抄録
1.はじめに
平成22年春の地理学会では、シンポジウム「景観生態学図による生物多様性評価の可能性」が企画された。そのシンポジウムの中で、生物多様性を評価する上では単に種の分布や自然の劣化度を捉えるだけではなく、地形という場の条件を理解した上でその上に存在する生態系を捉える景観生態学的な視点が重要であるという視点で様々な議論が成された。筆者らは、景観生態学図をベースマップとして生物多様性を評価することを目的として、環境研究総合推進費「航空レーザ測量データを用いた景観生態学図の作成と生物多様性データベース構築への応用」(課題番号D-0805)を行っている。本研究課題では、航空レーザ測量技術を用いて捉えた植生三次元構造と森林下の微地形から、景観生態学図を作成する研究を行っている。研究対象地域は2箇所である。1つは原生的な自然環境として、世界自然遺産知床半島の羅臼岳と知床岬を取り上げた。もう1つは里山環境として、たたら製鉄に伴い地形と植生が大きく改変された中国山地の道後山北麓を取り上げた。
2.研究対象地域の植生と地形状況
景観生態学図の凡例は、植生分類と地形分類との重ね合わせにより検討される。植生分類については、活葉期と落葉期の航空レーザのランダムポイントデータの様相の違いから落葉単層・落葉複層・常緑に分け、それに植生高、樹冠厚を組合せた植生三次元構造区分を行った(小荒井ほか,2010)。地形分類の方は、落葉期の航空レーザの詳細DEMから、傾斜、凸度、尾根谷密度(テクスチャー)の3つの地形量に着目した自動地形分類(岩橋,1994)を行った。知床半島については、標高と植生区分との間に関連性が認められ、微地形と植生との間には明瞭な関係は認められなかった。中国山地については、自動地形分類の緩傾斜・凹・テクスチャー粗な地形が鉄穴流し跡地の地形であり、そこに樹冠の薄い早期落葉樹であるオニグルミが卓越するという結果であった(小荒井ほか,印刷中)。
3.景観生態学図作成の考え方
現在、レーザ植生図と自動地形分類図を組合せて景観生態学図の凡例を検討している。なお、景観生態学図のグリッドサイズは、毎木調査の樹冠の大きさから4mとした。植生図は1mグリッドで作成したレーザ植生分類データを4mグリッドにリサンプリングした。自動地形分類については、傾斜を10°と30°を閾値に3区分、凸度は0.5を閾値に2区分し、それに尾根谷密度が一定の値を示す領域(例えば鉄穴流し跡地は0.35~0.50の値を示す)を選んで、それらを組合せて区分した。最も細かいグリッドレベル(羅臼岳で2mグリッド、中国山地で1mグリッド)で自動地形分類した結果を4mグリッドに集約した。なお、植生区分も自動地形分類も、航空レーザのデータを4mグリッドに集約してから区分するのではなく、最も細かいレベルで区分した上で区分結果を集約しないと、正しい区分が行えないこともわかった。
ポスター会場では、作成した2地区の景観生態学図の印刷図を提示して、航空レーザ測量技術の生態学研究への活用方法について議論する予定である。
引用文献
岩橋純子:京都大学防災研究所年報,37B1,141-156,1994.
小荒井衛ほか:地図,48-3, 34-46, 2010
小荒井衛ほか:リモートセンシング学会誌,31-1,頁未定印刷中