抄録
1. はじめに
河川下流域ではデルタを含む低平地が存在しており、さらに人間活動の中心となっている。しかしながら、社会的な資本としての堤防、ダムなどの整備が必ずしも完全ではない。雲出デルタもその事例の1つであり、連続堤防建築の是非が問われている。雲出川は霞堤を残しており、後背湿地はかつての土地利用空間では遊水地としての機能を持たされていた。近年の無秩序な宅地化により、この地区の遊水地の方向性の議論が必要である。本研究では遊水地候補地が持つ貯水容量を算定し、下流域に対する水害軽減効果を明らかにする。
2. 研究手法
ここでは2つの研究手法を用いる。はじめに土地利用景観を復元し、変化のダイナミクスをもとに持続可能性を検討し、さらに地形分類作成によって得た知見をもとに遊水地、霞堤を検討する。ここでは、現状の遊水地が0.5m、1.0m、1.5m浸水を想定して貯水容量を算定し、遊水地の貯水能力を求める。また水害軽減効果の評価として、霞堤を締め切ったと仮定し、下流の香良洲地区での洪水氾濫の規模を検討する。
3. 研究対象地概要
雲出川は三重県の中央部に位置する。その源は三重県と奈良県の県境に位置する三峰山(標高1.235m)にあり、県河川から国河川に移行した1級河川である。三峰山より山間地を経て伊勢平野を通過し、八手俣川、長野川、波瀬川、中村川などの40支川を合わせ、河口部で雲出古川を分派し伊勢湾へと流出する。中流域には現在でも6か所の開口部が存在し、平成16年には大きな浸水被害を受けた。
4. 結果
この研究では、_丸1_遊水地では主に水田、畑としての土地利用が行われ、一部自然堤防が集落立地に結びついていた。高度経済成長を経て、昭和57年頃から水田、畑内に宅地が点在するようになるが、その後平成19年までの宅地の目立った増加は見られない。 下流の香良洲地区では、大正時代は主に水田であった土地利用が、戦時中には広く軍事基地として利用された。現在では宅地、工場面積が拡大し、雲出川下流域において最も宅地化が進んだ地区だといえる。
_丸2_地形分類図から考えられる遊水地の貯水容量は表1の通りとなった。
表1. 遊水地の貯水容量
浸水深さ(m) 0.5 1.0 1.5
貯水容量(t) 2,042,044 4,084,088 7,021,588
遊水地の浸水深度が1.5mとした場合、貯水容量7,021,588tが中流に滞留したと考えると、香良洲地域での浸水害は軽減するが、遊水地がない場合には香良洲の被害は大きくなることが分かった。
5. 考察
香良洲地区では宅地化が進んでいるので、浸水被害が及んだ場合の被害は、主に畑、水田に利用されている遊水地が浸水した場合より深刻になると思われる。
本研究により、遊水地が下流域に対して浸水被害軽減の貯水能力を持っていることが明らかになった。今後、土地利用図、聞き取り調査の結果と照らし合わせ、遊水地の浸水被害の効果がどの程度あるのかを経済的資本で評価したい。