抄録
1 はじめに
秋田県横手盆地の東縁部においては、角館西方から南方の横手まで、南北延長約60 kmの活断層が存在することが示されてきた(活断層研究会、1991)。その北半部では、1896年陸羽地震時に地表地震断層が現れたこともあり、活断層の位置や形状が詳しく検討されてきた。一方、横手盆地南部東縁の活断層に関しては、横手付近から南方へ直線的に連続する「大森山断層」と、湯沢付近で南北に直線的に連続する「東鳥海山断層」が図示されていたものの、それらの位置・形状に関しては不明な点が多かった。
地震予知総合研究振興会(2007)・谷口ほか(2007)は、米軍及び国土地理院撮影縮尺約1万分の1空中写真を用いた詳細な写真判読によって、横手盆地東縁の活断層の位置・形状を再検討した。その結果、いくつかの新知見を得ることができた。ただし、これらの報告では、活断層を新たに認定した理由などが十分に示されてこなかったように思われる。本報告では、横手盆地南部における変動地形解析例を紹介し、新たに活断層を認定した根拠を明示する。その上で、これらの活断層の活動性に関しても紹介する。なお、口頭発表時には、複数の立体映像を用いる予定である。
本研究においては、平成21-23年度科学研究費補助金(基盤研究(B)((研究代表者:鈴木康弘)も使用した。
2 変動地形解析例
(1) 横手市赤川付近 : 横手盆地東縁から数km西の盆地床中に存在する赤坂丘陵の北方延長部(赤川付近)において、最終氷期以降に形成されたと推定される扇状地面に比高約1mの撓曲崖が形成されている。この活断層トレースは、南部ではNNW-SSE方向に連続しており、N-S方向に連続する横手盆地東縁の断層線とは雁行している。赤川付近では、断層トレースはN-S方向となり、さらに北方の金沢中野の西方まで(NNE-SSW走向)連続し、その全長は20km以上に達する可能性がある。赤川では群列ボーリング調査を実施し、地下構造や変位量累積性を検討した(澤ほか、2011)。
(2) 横手市浅舞付近 :最終氷期後半以降に形成されたと推定される扇状地面上には、西流していた諸河川の流路跡が多数認められる。上藤根~下鍋倉の約4kmの区間において、これら複数の流路跡を切断する、比高1m程度以下の南北走向の低崖が認められる。河川の流路跡は、この低崖を挟んで東西に連続しており、ここに活断層が存在することは確実であろう。低断層崖が認められる区間は比較的短いが、反射法地震探査結果(産総研、2010)によれば、北は少なくとも上述の赤川付近まで、南は湯沢方向へ連続する可能性が高い。
(3) 湯沢市八面~三又 : 北流する皆瀬川の右岸、最終氷期後半以降に形成されたと推定される段丘面上には、比高数m以上の、細長い地塁状の高まりが南北方向に連続する。河成段丘面上にこのような高まりが連続することは不自然である。また、これら高まりの東西両縁の崖は、皆瀬川の旧流路を切断していることが確認できる。これらの事実から、皆瀬川右岸に活断層が存在していることは確実であろう。これらの活断層は、東側の山麓の活断層と並走するように見える
3 まとめ
上記した活断層は、いずれも、最終氷期後半以降に活動していることは確実である。断層変位を受けている旧流路の形状は非常に明瞭であるため、完新世に活動を繰り返している可能性もある。活断層の活動時期や、連続性を明らかにしてゆく必要がある。
【文献】
活断層研究会 1991.新編日本の活断層.
谷口ほか 2007.日本地球惑星科学連合大会予稿集.
澤ほか 2011.本学会発表.
地震予知総合研究振興会 2007.平成18年度地震調査研究観測データの分析評価支援成果報告書
産業技術総合研究所 2010.「活断層の追加・補完調査」成果報告書 No.H21-2,30p.