抄録
1.はじめに
構造土は,周氷河環境下にみられる代表的な地形の1つで,地表面の規則的な幾何学模様で特徴づけられる.構造土の成因の解明は十分な進展をみせているものの,(1)これまでに提唱された仮説や理論モデルの実証,(2)構造土の形成環境や変形が生じる条件の解明には,より詳細な野外観測が必要である.本研究では,連続永久凍土帯に分布する複数タイプの土質構造土を対象に,構造土の形成環境や変形過程を明らかにすることを目的とする.
2.調査地
北極圏スピッツベルゲン島中央部アドベントダーレンの河岸段丘上に重点的な調査地を設けた.調査地は,沖積堆積物とレスで構成され,活動層の厚さは約1 mである.分布する構造土として,マッドボイル,小型多角形土,氷楔多角形土,ハンモックの4種類が認められた.
3.調査方法
調査地に分布する4種類の構造土を対象に,土層の変位・破壊,地温,土壌水分の自動観測を行っている.また,これまでにトレンチ,土壌サンプリング,比抵抗モニタリングで内部構造を調査した.
4.これまでの研究経過
変位計の観測結果から,調査地では季節周期の凍上・沈下サイクルがみられ,特にマッドボイル中心部で凍上量が大きい(図2).マッドボイル中心部は凍上性の高い粘土質シルトで構成されており,連続的なアイスレンズの形成が凍上を促進している.自動カメラ観測では,マッドボイル中心部の急速な凍上とともに,周縁部が外方向へ押し出される動きを捉えた.小型多角形土を縁取るクラックの水平変位観測では,多角形土の中心部に存在するマッドボイルの凍上・沈下と連動して,クラックが収縮・拡大した.小型多角形土のクラックは,熱収縮クラックを起源とする氷楔多角形土のクラックとは異なる変位パターンを示すことから,マッドボイルの不等凍上・沈下による水平方向への応力変化が,小型多角形土のクラック発生に関与している可能性が考えられる.