抄録
1. はじめに
本発表では,上平断層群の南端部にあたる瀬の沢川(高村山荘付近)沿いの断層露頭(39°23′18.4″,141°0′19.4″)とその周辺の変位地形から,トレンチ調査では困難な最新活動に先立つ活動イベントについて解読する.対象とする断層露頭は下川・粟田(1983)により報告されたものであるが,断層露頭の活動イベントについては不明である.この断層露頭は,逆断層の下盤側の変形を高さ約10 m観察できる大規模なものであり,より古い活動イベントを確認する上で重要と考えられる.
2. 地形面と変位地形
本研究では,構成層を覆う被覆層の特徴を渡辺(1991)と比較して,本地域に分布する地形面をH面(最終間氷期より前),M2面(50~60 ky),およびL2面(最終氷期前半)とした.さらに,河川に沿って多段化しているL2面を,高位よりL2-1,L2-2,L2-3面に細分した.L2-1面には崖高2 m(最小)の断層崖が認められる.L2-2面は,直接断層変位地形が横切られないため,変形をうけたか不明であるが,L2-3面は,低断層崖を侵食していると考えられることから,最新活動イベント後に形成されたと推定される.したがって,本地域の活断層は,L2-1面以前の地形面に変形を与えていることは明らかである.
3. 断層露頭の記載
断層露頭には,新第三紀凝灰岩類と第四紀の砂礫層が接する逆断層が露出する.本研究では,逆断層下盤側の地層を不整合関係と層相の違いによって,A層,B層,C層,D層に大別した.A層には,インブリケーションの再配列が認められ,その再配列の分布からA1層とA2層に2分できる.A2層,B層,C層およびD層の基底面は傾斜不整合面である.B層から採取した3つの試料の14C年代は>43,500 y. B. P. を示し,C層最上部から採取した14C年代は25,050±120 y. B. P.を示した.断層変位を受けていないL2-1面の構成層をE層とした.E層にはTo-aが認められ,腐植土層から採取した2つの試料の14C年代は,1300±40 y. B. P., 1190±40 y. B. P. を示した.なお,14C年代測定は_(株)_地球科学研究所,火山灰分析は京都フィッション・トラック_(株)_に依頼して行ったものである.
4. 断層露頭からみた活動イベントの解釈と上下変位量
断層露頭下盤側の傾斜不整合から,活動イベントは少なくとも4回あると解釈される(図1).D層は,L2-1面の構成層であり,C層は,14C年代からL1面に対比される.最下部のA層および,B層は,C層基底の不整合の時間間隙の長さと構成層の風化の程度からM2面に対比されると推定さる.地形面と断層露頭下盤側の地質境界の対比に基づき現地測量を行い求めた上下変位量は,L2-1面で2 m,L1面で約6 mであった.M2面の上下変位量は,B層上面に対比したとき約17 mであった.段丘面の離水年代と変位量の関係図から判断される平均変位速度は約0.3 m/yrである.
5. 段丘発達史からみた活動イベントの再解釈
M2面離水後の活動イベント数は,一回当たりの変位量を,北湯口地区での一回当たりの上下変位量が1~2 m(後藤・渡辺,2006)を仮定すると,上下変位量が17 mであることから8~16回となる.この仮定は,断層露頭周辺の低断層崖高の最小値(I測線:2 m)と矛盾しない.断層露頭から解釈される活動イベント回数は,活断層の固有値にある程度揺らぎがあると考えても,地形発達から考えられる活動イベント数よりも明らかに少ない.このことは,活動イベントが解釈された不整合形成の時間間隙中に複数のイベントが存在することを示唆する.
文献
下川浩一・粟田泰夫,1983,日本第四紀学会講演要旨集,13.
渡辺満久, 1991,第四紀研究, 30A.
