抄録
1.はじめに
干渉SARは,大地震に伴う地殻変動抽出など広域にわたる面的な地表変動を捉えることに威力を発揮してきた.地すべりに伴う変動はそれらと比較すると局地的ではあるものの,Kimura and Yamaguchi (2000)などにより干渉SARで抽出できる可能性が指摘されてきている.平成19年能登半島地震による局地的な変動の広域的な分布が,地すべり地形とほぼ合致することを宇根ほか(2008)が指摘したことを踏まえ,国土地理院でも山形県月山地区などを対象として,干渉SARによる地すべり監視に関わる業務や調査研究を行っている(鈴木ほか 2010;佐藤ほか 2010).
本研究では,東北地方を対象として,ALOS/PALSARを用いたSAR干渉画像で検出された局地的な変動から地すべりに伴う変動を抽出する可能性について検証を行った.
2.実施結果
本研究の過程では20箇所以上にわたる局地的変動について検討を行っているが,図表ではこのうち3箇所を例示した(図の上下と表の上下が対応)。それぞれ変動域がSAR干渉画像で検出されているが,防災科学技術研究所(2010)の地すべり地形分布図で確認されているものは中央のケースのみである.一方,地形図の読図により地すべり地形と判断されるものは中央と下の2ケースであり,SAR干渉画像で検出された変動域は地すべり性変動を捉えている可能性が高いと考えられる.これらから,下のケースのように防災科学技術研究所(2010)で報告されていない地すべり地形でも,SAR干渉画像と地形図の読図等から活動的な地すべりが抽出できるケースがあることが分かった.
しかし,SAR干渉画像において変動域と推定される場合でも,上のケースのように地すべり地形が認められない場合もあるため,干渉域があるからといって地すべり性変動にすぐに結びつけることは出来ない.これは,SAR干渉画像に乱れを生じさせる要因として気象条件など地表変動以外の要因もあるためである.
3.まとめ
SAR干渉画像で検出された局地的な変動から地すべりに伴う変動を抽出する可能性について,東北地方を対象として検証を行った.その結果,SAR干渉画像で検出事例とされた箇所の多くは既知の地すべりと一致し,数多ある地すべりからその変動が活動的なものを抽出できる可能性が示された.また,地形的には地すべりでも防災科学技術研究所(2010)で指摘されていない箇所もSAR干渉画像により変動が示唆されるケースもあり,地形図の読図や空中写真判読を組み合わせれば,活動的な地すべりの抽出及び監視にも干渉SARを活用できることが分かった.
文 献
宇根寛・佐藤浩・矢来博司・飛田幹男 2008.SAR干渉画像を用いた能登半島地震及び中越沖地震に伴う地表変動の解析.日本地すべり学会誌 45-2: 33-39.
佐藤浩・小荒井衛・飛田幹男・鈴木啓・雨貝知美・関口辰夫・矢来博司 2010.地すべり性地表変動に関するSAR干渉画像判読カードの提案.国土地理院時報 120: 9-15.
鈴木啓・雨貝知美・森下遊・佐藤浩・小荒井衛・関口辰夫 2010.山形県月山周辺におけるSAR干渉画像を用いた地すべりの検出.国土地理院時報 120: 1-7.
防災科学技術研究所 2010.地すべり地形分布図データベース. http://lsweb1.ess.bosai.go.jp/index.html(最終閲覧日:2010年12月27日)
Kimura, H. and Yamaguchi, Y. 2000. Detection of landslide areas using satellite radar interferometry. Photogrammetric Engineering & Remote Sensing 66-3: 337-344.