、この部分では残雪凹地の砂礫地において、チングルマやミヤマキンパイ、イワノガリヤスからなる草本主体のパッチ状群落や、ハイマツを主体とする木本主体のパッチ状群落の数と面積の増加が認められた。
次に、黒部ダムでの積雪の変化を図に示した。積雪日数は折れ線、年最大積雪深は棒で示した。積雪日数・最大積雪深共に増加傾向にあることが明らかになった。それぞれ直線近似を計算したところ、積雪日数は10年あたり2日、積雪深は10年あたり19cmの増加傾向であった。
考察
黒部ダムの観測データでは、積雪によって地表が被覆されている日数と積雪深(積雪による地表への圧力)は共に増加する傾向にあった。つまり、積雪による環境圧は増加傾向にあると推測される。しかし、雪田凹地の砂礫地でパッチ状群落が増加していることから、実際には植物に対する環境圧の減少もしくは、群落形成にプラスになる何らか作用が働いていると推測される。これまで、雪田砂礫地の形成・維持には積雪被覆日数と積雪グライド圧が大きく関与するとされてきたが、本研究の結果はその他の作用についても検討しなければならない事を示しているといえるだろう。今後、冬季の季節風の変化による、雪田の堆雪量の変化や植物の生長量に関する土壌水分量や夏期の気温変化などを検討する事が必要であると考えられる。
本研究の一部は科学研究費補助金(研究課題番号:21700855)および環境省地球環境研究総合推進費(S-8-1)の支援を受けて行われた。
