日本地理学会発表要旨集
2011年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0106
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地震断層の保存と「活断層百景」・「フォトコンテスト」
*岡田 篤正
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抄録
1.はじめに
 大地震を引き起こした震源域に明瞭な地震断層が出現した事例は日本列島でいくつか知られている。その大地震の災害や教訓を後世に伝え,また,防災や自然現象~科学(地形・地質学・地震学など)を学ぶためにも,これらは生きた教材として極めて貴重である。演者は根尾谷断層・丹那断層・野島断層などの保存施設建設時の委員として任務した経験をもつので,こうした事例の意義や現状について紹介する。
2.地震断層の保存
甚大な地震被害を引き起こし,大地が大きくずれ動いた地震断層は脅威的な自然現象を如実に示すので,天然記念物に指定され,地元の支援を得て保存されてきた。以下に3つ代表例について述べる。
2-1 根尾谷断層(観察館)
1891年濃尾地震は日本の歴史上で最大規模(M8)であり,死者7千人を超す甚大な被害を岐阜県南西部や愛知県北西部に引き起こした。その原因となった根尾谷断層は本巣市(旧根尾村)根尾水鳥に出現した。地震断層崖は比高6mにも達する明瞭な崖であり,当時から注目され,外国の教科書にも典型例として紹介されてきた。
 地震発生百年の記念事業として,断層観察館が水鳥断層崖の南東端に1991年に建設されることになり,村松郁栄・松田時彦先生などと共に委員として参画した。野外調査で得られた成果から,観察館の建設位置や維持管理方法,この解説や普及本の出版などに努めてきた。
 この観察館は日本だけでなく,世界にも誇れる観察施設であり,根尾谷訪問・観光の目玉となっている。しかしながら,旧根尾村一体は過疎化・高齢化が進行する地域であり,こうした施設や鉄道などをいかに保存維持・管理を進めて行くか,なお多くの難問も抱えている。
2-2 丹那断層
 丹那断層は1930年北伊豆地震(M7.3)を引き起こし,大きな被害を誘発した。明瞭な地震断層が丹那盆地内に出現し,その中央部にある火雷神社と南縁の乙越では,天然記念物として地震断層の跡が保存されてきた。これらの施設を公園化して整備する委員会が地元の函南町教育委員会に設置され,土 隆一・松田時彦先生と共に意見を述べてきた。現地では,地震断層跡地の保存・地形模型・トレンチ断面の表示・駐車場・遊歩道などが整備され,観察や説明が容易になってきたと言える。
2-3 野島断層保存館
 1995年兵庫県南部地震(M7.3)は阪神・淡路大震災と呼ばれる大きな地震災害を引き起こしたが,この震源となった野島断層が淡路島北西部に出現した。淡路市(旧北淡町)小倉に現れた地震断層は造成直後の土地に現れた。保存・観察・交通などの点で,ここに断層保存館が建設されることになり,多くの来訪者を今も迎えている。地震断層崖だけでなく,トレンチ断面・活断層ラボ・地震体験館など多くの付属施設も充実してきた。保存委員会や活用委員会を当初から設置し,国際的な学会や普及講演会を毎年開催し,防災・学校教育・地元市民への普及活動などにも貢献しているが,来訪者の減少傾向に悩みを抱えている。
3.活断層百景
日本活断層学会は科学教育・防災教育・地域振興等に資するため,科学的及び社会的に重要な活断層について選定を進めている。およそ百ヶ所を選出し,その理由を解説し,活用方法も提案するよう,検討を続けている。
4.フォトコンテスト
日本活断層学会は「日本の活断層フォトコンテスト」を企画・開催し,活断層露頭や変動地形の優秀な写真を公募した。いくつかの入選作品が決まり,学会開催時に表彰されたが,多様な観点から,活断層を理解し,保存や活用に関する検討の機会が増えた。今回は地上からの撮影事例であるが,次の別の公募も計画予定である。
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© 2011 公益社団法人 日本地理学会
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