日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 914
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モパネ植生帯の島状地形にみられる植生の特徴とその成因
*山科 千里
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抄録
サバンナ植生の動態過程のひとつとして,パッチ状の植生が形成され,変化していくというパッチ動態がある.パッチ状の植生を生み出す要因としては,降雨の偏在や地形,水分や養分の不均一な場があげられている.アフリカのサバンナ地域では,数十m単位の島状地形みられ,その上に特異な植生が形成されることが報告されている. 本研究の目的は,ナミビア北東部,モパネ植生帯にみられる島状地形に注目し,その上に形成される植生の特徴を明らかにし,成因を検討することである.調査は2009年10月から12月と201011月から12月の約5ヶ月間行った.  本調査地の植生は,_丸1_マメ科ジャケツイバラ亜科のモパネ(Colophospermum mopane)が優占する“モパネウッドランド”,_丸2_マメ科のDichrostachys cinereaが優占する“アカシアパッチ”,_丸3_サルバドラ科で常緑のSalvadora persicaを始め多くの特有の出現樹種をもつ“島状地形のパッチ”,_丸4_その他の4つに分類された.それぞれの植生の分布をみると,モパネの優占する植生が地域を広く覆い,その中に_丸3_や_丸4_のような植生が数十m単位でパッチ状に分布していた.アカシアパッチは特に河川沿いなどに分布する傾向がみられた. 調査地では43種の樹木が出現し,そのうち23種は島状地形のパッチ(_丸3_)にのみ出現した.常緑樹であるSalvadora sericea,Capparis tomentosaやCordia spp.,Grewia spp.などの低木はシロアリ塚にのみ出現し,果実をつける樹種が多い傾向もみられた.林床に堆積した種子は,隣接するアカシアパッチの8倍(重量比)であった.このパッチでは,その他の植生に比べ樹木密度が2倍以上高いことが特徴であった. _丸3_の地形は直径20-40m,高さ2‐5mほどの島状になっており,その上に小さな塔状のシロアリ塚が形成されているものもあった.塔状のシロアリ塚にはキノコシロアリ亜科のMacrotermes sp.がみられ,そのほかにもTrinervitermes sp.などがみられた. また,_丸3_ではマングースやツチブタ(Aarvark)によって形成された径20‐100cm,深さ20-200cm以上の穴やこれらの動物やアンテロープの一種であるSpringbok,ゾウのフンなど多くの動物痕が観察できた.ゾウのフンにはマメ科のAcacia eriolobaやDichrostachys cinerea,バオバブ(Adansonia digitata),ヤシ科のHyphaene petersianaなどが含まれており,そのうちAcacia eriolobaの17%,Dichrostachys cinereaの5%が発芽していた.  以上から,本調査地のモパネウッドランドにおいて,島状の地形は,樹木の密度や種数の多い特有の植生パッチを形成していた.この特異な地形はシロアリによって形成され,その後様々な生物の作用を受け現在の形になっていると考えられるが,これについては今後の課題である.島状地形では特に、常緑樹や鳥や草食動物の餌となる種子をつける樹木が多く,多数の動物痕もみられた.したがって,動物や昆虫の採食地として利用され,これらの動物が種子の散布を助けていると考えられる.また,島状地形の上には周囲に比べ多くの種子が堆積し,実生の生育も多数みられたことから種子の発芽・定着にも適した場所であると考えられる.これは,この地域が雨季に一帯が水浸しになるということと,島状の地形的な特徴によって植物の種子・実生の避難場所となり,多くの樹木が生育し特徴的な植生を形成している. 本研究は、日本学術振興会科学研究費(特別研究員 No.21・4226)助成によって実施されました.
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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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